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2016年11月03日

扉シリーズ第五章  『狂都』第十一話  「生命2」

伊田の一人娘、伊田美弓…

一つの肉体に二つの霊体が宿る特異体質『フタナリ』と呼ばれる重い宿命を背負って生まれた悲運の女性である。

外見や物腰にはそれを微塵も感じさせず、人前に出る女優という職業を選び、美人ではあるが、歳相応の普通の女性にしか見えない…

その美弓さんが、あの大震災を引き起こした…?

いや、それは…

「伊田さん、それは…美弓さん本人ではなく、美弓さんの中にいるもう一つの霊体が、という意味ですよね?」

と、武市は、冷静に考えてもそうとしか考えられないという思いをもってそう尋ねた。
しかし、伊田は首を横に振り、

「いや、あれは紛れもなく、美弓自身が起こした事だよ…あいつは何一つ覚えちゃいないだろうけどね…」

武市は驚愕した。
木林も目を丸くしている…
しかし、翔子の表情は「やっぱりそうか」と言わんばかりだ…

「あ、あの…わかりませんわかりません!霊体とか神格とかの力じゃないとしたら、普通の人間が、どうやったらあんな事ができるって言うんですか!?」

武市はそう言いながらも、頭の中では「超能力」という言葉が躍っている。
「超能力」であるとしたなら、それは念動、所謂サイコキネシスにあたるのだろうが、そんな出力のサイコキネシスを振るう人間がこの世に存在するとは到底思えない…

伊田は武市の言葉を受けて黙り込む…数秒の後、伊田は翔子の方をチラリと見やる。
翔子は何を察したのか、一つうなづいた。
それを受け、伊田は口を開いた。

「聞いてくれるかい?」

伊田は武市と木林の顔を見た。
二人は見た、伊田の瞳の中にもあの紋様が刻まれているのを…
しかも、その紋様は生き物のように見える…
まるで、瞳の中を蛇がのたうっているかのように見えるのだ。

二人は伊田のその目に込められた形容し難い気迫に言葉を失い、首を縦に振るのが精一杯だった…

「ありがとう…」

伊田は二人にそう言うと、遠い目をしながら語り始めた…

「十年前の秋…美弓が突然言い出したんだ、生雲大社に行きたいってね…なんで生雲なんだって聞いたんだけど、特に理由はないって言うんだ…オレは仕方なく生雲に行く事にした…近場への親子旅行は珍しくなかったんだけど、当時は横浜に住んでいたからね、あいつにとっては大冒険だったのか、えらくはしゃいでたよ…で、オレ達は生雲大社に到着した…到着した瞬間、あいつは「帰ってきた」って口にしたんだ…その時のあいつの目は子供の目じゃなかった…老人の目に見えたよ、まるで何百年も生きてきたような、重みを感じる目をしていたんだ…」

帰ってきた…?
生雲大社に…?

一般的に知られている生雲大社は神無月には日本神話の神々が集まる聖地だと認識されており、高天原から降臨した皇祖たる天津神とは違う土着の国津神の為に建てられた神殿だ。

その生雲大社に帰ってきた?

「その日の生雲は観光客で賑わっていたんだけど、あいつがそれを口にした途端、時間が止まった…信じられない事だけど、確かにあの時、完全に世界が止まっていたんだ…オレ達二人を覗いてね…」

時間が止まった…
武市は、それに似た事は何度か経験している…
武市はそれを一時的に限定された空間が時空から隔絶されていたのだろうと考えているが、伊田の口ぶりから、それは限定された空間のみではなく、世界そのものの時間が止まったという意味ではないかと思った…
しかし、いくら超能力者だったとしても、そんな事が人間に可能なのだろうか…
いや、どう考えても、そんな事ができるのは神をおいて他に見当たらない…

