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2016年04月29日

扉プロローグ『廃屋』  著者:冨田武市

まだ風が冷たい春先の夜…
周囲を木々に囲まれた森の中に、それはあった。

『皆殺しの家』

地元民の間でそう呼ばれている廃屋である。
木像モルタル作りの二階建てで、敷地はコンクリートのブロック壁で囲まれている昭和時代によく見られた作りだ。
敷地の入り口にある鉄の門扉は黒いペンキがチラチラとこびりついて残ってはいるが、錆ついていてハンマー等で叩けば簡単に砕けそうだ。
俺は今、親友の木林博喜と供に、その門扉の前に立っている…
黒いパーカーにインナーに黒のTシャツ、ボトムスにも黒いジーンズ、背中には黒いリュックを背負い、更に夜にも関わらずサングラスをかけた闇夜に溶け込む黒過ぎる程黒ずくめの出で立ちの木林が口を開く。
「まず、こいつを何とかせんとなあ…」
この日の為に購入したという強力マグライトの明かりが針金でガチガチに固められた門扉を映し出した。
「あ〜ん、これでもかと言わんばかりにガチガチに縛られた門扉の気持ちよ〜!」
木林はそう言って笑う。
オレ達は、この春…というか今日、高校を卒業した。
二人とも進路は同じで、五年前に地元、泉佐川市に開学された
『泉州大学』
に揃って進学する。
何故その大学を選んだのかと言うと、地元で近いという理由もあるのだが、『形而上民俗学部』という他に類を見ない希な学部が設立されていた事が大きい。
平たく言えば、噂や伝承、都市伝説やオカルトの分野を探求する学問である。
就職に役に立つ可能性は無いといって過言ではなかろうが、生来オカルトに興味の深い性格のオレ達には、これ以上マッチした学問はない。
そして、大学入学を前に、何かアホな思い出を作ろうと、地元で有名な心霊スポットである
『皆殺しの家』
と呼ばれる廃屋に忍び込もうとしているのだ。
この廃屋が心霊スポットとなった経緯は諸説あるのだが、最も有名なのは、昔、この家には父親、母親に、その子供である姉弟、父方の祖母の五人が暮らしていた。
しかしある夜、皆が寝静まる中、突然発狂した母親が家族全員を刃物や鈍器で惨殺。最後に自分は庭に生えていた柿の木に頭を打ち付けて自殺した。
家は親戚の手により売りに出されたが、そんな噂はすぐに広がるもので買い手がつかない。
その為、封鎖されていたのだが、いつの頃からか
『出る』
という噂が流れ始めた。
何が「出る」のか?
無論、幽霊である。
血で染まったパジャマを着た母親の霊である。
また、こんな付属もある。
もし、その幽霊と遭遇しても、絶対に顔を直視してはならないという。
その理由が、とても人間であったとは思えない恐ろしい顔をしている為、見れば彼女と同じように発狂するからだという事だ。
眉唾ではあるが、やはり雰囲気はある。
しかし…
「そのマグライト、明るすぎへんか?」
オレは木林が持つマグライトの余りの明るさに突っ込んだ。
木林は真顔で、
「このくらい明るくないと見えへんやんけよ!」
と答えた。
じゃあサングラスを外せばいいだろうと思ったが、気にいっているのだから、そこに触れないのが友達というものだ。
マグライトの強力な明かりが門扉の奥まで映し出す。
やはり、いい雰囲気をしている。
木林はリュックからペンチを取り出す。
「こんな事もあろうかと用意してんよ〜!」
針金を除去するには、ペンチが最も役に立つ。
木林はオレにマグライトを持たせると、自分はペンチを使って針金を除去する。
闇夜に響く針金が切られる音と木林の鼻唄。
やはり工具があれば作業は早い。
アッと言う間に針金を除去した木林は門扉に手をかけて
「ほな、開けるぞ?」
と門扉を開ける。
錆び付いている割りには門扉はほとんど音もなく簡単に開いた。
オレ達は敷地内に足を踏み入れる。
その瞬間、

ゾン!

