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2015年10月30日

第三章第一節 段連祥の経歴

段連祥は、川島芳子が一九四八年三月二十五日に死刑を逃れた後に、長春市郊外新立城に逃亡し落ち着くまでの主要な幇助者の一人で、また解放後には川島芳子と夫妻の形式で共に生活し、忠実に川島芳子が一九七八年に死去するまで付き添い、三十年間の長きに渡る唯一の当事者であるが、そこで次のような質問が避けて通れないだろう。「すなわち段連祥とはいったい何者か?」という問である。歴史上彼と川島芳子にはどんな関係があったのか?彼の話は信頼性があるのかどうか?
これは我々が川島芳子生死の謎を調査するのにまず先にはっきりさせておくべき問題であった。
段連祥の唯一の娘である段霊雲と段連祥の最愛の孫娘張玉は、段連祥の生前に、多年にわたる言語交流と共同生活を通じて、段連祥の家系の歴史と個人の経歴について以下のように理解していた。
段連祥は一九一八年の馬年生まれで、遼寧省瀋陽市蒲河郷人、漢族である。父親は農民で土地を耕して生計を立て、経済的には自給自足であった。母親の于氏は、母方の実家が満州族正黄旗人、その祖先は清王朝で関外皇陵で陵墓を見張る正黄旗武官の出身である。段連祥の伯父は于徳海といい、清朝末年に乾清宮で「御前宮廷侍従」官を務め、宮中でよく王侯大臣たちが朝廷で国事を談ずるのを見ていた。こうして于徳海は川島芳子の生父粛親王善耆を知っただけでなく、彼と親密に往来するようになり、またある時には粛親王善耆は朝廷への建議書を、于徳海に彼の代わりに提出するよう託すこともあった。于徳海はしばしば北京郊外に新しく落成した粛王府で客となり、さらに善耆と義兄弟の契りを結んだ川島芳子の養父で日本人の大陸浪人川島浪速に出会った。
于徳海は非常に聡明な人間で、もはや清王朝の運命がそう長くはないことを見て取ると、早めに家産を売り払い、長年の貯蓄をすべて持ち出して、すべてを英国のスタンダード・チャータード銀行に預けた。一九一一年の辛亥革命により清王朝が滅亡した後、于徳海は素早く英国に赴き、英国の首都ロンドンで幾つかの宝石店を開設した。一九二〇年に于徳海は帰国して親戚に会い、子供がいなかったので、姉の三男に当たる、当時二歳の段連祥を養子として英国に連れ帰った。この時、前清朝の粛親王善耆はちょうど東北の旅順で逃亡生活を送っており、于徳海も善耆に会いに行った。旅順の粛王府で、于徳海は早くより善耆の《義兄弟》となっていた川島浪速と出会い、そこで川島浪速とも親密な関係を築き、しばしば手紙を遣り取りするようになった。
当時、善耆と川島浪速はともに于徳海を才人と認め、彼にも日本人のために働くよう紹介したが、于徳海は日本人が善耆を支持して行っている満蒙独立を胡散臭く思っていたため、英国に商売があるので暇がないと言い訳をして婉曲に断った。
一九三二年、満州国が成立した後に、于徳海が瀋陽に親戚に会うため帰った際に、ある会社の成立式典で、当時の満鉄副総裁であった松岡洋右(一九三五年満鉄総裁)に会い、両者は自然と自分の古い知己である粛親王善耆と川島浪速の話となり、関係はより一層近づいた。松岡洋右の勧誘により、于徳海は英国の大部分の資金を満鉄に投資し、さらに于徳海は松岡洋右の推薦で、満州重工業開発株式会社の顧問に就任した。
于徳海は満州国成立後に、すすんで満鉄に投資し、日本人に手を貸したのは、彼が日本がすでに中国東北に足場を固め、前清王朝の遜帝溥儀も日本人により担ぎ出され、この前清王朝の遺老にあたる彼も、大清王朝の復活の希望を夢見たからであろう。そこで彼は英国のいくつかの宝石店舗を彼の英国人妻ジェニーの管理に任せ、彼自身は主要な精力を満州への投資事業に当てることになった。彼の英国人妻ジェニーはもともと于徳海の養子となった段連祥の家庭教師であった。一九二四年に段連祥が六歳のときに于徳海とジェニーは結婚し、一年後にジェニーは男の子のアンリを産んだ。七歳の段連祥は自分に弟ができたことを知り、また自己が疎まれるようになったと感じ、かつての家庭教師で、いまは継母となったジェニーから疎遠に振舞うようになった。于徳海はそれを知ると、段連祥を国に連れて帰り、また彼を瀋陽蒲河の姉の家に戻した。段連祥に国内で比較的良い成長の環境を与えるため、于徳海は瀋陽の皇姑屯に姉一家のために比較的広々とした新しい邸宅を買い与え、さらに段連祥に十分な学費を与えた。段連祥は伯父の于徳海の資金援助により、小学校を卒業し、また中学校で学んだ。段連祥が中学を卒業した後、于徳海は松岡洋右の日本との関係を通じて、段連祥を瀋陽虎石台日本語学校に入れて日本語を専門に学ばせた。一年後に卒業すると、于徳海は再び松岡洋右との関係を通じて、段連祥を満鉄の皇姑屯駅で検車員としたが、実際の主要な仕事は日本人の通訳であり、後には四平鉄路局の日本警察局長専門の通訳となり、月給は六十大洋(中華民国の貨幣単位)で当時としては大変な高給取りであった。
段連祥は小さい頃から伯父であり養父でもある于徳海との関係を通じて、川島芳子の父親の世代の人たちの恩恵を受けてきた。それで、段連祥が成人した後に、こうした経歴を理解して、彼は内心からの川島芳子の父親たちへの感謝の気持ちを、川島芳子の身上にすべて集中して注いだのである。こうして、我々は段連祥が男装の麗人金璧輝司令を敬慕し、憧れを抱いて、わざわざ遠くの東北から天津東興楼に川島芳子の容姿を一目見るためにやって来て、さらに川島芳子が危機に遭遇して彼に頼ったときにも、段連祥は危険を顧みずに、川島芳子救助に参加したこれらの行動も、理解しがたいことではないのである。
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