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2019年03月05日

家族の木 Extra edition 夜職の家

社内恋愛

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香織は、不動産会社の大阪支社ので働いているうちに、先輩の田原聡一と恋に落ちた。聡一は香織にいろいろ親切に教えてくれる先輩だった。大阪では老舗の不動産会社の息子らしい。生真面目でいかにも育ちのよさそうな、今まで香織があったことのないタイプだった。結婚しようといってくれた。

香織は悩んだ。父に頼めば強引に話を進めてくれるかもしれない。そうしたら、聡一の愛が冷めるような気がした。でも、それ以外の方法で、いい家の嫁になることは不可能だった。自分は婚外子だし、母もその母も結婚せずに子供を産んでいる。素性が分かれば聡一だって離れていくかもしれない。

そんな時に父の山下健三が亡くなった。香織の母、咲は山下に愛されていた分、山下の本妻からは憎まれていた。香織も兄も葬儀に出ることは許されなかった。病中も咲は山下に会えなかった。山下家は見舞客と愛人の家族が鉢合わせすることを警戒して香織たちには面会を許さなかったのだ。

深夜、一度だけ父に会うことができた。山下の秘書が気を利かせてくれたのだ。山下は、少しほほ笑んだが言葉が出る状態ではなかった。山下は遺言で香織たち兄弟に相応の遺産を残してくれた。咲は泣いて喜んだ。咲には、それまでにマンションを買ってくれていた。

香織は聡一に父が亡くなったことを報告しなかった。香織は、聡一と結婚出来る可能性は無くなったと思った。聡一が優しければ優しいほどつらい日々だった。少し距離をおいた方がいいかもしれないと考え始めていた。

聡一は、時々素っ気なくなったり、急に泣いたりする香織に当惑していた。そのころ聡一には縁談が起きていた。昔、自分の家が経営する会社の倒産危機を助けてくれた家の娘だ。

何度か会ったことがあるが嫌な印象もないが特に関心も持たなかった。平凡な感じの娘だ。香織は都会的であか抜けていた。しっかりもので几帳面だった。それに比べると、少し物足りない感じがする。

しかし、断るなら両親と揉める覚悟が必要だった。それでも香織が自分と結婚したいと考えてくれるなら家を出てもいいという決心はしていた。その香織が最近自分に対して冷たい。香織との関係がなんとなく気づまりになっていた。

電話が一度でつながらない、やっとつながったと思うと何かふさいでいる。理由を聞いても言わない。聡一は、だんだん香織に電話する日が減っていった。仲がいいころには毎晩ベッドに入ってから電話した。時には少しきわどい話にもなった。そろそろ一緒に暮らしたいと思っていた。それが、この2カ月ぐらい調子がおかしい。

聡一は、前にも付き合った女がいたにはいたが、そんなに長続きはしなかった。香織はその中でも特別な存在だった。今までの女とは違う気がしていた。それなのに最近は妙に素っ気ない。聡一は自分は女に飽きられるタイプだと嫌になってきていた。それなら、いっそ見合いをして結婚してしまおうかと気持ちが動いていた。

続く






2019年03月04日

家族の木 Extra edition 夜職の家

香織

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香織は大阪を地盤とする衆議院議員、山下健三の娘だった。といっても、世間でいう「外の子」だ。山下と母の咲は仲が良く母の性格も穏やかだった。あまり苦労もせずに大学まで出してもらった。咲は香織が20歳になったら店に出てほしいといっていた。咲も祖母の真由美も筋金入りのホステスだった。ホステスといっても経営者で蓄財も生活もしっかりしたものだった。

そういう咲を山下が気に入って、最初は秘書にするつもりだったようだ。お金の管理を任せられるからだろう。でも咲は断ってラウンジの経営者として、山下の妾として生きていく方を選んだ。おかげで香織たちが住んでいる家へ来る時の山下は政治家ではなく普通の優しい父だった。

咲は山下に買ってもらったマンションに住んでいた。近所には真由美が住んでいたので夜は真由美と兄の健と三人で過ごした。兄も同じ父の子供だった。山下は、ときどき真由美の家まで香織たちを迎えに来たりもした。その時に山下が真由美によく渡していた封筒にはお金が入っていたのだということに気付いたのは大きくなってからだ。

香織の兄、健は地方公務員になった。区役所に採用されて職場結婚した。兄嫁は夫の実家を軽蔑していた。硬い家庭に育った娘が代々妾として生きてきた女を軽蔑するのはよくある話だった。

