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2016年10月21日
扉シリーズ 第五章 『狂都』第三話 「虹の彼方へ…」
暗黒の空に浮かぶ、巨大な虹…
絵に描いたような鮮やかなその色彩は美しくもあるが、四人にとっては不安を掻き立てられる不気味感の方が勝る。
「んっ!?」
木林が唸った。
「どうしたキバちゃん?」
助手席の伊田が、その唸りに反応した。
「計器類、メチャクチャですわ!」
前を向いたまま叫ぶ木林。
伊田はそれを受けて、隣から計器類を覗きこんだ。
デジタルのスピードメーターやガソリンメーターなどがゼロになったり最大になったりと、一時も止まる事なく、変動し続けている。
「木林君、アクセルとハンドルから手を離してみて?」
後部座席から翔子がそう言う。
「いや翔子さん、それ危険極まりないでしょっ!?」
木林は叫ぶように翔子に答えたが、翔子はあくまで落ち着いた太い声のまま、
「大丈夫…離してみて?」
と、木林に言った。
木林は、
「は、はい…」
と返事をした後、数秒準々した後、ゆっくりとアクセルから足を放し、ハンドルから手を離した。
しかし、体感で100キロくらいで走行していた車は自動運転機能が搭載されているかのように、しっかりと走り続けている。
「何か…走ってますね…いや、アレかな?スピードメーター、ずっと100キロやったから、他のとこ指したくなったんかな?はははっ!落ち着きない奴ですよね〜!」
木林は上目遣いでルームミラーに映る翔子の顔を見ながら、震え気味の声でそうおどける。
「落ち着きないだけならいいけど、かなりせっかちでもあるみたいだよ?」
伊田さんが前を見据えたままそう言う。
本当にせっかちなようだ…
徐々にスピードが上がっているように感じる…
それと同時に虹が大きくなる…
いや、虹が近づいているのだ…
まだかなり距離はあるが、虹は高速道路を跨ぐように架かっているようだ…
「どう思う、翔子?」
伊田さんが振り返り、翔子さんに尋ねた。
「何がですか?」
やはり素っ気ない口調で翔子が聞き返すと、
「あの虹だよ…」
伊田の声には少し怒気が含まれている。
今は協力しろよ、と言う意味の怒気であろう。
翔子は数秒沈黙した後、口を開いた。
「結論から言えば、危険ですね…すでに何者かの力によって異界に引きずり込まれているのは明らかですが、まだ入り口を過ぎたあたり…あの虹をくぐれば、その先は完全に敵のテリトリー内…こんな所でしょうか?」
淀みなく見解を述べる翔子を見る伊田の目つきは、サングラスをかけていても真剣そのものである鋭いものである事が伝わる。
「敵か…そいつは魔星か?八龍の奴等か?それとも絵画絡みか…?」
伊田は誰にでもなく、独り言のように呟いたが、その独り言に翔子が答える。
「そのどれでもあり、どれでもない…これほど大掛かりな異界を作り上げる力…何らかの神格、若しくはそれに相当する力の持ち主…それが敵ですね…」
翔子は窓の外に目をやりながら話を続ける。
「あの虹をくぐる事は避けたいですが、敵の正体もわからず、この車を止める術もない…打つ手はありませんね…でも、このメンバーなら何とかなる…そう思ってるんですよね、源さん?」
武市の目には、隣の翔子の口角が上がったように見えた。
「武市!お前の力で何とかならんのか!?」
突然、木林が叫んだ。
「神か神と同等の力が相手なら、オレ等の出番ちゃうんかよ!?」
伊田は木林の言葉に
「えっ!?」
と大きく反応し、武市の隣では翔子が眉をひそめた。
「おいおいキバちゃん、それ、どういう意味だよ?」
伊田がサングラスを外しながらそうたずねる。
「いや、僕も武市も何か不思議な力が覚醒しつつあるみたいで…」
木林の答えに、伊田は腕組みして何かを考え始める。
「いや、でも、まだ全然コントロールはできんのですけどね…」
木林は声に汗をかいているように聞こえた。
伊田はしばらく腕組みしたまま黙っていたが、腕を降ろすとシートに深く身体を預けて、
「冨ちゃんさ…目に異常が出たりしなかったかい?」
武市の心拍数が上がった。
目の異常…それはつまり『明王眼』の事を指しているのか?
