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2021年01月14日

人文科学から始める技術文の翻訳6

 また、準否定詞や意味上の否定詞をまとめた間接的な否定詞の構文もある。前者には、seldam、rarely、hardlyなどがあり、後者には、only、rather than、free fromなどがある。まず準否定詞の例を見てみよう。

(36)仕様書の書き手は、自分のことを滅多にライターだと思わない。
(37)The specification writer seldom considers himself a “writer.” (ピリオドの位置に注意すること。)(技術英語構文辞典)
(38)こうした状況はまれにしか起きない。
(39)Such condition will rarely arise.
(40)時間が殆どない。
(41)There is hardly any time.
(42)その計算はコンピュータなしには難しいだろう。
(43)The calculations would be very difficult without a computer.
(44)特種なアプリケーションソフトに必要でない限り、そのコマンドを使用しないこと。
(45)Don’t use the command unless it is necessary for a particular application software.
(46)全ての角は、特に指定されない限り面取りすることにする。
(47)All corners shall be chamfered unless otherwise specified.
「unless otherwise+過去分詞」は「特に〜されない限り」という慣用表現である。例えば、unless otherwise required「特に要求されない限り」、unless otherwise noted「特に銘記されない限り」、unless otherwise instructed「特に指示されない限り」などが挙げられる。
 
次に、意味上の否定詞を見てみよう。

(48)水はインパルスホイールの一部分にしか接触していない。
(49)Water is in contact with only a portion of an impulse wheel.(技術英語構文辞典)
ここでin contact withは状態を表し、「接触する」という行為や動作の場合には、contact withを用いる。(5)
(50)表面には酸化物のような膜がないこと。
(51)The surface is free from films such as oxides.
(52)私たちはレーザーではなく、LEDを使用している。
(53)We also use LEDs rather than lasers.

否定構文の最後は、技術文で頻繁に使用される慣用表現を見ていこう。頻度の高いものが参考になる。(5)

(54)入力信号が弱すぎてノイズの音を無視できない。
(55)The incoming signal is too weak to override the noise.(技術英語構文辞典)
本動詞の主語とto不定詞の主語が意味上一致している。
(56)鮮鋭度の実際の差は小さ過ぎて、人間の目には見えない。
(57)The actual difference in sharpness is too small for the human eye to see.
本動詞の主語とto不定詞の主語が一致していない場合には、too〜to doの間にfor〜を入れるとよい。ここでは、for the human eyeがそれである。(5)
(58)これらの回路は過渡速度を制限するだけでなく、切り替え速度も遅くする。
(59)These circuits not only limit transients but also slow switching speed.
(60)いかにプロセスが複雑であろうと、これは正しい。
(61)This is true no matter how complicated the process is.
「no matter+ how/what/which/where/whose/whether」などの関係詞を伴い、「いかに_であろうと」、「何が_であろと」「どれが_であろうと」「どこが_であろうと」「誰の_であろうと」「_であろうと_であろうと」という慣用表現の意味になる)

花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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