香織は大学を出て大手の不動産会社で働いていた。父の山下健三のコネだった。自分から大阪支社に異動願を出した。家では、咲も真由美も香織を一人前の経営者にしたいと思っていた。

そして、いいパトロンを見つけて子供を産んでほしいと思っていたのだ。本妻なんて、つまらないというのが二人の考えだった。事実、父の山下も咲のところへ来てよく本妻の愚痴をこぼしていたようだった。

しかし、山下は香織が普通の結婚をすることを望んでいた。香織が誰かの妾になるのは面白くなかったようだ。山下は香織が咲や真由美と離れて暮らすことを喜んだ。大阪なら自分が面倒をみられると言ってくれた。

続く




2019年03月03日

家族の木 Extra edition 夜職の家

浮気心
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咲は家に帰って、いつものように真由美に今日起きたことを話した。真由美は「嫁さんが亭主にほれ込んでるんじゃないのかね。」と笑った。咲の家でも店でも、しばらくはこの嫁さんの啖呵がしょっちゅう話題になった。

「今日ね、あのバカホステスが騙そうとした相手が来たのよ。やつれた顔してたんだけど、ちゃんとした言葉遣いで、美香さんとお話をさせていただきたいって。凄い怖い顔で、でも落ち着いた態度で、なんか、こりゃ簡単に騙せる相手じゃないって思ったのよ。
それで、『美香は嘘をついてお金をいただこうとしてました。詐欺は犯罪ですからクビにしました。』っていうと、ちょっとぽかんとなってたの。あんまり、拍子抜けした顔されたんで、なんか面白くなっちゃって、奥さんが言ったこと教えてやったのよ。『夫の精子は一匹残らず私のものですから子供は私が引き取ります。』って、あれ、言ってやったのよ。

そしたら今までクールに苦み走ってたのが、突然耳まで真っ赤になって汗をふきふき、ジュースを一気飲みして大変だったのよ。なんていうか、可愛げがあるっていうか色気があるっていうか。あれだったら子供欲しくなるなあって思っちゃった。ちょっと、奥さんとの仲、壊してやろうかなって思うなあ、あれじゃ。」と咲が言うと真由美は嫌な顔をした。

「山下先生を裏切るような真似をしないでね。あの先生はあんたをホントに大事にしてくださってんだから。」と釘をさした。「わかってるわよ。あたしだって先生にはホントに感謝してる。愛してるのよ。」と答えた。咲の中では、金と感謝と愛は同じものだった。

咲は少し美香がうらやましかった。咲は羽目を外すということがなかった。一遍でも、ああいう男にほれ込んで馬鹿なことをしてみたいと思った。

真由美は昔のことを思い出していた。若い男にのぼせたことがあった。そのことが亭主にばれて、ひどい目にあわされた。あんな怖い思いをしたのは、後にも先にもあの時だけだった。あの時は亭主の体が弱かったから何とかなった。

毎日毎日「早く死ね。」と唱えながら相手をしたのだ。相手に負担をかけるようにした。無茶をさせるようにした。実際、亭主は心臓が止まって亡くなった。あの時の自分は鬼だった。

あんな思いは咲にはさせたくなかった。咲は確かに水商売の家で育って自分も夜の世界で成功している。それでも真由美のように野心をもってパトロンを踏み台にしてきたわけではない。若いうちからいい旦那に恵まれていい店を経営している。この世界ではいわばイイトコの人間だった。

このまま、行けば食べるに困らないし子供にも教育を付けられる。これからは教育のない経営者は成功しないと思っていた。

続く




  
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2019年03月02日

家族の木 Extra edition 夜職の家

社長の嫁さん

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咲が美香に事情を聴いた。相手はT・不動産の社長。3カ月ほど前に酔った社長を自分の家まで連れて行った。関係はその一回だけなのに妊娠したといって自宅まで談判にいったという話だった。妊娠は嘘で、女房から慰謝料を巻き上げようと思ったらしい。

「なんだ嘘か」咲は、つばを吐きたくなった。何とかして慰謝料なり認知の約束なりを取ってやろうと思っていた。しかし、話を聞くと、もともと、相手もその気がない話だ。たった一回の関係で、しかも金を受け取っている。そんな場合はこっちも遊びだと割り切らなきゃ。客商売なんだから、金をくれたんならそれでいいんじゃないかと思った。

美香は「インバイ扱いされた。」と言って泣いた。。インバイってなんて汚い言葉遣いだろうと腹が立った。ギブアンドテイクってものだと咲は思った。それよりも嘘をついて金を巻き上げようとした自分は何なんだ、それは詐欺って言う犯罪だと咲は心の中で美香を軽蔑した。

