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2020年07月06日

ヘルマン・ヘッセの“Schön ist die Jugend”で執筆脳を考える3

 ユングの心理学については、魯迅の「阿Q正伝」を分析した際に、説明したことがある。(花村2015)ユングは、忘却や抑圧といった個人的無意識により意識されなくなった知覚に対して、個人を超越した普遍的な集合的無意識を提唱した。ユングの心理学は、人間の中にある心象を意識と関連づけることにより、人格全体を回復させようとする。つまり、「秩序」−「無秩序」−「より高次の秩序」という過程で人間の心をとらえていく。エゴ(自我)には一定の秩序があるため、そこに意識が生まれ、その周囲に無秩序状態の無意識があり、それらが統合されてより高次の秩序セルフ(自己)が生まれる。
 自身の運命を見出し自分の中でそれを生かしきる自己発見は、ヘッセの小説においてメインテーマであった。シュバーベンの敬虔主義の精神で育ったヘッセは、Rothmann(1981)によると、総じて敬虔な環境に固執するより改宗することで身を守り、マオルブロン修道院でプロテスタントの神学セミナーから逃亡したにもかかわらず、敬虔主義による内面への道に留まることで、宗教的な衝動から自叙伝風の精神の記録を書いた。
 文学との関係が崩れたヘッセは、試験的にことばによる手法を用いた。美学的な名誉心を捨てて詩作をせず、まさに告白をした。彼の告白は、わかりやすい宗教のような人生哲学を持っており、様々な再生復活の体験となった。
 “Schön ist die Jugend”の購読脳は「安心と忍耐」とし、精神分析の治療の中で患者が抱えている心理的葛藤や性格または考え方の偏りについて、患者自身の洞察により人格構造を変化させたため、執筆脳を「葛藤と洞察」にする。そこでこの小論のシナジーのメタファーは、「ヘッセと葛藤」になる。

花村嘉英(2020)「ヘルマン・ヘッセの“Schön ist die Jugend”の執筆脳について」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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