2017年10月02日
『読む・書く』 中国人の学生に日本語の読み書きを教授する3
2 奨励するトレーニング法
2.1 要約のための新聞講読
新聞記事は、通常@見出し、Aリード(前文)そしてB本文、C写真、D図表から構成されている。見出しとリードの関係やリードと本文の関係を考える場合に、見出しやリードの用語および本文のキーワードに注目すれば理解はできる。また、本文を前後半に分けても、三段式或いは四段式に分けても、それぞれに中心となる段落がつかめれば要約のポイントを作ることはできる。
要約の方法は、ことばという情報をまとめるテクニックである。しかし、対象は必ずしもことばでなくてもよい。その場の雰囲気とか対人の場面では相手の心理や意識も要約の対象になりそうだ。やり取りを円滑にするためには、我々が五感で感じる音やにおい、味覚や感触さらには視覚情報を何かのことばに変えて相手に伝えている。その際に、それらのことばを記憶の中枢に留めるために感情のネーミングというトレーニングがある。これは、小説などでいう微妙なニュアンスなどの調節にも繋がっていく。自分の感情を的確に把握するという感情のコントロールのための精神療法である。日頃からこのような頭の体操をすることも要約のトレーニングの役に立つ。
要約文は、どのように作れば上手くいくのだろうか。まず一つの段落からキーワードを探していく。キーワードが見つかれば、その単語を含む中心文を使用して場面のイメージを作ることができる。効率良くキーワードが見つかれば、文章の理解はスムーズになり、段落も手際よくまとめられるようになる。これがワーキングメモリー のトレーニングの中で一番簡単である。
キーワードは、意味をつかむ上で重要なことばである。そのため、名詞とか動詞そして述語形容詞がキーワードになりやすい。名詞の中でも固有名詞や数字、カタカナは、情報が凝縮されているため価値がある。その他の品詞、例えば、副詞、接続詞、助詞、助動詞はキーワードにはなりにくい。
段落の中で情報はどのように流れているのであろうか。講読時の言語情報の入力と出力という観点から見ると、構文と意味が組で扱われている。例えば、日本語のある入力文に対して、まずその言語の構文と意味の解析が行われ、ここに解析のイメージが作られる。次に、意味と構文が生成されて入力に対する理解ができあがり出力となる。段落を通してこうした入出力の作業が一文一文連鎖をなして行われている。
また、要約する場合は、その言語にかなり通じているわけだから、構文は自動的に解析されて、どちらかというと意味の解析に焦点が当てられる。その際、役に立つ言語処理としてテーマ・レーマがある。テーマとは主題のことをいい、文中で伝達の対象を表す既知の情報のことをいう。またレーマとは述題のことで、文中で伝達の内容を表す新情報のことをいう。要するに、段落の中で情報は旧新旧新の順に流れている。特に新と旧の情報がうまく組みをなすように段落が作れれば、一読でわかる文章に近づいていく。中国語は語順が固定の言語であるため、日本語を専攻する中国人の学生にとって言語間の特徴の違いを考える上でこうしたトレーニングは意味がある。テーマとレーマの調節ができるようになれば、自ずとリーディングの際にもこうしたテクニックが反映される。その際にも一応5W1Hを使って文章を整える。
2.2 課題作文
日本語の文章の構成は、序論、本論、結論よる三段式か起承転結からなる四段式である。どちらの構成であれ、2回に1回のペースで演習課題を出して学生に作文を書かせ、こちらで添削指導をする。演習課題は、月並みな日本についてとか諺や格言、説明文や感想文などである。作文の評価項目は、@当用漢字、A文法、Bてにをは、C適正表現そしてD独創性(ユニークさ)としている。
[評価項目]
A当用漢字 簡体字, 平仮名残り, 誤字
B文法 語順, 活用形, 句読点
Cてにをは 助詞の使い方
D適正表現 日本語らしい表現
E独創性 ユニークなストーリー
添削をしていて気づいたことは、クラスの中でフィードバックするように心掛けている。例えば、中国人の学生は、中国語の簡体字を使用することがある。また、中国語には活用形がないために、送り仮名を間違えたり平仮名表記が残っているケースもある。しかし、闇雲に平仮名表記を漢字に直してほしいというだけでは指導が足りないと思う。つまり、当用漢字は必ず漢字表記にして、非当用漢字は漢字でも平仮名でもよいとする。例えば、日本語では「醤油」と書いても「しょう油」と書いてもよい。中国人は、とかく漢字を使用する傾向にある。