美香は、話の合間によく泣いた。なにしろ相手の女房に完全にノックアウトされたらしい。「きつい嫁さん?」と聞くと「いい年して天然そうな嫁さん」だという。その割に言うことが半端じゃなかったらしい。「ヒステリーでも起こしたの?」と聞くと、「落ち着いたもんだった」と。

ただしセリフが今まで聞いたこともない豪傑なセリフだったらしい。「田原真一の精子は一匹残らず私のものです。生まれた子供は私が引き取ります。もちろん大切に愛情をかけて育てます。慰謝料はお払いします。生まれるまでの生活費も出します。でも養育費は出しません。養育は私がします。」だって。

馬鹿なホステスが騙せる相手ではない。大した嫁さんだと感心した。一瞬、その社長に同情もした。おとなしいから尻に敷かれているのだと思った。

「社長、嫁さんの尻に敷かれてるんだ。そんな男相手にしたって、結局金にはならないよ。」と美香を慰めた。内心は、「この女はだめだ、クビにしよう。」と決めていた。金が自由にならないような男を相手にして何大騒動してるんだ、時間の無駄だと思った

美香と話したあとで滝本に「美香はクビだ。」と伝えた。滝本は美香から愚痴られておおよその事情は知っていた。当たり前だというような顔をして「承知しました。」と答えた。

滝本に「金が自由にならないような客と関係するようじゃ、ホステス失格だ。」とぼやいた。滝本は「あの社長はおとなしい人だけど、しっかりもんで一人で会社を興した人ですよ。取り込んだら金は出ますよ。誰かもう少し気の利いた子に話してみますよ。」と答えた。

続く




2019年03月01日

家族の木 Extra edition 夜職の家

 
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咲は東京の一等地で店を持つようになっていた。パトロンは有名な政治家だった。この政治家の子供を産んでいた。認知してもらっているし遺言状も書いてもらった。本妻の子と同じようにしてほしいとは思っていない。ただ、将来のためになるようなものはもらっておきたかった。

母の教え通り、旦那をちゃんともてなして堅実な商売をした。店には、旦那の紹介の客も多くていつも華やかな雰囲気があった。

咲は、このタイプの店はあまり大規模にすると流行らないのを知っていた。女の子も、未経験の子はおかない。ちゃんと実績を見て雇った。そのせいで客筋はよかった。


T・不動産の社長

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T・不動産は咲の店では小粒の客だった。接待には金を落とすが社長や役員が個人的に来ることは無かった。しっかりした経営だということは分かっていた。長く付き合って得をする客だ。事実、T・不動産の客としてきた客が個人的に遊びに来ることは多かった。

この会社の社長という人がちょっと変わっていた。おとなしいのだ。咲は最初は経理部長か何かと思った。ちょっと飲んで軽く冗談をいうと帰ってしまう。「酒が弱くて、皆さんを退屈させてしまうから。」というのが決まり文句だった。

帰りには女の子に丁寧に礼を言って帰る。「皆さんがよくやってくれるから、おかげでうちは繁盛してますよ。」という。おとなしいのに商売上手だった。女の子の評判は良かった。年は40半ばだ。若く見える。

そのT・不動産の社長が美香というホステスに引っかかったらしいという話は咲の耳にも入っていた。咲は、なんであの実直そうな社長が美香みたいな世間ずれした小娘に引っかかったのかわからなかった。

ボーイの滝本が言うには、「美香は、この社長のことになるとちょっと感情的になる。まあ、ちょっと惚れてたのかもしれない。」という。咲も「どうせパトロンを持つなら嫌な奴よりは好いた男がいい。」と思ったんだろう事に察しはついた。そんなこと言ってるから、いい金主が捕まらないんだという言葉は飲み込んだ。

別の日、滝本が耳打ちしてきた。「美香がT・不動産の社長の家に乗り込んだらしいです。下手なことされちゃ上客逃しますよ。」という。滝本はボーイといっても、実質支配人だ。給料もそれだけの給料を払っている。商売の邪魔になるホステスなんかさっさと切ってしまう。

多分、山下から咲の監視も命じられているのだろう。咲は悪い気はしていなかった。それだけ山下が自分に執着している証拠だった。滝本の前で真面目さをアピールしておけば山下にいい報告が行くことも計算していた。

続く


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2019年02月27日

家族の木 Extra edition 夜職の家

昔話
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真由美は午後4時きっかりに美容院に入る習慣だった。週刊誌を見ながらセットしてもらう。その日もぼんやり週刊誌を見ていて真一を見つけた。にこやかにインタビューに答えていた。最近ちょっと話題になっているモテる作家ということだった。

