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2016年11月22日

扉シリーズ第五章  『狂都』第二十二話  「澪4」

1992年1月20日
今日は授業が終わった後、結花と真千子、三人で真千子の友達の劇団の舞台を見に行った。
前衛的な舞台だったので、正直よくわからなかったけど、結花と真千子は受験で大変なので、久々に三人揃ってのお出掛けだった。
帰りに、『松果苑』の宇治抹茶パフェを食べた。
やっぱり絶品!
結花は本当に泣いてた、ははは!
卒業しても、三人で美味しいものを食べに行こうと約束した。
友達っていいな!


1992年1月24日
今日はお父さんとお母さんの三回忌だ。
あの事故からもう3年経ったんだね…
流石の晴明も顔も覚えていないだろうから、退屈そうにしてた。
都古井のおばさん夫婦は仲が良かったから凄い泣いてくれてた。
お父さん、お母さん、私も晴明も元気だよ。
いつかまた、必ず家族になろうね。
その時は、ちゃんと孫の顔見せるからね。


1992年2月3日
今日は節分だった。
晴明と静馬の為に、都古井のおじさんが鬼になってくれた。
ドサクサに紛れて私も豆を投げたら晴明に本気で怒られた。
大人は投げてはダメらしい。
私もまだ子供なんだけどな…


澪は、日記を読み進める。
書かれてあるのは、本当に日常の他愛もない出来事だ。

母親は過去をほとんど語らない人だったので、澪には新鮮な事ばかりだ…
しかし、文章からは、この頃の母親は明るく前向きな性格であった事がうかがえる。

澪が知る母親は、優しい性格だったが多くを語らない控えめで大人しい性格だった。
かなり印象が違う…
祖父母が亡くなっているのは聞いていたが、事故死とまでは知らなかった?
高校生にして、やはり『死』という事については捉え方が一般とは違う。

澪は母親から人間の霊魂は『生命の海』という場所の『渦』から生まれ、そこに還るモノなのだと教えられた。

母親は、生まれ変わった時はまた家族になろうと書いている…
自分に対しても、また母娘になりたいと思ってくれているのだろうか…


1992年2月14日
バレンタインデー…
受験生にも大事なイベントだ。
結花は前から好きだったサッカー部の中山君、真千子は4組の三浦君にチョコを渡していた。
どちらも反応はまんざらでもなかった様子、良い方向への進展を祈る!
と言うか、私は特に渡すべき相手がいなかった…ので、晴明と静馬、都古井のおじさんにチョコを渡した。
都古井のおじさんは小躍りして喜んでくれたが、晴明と静馬は渡した瞬間、何の躊躇いもなく包みを破り、口に運んでいた。
まだ意味がわかっていないので無理もないが、切ないバレンタインデーだった。


1992年3月11日
お父さん、お母さん、無事に高校を卒業したよ。
結花は美容専門学校、真千子は釜倉芸大に進学します。
三人共地元に残る形になったので頻繁に会えそう。
でも、これから本格的に宮司になる為の修業に入る私は、遊びに行かせてもらえたりするのかな?
不安はいっぱいあるけど、チカラをつけて、土雲家を変える為にも、しっかりしなくちゃ!
お父さん、お母さん、見守っててね!


そこまでゆっくりと、微笑ましく読み進めていた澪は、

1992年4月2日

の日記を目にして、動きが止まった。


1992年4月2日
今日、私は死んだ…


その短い文章の意味が、澪には全く理解できない。

一体どういう意味だ?

何かショックな事が起こって、その比喩として書いた事なのか?
そうじゃないと、一体どういう意味なんだ!?
澪は、空を見つめて考えを巡らせるが、答えなど出るわけがない。
頭に爪を立てて答えを絞りだそうとするが、やはり無駄だ…

ポスポス

また襖をノックする間抜けな音が聞こえた。

「澪さん、御飯冷めちゃう…」

はるかの哀しそうな声が聞こえた。
忘れていたわけではない…
でも今、夕食なんかどうでもいい事だ!

「先に食べててよ!」

澪は机を叩いて怒鳴った。
それから少し、10秒程の無音の間ができた。
澪は少しキツく言いすぎたかなと思いながらも、日記を読み進めようとした。
しかし、

ポスポス

また間抜けな音が響いた。
澪は椅子から腰を浮かせて、

「しつこいなぁっ!先に食べててって言ってんでしょ!こっちにも都合があるんだからさぁっ!」

と、少しの反省とは裏腹にさっきよりもキツい物言いになってしまった。
しかし、またポスポスと言うノック音と共に、

「澪、御飯冷めるわよ…」

という、はるかではない女性の声が聞こえた。
明らかに、忘れもしない母親の声だ。

澪は自分でも驚くくらいの素早さで襖を開けた。
そこには母親…ではなく、はるかが立っていた。
はるかは少し怯えたような顔をしながらも、控えめに、

「澪さん…御飯食べよ?」

と、伏し目がちに澪に言った。
澪は、大きくため息をついた後、頭をボリボリと数回掻いて、無言で部屋を出て階段を降り始めた。
後から、はるかの

「澪さん、ハンバーグ好きだったよね?」

という、嬉しそうな声が聞こえた…

続く





扉シリーズ第五章  『狂都』第二十一話  「澪3」

一族の集合写真の中央あたりにいる高校生の母親…
その母親に絡みついている『透明な男』…
透明ならは可視化できるはずがない。
しかし、澪の目には見えている…
いや、見えてしまった…

まるで透明なゴムホースが巻きついているかのように、蛇のように身体をくねらせた男が母親に巻きつき、長く伸びた首の先についている頭部…髪は逆立ち、大きく見開かれた眼からは狂気を感じさせ、口の両端をあげた嗤いの表情には悪意が滲み出ている…
こう見ると、母親の表情は何かを諦めているようにも見えてくる。

何かとは、即ち、生きる事…

母親は死因は、仕事中の心不全だと聞かされていたが…

絶対にコイツだ!
コイツが自分から母親を奪ったのだ!

