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2024年02月11日

フランツ・カフカの「変身」で執筆脳を考える4

3 データベースの作成・分析

 データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
 こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。
 
【データベースの作成】
表1 「変身」のデータベースのカラム
項目名 内容     説明
文法1 態     能動、受動、使役。
文法2 時制、相  現在、過去、未来、進行形、完了形。
文法3 様相    可能、推量、義務、必然。
意味1 五感    視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味2 喜怒哀楽  喜怒哀楽と記事なし。 
意味3 振舞い  ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
意味4 注意    あり、なし
医学情報 病跡学 受容と共生の共有点。構文や意味の解析から得た組「異化と人の最小価値」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる
記憶  短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述) 作品から読み取れる記憶を拾う。長期記憶は陳述と非陳述に分類される。
情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化またはその他の反応。
情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報は、学習につながるためカテゴリー化する。記憶の型として、短期、作業記憶、長期を考える。
情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
人工知能 適合と反応の過程 エキスパートシステム 生物が環境に適合するように、自己の形態や修正を変化させる。刺激の基づく運動のプロセス。

花村嘉英(2020)「フランツ・カフカの『変身』の執筆脳について」より

フランツ・カフカの「変身」で執筆脳を考える3

「変身」の文体は、冷静な報告調に見る衝撃(佐藤1979)とか存在の不安を怪奇な姿形で表したもの(藤本他1981)ともいわれ、構文的には接続法の使用が多い。これは、前日まで家族のメンバーであったグレゴール・ザムザが虫の目になって家族の様子を語っていることもある。つまり、現実から内容が少しずれているためである。
 例えば、Er hätte Arme und Hände gebraucht, um sich aufzurichten; statt dessen aber hatte er nur die vielen Beinchen, die ununterbrochen in der vershciedensten Bewegung waren und die er überdies nicht beherschen konnte.
 この文のhätteは、通常であればザムザが起き上がるために腕や手を用いるという仮定の意味があり、害虫に変身した今となっては、細かく動き支配できない多くの小さな足がその代わりをすることになる。なお虫の目からの社会観察は、日本語では横光利一の「蝿」が有名である。
 Egon Schwarz(1984)は、害虫に変わった瞬間に存在の問題が発生していると説く。カフカの場合、人間の存在について証言するという目的がある。選択された動物の特徴や機能に依存しながら、動物寓話の習慣、メールヒェンの伝統、口悪い風刺の作用といった文学上の関係が作られる。人間の最小価値を信号で知らせるためもあろう。
 そこには日常見慣れた表現形式によそよそしさを加えて異様なものを作り、内容をさらに理解させるための工夫がある。これは、異化効果と呼ばれ、登場人物の振舞いが歪みの法則により捉えられる。
 この小論では、「変身」についての購読脳は、「異化と人の最小価値」とし、執筆脳を「適応と反応」にする。また、自己の心的構造に適合するように外界の状況を適合させる同化に対し、自己を外界の状況に適合するように変化させる異化効果によるシナジーのメタファーは、「カフカと適応」にする。

花村嘉英(2020)「フランツ・カフカの『変身』の執筆脳について」より

フランツ・カフカの「変身」で執筆脳を考える2

2 カフカの「変身」のLのストーリー

 フランツ・カフカ(1883−1924)は、プラハのユダヤ商人の息子として生まれ、裕福な家系で育った。しかし、キリスト教やユダヤ教への信仰に馴染まず、手塚(1981)によれば、根のない草である自分をつなぐ根底があるのかないのかが生涯の問いかけであった。因みに、ユダヤ教徒は、モーゼの法律に基づいてヤハウェを信仰し、イスラエルの人々のために神の国を現世に齎すメシアの登場を信じる。動物をモチーフにするカフカの作風は、有名であり、また、文体が常に彼の実存を反映し、空想やユーモアにも動機づけに真実がある。
 「変身」(1915)では、出張係とその家族の輝きのない生活からでは深い洞察が得られないため、ある朝ゾッとするほどの不気味な害虫に姿が変わり目覚める主人公を作る。グレゴール・ザムザは、出張の係をしており、汽車の出発時間に間に合わないから早く起きろといった家族との他愛も無いやり取りで始まる。 

花村嘉英(2020)「フランツ・カフカの『変身』の執筆脳について」より

フランツ・カフカの「変身」で執筆脳を考える1

1 先行研究

 文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
 執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)の執筆脳に関する私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923−2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。
 筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。文学の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なお、Lのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。
 メゾのデータを束ねて何やら予測が立てば、言語分析や翻訳そして資格に基づくミクロと医学も含めたリスクや観察の社会論からなるマクロとを合わせて、広義の意味でシナジーのメタファーが作られる。

花村嘉英(2020)「フランツ・カフカの『変身』の執筆脳について」より

2024年01月29日

谌容の『人到中年』で執筆脳を考える9

4 まとめ   
 
 谌容の執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「人到中年」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で止めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。  
 この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人6対4、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。

