むかしむかし、山あいの小さな村に、心優しくも貧しい陶芸職人、文牧という男が住んでいました。彼の作る茶碗や湯のみは、その美しさと精巧さから村中に評判が広がっていましたが、文牧は決して金持ちにはなれませんでした。なぜなら、彼の心の奥には、ただ物を作るだけでなく、そこに込める心と魂こそが重要だと信じていたからです。
ある日、文牧がいつものように窯で焼き物をしていると、見慣れぬ老人がふらりと現れました。長い白髪としわくちゃの顔からは、ただならぬ雰囲気が漂っていました。
「若者よ、わしはこの村に伝わる古い話を知っておる。昔、この地には奇妙な茶窯があったそうな。ただの茶窯ではなく、人の心を映し出す力を持っていたという。それを持つ者は、幸せにもなれば、不幸せにもなる。そなたが興味を持つならば、その茶窯を見つけるがよい。」
老人はそう言い残し、風のように去っていきました。文牧はその話に興味をそそられ、老人の言葉を信じて、山奥の古い寺院にその茶窯を探しに出かけることにしました。
数日間の旅の末、文牧は古びた寺院にたどり着きました。寺院は廃墟となり、苔むした石畳が年月の流れを感じさせました。その奥に、まさに老人が言っていたような不思議な茶窯がありました。黒光りするその窯は、どことなく生きているように見えました。
文牧がその茶窯に触れると、不意に窯が振動し始めました。すると、窯の中から一対の茶碗が現れました。その茶碗は、文牧が今まで見たこともないほど美しいもので、彼の心に強く響きました。
しかし、その茶碗に水を注ぐと、文牧は驚愕しました。水面に映る自分の姿が、まるで別人のようにゆがんで見えたのです。時に醜く、時に悲しげに、まるで自分の内面がそのまま映し出されているかのようでした。
文牧はしばらくその茶碗に見入っていましたが、やがてその映し出された自分の姿に恐怖を覚え、茶碗を割ってしまいました。だが、割れた茶碗の中からは、金色の光が放たれ、部屋中に広がりました。
その光の中から、再びあの老人が現れました。
「そなたはその茶窯の本当の意味を理解したか?これはただの器ではなく、そなたの心を映し出す鏡なのじゃ。物を作る者は、自らの心を常に見つめ、純粋でなければならぬ。さもなければ、作る物もまたゆがんでしまう。」
老人の言葉に文牧は深くうなずきました。それからというもの、文牧はただ美しいだけでなく、心の中に宿る純粋な思いを込めた焼き物を作り続けました。そしてその後、彼の作品は村を越えて広まり、多くの人々に愛されるようになりました。
ギャグ編
むかしむかし、山あいの小さな村に、文牧という貧乏な陶芸職人が住んでいました。彼の焼く茶碗は村中で評判でしたが、何せ売れない。むしろ、文牧の商売下手は村一番と言われるほどで、貧乏生活を送っていました。
ある日、文牧がいつものように、窯の前で「あー、また茶碗が割れた!今日も晩ご飯は水だけか…」と嘆いていると、突然、どこからともなく「おい、若者よ」と声が聞こえてきました。びっくりして振り向くと、そこには妙に長い白髪としわくちゃな顔の老人が立っていました。文牧は「おお!また変な客がきた!」とつぶやきましたが、そのまま話を聞くことにしました。
「お主、心が歪んでおるな。いや、顔が歪んでおるぞ!」
文牧は鏡を取り出して、「あ、確かに寝不足で目が腫れてるけど、そんなこと言われても困るなぁ…」と呟きました。老人は無視して続けます。
「この村には、心を映し出す茶窯がある。使い方を間違えると不幸になるが、上手く使えばお主の貧乏生活も変わるやもしれんぞ。」
文牧は「どうせもうこれ以上貧乏になることもないし、ちょっと探してみるか」と軽い気持ちで、その茶窯を探しに行くことにしました。
何日もかけて山を登り、ようやく古い寺院にたどり着いた文牧。中に入ると、そこには、まるで生きているかのように不気味に光る茶窯がありました。
「よし、さっそく試してみるか!」と文牧は茶窯に近づき、手をかざしました。すると、茶窯がぐらぐらと揺れ始め、中から一対の茶碗が飛び出してきました。驚いた文牧は思わず「おぉぉ、これが噂の魔法の茶碗か!」と叫びました。
しかし、文牧が茶碗に水を注ぐと、茶碗の中に映った自分の顔が、みるみるうちにおかしなことになりました。目が巨大化し、鼻がピエロのように赤く、口が耳まで裂けたように見えます。「なんじゃこりゃ!? これじゃまるで化け物じゃないか!」と叫びました。
文牧は怖くなり、茶碗を割ろうとしたが、なぜか茶碗は跳ね返って、彼の頭にぶつかりました。「あ痛っ!なんて頑丈な茶碗なんだ!」と文牧は文句を言いつつ、何度も試しましたが、茶碗は割れるどころか、さらに彼をからかうように、笑い声を発し始めました。「ほっほっほ、そなたの心が歪んでおるから、こんな姿になるのじゃ」と茶碗は言いました。
文牧は「なんだと!わしの心が歪んでるって? そんなことあるもんか!」と言い返しましたが、茶碗は一向に止まらず、ますますおかしな顔を映し続けました。
結局、文牧は茶碗に負け、仕方なく自分の心を見つめ直すことにしました。毎日窯の前で「今日はどんな顔が出てくるかな?」と怖がりながらも、次第に茶碗に映る自分の顔が、少しずつ普通の姿に戻っていきました。
そしてある日、茶碗に映った自分の顔が、ついに元通りになりました。文牧は「やった!これでわしも普通の人間に戻れたぞ!」と喜びました。すると、茶碗はニヤリと笑い、「そなたの心が清らかになった証じゃ。しかし、今度は商売の腕前を磨かねばならんぞ」と言いました。
それからというもの、文牧は茶碗の助言を受けて、商売も少しずつ上手くなり、村中で「顔も心も陶芸も一番の文牧」として知られるようになりました。彼の作る茶碗は、どれも美しく、そしてほんの少し、茶碗自身がニヤリと笑っているように見えるのでした。