「伊田さん、それもアレですか?美弓さんがやったと?」

木林が伊田に尋ねた。

「そうかも知れないし、そうじゃないかも知れない…人間が時を止めるなんて、考えられない事だし、正直な所はわからない…でも、その時、あいつはもう、オレの知っている美弓じゃなくなってた…美弓はその時こう言った…私、世界を壊す、ってね…」

次々に入ってくる情報を整理するので手一杯になりつつあるが、何とかついていかねばならないと、武市は伊田の話に集中する。
伊田がその時、美弓とこんな会話を交わしたという…

「美弓…これ、お前がやったのか?」

「…わかんない…ただ、お父さんとずっと一緒にいられたらいいな、時間が止まればいいなって思っただけ…」

「思っただけって…とりあえず、お前がやったんならすぐに元に戻しなさい、これはいけない事だ…」

「いけない事?」

「そ、そうだよ…じ、時間を止めるなんて、人間がやっちゃいけない事なんだ…わかるだろ?」

「…わかんないよ…時間が止まってる事なんて、私達以外にはわからないでしょ?別に悪い事じゃないよ…それに、やろうと思ってやったんじゃないもん…ねえお父さん、私、何でこんな事ができるの?」

「…」

「ねえ、教えてよ、お父さん!?」

「そ、それはお父さんにもわからないよ…」

「お父さん、私恐い…身体の奥から熱いのが溢れてくるの…もう、爆発しそうなの…お父さん、この熱いの何なの!?熱い!熱いよ、お父さん!」

「美弓!どうした?どうしたんだよお前!?」

「ああ〜!出る!溢れる!」

目の前が光に包まれ、伊田さんの記憶は一時そこで途切れたらしい…

次に目を覚ました時、目の前に神々しい光を放つ女性の姿があったという。

伊田さんは瞬時に理解した。

この女性は、フタナリである美弓の中に住まうもう一つの霊体…
それは、神を持たぬ伊田さんにも、明らかに『神格』であると理解できるほどの神々しい輝きを放っている…
その神格は伊田に語りかけてきた。

「汝、死したる孤独の魂よ…死したればこそ明かそう…我こそは大聖別日御火回天明妃…」

伊田は、そう名乗る神格に告げられ、ようやく自らの死に気づいたのであった…

続く






扉シリーズ第五章  『狂都』第十一話  「生命」

一度…死んだ?

翔子の言葉の意味が理解できない…

だって、生きてるじゃないか…

ちゃんと息をしていて、肉体もある…

今目の前にいる翔子が死人でいるわけがない…

「な、何を言うてるんですか翔子さん?そ、それよりそれ、何なんですか?」

木林が翔子の身体を覆う紋様を指差し、口元を引きつらせながら笑気を漏らす。
この紋様は木林にも視認できているようだ…
伊田にも見えているようだが、一瞥して目を伏せた。

「これは…これが私が一度死んだ証…一度砕けた生命を繋ぎ止めるための魂帯(たまおび)…」

何を…
本当に何を言っているんだ、この人は…

「翔子さん、嫌な事言わんとってくださいよ!生きてますよ!翔子さんバッチリ生きてますって!」

武市はもうその話を聞きたくなかった。
考えたくもないが、例え一度死んでいたとしても、今生きているのだから、それでいいじゃないか!と言う意味でもあるが、もう一つ
、武市にはわかるような気がするのだ、翔子の話の意味が…
もし翔子が一度死んだとすれば、あの幽体離脱の夜だ…
あの後、翔子は…いや、翔子の生命が変わったように思うのだ…
そして、その変化した生命は、どういうわけか、神性を帯びている…

「翔子さん、武市の言う通りっすよ!生きてますて!翔子さんみたいな綺麗な幽霊なんかいてないでしょ!?」

木林もこの話が嫌なのだろう。
その声には「もうやめてくれ」というメッセージが込められているように武市には感じられた…

「違うの木林君…私は一度死んだ…でも、私は生き返ったのよ…存在そのものが変異したから、厳密には私と呼べないかも知れないけど…」

翔子は優しい口調で諭すようにそう言ったが、その目には悲しみが溢れているように、武市には見えた。

しかし、生き返ったとは何だ?