「やっぱりこの子は出世すると思った。ずいぶん明るくなってよかったねえ。」と姉のような気持になった。出世したもの同士、乾杯でもしたいくらいだった。

あの時は、冷たい気持ちじゃなかった。ずいぶんな目にあわされて、怖い思いもしたんだよ、そんな話もしたかった。ヨリを戻すのはごめんだった。自分にはもう、若い男を取り込むほどの魅力がないことはよくわかっていたし、今は咲が生きがいだった。

そのころテレビの深夜番組でいろんな店のママたちが世間の裏話をする番組が流行っていた。ママたちは必ず親しい有名人の名前を出した。真由美もほかの女たちへのライバル心から、自分が面倒を見た有名人の名前を出したくなった。それが真一だった。

ちょうど、ちょっと男前で話のおもしろい真一が有名になり始めていた。ドラマ化される作品も出てきて、そのヒロインを演じる女優と一瞬だがテレビにも出た。

真由美は深夜番組のゴシップコーナーで、今ちょっと人気のあの推理作家と昔付き合っていたとしゃべったのだった。もちろん名前は言わない。イニシャルでSだといった。ご丁寧に、元警察官だったこともしゃべった。かわいがって、お小遣いをやっていたとも話した。週刊誌はそれが島本真一だということをすぐに調べ上げた。

この話は、瞬く間に広がってテレビのワイドショーや週刊誌のいい餌食になった。はっきりと男妾と書き立てられた。その通りだったので、打ち消すこともできなかったのだ。島本真一はちょっと名前を知られる程度だったものが、この話題で一気に有名になってしまった。

真由美は自分の話が真一を困らせていることを悟った、二度と昔の男の話はしなかったが、真一は、毎日、ぼろくそにこき下ろされていた。真由美はテレビに出るのをやめた。それでも、有名になって真由美の店は大繁盛だった。真一の大きなダメージはそのまま真由美の勲章になった。

「真ちゃんには悪いことしちゃった。でも、嘘をついたわけじゃないし。半年ぐらいは私があの子を食べさしていたのは事実だし。」真由美は、真一がまた、人気作家になってくれるのを心から祈った。

悪気はなかったが、昔、情をかけた男を踏み台にして、また、一つ階段を上った。

続く

家族の木 Extra edition 夜職の家

真由美の成功

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夫にひどいせっかんをされた日から、真由美はまたまじめに働いた。毎晩の相手は以前よりも丁寧にした。出来るだけ夫に負担がかかるようにした。夫は寂しかったのかと理解して、かえって喜んだ。真由美は、毎夜毎夜夫に尽くした。「早く死ね、早く死ね。」と念じながら。

真由美の努力が功を奏して、夫は1年後に心筋梗塞で亡くなった。74歳だった。年の差もあったので、誰も不思議に思うものはなかった。葬儀も何もかもきちんと済まして、すべてのものを相続した。

幸恵は心から喜んでくれた。「努力のたまものだね。よく頑張ったね。」幸恵のこの言葉が真由美には一番のご褒美だった。もらった家は売ってしまった。幸恵のマンションで2人暮らしするのが一番の幸せだった。

それから、5年たって真由美は自分でマンションを買って幸恵と暮らし始めた。財産を手に入れてからも、ある男の妾として頑張った。その男の子供が今3歳になる。認知してもらって、養育費ももらって その子供だけが生きがいだった。この子に立派なものを残してやりたかった。可愛い女の子だった。咲と名付けた。

続く





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2019年02月26日

家族の木 Extra edition 夜職の家

不倫の終わり

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真一の部屋へ上がった夜、家に帰ると夫が起きていた。これから、風呂に入って一通りの相手をしなければならないのかと嫌になった。

その日の夫はいつもと少し様子が違った。風呂に入るといきなり髪をつかまれて、浴槽に顔を抑え込まれた。殴りはしない。顔は商売道具だ。

「お前、俺を舐めてたら生かしとけないよ。わかってるんだろうな。俺は離婚して、慰謝料払ってるんだ、お前のために。いい加減な真似したら生かしておけないんだよ。」そのまま、何度も浴槽に顔を抑え込まれた。

「たまには、こういう遊び方も面白いもんだ。」爺さんは真由美が思っていたよりも力が強かった。「今度、あの男に会ったら、息ができないようにしてやる。」と怖い顔でささやいた。真由美は恐怖で震えあがった。