また、作文の中で句読点の読点を付けすぎる傾向にある。一般的に読んでわかるのであれば、特に読点をつける必要はない。新聞などは比較的読み流していく文章ゆえに、音読の切れ目切れ目で読点を付けている。この点はあまり真似しないほうがよい。
「てにをは」については言うまでもなく、膠着語を持たない中国語が母国語であるために、助詞の使い方は難しいようだ。月並みであるが、たくさんやさしい日本語の文章を読むことがトレーニングになると思う。
適正表現とは、物の作り方を説明する文章の場合、例えば、自分の得意料理を説明するのであれば、美味しそうに書くことをいっている。不味そうに書けばそのように読まれてしまう。この点を工夫することが作文の上達に繋がっていく。また、構文上の日本語らしさもある。繰り返すが、日本語が語順の自由な言葉であることを認識しながら文章を書くとよい。
独創性は、格言や諺を演習課題にすると、知っている中国の故事を使用して面白いユニークな作文を書いてくれる。課題作文から学生の思いがわかるように演習課題を設定するのも、セミナー担当者の調整力の見せどころになる。なお、添削指導の中でこうした点を説明しながら、日本語の一文は句読点を含めて40文字前後と定義している。一読でわかるためである。
こうした単純な課題作文だけでなく、部分的にデータをまとめるトレーニングも実践的なものといえる。例えば、序論だけが見えていてこの小論と結論は自分で書く練習とか、起承転結の起承が決まっていてストーリーはそのままで転結の部分だけをまとめるといった練習も実践の作業につながる。こうした演習課題を繰り返しているうちに、要約の仕方も身に付いてくる。要約が上手くなると、文章の処理が格段と速くなる。当然のことながら、読書の量も増えていき、知識がたまると共にアレンジも上手くなっていく。
花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より
2.1 要約のための新聞講読
新聞記事は、通常@見出し、Aリード(前文)そしてB本文、C写真、D図表から構成されている。見出しとリードの関係やリードと本文の関係を考える場合に、見出しやリードの用語および本文のキーワードに注目すれば理解はできる。また、本文を前後半に分けても、三段式或いは四段式に分けても、それぞれに中心となる段落がつかめれば要約のポイントを作ることはできる。
要約の方法は、ことばという情報をまとめるテクニックである。しかし、対象は必ずしもことばでなくてもよい。その場の雰囲気とか対人の場面では相手の心理や意識も要約の対象になりそうだ。やり取りを円滑にするためには、我々が五感で感じる音やにおい、味覚や感触さらには視覚情報を何かのことばに変えて相手に伝えている。その際に、それらのことばを記憶の中枢に留めるために感情のネーミングというトレーニングがある。これは、小説などでいう微妙なニュアンスなどの調節にも繋がっていく。自分の感情を的確に把握するという感情のコントロールのための精神療法である。日頃からこのような頭の体操をすることも要約のトレーニングの役に立つ。
要約文は、どのように作れば上手くいくのだろうか。まず一つの段落からキーワードを探していく。キーワードが見つかれば、その単語を含む中心文を使用して場面のイメージを作ることができる。効率良くキーワードが見つかれば、文章の理解はスムーズになり、段落も手際よくまとめられるようになる。これがワーキングメモリー のトレーニングの中で一番簡単である。
キーワードは、意味をつかむ上で重要なことばである。そのため、名詞とか動詞そして述語形容詞がキーワードになりやすい。名詞の中でも固有名詞や数字、カタカナは、情報が凝縮されているため価値がある。その他の品詞、例えば、副詞、接続詞、助詞、助動詞はキーワードにはなりにくい。
段落の中で情報はどのように流れているのであろうか。講読時の言語情報の入力と出力という観点から見ると、構文と意味が組で扱われている。例えば、日本語のある入力文に対して、まずその言語の構文と意味の解析が行われ、ここに解析のイメージが作られる。次に、意味と構文が生成されて入力に対する理解ができあがり出力となる。段落を通してこうした入出力の作業が一文一文連鎖をなして行われている。