参考文献

片野善夫 ほすぴ189号 ヘルスケア出版 2022
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 
     日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデー
     タベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默−ナディン・ゴーディマと意欲 
     華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 
     中国日語教学研究会上海分会論文集 2018  
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 
     中国日語教学研究会上海分会論文集 2019  
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 
     中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
花村嘉英 三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学へのアプローチを考える 
     中国日語教学研究会上海分会論文集2021
谌容 谌容集 海峡文艺出版社 1986 
谌容 北京の女医−人、中年に至れば(田村年紀訳)第三文明社 1984
谌容 Wikipedia 
看護師の用語辞典

花村嘉英(2022)「谌容の『人到中年』で執筆脳を考える」より

谌容の『人到中年』で執筆脳を考える8

表3 情報の認知  
 
同上     情報の認知1  情報の認知2  情報の認知3 
A 表2と同じ。  3       2      1
B 表2と同じ。  3       2      1
C 表2と同じ。  3       2      1
D 表2と同じ。  2       2      1
E 表2と同じ。  3       1      2
 
A:情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。    
B:情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。  
C:情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。  
D:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。  
E:情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2は@旧情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。       
 
結果      
 日常眼科医として患者の治療にあたる妻が心臓病で入院し治療を受けている。夫の傅家杰は、苦学を共にした彼女との10年間の思い出が交錯するも詩で回復を祈るため、購読脳の「現実と矛盾」から執筆脳の「紆余曲折と光明」という組を引き出すことができる。    
 
花村嘉英(2022)「谌容の『人到中年』で執筆脳を考える」より

谌容の『人到中年』で執筆脳を考える7

【連想分析2】 
 
情報の認知1(感覚情報)   
 感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、Bその他の条件である。  
  
情報の認知2(記憶と学習)   
 このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。 
 
情報の認知3(計画、問題解決、推論)   
 このプロセルのカラムの特徴は、@計画から問題解決へ、A問題未解決から推論へである。 

花村嘉英(2022)「谌容の『人到中年』で執筆脳を考える」より

谌容の『人到中年』で執筆脳を考える6

分析例 
 
1 10年前と同様に詩で妻の回復を祈る。  
2 この小論では、「人到中年」の購読脳を「現実と矛盾」と考えているため、意味3の思考の流れ、実現に注目する。    
3 意味1@視覚A聴覚B味覚C嗅覚D触覚 、意味2 @喜A怒B哀C楽、意味3放浪@ありAなし、意味4振舞い @直示A隠喩B記事なし、人工知能 @実現A相互排斥。   
  
テキスト共生の公式      
  
ステップ1:意味1、2、3、4を合わせて解析の組「現実と矛盾」を作る。 
ステップ2:10年間でこんなに苦しむ妻を見たことがない。しかし、苦悩の中にも回復を詩で念じる夫の姿は「紆余曲折と光明」という組になり、解析の組と相互に作用する。 
 
A:@視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@紆余曲折とA光明という組と合わせる。   
B:@視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@紆余曲折とA光明という組と合わせる。  
C:@視覚+B哀+@あり+A隠喩という解析の組を、@紆余曲折とA光明という組と合わせる。  
D:@視覚+C楽+@あり+@直示という解析の組を、@紆余曲折とA光明という組と合わせる。  
E:@視覚+@喜+@あり+@隠喩という解析の組を、@紆余曲折とA光明という組と合わせる。    
 
結果  表2については、テキスト共生の公式が適用される。 

花村嘉英(2022)「谌容の『人到中年』で執筆脳を考える」より

谌容の『人到中年』で執筆脳を考える5

【連想分析1】  
表2 受容と共生のイメージ合わせ
妻が回復するように祈る場面

 A 这绝望的喊声象一把尖刀刺进傅家杰的胸膛。他睁着眼,紧盯着从他面前缓缓推过的这张床,紧盯着那无情的白被单下隆起的遗体。突然,他象触了电似的,猛然朝陆文婷的病房跑去。
意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

B 他一口气泡到她的床前,一头扑在她真边,笔者眼,喘这气,嘴里只喃喃地重复三个字;“你活着!你活着!你活着!”他那粗重的喘息声,惊醒了半睡中的陆文婷大夫。他睁开眼来,超他望了,又好象并没有看见他。
意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

C 这呆滞的目光,使傅家杰浑身发抖,他失声喊道“文婷!…”陆文婷的眼观又停留在傅家杰脸上,仍然是那种令漠的眼光。这眼光令人胆寒心碎,使人感到她的灵魂已经飞离身躯,正在太空中遨游。
意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 2、人工知能 1

D 傅家杰不知该说些什么,做些什么,才能换回她对生的热望。这是他的妻子,是他在世上最亲的亲人。从那年冬天和她漫游北海,给她念诗,到如今,多少个日日夜夜过去了,她一直是最亲的人。他不能没有她。他要留住她! 意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味4 2、人工知能 1

E 诗!念诗吧!还象当年那样念诗吧!十多年前,是动人的诗句打开了她的心房。今天,再用同样的诗句唤起她最美好的回忆,唤起她对生的欲望和勇气吧! 意味1 1、意味2 1、意味3 1、意味4 1、人工知能 2

花村嘉英(2022)「谌容の『人到中年』で執筆脳を考える」より
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プロフィール
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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