風呂から出たときは普段通りの優しい夫で、ご苦労さんと言ってくれた。恐ろしくて言葉も出なかった。その日も一通りの相手をして普通に眠った。

翌日、真一とは話さなかった。その代わりに現金を渡した、真一は了解して、その日を最後に出勤しなかった。それだけの関係だった。

続く

2019年02月25日

家族の木 Extra edition 夜職の家

真由美の不倫

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もう、この若い男との関係は終わりにしなければいけない。真由美は直感的にそう感じていた。いくら、夫が自分に甘いからと言って、もういい加減にしないとばれてしまう。
ばれれば、ただでは済まないだろう。離婚なんていわれたら今までの苦労が水の泡だ。

あんな爺さんと4年も連れ添ってるのは、何としても店がほしいからだ。あの店で金もうけをしているのは私なんだと真由美は思っていた。爺さんは、お小遣いもくれるしいい服も買ってくれるけど、絶対店の名義は譲ってくれない。あの爺さんは、わかってるんだ。あたしが、あの店がほしくて結婚したこと。あの店を手に入れたらさっさと別れてしまうと思ってるんだ。

でも爺さんはホントのことわかっちゃいない。あたしは、あの爺さんが持ってる店全部ほしいんだよってこと。だから離婚は絶対ダメなんだ。真由美は離婚だけは絶対に避けたかった。


全てが真由美の思うとおりに運んでいるときに真一に会ったのだった。スナックの裏の仕事をするために雇ったボーイ見習いが真一だった。まじめに力仕事をするし、元警官だというので頼りになる気がした。

きれいな顔立ちと筋肉質の体つきにすぐに夢中になった。10歳も年下だったが、若く見える自信はあった。

真一は、いろんな服を着せると嫌がらずに何でも着た。靴も、時計もスーツも揃えてやった。部屋は真由美が自分に都合のいい部屋を借りてやった。部屋に行けば、必ずお小遣いを置いて帰った。いかにも、男を囲っている感じがして気持ちがよかった。

初めての経験だった、今までは、男は金、それ以外に何もなかった。情をかけて金を使った男は真一が初めてだった。

その日も、仕事終わりに真一を部屋まで送り届けた。ついでに部屋に上がった。真一は、一日中仏頂面をしていた。それなのに部屋は清潔だった。あんな顔して掃除も洗濯もちゃんとやるんだと思うと可笑しくなった。

「真一、女のコたちから評判好いよ。」といっても返事もしない。「店の裏周りがきれいになってた。あれ真一がやってくれたの?」と聞くと「うん」と言ってはにかんで笑った。

こうやって、気分を上げてやると、真一は自分から覆いかぶさってきた。この子はなんて可愛いんだろうと思った。楽しんだ後は、ちゃんとお小遣いを置いて帰った。ここ最近は、週に2度くらいはそんな日があった。

続く

2019年02月22日

家族の木 SPIN-OFF STORY 夜職の家

真由美の結婚
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真由美はまじめに働いていた。すぐ勤務先のスナックのオーナーに気に入られた。真由美は幸恵よりは少し野心家だった。この爺さんの女房になれば全部手に入ると考えたのだ。

もちろん爺さんには、もういい年の嫁さんがいる。子供がいない夫婦をつぶしても大した罪にならない。第一仲が好いようには見えない。充分な慰謝料を払えば喜んでもらえるかもしれない。爺さんだって若い自分を嫁さんにできれば本望だろう。ウイン、ウインとはこのことだ。これは慈善事業だと思った。

ずっと東京の真ん中で水商売をして生きていた。きれい好きな上に、センスもよかったし、客あしらいもうまい、店は真由美の切り盛りで繁盛した。この財産をもらっても罪にはならない、これが真由美の考えだった。

話を聞いた幸恵も同じ思いだ。真由美はそこらの女より格段に美人だしスタイルもいい、それに商売のセンスもいいんだから、ここはひと踏ん張りして、あの爺さんの嫁になったがいい。全部もらえたら大出世だ、そう思っていた。

真由美は、オーナーに一生懸命尽くしたのだった。多分35歳ぐらい年上だ。真由美は男の好みなんてなかった。そんな不真面目なことは考えずに、売れるときに売る、必要な時に売るのが仕事だった。オーナーの嫁になるのは単なる事業計画だ。好みなんて関係なかった。

真由美は、オーナーを取り込んでまんまと嫁になった。家はキレイにしたし、オーナーにも優しくした。料理もできるだけ作った。作れないときには外食をねだった。オーナーはきれいな真由美を着飾らせて外食するのが嬉しそうだった。

続く




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