また、要約する場合は、その言語にかなり通じているわけだから、構文は自動的に解析されて、どちらかというと意味の解析に焦点が当てられる。その際、役に立つ言語処理としてテーマ・レーマがある。テーマとは主題のことをいい、文中で伝達の対象を表す既知の情報のことをいう。またレーマとは述題のことで、文中で伝達の内容を表す新情報のことをいう。要するに、段落の中で情報は旧新旧新の順に流れている。特に新と旧の情報がうまく組みをなすように段落が作れれば、一読でわかる文章に近づいていく。中国語は語順が固定の言語であるため、日本語を専攻する中国人の学生にとって言語間の特徴の違いを考える上でこうしたトレーニングは意味がある。テーマとレーマの調節ができるようになれば、自ずとリーディングの際にもこうしたテクニックが反映される。その際にも一応5W1Hを使って文章を整える。
2.2 課題作文
日本語の文章の構成は、序論、本論、結論よる三段式か起承転結からなる四段式である。どちらの構成であれ、2回に1回のペースで演習課題を出して学生に作文を書かせ、こちらで添削指導をする。演習課題は、月並みな日本についてとか諺や格言、説明文や感想文などである。作文の評価項目は、@当用漢字、A文法、Bてにをは、C適正表現そしてD独創性(ユニークさ)としている。
[評価項目]
A当用漢字 簡体字, 平仮名残り, 誤字
B文法 語順, 活用形, 句読点
Cてにをは 助詞の使い方
D適正表現 日本語らしい表現
E独創性 ユニークなストーリー
添削をしていて気づいたことは、クラスの中でフィードバックするように心掛けている。例えば、中国人の学生は、中国語の簡体字を使用することがある。また、中国語には活用形がないために、送り仮名を間違えたり平仮名表記が残っているケースもある。しかし、闇雲に平仮名表記を漢字に直してほしいというだけでは指導が足りないと思う。つまり、当用漢字は必ず漢字表記にして、非当用漢字は漢字でも平仮名でもよいとする。例えば、日本語では「醤油」と書いても「しょう油」と書いてもよい。中国人は、とかく漢字を使用する傾向にある。
また、作文の中で句読点の読点を付けすぎる傾向にある。一般的に読んでわかるのであれば、特に読点をつける必要はない。新聞などは比較的読み流していく文章ゆえに、音読の切れ目切れ目で読点を付けている。この点はあまり真似しないほうがよい。
「てにをは」については言うまでもなく、膠着語を持たない中国語が母国語であるために、助詞の使い方は難しいようだ。月並みであるが、たくさんやさしい日本語の文章を読むことがトレーニングになると思う。
適正表現とは、物の作り方を説明する文章の場合、例えば、自分の得意料理を説明するのであれば、美味しそうに書くことをいっている。不味そうに書けばそのように読まれてしまう。この点を工夫することが作文の上達に繋がっていく。また、構文上の日本語らしさもある。繰り返すが、日本語が語順の自由な言葉であることを認識しながら文章を書くとよい。
独創性は、格言や諺を演習課題にすると、知っている中国の故事を使用して面白いユニークな作文を書いてくれる。課題作文から学生の思いがわかるように演習課題を設定するのも、セミナー担当者の調整力の見せどころになる。なお、添削指導の中でこうした点を説明しながら、日本語の一文は句読点を含めて40文字前後と定義している。一読でわかるためである。
こうした単純な課題作文だけでなく、部分的にデータをまとめるトレーニングも実践的なものといえる。例えば、序論だけが見えていてこの小論と結論は自分で書く練習とか、起承転結の起承が決まっていてストーリーはそのままで転結の部分だけをまとめるといった練習も実践の作業につながる。こうした演習課題を繰り返しているうちに、要約の仕方も身に付いてくる。要約が上手くなると、文章の処理が格段と速くなる。当然のことながら、読書の量も増えていき、知識がたまると共にアレンジも上手くなっていく。
花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より
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