2019年02月27日
家族の木 Extra edition 夜職の家
昔話
真由美は午後4時きっかりに美容院に入る習慣だった。週刊誌を見ながらセットしてもらう。その日もぼんやり週刊誌を見ていて真一を見つけた。にこやかにインタビューに答えていた。最近ちょっと話題になっているモテる作家ということだった。
「やっぱりこの子は出世すると思った。ずいぶん明るくなってよかったねえ。」と姉のような気持になった。出世したもの同士、乾杯でもしたいくらいだった。
あの時は、冷たい気持ちじゃなかった。ずいぶんな目にあわされて、怖い思いもしたんだよ、そんな話もしたかった。ヨリを戻すのはごめんだった。自分にはもう、若い男を取り込むほどの魅力がないことはよくわかっていたし、今は咲が生きがいだった。
そのころテレビの深夜番組でいろんな店のママたちが世間の裏話をする番組が流行っていた。ママたちは必ず親しい有名人の名前を出した。真由美もほかの女たちへのライバル心から、自分が面倒を見た有名人の名前を出したくなった。それが真一だった。
ちょうど、ちょっと男前で話のおもしろい真一が有名になり始めていた。ドラマ化される作品も出てきて、そのヒロインを演じる女優と一瞬だがテレビにも出た。
真由美は深夜番組のゴシップコーナーで、今ちょっと人気のあの推理作家と昔付き合っていたとしゃべったのだった。もちろん名前は言わない。イニシャルでSだといった。ご丁寧に、元警察官だったこともしゃべった。かわいがって、お小遣いをやっていたとも話した。週刊誌はそれが島本真一だということをすぐに調べ上げた。
この話は、瞬く間に広がってテレビのワイドショーや週刊誌のいい餌食になった。はっきりと男妾と書き立てられた。その通りだったので、打ち消すこともできなかったのだ。島本真一はちょっと名前を知られる程度だったものが、この話題で一気に有名になってしまった。
真由美は自分の話が真一を困らせていることを悟った、二度と昔の男の話はしなかったが、真一は、毎日、ぼろくそにこき下ろされていた。真由美はテレビに出るのをやめた。それでも、有名になって真由美の店は大繁盛だった。真一の大きなダメージはそのまま真由美の勲章になった。
「真ちゃんには悪いことしちゃった。でも、嘘をついたわけじゃないし。半年ぐらいは私があの子を食べさしていたのは事実だし。」真由美は、真一がまた、人気作家になってくれるのを心から祈った。
悪気はなかったが、昔、情をかけた男を踏み台にして、また、一つ階段を上った。
続く
真由美は午後4時きっかりに美容院に入る習慣だった。週刊誌を見ながらセットしてもらう。その日もぼんやり週刊誌を見ていて真一を見つけた。にこやかにインタビューに答えていた。最近ちょっと話題になっているモテる作家ということだった。
「やっぱりこの子は出世すると思った。ずいぶん明るくなってよかったねえ。」と姉のような気持になった。出世したもの同士、乾杯でもしたいくらいだった。
あの時は、冷たい気持ちじゃなかった。ずいぶんな目にあわされて、怖い思いもしたんだよ、そんな話もしたかった。ヨリを戻すのはごめんだった。自分にはもう、若い男を取り込むほどの魅力がないことはよくわかっていたし、今は咲が生きがいだった。
そのころテレビの深夜番組でいろんな店のママたちが世間の裏話をする番組が流行っていた。ママたちは必ず親しい有名人の名前を出した。真由美もほかの女たちへのライバル心から、自分が面倒を見た有名人の名前を出したくなった。それが真一だった。
ちょうど、ちょっと男前で話のおもしろい真一が有名になり始めていた。ドラマ化される作品も出てきて、そのヒロインを演じる女優と一瞬だがテレビにも出た。
真由美は深夜番組のゴシップコーナーで、今ちょっと人気のあの推理作家と昔付き合っていたとしゃべったのだった。もちろん名前は言わない。イニシャルでSだといった。ご丁寧に、元警察官だったこともしゃべった。かわいがって、お小遣いをやっていたとも話した。週刊誌はそれが島本真一だということをすぐに調べ上げた。
この話は、瞬く間に広がってテレビのワイドショーや週刊誌のいい餌食になった。はっきりと男妾と書き立てられた。その通りだったので、打ち消すこともできなかったのだ。島本真一はちょっと名前を知られる程度だったものが、この話題で一気に有名になってしまった。
真由美は自分の話が真一を困らせていることを悟った、二度と昔の男の話はしなかったが、真一は、毎日、ぼろくそにこき下ろされていた。真由美はテレビに出るのをやめた。それでも、有名になって真由美の店は大繁盛だった。真一の大きなダメージはそのまま真由美の勲章になった。
「真ちゃんには悪いことしちゃった。でも、嘘をついたわけじゃないし。半年ぐらいは私があの子を食べさしていたのは事実だし。」真由美は、真一がまた、人気作家になってくれるのを心から祈った。
悪気はなかったが、昔、情をかけた男を踏み台にして、また、一つ階段を上った。
続く
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