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2017年10月03日

『訳す』 中日翻訳の高速化−比較言語学からの考察4

3 中日翻訳の高速化−単文の場合
 
3.1 連動式述語文

 翻訳者としての実務経験からいうと、翻訳作業にはスピードが求められる。言い方はともかくとして、翻訳作業の究極の目標は、同時翻訳だと思う。無論、こうした言い方はない。しかし、限られた時間でデータをまとめる仕事であることに疑いはない。そこで目標を「中国語の語順のまま和訳する」ということにする。中国語の語順に沿って和訳すれば、訳抜けはなくなるし、同時翻訳といいたくなるのもわかるであろう。幾つかその例を見ていこう。
 二つ以上の動詞または動詞句が連用されて、意味上ある種の関係が保たれている構文のことを連動式の述語文という。(山本哲也 2002)

(4)王先生扳着手指计算今年的小麦产量。(王さんは指折りして、今年の小麦の出来高を見積もった。)(汉訳日精编教程)

 (4)の場合、左から右へ中国語の語順に従って、「・・して・・する」と和訳することができる。そして、連用される動詞の意味関係は、前の動詞が後の動詞の動作に関する方式や手段を表している。
 意味関係として前の動詞が原因を表し、後の動詞が結果を表す場合もある。

(5)老赵得肺结核住了院。(趙さんは肺結核で入院した。)(汉訳日精编教程)

 但し、「有」がある場合には、後の動詞句が前の動詞の目的語を修飾するように訳すとよい。

(6)你有钱买房子吗?(君は家を買うお金があるの。)(汉訳日精编教程)

 つまり、目的語は「が」を用いて主語にして、「・・する・・がある」と訳せばよい。

3.2兼語式述語文

 同様に、二つ以上の動詞または動詞句が連用されて、動詞1の目的語が同時に動詞2の主語にもなると、動賓連語と主述連語が結び付いた兼語式述語文という構文が作られる。(山本哲也 2002)

(7)谁让你把这本书送来的?(誰があなたにこの本を届けさせたの。)(小学館中日辞典)
(8)友谊,使这些来自不同国度的朋友们相聚在一起。(友情がこれらの異なる国から来た人々を一つにしている。)(汉訳日精编教程)

 兼語式述語文は、通常、前の動詞が使役の意味を持ち、後ろの動詞が目的や結果を表す。この種の文も、中国語の語順のまま和訳ができそうだ。
 さらに、連動式と兼語式が連用される場合もある。

(9)公司让我乘飞机去北京迎接客人。(会社は私に飛行機で客を迎えに北京に行くように言った。)(汉訳日精编教程)

 (9)の構成は、前の動詞句にあたる「飛行機に乗る」が後ろの動詞句「北京に行く」の手段になるため、まず連動式の述語文を作り、さらに前の動詞が使役の意味を持ち、後ろの動詞がその目的を表しているため、兼語式の述語文にもなる。そのため、連動式と兼語式が連用されている。

3.3 複数に訳出される例

 中国語の単文が複数の日本語に訳出される例も見てみよう。一般的に中心語を補足的に説明する補語の中で、程度の補語と呼ばれる表現は、その補語が表す内容を程度とすることも可能だし、結果として理解することもできる。 
 
(10)K板上的字小得几乎看不见。(汉訳日精编教程)
(11)黒板の字がほとんど見えないほど小さい。(程度)
(12)黒板の字が小さくてほとんど見えない。(結果)

(11)(程度で訳す場合)は、前提として何か目安があって、それよりも大か小かが問題となる。一方、(12)(結果で訳す場合)は、中国語の語順に沿って訳すことができる。その場合、結果の対語に当たる何かの原因を受けていると考えればよい。程度と結果の訳し方の違いは、単位を段落まで広げなくても、その文の前後関係ぐらいで対応できそうだ。  
 文の前後関係から見ると、状況語の訳し方も例になるであろう。中国語では、主語と動詞の間に時間や場所を表す状況語が来る。しかし、日本語では、状況語が文頭でも主語と目的語の間でも、あるいは目的語と動詞の間に置かれても、文法上特に問題はない。もちろん、日本語でも状況語は述語を修飾するわけだから、これらの二つの成分は近いにこしたことはない。 
 
(13)别着急,我立刻打电话告诉她。(汉訳日精编教程)
(14)慌てるなよ。すぐに電話して彼女に話すから。
(15)慌てるなよ。電話してすぐに彼女に話すから。
(16)慌てるなよ。電話して彼女にすぐに話すから。

(14)、(15)、(16)は、いずれも和訳として成立する。しかし、どの訳が一番良いかは、文脈に依存して初めて決まる。

花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より
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花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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