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2024年01月05日

阿城の『棋王』で執筆脳を考える8

4 まとめ    
 
 阿城の執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「棋王」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で止めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。  
 この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人6対4、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。

参考文献

花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默−ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018  
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019  
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
花村嘉英 三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学へのアプローチを考える 中国日語教学研究会上海分会論文集 2021
阿城 棋王 民族文化派小説 時代文艺出版社 1989 
阿城 チャンピオン(立間祥介訳)徳間書店 1989
Wikipedia 阿城 

花村嘉英(2023)「阿城の『棋王』で執筆脳を考える」より

阿城の『棋王』で執筆脳を考える7

表3 情報の認知  
 
同上    情報の認知1  情報の認知2  情報の認知3 
A 表2と同じ。  3     2      2
B 表2と同じ。  2     2      2
C 表2と同じ。  3     2      2
D 表2と同じ。  3     2      1
E 表2と同じ。  3     2      1
 
A:情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。    
B:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。  
C:情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。  
D:情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。  
E:情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。        
 
結果      
 貧乏育ちの将棋馬鹿が下放の時代に将棋を通じて本当の人生や幸せを感じる物語。主役の王一生は、仕事をして金が稼げるようにと高校を卒業してから将棋をやるように母親からいわれ、のっぽに勝つも地区のトーナメントに参加せず、最後になって九面指しでめいっぱい力を発揮するため、購読脳の「平凡と真の人生」から執筆脳の「知恵の結集と達成感」という組を引き出すことができる。    

花村嘉英(2023)「阿城の『棋王』で執筆脳を考える」より

阿城の『棋王』で執筆脳を考える6

【連想分析2】 
 
情報の認知1(感覚情報)   
 感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、Bその他の条件である。 
  
情報の認知2(記憶と学習)   
 外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。 
 
情報の認知3(計画、問題解決、推論)   
 受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、@計画から問題解決へ、A問題未解決から推論へである。

花村嘉英(2023)「阿城の『棋王』で執筆脳を考える」より

阿城の『棋王』で執筆脳を考える5

分析例 
 
1 チャンピオンとの対決も含め九面指しの後でへとへとになっている。     
2 この小論では、「棋王」の購読脳を「平凡と真の人生」と考えているため、意味3の思考の流れ、知恵の結集に注目する。    
3 意味1@視覚A聴覚B味覚C嗅覚D触覚 、意味2 @喜A怒B哀C楽、意味3知恵の結集@ありAなし、意味4振舞い @直示A隠喩B記事なし、人工知能 @知恵の結集A達成感。   
  
テキスト共生の公式       
  
ステップ1:意味1、2、3、4を合わせて解析の組「平凡と真の人生」を作る。 
ステップ2:チャンピオンとの対決も含め九面指しが行われ、王一生がへとへとになっている様子。チャンピオンの老人による調整で引き分けとなり、泣けるほどに幸せを感じるため、執筆脳の「知恵の結集と達成感」と組になるため、解析の組と相互に作用する。 
 
A:@視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@知恵の結集とA達成感という組と合わせる。   
B:@視覚+B哀+Aなし+@直示という解析の組を、@知恵の結集とA達成感という組と合わせる。  
C:@視覚+C楽+Aなし+@直示という解析の組を、@知恵の結集とA達成感という組と合わせる。  
D:@視覚+C楽+@あり+@直示という解析の組を、@知恵の結集とA達成感という組と合わせる。  
E:@視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@知恵の結集とA達成感という組と合わせる。    
 
結果  表2については、テキスト共生の公式が適用される。 

花村嘉英(2023)「阿城の『棋王』で執筆脳を考える」より

阿城の『棋王』で執筆脳を考える4

【連想分析1】  
表2 受容と共生のイメージ合わせ   
チャンピオンとの対決後でへとへとの場面

A "妈,儿今天…妈"。大家都有些酸,扫了地下,打来了,劝了。王一生哭过,滞气调理过来,有了精神,就一起吃饭。意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1
B 画家竟喝得大醉,也不管大家,一个人倒在木床上睡去。电工领了我们,脚卵也跟着,一齐到礼堂台上去睡。意味1 1、意味2 3、意味3 2、意味4 1、人工知能 2
C 夜KK的,伸手不见五指。王一生已近睡死。我却还似乎耳边人声嚷动,眼前火把通明,山民们铁了脸,肩着柴禾在林中,咿咿呀呀地唱,我笑起来,想:意味1 1、意味2 4、意味3 2、意味4 1、人工知能 2
D 不做俗人,哪儿会知道这般乐趣?加破人亡,平了头每日荷锄,识到了,即是幸,即是福。意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味4 1、人工知能 1
E 衣食是本,自有人类,就是每日在忙这个。可囿在其中,终于还不太象人,倦意渐渐上来,就拥了幕布,沉沉睡去。 意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