人間は死んだら生き返る事はない。

生き返ったとしたら、それは奇跡だ…

いや…奇跡なら何度か目の当たりにした…

この紋様も、言わばその一つだ…

存在自体が変異したというのも、何となくだが意味はわかる…
今、翔子は、翔子のモノではない生命で生きている…
それはおそらく、何者かから与えれた生命…
それは、『人間の生命』ではない…
『人間の生命』ではない『生命』を持って生きる人格を何と呼べばいいのか…
翔子は、そういう存在へと変異したのだ…

「翔子さん…仮に翔子さんが一度死んでいたとして…一体何が翔子さんを生き返らせてくれたんですか?」

武市には余計な情報は必要なかった…いや、その情報を得たら、武市は己を責める事になる。
武市はもう確信しているのだ、あの夜、武市が幽体離脱している間に、翔子が一度死んだ事を…

「ごめんね。それは言えない…この事に関してはこれ以上は言えない…でも、それは貴方も同じですよね、源さん?」

翔子はその悲しみに満ちた瞳で伊田にそう尋ねた。
伊田は、俯いたまま静かに語り始めた。

「そうだったのか…そうか翔子、お前もか…ああ、オレもあの日、一度死んだ…お前の言う通りだよ…そして…」

そこまで言うと、伊田の身体に翔子のモノとよく似た紫色の紋様が現れた。
しかし、翔子のモノとは紋様の形
が違う、より複雑怪奇な形をしている…

「オレもこの魂帯で繋ぎ止められてる…」

伊田は笑ってみせたが、その目には翔子と同じ悲しみが満ちていた…

木林は話についていく気もないようだ…
生きているからそれでいい、木林はおそらくそう思っているはずだ。
それをアピールするように、イラついた表情でタバコに火をつけた。
しかし、気になるのはさっき翔子も口にしていた「あの日」「あの時」という言葉だ…

「あの、すみません…「あの日」とか「あの時」とか…昔、何かあったんですか…?」

武市は気になった事のみを尋ねてみた。
伊田は何かを考えるように黙り込む。
すると、

「キバちゃん…タバコ一本頂いてもいいかい?」

と、木林に声をかけた。
木林は無言でタバコを差し出すと伊田はそれを一本抜きとって口に咥える。
木林がライターで火をつけた。
伊田は一服入れるとフーと細長い紫煙を吐き出した。
そして、タバコの先の火を見つめながら、口を開いた。

「十年前になるね…冨ちゃんとキバちゃんはまだ小学生だね…覚えてるだろ、あの震災を…?」

十年前…武市達が小学校三年の時に起こった縞根県を震源として近畿から北九州までに及び甚大な被害をもたらした巨大地震…通称『西日本大震災』…
伊田のいう震災とは、おそらくそれを指すのだろうと、武市は理解した。

「あの震災は…自然災害…いや、ある意味そうだと言えるのかも知れないが…あれは、ある者の意思によって起こった事なんだよ…」

ある者の意思…?

マグニチュード8.0以上を記録ささたあの地震により縞根はまだ復興半ば…世界遺産に選ばれた直後だった生雲大社もほぼ全壊したが、町の復興が優先されている為、まだその傷跡を残したままだ…
平島の核廃記念ドームも崩れたまま…被災した地域は未だ被災地であり続けている…
武市達の泉州地方は奇跡的に大した被害が出ていなかったが、あれ程の巨大地震が何者かの意思によって起こされたものだと言うのか?

それは、絶対に許される事ではない!

「伊田さんは知ってるんですか、その何者かを?」

武市の声に、珍しく怒気が含まれているのを木林は感じた。
自分が声を発していたら、その声にも武市と同じく怒気が含まれていただろうと、木林は思った。
伊田はまた紫煙を吐き出すと、少し間をおいて意を決した表情で武市の問いに答えた。

「オレの娘…美弓さ…」

続く







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