2017年03月31日
福岡伸一『生物と無生物のあいだ』
日本の気鋭の分子生物学者、福岡伸一氏のあまりにも有名な本、『生物と無生物のあいだ』を紹介します。
本書は、著者の分かりやすい文体により、ワトソン&クリックによるDNAの二重らせん構造の発見から、マリスによるPCR法の確立まで、歴史的研究の数々を包括的に学ぶ事ができるので、分子生物学の入門書として最適です。
しかしなんといっても本書の魅力はそのタイトルの通り、生物と無生物のあいだ、すなわち新たな「生命」の定義を打ち出したことでしょう。
福岡氏は生命を「動的平衡にある流れ」と定義します。
どういうことか、著者自身の卓越した比喩、「砂上の楼閣」を用いて説明してみましょう。
海辺の砂浜に、砂で作られた緻密な城があると想像して下さい。その城は絶えず波や海風に晒され、少しずつ削り取れていきます。しかし、城の姿は全然変わったようにみえません。砂でできた海の精霊たちが、その都度城を修復・補強しているからです。
重要な事は、数日の間に、砂粒はすっかり入れ替わる、ということです。それなのに砂の城は常に変わらずにそこにあるようにみえます。
生命は、このような「砂上の楼閣」としてイメージすることができる、と著者はいいます。
実際私たち人間も、一定の期間が立てば髪や爪だけでなく、身体の全物質が、完全に入れ替わると考えられています。マウスを用いた標識実験によりこのことを初めて示唆したのは、ルドルフ・シェーンハイマーであると、本文中で紹介されています。
実体としてではなく、絶え間ない流れの中で確かに存在する動的な「何か」。その「何か」とはズバリ「平衡」のことです。したがって、動的な平衡の流れとして生命を捉えるのが、福岡氏の新しい生命観なのです。
徹底的にミクロの視座から、物質を追い続けることで得られた新しい生命観。みなさんはどのように考えますか?
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