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2017年10月02日

『読む・書く』 中国人の学生に日本語の読み書きを教授する5

4 要約の実践

朝日新聞の天声人語(2012年4月29日)を使用して、上述の方法を試してみよう。

【問題】
 エーゲ海のミロス島で、農夫がその大理石像を見つけたのは1820年の春。両腕は欠けるも、体重は右に、視線は左に向けて、額から伸びた鼻筋が美しい。フランスの外交官らの機略で、「ミロのビーナス」はルーブル美術館の至宝に落ち着いた。以来、原則として門外不出である。例外は1964年、日本への旅だった。手前みそながら、仏政府にかけ合い、東京と京都で展示を企てたのは朝日新聞だ。一点のみの美術展を、172万人が訪れた。わが国にも誇れる女神像がある。こちらは純然たる祖先の作である。山形県で20年前に出土した「縄文のビーナス」が、土偶では四つ目の国宝に決まり、きょうから上野の東京国立博物館で公開される。4500年前、縄文中期の逸品だが、現代彫刻の趣がある。国宝に推した文化審議会は「土偶造形の一つの到達点」と評した。縄文人(びと)からの贈り物と喜ぶのは、所蔵する山形県の吉村美栄子知事だ。「豊穣(ほうじょう)の祈りや再生の意味がある土偶が国宝となり、東北の再生にもつながる」と。ミロのビーナスの倍の歳月を知り、渡航歴はすでに本家をしのぐ。フランス、中国、ドイツ、英国をめぐり、縄文文化の豊かさを伝えてきた。文化使節としての実績は国の宝にふさわしい。素焼きの立像に向き合えば、大胆な捨象(しゃしょう)の美を思うはずだ。次いで土の香り、祝祭のさざめきだろうか。じんわりと、五感に太古がこみ上げる。時をせき止めて、縄文の匠(たくみ)を守り通した国土に、改めて感謝したい。

【要約の手順】
1 この文章を4段落(起承転結)に分ける。
2 段落毎にキーワードを6、7個探す。
3 段落毎に中心文を探す。
4 中心文を使用して、その段落を要約する。5W1Hも考えること。キーワードとキーワードを助詞や動詞で繋いでいく。
5 4つの要約文を一つにまとめて全体の要約文にする。テーマ・レーマも考慮すること。
 
【手順1】
第2段落の始まり わが国にも
第3段落の始まり 縄文人から
第4段落の始まり 素焼きの立像

【手順2】
第1段落のキーワード エーゲ海のミロス島、1820年、ミロのビーナス、ルーブル美術館の至宝、1964年、日本への旅
第2段落のキーワード 女神像、山形県、20年前、縄文のビーナス、国宝、土偶造詣
第3段落のキーワード 縄文人からの贈り物、山形県の吉村美栄子知事、豊穣の祈り、東北の再生、渡航歴、文化施設
第4段落のキーワード 素焼きの立像、捨象の美、土の香り、祝祭のさざめき、五感に太古、縄文の匠

【手順3】
第1段落の中心文 「ミロのビーナス」はルーブル美術館の至宝に落ち着いた。
第2段落の中心文 山形県で20年前に出土した「縄文のビーナス」が、土偶では四つ目の国宝に決まった。
第3段落の中心文 縄文人からの贈り物と喜ぶのは、山形県の吉村美栄子知事だ。
第4段落の中心文 素焼きの立像に向き合えば、じんわりと、五感に太古がこみ上げる。

【手順4】
第1段落の
要約文 1820年にエーゲ海のミロス島で発見された「ミロのビーナス」はルーブル美術館の至宝であり、原則として門外不出だが、1964年に一度だけ日本で展示されたことがある。
第2段落の
要約文 20年前に山形県で出土した「縄文のビーナス」が土偶では4番目の国宝に決まった。その理由は、土偶造詣の一つの到達点だからである。
第3段落の
要約文 「縄文のビーナス」には豊穣の祈りや再生の意味があり、東北の再生にもつながると喜ぶのは、山形県の吉村美栄子知事。渡航歴は、すでに文化使節としての実績にふさわしい。
第4段落の
要約文 素焼きの立像に向き合えば、捨象の美や土の香り、祝祭のさざめきを感じることだろう。じんわりと五感に太古がこみ上げてくる。縄文の匠に改めて感謝したい。

【手順5】
 1820年にエーゲ海のミロス島で発見された「ミロのビーナス」はルーブル美術館の至宝であり、原則として門外不出だが、1964年に一度だけ日本で展示されたことがある。日本にも誇れる女神像がある。20年前に山形県で出土した土偶は「縄文のビーナス」と呼ばれ、この度国宝に決まった。土偶造詣の一つの到達点というのがその理由である。「縄文のビーナス」には豊穣の祈りや再生の意味があり、東北の再生にもつながると期待される。素焼きの立像に向き合えば、捨象の美などがじんわりと五感に伝わってくる。時をせき止めて縄文の匠を守り通した国土に改めて感謝したい。

花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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