2012年10月07日
暮らしの中の自然、和竿のクジラ穂
暮らしの中の自然 鯨ひげ(和竿の穂先)
鯨ひげ(くじらひげ)とは、ヒゲクジラ亜目の動物の上顎部に見られる、
繊維が板状となった器官である。ひげ板とも言う。口腔内の皮膚がヒゲクジラ類で独自に
変化したもので、髭や毛とは由来が異なる。
濾過摂食のためのフィルターとしての役割を持つ。弾力性などに優れることから、
プラスチックなどの普及以前には各種工業素材に利用され、捕鯨の重要な目的にもなった。
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概説
ヒゲクジラ類の上顎のうち、口蓋部の皮膚が変化した器官である。
ヒゲクジラ類は濾過摂食を行う生物であり、鯨ひげはその際に用いるフィルターとして
発達した。組成は皮膚の角質組織と同じケラチンからなる。
上顎の左右に列をなし、それぞれ最大で300枚程度が生える。1枚の鯨ひげは、
細長い三角形の板状の器官である。
長辺のうち一方に多数の毛が生えたようになっているが、これは鯨ひげの板状の組織の
内部を構成する繊維が、先端の摩滅に伴って飛び出してくることで形成される。
この繊維が互いに重なり合い、餌をこしとる、あるいはふるい分けるフィルターとして
機能する。
爪などと同じく一生伸長が続き、先端部の摩滅を補う。成長に伴い、板の部分の表面に
一年ごとに皺が生じるので、鯨の年齢調査にも用いることができる。
ただし、鯨ひげの先端が徐々に欠けてしまうため、若い鯨にしか有効でない。
なお、中世のヨーロッパでは、ヒゲクジラが口を大きく開くと鯨ひげが邪魔をして口を
閉じることができなくなり、死んでしまうと考えられていた。
素材としての鯨ひげ
加工しやすい程度の硬さで、引っ張り強度があり、軽く、弾力性があるなどの優れた性質が
あるため、エンバ板とも呼ばれ、古くから様々な製品の素材に用いられてきた。
古い例としては、正倉院に鯨ひげ製の如意が宝物として収められている。特にセミクジラ科
のものは、長くて非常に柔軟かつ弾力があることから重宝され、結果としてセミクジラ科の
乱獲の一因ともなった。
その後、弾力のある金属線やプラスチックが普及したため、現在では工芸的な用途を除いて
は需要は殆どない。
釣竿 - 日本では、弾力性を生かして釣竿の先端部分に用いられる。
現在でも一部で使用されている。
衣服 - 整形用の骨に用いる。
西洋ではコルセットやクリノリンなどの女性用下着やドレスの腰部、日本では裃の肩など。
傘 - 西洋では傘の骨に用いた。
扇子 - 日本では、扇子の要として用いていた。
呉服尺 - 日本では着物の仕立て専用のものさしの材料に用いた。
鯨尺とも呼ばれ、長さの単位としてその名が残っている。
ぜんまいばね - 江戸時代の日本でぜんまいの材料とされた。
からくり人形などで使用された。
文楽人形 - 操作索に用いる。
ヴァイオリンの弓 - スティックの巻き線に用いる。
現在はイミテーション(模造品)も在る。
その他 - くつべら、兜の装飾など。
なお、特殊な用途として、日本では食用にも用いられた例がある。
若いセミクジラのものを食用にしたほか、太平洋戦争中に代用醤油の原料として用いられた。
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