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2021年01月14日

人文科学から始める技術文の翻訳12

4 特許文

4.1 翻訳技法
 
 2005年6月、日本の政府が管理する知的財産戦略本部は、「知的財産戦略計画2005」をまとめた。ここでは特に日米欧の特許相互認証について考えてみる。この取り組みの目標は世界特許システムの構築である。毎年、国内及び海外に同時に出願する企業が増えている。その折、手続きや費用の負担や審査の複雑さや遅延が問題になる。そのため世界共通の基盤となる特許システムを構築し、手続きの合理化や審査の相違及び重複を少なくすることが、特許制度を利用する側と運営する側との共通の利点になる。
 日米欧の特許システムとは、日本、米国及び欧州が相互に承認する仕組みである。日米欧の企業による技術開発や実務レベルはほぼ同レベルにあるため、他国における特許審査を活用することを目的とし、さらに特許権の付与については従来通り各国の特許庁がするため、属地的ではなくなる。(3)
 米国と日本の特許明細書は、記載項目についてほぼ対応している。しかし、項目が記載される順番が異なる。翻訳の際には、記載順序についても変更する必要がある。ここでは特にクレームの書き方について説明する。クレームは独占的な権利を得るべき発明技術の範囲を文字通り表現しており、先行技術に触れることなくできるだけ範囲を広げて記載し、不明確でなく複数の解釈ができないように一語一語厳選するため、この部分の翻訳は難しいとされる。

【英文】
(1)An information apparatus according to Claim 1, wherein the power of said recording light source is controlled by a control unit in accordance with the type of said recording medium.(知財翻訳研究所編1999)

@用語
ここでは、in accordance with(〜に応じて)、according to Claim 1, wherein(〜を特徴とする請求項1に記載の)を挙げておく。

A構文
 この文章は、wherein以下が従属文となって、クレームの内容を説明している。

B考察 表8
2段階の処理法 特許文の場合、according to Claim 1, whereinが「〜を特徴とする請求項1に記載の〜」という定訳になる。
態の用法 英文の受動態はそのまま受動態に和訳する。
否定構文 なし
時制 現在形

【和訳】
(2)記録媒体の種類に応じて記録光源の出力が制御装置によって制御されることを特徴とする請求項1に記載の情報記録装置。

【英文】
(3)An information recording apparatus, comprising: a receiver unit for receiving information to be recorded in the form of a binary electric signal, wherein a light beam from a recording light source is modulated in accordance with the received signal so as to form, through an optical system, a beam spot on a recording medium in which recording is to be made.(知財翻訳研究所編1999)

@用語
 ここでは、comprising(〜を有し)、binary electric signal (2値化電気信号)、light beam(記録光)、light source(光源)、modulate(変調する)、so as to form(〜して〜を形成する)、optical system(光学系)、recording medium(記録媒体)を挙げておく。

A構文
 comprising 以下で装置の形態を説明し、wherein 以下の従属文で装置の機能を説明し、so asで結果的にクレームの内容の後半を述べている。

B考察 表9
2段階の処理法 An information recording apparatus, 〜, wherein〜は、「〜することに特徴がある情報記録装置」という訳になる。
態の用法 受動態 a light beam from a recording light source is modulated in accordance with〜は、「〜に応じて光源からの記録光を変調して」と能動態で訳出し、to 不定詞のto be recorded やis to be madeは受動態で訳出する。
否定構文 なし
時制 現在形

【和訳】
(4)記録されるべき情報を2値化電気信号の形で受け取る受信部を有し、受信された信号に応じて光源からの記録光を変調して光学系を介して記録されるべき記録媒体に光スポットを形成することに特徴がある情報記録装置。

花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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