澪は激しく憤りをおぼえたが、同時にこの男に対する恐怖心で身体を震わせている自分にも気がついていた。
しかし、眼を離したくても、まるで吸い付けられるかのように眼を離せない。
しかも、金縛りにかかったように身体が動かない…
鼻腔の奥で金属のような臭いもする…
おそらく霊圧というやつだ…
写真を通して感じる、この男の圧倒的な霊圧に、澪は完全に気圧されている事を、澪は理解した。

駄目だ…

この男を見ているだけで…心が爆発してしまいそうだ!

そう思った直後、

ポスポス

間の抜けた音が聞こえて、澪の視線はその男からバッと引き剥がされたように襖に向かった。

「澪さん…夕食…一緒に食べてくれないかな?」

襖越しに、はるかの控えめで寂しそうな声が響いた。

はるかが襖をノックした音が、澪を日常へと引き戻す形になったのだ。
澪は、バッとアルバムを閉じると、他の二冊と一緒に箪笥にしまい込み、乱れた鼓動をてで抑えつつ、『助かった』と思った。

「ダ、ダメかな?」

また、はるかの声が響く。
澪は、不本意ながらも借りができたと思った。

「分かった。すぐに降りるから、ちょっと待ってて…」

澪がそう答えると、

「ありがとう!待ってるわね!」

はるかは年甲斐もなく、少女のように弾むような声で答えると、鼻歌まじりに階段を降りていった…

思えば、部屋に入ったときに感じた冷気…
あれを感じた時に、何かに魅入られていたのかも知れない。
今、この部屋には一人でいない方がいい。
正直、今は食欲が湧かないし、はるかと二人きりの食事も気が進まない…
しかし、澪は今、一人でいる事に耐えられないと思ったのも、はるかの誘いを受け入れた理由の一つだった。
澪は、少し気怠さを感じながら、ゆっくりと立ち上がる…

リィン

部屋に、鈴のような音が響いたような気がしたと思うと、自然と学習机に眼がいった。
これも母親が使っていたものだ。

その椅子に、誰かが座っている…

肩まで伸びた美しく豊かな黒髪…
肩幅の狭いホッソリとした身体を見た覚えのある制服に包んだ女性が、澪に背中を向けた状態で座っている…

「お、お母さん…?」

アルバムで見た、高校時代の母親の後ろ姿に、澪は絞り出すように声をかけた。

ドーナツ屋で見た時のように、動きのない、無機質な感じ…
まるでアルバムの写真がそこに映し出されているかのようだ…

これは、見間違いではあり得ない…
気の迷いでもない…
大好きだった母親が高校時代の姿で、今、自分の目の前にいる!

「お母さん!」

澪は、母親に駆け寄り、肩に手をかけようとした、しかし、その手は空を掴んだ。

一瞬で、母親は姿を消した。

澪は、下唇を噛み締めると、ゆっくりと、今、母親が座っていた椅子に腰をかけた。

母親が使っていた学習机…澪は、机に手をつけ、机を撫でる…

『お母さん…何か伝えたい事があるんだね…』

澪は、心の中で母親にそう呼びかけながら、机に突っ伏した…
こうした事はなかったが、何か、母親の温もりを伝わるような気がする…

「お母さん…お母さんが死んだのは…あの男が関係してるの?」

澪は机に顔をつけながら、机に囁くように、そう、呟いた。

『澪…』

母親の声が聞こえたような気がして、澪は眼を見開く。
それとほぼ同時に、机の中でカタッという音が聞こえた。
澪はハッとして、音がなったと思われる引き出しをスッと開いて見た。

引き出しの中に、見慣れない、古ぼけたノートがある…

澪はそれを取り出すと、机の上にそれを置いた。

『Diary』

水色のノートの表紙には、ピンクの蛍光ペンを使って、筆記体でそう書かれている…
毎日は開かないが、コレは自分の物ではないし、今までこんな物は無かった…

どう考えても、母親の物だ…!

澪は、嬉しいような、怖いような、複雑な心持ちでノートをゆっくりと開いてみた…

1992年1月1日
元旦!
今日から日記をつける事にした。
日付が変わって、土雲家の一年は神様への挨拶から始まる。
毎年聞いてきたけど、お婆ちゃんの祝詞は本当に上手だ。
私もいつかあんな風になれるのかな?
それにしても、我が弟ながら晴明は大した奴だ!
まだ4つなのに、夜中にちゃんと起きて正座して長い祝詞を聞いてるのだ…
まあ、その後電池が切れたみたいにすぐに寝てしまったけど…
何はともあれ、今年は高校卒業…
その後は、本格的にお母さんから宮司としての訓練を受ける事になる…
できるのかな?
いや、頑張らんとイカン!
今年も一年頑張るぞ!

少し丸みのある母親の字は、自分の字に似ている…
しかし、この内容だと…母親は土雲家の当主、つまり宮司を継ぐ事になっていたようだ…
それが何故、シングルマザーとして釜倉で保険の外交員をしていたんだろう…?

澪は、母親の日記に引き込まれていた…

続く






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