花村嘉英(2023)「阿城の『棋王』で執筆脳を考える」より

阿城の『棋王』で執筆脳を考える3

3 データベースの作成・分析

 データベースの作成方法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
 こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。 

【データベースの作成】  
 
表1 「棋王」のデータベースのカラム  

項目名  内容   説明 
文法1  態     能動、受動、使役。  
文法2  時制、相   現在、過去、未来、進行形、完了形。 
文法3  様相   可能、推量、義務、必然。 
意味1   五感   視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味2   喜怒哀楽   情動との接点。瞬時の思い。 
意味3   思考の流れ  実現ありなし 
意味4  振舞い   ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。 
医学情報  病跡学との接点 受容と共生の共有点。構文や意味の解析から得た組「情動と畏敬」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。
情報の認知1 感覚情報の捉え方  感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。
情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。その際、未知の情報については、学習につながるためカテゴリー化する。記憶の型として、短期、作業記憶、長期を考える。 
情報の認知3 計画、問題解決、推論  受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。 
人工知能 知恵の結集と達成感 エキスパートシステム  知恵の結集とは、合体して理を悟り処理すること、達成感とは、目的を達し成功すること。

花村嘉英(2023)「阿城の『棋王』で執筆脳を考える」より

阿城の『棋王』で執筆脳を考える2

 阿城(1949−)の「棋王」(1984)は、彼の他の短編と同様に文化革命時代の自身の経験に基づいている。知識青年という都市の学校の卒業生を対象に行われた上山下郷運動によるいわゆる下放体験である。毛沢東による指示は、貧農や下層中農について再教育を受けることであり、1968年12月に出された。小説の舞台は、作者が下放した雲南省の西南端のベトナム、ラオスに近い辺境地帯であろうか。
 阿城は、作中差別されている人に温かい眼差しを注ぐ。これは、作者による一種の抗議である。将棋の愛する青年王一生やその師匠の紙屑拾いの老人は、決して社会的地位が上層ではない。しかし、彼らの持っている知恵も確かに捨てがたい。場合よっては有効利用できるからである。上山下郷運動は、毛沢東の死後の1977年文革終了とともに終わる。
 語り手のぼくは、作者の代弁者で二十代前半の年恰好である。文革の時期(1966−1976)に作者が過ごした年齢である。この特異な時代にこそ皆の知恵を集結させた。将棋馬鹿の王一生の母、王一生の師匠の紙屑拾いの老人、将棋王の老人など、知恵が集まれば幸せになれる。
王一生の母は、仕事あっての人生だから高校を出てから将棋をやるようにと歯ブラシの柄でこさえた将棋の駒を彼に渡し、紙屑拾いの老人は、将棋道に生きる道があると王一生に説き、将棋王の老人は、九面指しもさること棋道が神機妙算で古今の名棋士も確約たると王一生を褒め、平和たる引き分けをもたらす。特異な時代に平凡であることが本当の人生を引き寄せ幸福感が得られるという下りは、将棋好きが多い中国ならではの結末か。
 王一生は、愛されたり、褒められたり、喜びや達成感から精神的な報酬としてドーパミンの分泌が高まっている。因みに目標を立てたときと目標を達成したときの二回ドーパミンの分泌が高まる。九面指しの将棋とそれを達成した喜びからこの神権伝達物質の分泌が見られる。
 そこで「棋王」の購読脳は「平凡と真の人生」、執筆脳は「知恵の結集と達成感」にし、シナジーのメタファーは「阿城と真の人生」にする。

花村嘉英(2023)「阿城の『棋王』で執筆脳を考える」より

阿城の『棋王』で執筆脳を考える1

1 はじめに

 文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
 執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)の執筆脳に関する私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923−2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。
 筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。文学の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なおLのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。
 
花村嘉英(2023)「阿城の『棋王』で執筆脳を考える」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
プロフィール