という悪寒がオレの頭頂部から足までを走り抜けた。

やれやれ、何かが存在する事は確かなようだ。
「ん?」
一瞬動きをとめたオレに気づいたのか、木林がオレにマグライトを向ける。
「あ〜ん武市、早くも何かを感じたのかい?」
あくまで軽い口調を崩さない木林が尋ねてくる。
「あ、ああ〜、何か寒気走ったわ…てか、そいつを向けるな。眩しい!」
オレは手で光をさえぎりながら、そう答えた。
すると木林は前を向いて歩き出し、
「ほな、突入や〜!」
と、あくまで軽い。
入り口は開き戸である。
しかも、情報によると鍵が壊れていて修理する者もいないので、突入は容易だという。
木林は開き戸に手をかけると鼻唄混じりに開けるのだが、50センチほどしか開かない。
木林はぐっと力を入れて開こうとするが、戸はガタガタと音を立てるだけで微動だにしない。
更に戸にしがみついて体重をのせて開こうとする木林。
「何や景気の悪い戸やのう!」
と言いながら渾身の力を込める木林。
すると、

バキッ!ガタガタン!

と音をたてて開き戸は開いたというより、壊れた。
数秒の沈黙の後、木林が口を開く。
「この開き戸は今晩壊れる運命やったんやろなあ…南無!」
独善的な台詞と供に手を合わせる木林。
ともあれ、ようやく家の中に入れた。
カビ臭い臭いが鼻につく。
しかし、敷地に入った時に感じた悪寒の割りには特に何も感じない…
「何か、拍子抜けやなあ…」
ボソッと呟いたオレの言葉に木林が尋ねる。
「なあ武市よ?何か感ずるものはあるかい?」
オレは幼少の頃より所謂霊感というものが常人より鋭いようだ。
母の妹で霊能者をやっている叔母がいるのだが、
『アンタはそこそこ強いから、変な事に首突っ込んだらアカンよ』
と中学の時に言われた。
この体質は母方の血から受け継いだものかも知れない。
それを知る者は家族とごく近しい者だけである。
無論、木林にも話をしている。
しかし、特に何も感じないので首を横に振るしかない。
「ふ〜ん、そうか…まあ、奥までいってみよか…」
木林はマグライトで辺りを照らしながら歩く。
一歩踏み出す度にギイギイと嫌な緒とを立てる床。
一階には台所、風呂、トイレ、居間、仏間があったのだが、生活用品や家具等は撤去されている。
その変わりにお菓子の袋やジュースやコーヒーの缶が散乱してい
今のオレ達みたいな連中が捨てていくのだろう…
しかし、風呂場の浴槽に束になったエロ本が捨てられていたのには正直笑った。
こんな所にエロ本を捨てにくる奴は一体どんな神経をしているのか…
「さて、二階にいくか…」
木林はそう言うと二階に続く階段に向かった。
階段もかなり朽ちており、角度も急である。
ふいに壊れはしないかとあまり体重をかけずに、おそるおそる一段ずつ登った。
その途中、内臓にズシリとくるプレッシャーを感じ始めた。
先に階段を上り逐えた木林に声をかけた。
「きた…二階、何かあるぞ…」
木林はそれを聞くと、
「おお…何か空気思いなあ…」
と答えた。
木林も何かを感じているらしい。
二階には部屋が四つあった。
手前の部屋から探索を開始したが、やはり家具や生活用品は撤去されている。
ゴミも少ない。
エロ本もなかった。
しかし、一番奥の部屋に近づくにつれ、内臓にくるプレッシャーが増す。
一番奥の部屋は、他の部屋は開き戸なのに対し、そこはドアであった。
ドアの前に立つオレ達。
耳の中でキーンという耳鳴りが響始めた。
ここだ。
圧倒的ではないが、間違いなく霊障である。
しかし、このレベルなら耐えられる。
木林もそれなりに素養がある為、軽い口調は影を潜め、やはり緊張している。
木林はドアノブに手をかけると、
「ええか?開けるぞ?」
とオレの方を見た。
「…どうぞ」
とオレは答えた。
すると木林はフッと行きを吐いてドアノブを回して、ドアをあけた。
開けた瞬間、オレは目があった。
そこには、明らかに職業がホームレスであろう痩せた初老の男が立っていた。