しかしそれは秘密にしておこうと翔子さんに口止めされている…
明王眼…瞳が金色に変色し、瞳の周りに赤い輪がある異相…
昨晩まではその異相が現れたままだったが、今朝起床すると、元の少し茶色い、いつもの瞳に戻っていた…
お陰でサングラスをかけなくてすんだが、瞳がもとに戻ったと同時に、超能力が漏れ出す事もなく、治っているようだ…
しかし、何と答えればよいのか…
武市はそんな事を思いながら、よい誤魔化し方を模索していたが、
「そうか…」
伊田はただ一言そう言って、また黙ってしまった…
「うわっ!もうすぐ虹の下くぐってまいますよ!」
また木林が叫んだ。
虹の真下から見えるその向こうはには、更なる暗黒が広がっているように見える。
「あ、あの!何にもせんでええんすか!?」
木林が虹の向こうを指差しながら、また叫ぶ。
「無駄だよキバちゃん…このままなるようにしかならない…こいつはね、この異界の主をぶっ飛ばさなきゃ越えられない壁みたいなもんさ…それに、見てみたいもんだね…君等が覚醒しつつある、不思議な力ってヤツを…」
伊田がそう言った直後、車は虹の真下に入った…
四人は、車内であるにもかかわらず、そこに突風が吹き抜けたような感覚を覚えた…
「狭間を抜けた…ここからは敵のテリトリー…」
翔子の呟きを聞きながら、今通り過ぎている巨大な虹を、武市は見上げていた。
武市の茶色い瞳に、異様な光景が映った…
虹の中を泳ぐように移動している数え切れぬ無数の人間…
しかし、虹の中を泳ぐ者が生きた人間であるわけがない…
「霊道…?」
武市は見て感じた事を、無意識に口にした。
「ええ、おそらくそうね…」
翔子がボソリとそれに答えた。
ついに虹をくぐり抜けると、車外は真の暗黒に包まれている…
一歩車外に出れば、その暗黒に飲み込まれてしまいそうな、不気味な暗黒の世界の只中に、今四人は引きずり込まれたのだ…
「黒っ…」
木林の声の温度が低い…
いや、木林の声だけではない、車が前に進むにつれて気温がみるみる下がっていくように感じる…
また、温度が下がるのと比例するように、車のスピードも落ちていくように感じるが、車外が真の暗黒である為、景色が代わり映えせず、それを判断する事はできない…
「ん?」
木林と伊田がほぼ同時に声をあげた。
「な、何か立ってる…?」
木林の声に反応して、武市と翔子も前方に目をやった。
車の進行方向に、人影が見える。
しかし、輪郭が闇に溶け込み、『影』としか表現できないくらいの儚い存在が立ちはだかっている…
武市は視覚に精神を集中した。
瞳がチリチリと痛い…
しかし、人影の輪郭がハッキリしてきた…
武市には、その人影は帽子を被り、黒い燕尾服を着た老人であるように見えた…
続く
絵に描いたような鮮やかなその色彩は美しくもあるが、四人にとっては不安を掻き立てられる不気味感の方が勝る。
「んっ!?」
木林が唸った。
「どうしたキバちゃん?」
助手席の伊田が、その唸りに反応した。
「計器類、メチャクチャですわ!」
前を向いたまま叫ぶ木林。
伊田はそれを受けて、隣から計器類を覗きこんだ。
デジタルのスピードメーターやガソリンメーターなどがゼロになったり最大になったりと、一時も止まる事なく、変動し続けている。
「木林君、アクセルとハンドルから手を離してみて?」
後部座席から翔子がそう言う。
「いや翔子さん、それ危険極まりないでしょっ!?」
木林は叫ぶように翔子に答えたが、翔子はあくまで落ち着いた太い声のまま、
「大丈夫…離してみて?」
と、木林に言った。
木林は、
「は、はい…」
と返事をした後、数秒準々した後、ゆっくりとアクセルから足を放し、ハンドルから手を離した。
しかし、体感で100キロくらいで走行していた車は自動運転機能が搭載されているかのように、しっかりと走り続けている。
「何か…走ってますね…いや、アレかな?スピードメーター、ずっと100キロやったから、他のとこ指したくなったんかな?はははっ!落ち着きない奴ですよね〜!」
木林は上目遣いでルームミラーに映る翔子の顔を見ながら、震え気味の声でそうおどける。
「落ち着きないだけならいいけど、かなりせっかちでもあるみたいだよ?」
伊田さんが前を見据えたままそう言う。
本当にせっかちなようだ…
徐々にスピードが上がっているように感じる…
それと同時に虹が大きくなる…
いや、虹が近づいているのだ…
まだかなり距離はあるが、虹は高速道路を跨ぐように架かっているようだ…
「どう思う、翔子?」
伊田さんが振り返り、翔子さんに尋ねた。
「何がですか?」
やはり素っ気ない口調で翔子が聞き返すと、
「あの虹だよ…」
伊田の声には少し怒気が含まれている。
