2018年05月16日
いばら姫 / 餐虎のソーサラー
遊牧の民にとって家族同然であり、失い難き財産でもある家畜たちが、血に塗れて絶命した姿で発見された事実は、家族を狭いパオの中で途方に暮れさせるには充分な悲劇であった。
頭蓋骨を砕かれ脳髄を失った山羊と目玉だけ抉りとられた羊と蹄だけ剥がされた馬を呆然と眺めていた私の心象に、唐突なる畏敬と恐怖が具現化するのを私は実感した。
家畜に残る傷は等しく巨大かつ獰猛な獣が選り好みして喰い散らかしたようであると推測しつつ、いつの間にか聞こえなくなった家族の嘆き声に不審さを覚えた私は背後を顧みたのだ。
虎に似た異形な生き物の牙が私の皮膚を貫くのを認め、動物は死に直面すると恐怖から逃れるため恍惚が訪れるという話を思い出した私は、それを混沌の中で実際に体験していた。
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