「うわああああ!!」

オレはビックリして悲鳴をあげて後ずさった。
それに反応して木林も

「うおおおおっ!?」

と後ずさる。
しかし、男は声も立てずに一点を見つめながら何かをブツブツと呟いている。
心臓がバクバクと音を立てて思考がまとまらない。
初老の男はまだブツブツ言っている。
この男は生きている。
しかし何故、今ここにいるのか?
ここを根倉にしているのか?
それはどうでもいい、問題はこの男の目だ。
瞬きをせず、瞳孔が開き、マグライトの明かりをまともに受けているのに少しも動じていない。
完全に常軌を逸している。
オレは、
「木林、お邪魔したら悪いわ。退散しよか…」
と小声で呟く。
木林も
「おお…何か、持ってはるしなあ…」
と反した。
見ると、男は彫刻刀のような物を握りしめている。
こんな危険が潜んでいる事はまったく予測していなかった。
早く退散するが吉である。
オレ達は男を刺激しないように、音を立てないようにそのまま後ずさる。
しかし、


バキッ!

どちらが立てたのかわからないが、床が大きな緒とを立てた。
その瞬間、男が声を出した。
「そんなに練習が大事か?」
全く意味がわからない?
「そんなに連中が大事か?うん?」
また同じ言葉を投げてくる男。
答えない方がいい。
しかし木林が…
「えっ?」
と聞き返した。
すると男は
「そんなに練習が大事かあ!!?」
と手に持った物を振りかぶって木林に襲いかかった!
しかし木林は

「うおおおおっ!」

と悲鳴を上げながらもドアを蹴り閉めた。
バターンとドアが閉まると同時にドンという音がした。
男がドアにぶつかったのだろう。
しかし、ドアはすぐに開くだろう。
今のうちにダッシュで退散するべきだ!
オレ達は駆け出そうとした。
しかし、

ゾン!

という悪寒…それと同時に内臓を捕まれたような感覚がして、動けなくなる。
木林が
「武市!逃げるぞ!」
と大きな声を出す。
オレはその声に応えて動こうとするが、足が鉛のように重い。
「武市早よせえや!」
木林が怒鳴るが、壁づたいにヨロヨロと歩くのがやっとだ。
オレが階段迄たどり着いた時、奥の部屋のドアが

ギィー

という音を立てて開いていくのを感じた。
木林がキッとドアの方に目を向ける。
しかし、ドアが開いた以外の物音がしない…
木林が口を開く。
「た、武市?オッサンおらんわ…」
その声に反応してオレも振り返った。
確かにオッサンはいない…
しかし、さっきは気づかなかったが、この部屋にだけ家具が残されていた…
寝室?
そこにはベッドと箪笥が見えた。
それと…
白いワンピースのパジャマを着た女性の姿が見える…
そのパジャマには大量の赤い染みが…
「木林!」
オレは叫んだ。
ビクッとしてオレを見る木林。
「武市?ほんまにオッサンおらんぞ?」
と、呆然としている木林に
「変わりにオバハンいてる…早く退散しよ…」
と答えた。
木林は総てを察したのか、オレの手を掴むと凄い勢いで引っ張って逃走した。
オレ達は息を切らしながら森の中に停めていた原チャリまでたどり着き、それ跨がると一目散にその場を後にした。
一番近くにあったコンビニに立ち寄り、飲み物を買って二人して一気飲みした。
「オバハン、おったんけ?」
木林が尋ねてきた。
オレは
「おった…あの話がホンマなんかはわからんけど、とにかく話に出てくるオバハンみたいなんは確かにおった…」
と答えて、コンビニの駐車場にどっかりと腰をおろした。
木林は
「見てんよ〜、武市見てんよ〜!」
と口から笑気を漏らした。
大学に行っても、またコイツとこんな経験をするんだろうな、と思うとオレも笑いがこみあげた…
終わり



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