今は協力しろよ、と言う意味の怒気であろう。
翔子は数秒沈黙した後、口を開いた。
「結論から言えば、危険ですね…すでに何者かの力によって異界に引きずり込まれているのは明らかですが、まだ入り口を過ぎたあたり…あの虹をくぐれば、その先は完全に敵のテリトリー内…こんな所でしょうか?」
淀みなく見解を述べる翔子を見る伊田の目つきは、サングラスをかけていても真剣そのものである鋭いものである事が伝わる。
「敵か…そいつは魔星か?八龍の奴等か?それとも絵画絡みか…?」
伊田は誰にでもなく、独り言のように呟いたが、その独り言に翔子が答える。
「そのどれでもあり、どれでもない…これほど大掛かりな異界を作り上げる力…何らかの神格、若しくはそれに相当する力の持ち主…それが敵ですね…」
翔子は窓の外に目をやりながら話を続ける。
「あの虹をくぐる事は避けたいですが、敵の正体もわからず、この車を止める術もない…打つ手はありませんね…でも、このメンバーなら何とかなる…そう思ってるんですよね、源さん?」
武市の目には、隣の翔子の口角が上がったように見えた。
「武市!お前の力で何とかならんのか!?」
突然、木林が叫んだ。
「神か神と同等の力が相手なら、オレ等の出番ちゃうんかよ!?」
伊田は木林の言葉に
「えっ!?」
と大きく反応し、武市の隣では翔子が眉をひそめた。
「おいおいキバちゃん、それ、どういう意味だよ?」
伊田がサングラスを外しながらそうたずねる。
「いや、僕も武市も何か不思議な力が覚醒しつつあるみたいで…」
木林の答えに、伊田は腕組みして何かを考え始める。
「いや、でも、まだ全然コントロールはできんのですけどね…」
木林は声に汗をかいているように聞こえた。
伊田はしばらく腕組みしたまま黙っていたが、腕を降ろすとシートに深く身体を預けて、
「冨ちゃんさ…目に異常が出たりしなかったかい?」
武市の心拍数が上がった。
目の異常…それはつまり『明王眼』の事を指しているのか?
しかしそれは秘密にしておこうと翔子さんに口止めされている…
明王眼…瞳が金色に変色し、瞳の周りに赤い輪がある異相…
昨晩まではその異相が現れたままだったが、今朝起床すると、元の少し茶色い、いつもの瞳に戻っていた…
お陰でサングラスをかけなくてすんだが、瞳がもとに戻ったと同時に、超能力が漏れ出す事もなく、治っているようだ…
しかし、何と答えればよいのか…
武市はそんな事を思いながら、よい誤魔化し方を模索していたが、
「そうか…」
伊田はただ一言そう言って、また黙ってしまった…
「うわっ!もうすぐ虹の下くぐってまいますよ!」
また木林が叫んだ。
虹の真下から見えるその向こうはには、更なる暗黒が広がっているように見える。
「あ、あの!何にもせんでええんすか!?」
木林が虹の向こうを指差しながら、また叫ぶ。
「無駄だよキバちゃん…このままなるようにしかならない…こいつはね、この異界の主をぶっ飛ばさなきゃ越えられない壁みたいなもんさ…それに、見てみたいもんだね…君等が覚醒しつつある、不思議な力ってヤツを…」
伊田がそう言った直後、車は虹の真下に入った…
四人は、車内であるにもかかわらず、そこに突風が吹き抜けたような感覚を覚えた…
「狭間を抜けた…ここからは敵のテリトリー…」
翔子の呟きを聞きながら、今通り過ぎている巨大な虹を、武市は見上げていた。
武市の茶色い瞳に、異様な光景が映った…
虹の中を泳ぐように移動している数え切れぬ無数の人間…
しかし、虹の中を泳ぐ者が生きた人間であるわけがない…
「霊道…?」
武市は見て感じた事を、無意識に口にした。
「ええ、おそらくそうね…」
翔子がボソリとそれに答えた。
ついに虹をくぐり抜けると、車外は真の暗黒に包まれている…
一歩車外に出れば、その暗黒に飲み込まれてしまいそうな、不気味な暗黒の世界の只中に、今四人は引きずり込まれたのだ…
「黒っ…」
木林の声の温度が低い…
いや、木林の声だけではない、車が前に進むにつれて気温がみるみる下がっていくように感じる…
また、温度が下がるのと比例するように、車のスピードも落ちていくように感じるが、車外が真の暗黒である為、景色が代わり映えせず、それを判断する事はできない…
「ん?」
木林と伊田がほぼ同時に声をあげた。
「な、何か立ってる…?」
木林の声に反応して、武市と翔子も前方に目をやった。
車の進行方向に、人影が見える。
しかし、輪郭が闇に溶け込み、『影』としか表現できないくらいの儚い存在が立ちはだかっている…
武市は視覚に精神を集中した。
瞳がチリチリと痛い…
しかし、人影の輪郭がハッキリしてきた…
武市には、その人影は帽子を被り、黒い燕尾服を着た老人であるように見えた…
続く