鴨下氏はTBSのテレビプロデューサーとして長く活躍された方です。
演出した作品も多く、「岸辺のアルバム」や「ふぞろいの林檎たち」などが有名です。
後年はTBSの役員となり、また日本のことばに関する著作も残されています。
管理人にとっての鴨下氏は、演出家としての活躍が思い出深い方です。
とくに、1992年(平成4年)から22年間にわたって、女優の白石加代子さんと組んで上演された「百物語」シリーズは、演劇界の金字塔といっても過言ではないかと思われます。
このシリーズは、明治から現代の日本の作家の小説を中心に“恐怖”というキーワードで作品を選び、白石加代子が基本的にひとりで「朗読」するというスタイルの舞台劇です。幻想文学の傑作作品から現代作家の人気作品まで、毎回2話〜4話ぐらいを上演します。
この舞台の構成・演出を手掛けたのが鴨下信一氏です。
星の数ほどある作品の中から、「何を選ぶか」「どう演じるか」という難題を、99話(百物語では、100話やってはいけないのはご存知ですね)やり抜くという偉業を達成されました。足掛け22年。すごいですね。
このシリーズは2014年に終了していますが、現在でもアンコール上演が行われている人気舞台です。
演者である白石加代子さんの迫力もさることながら、作品のチョイスが素晴らしいし、演出も最高でした。
上演作品のリストを抜粋で以下に並べてみましたが、如何でしょうか。
この中には載っていませんが、大沢在昌の「新宿鮫・毒猿」も演っています。あの長編を。どうやって。管理人はばっちり観ていますよ。ふふふ。
いちばん印象に残っているのは、初めてこのシリーズを観た【第三夜】の小松左京「くだんのはは」ですね。
ものすっごく怖かった。掛け値なしで。小松氏の短編を読んでいるだけのはずなのに、舞台からものすごい圧がかかります。場内の「緊張の糸」が見えるようでした。
「朗読劇」を甘く考えていたことを反省しました。録画ではなく、ライブで観る「演劇」の底力を知りました。あれを観ることができたのは幸運でした。
人の命は限りあるものと知りながらも、鴨下氏のような博覧にして強記の方を喪うのは、いつも寂しく感じます。
ほんとうにありがとうございました。
【第一夜】:1992年(平成4年)
夢枕獏「堤灯が割れた話」「二ねん三くみの夜のブランコの話」
筒井康隆「如菩薩団」
半村良「箪笥」
【第二夜】
夏目漱石「夢十夜のその一」
南絛範夫「燈台鬼」(直木賞受賞作)
城昌幸「ママゴト」
永井龍男「青梅雨」
【第三夜】
小松左京「くだんのはは」
内田百聞「件」
山川方夫「夏の葬列」
星新一「おーいでてこーい」
【第四夜】
小川未明「赤い蝋燭と人魚」
泉鏡花「高野聖」
【第五夜】
夢野久作「瓶詰地獄」
渡辺温「兵隊の死」
阿部定「阿部定事件予審調書」
【第六夜】
坂口安吾「桜の森の満開の下」
渡辺温「兵隊の死」
川端康成品「片腕」
【第七夜】
橘外男「蒲団」
岡本綺堂「影を踏まれた女」「父の怪談」
【第八夜】
江戸川乱歩「人間椅子」「押絵と旅する男」
【第九夜】
山田風太郎「首」
向田邦子「かわうそ」
筒井康隆「五郎八航空」
【第三十三夜】第九十九話ファイナル 2014年(平成26年)
第九十八話 三島由紀夫「橋づくし」
第九十九話 泉鏡花「天守物語」
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