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2014年02月13日

スカンジウム

スカンジウム (新ラテン語: scandium[3]) は原子番号 21 の元素。元素記号は Sc。



目次 [非表示]
1 概要
2 歴史
3 スカンジウムの化合物
4 同位体
5 用途
6 出典
7 関連項目


概要[編集]

遷移元素で、イットリウムと共に希土類元素に分類される。第3族元素の一つで、スカンジウム族元素の一つでもある。銀白色の金属で、比重は2.99、融点は1541 °C、沸点は2831 °C(融点、沸点とも異なる実験値あり)。常温常圧で安定な結晶構造は六方最密充填構造 (HCP、α-Sc)。

水にはゆっくり溶け、熱水や酸には易溶。常温において空気中で酸化され、ハロゲン元素と反応する。安定な原子価は3価。比較的希少な金属である。トルトベイト石などに含まれる。

歴史[編集]

1879年にスウェーデンの分析学者ラルス・ニルソンによりガドリン石から発見され、スカンジナビアにちなんで名付けられた。ほぼ同時にこれを発見したクレーヴェにより、1870年にドミトリ・メンデレーエフが存在を予言したエカホウ素にあたると判明した[4]。

スカンジウムの化合物[編集]
酸化スカンジウム(III) (Sc2O3)
塩化スカンジウム(III) (ScCl3)
硝酸スカンジウム(III) (Sc(NO3)3)

同位体[編集]

詳細は「スカンジウムの同位体」を参照

用途[編集]

スカンジウムは反応性と価格が共に高いため、化合物の応用法の研究開発はあまり進まなかった。このため以前は有機化学の限られた分野で触媒としてわずかに用いられるにとどまっていたが、現在は用途の拡大に伴い新素材として注目されている。その筆頭格が照明での利用で、ヨウ化スカンジウム ScI3 をメタルハライドランプに使用してより強い光を得られる。ほかの用途としては、アルミニウム合金への添加、ニッケル・アルカリ蓄電池の陽極にスカンジウムを加えて電圧の安定や長寿命化を計ったり、ジルコニア磁器に酸化スカンジウム(III)を添加してひび割れを防ぐなどの用途がある。

スカンジウムの重量比でみた主要な用途は、高機能素材であるアルミニウム-スカンジウム合金の形での、一部の航空宇宙用部品、スポーツ用品(自転車、野球のバット、射撃、ラクロスなど)の材料である。しかしこれらの分野では、軽さや強度が近いチタンの方がはるかに多く利用されている。

スカンジウムをアルミニウムに添加すると、溶接における加熱部分での再結晶化や結晶粒成長が大幅に抑制される。アルミニウムは面心立方構造の金属であり、粒径の縮小はそれほど強度に対する効果がない。しかしAl3Sc が細かく分散することによって、合金中にいろいろな析出相が有るにもかかわらず、ミクロな単位で強度が増大する。本来の添加の目的は、溶接可能な構造材用合金の加熱時の過度な結晶粒成長の抑制であるが、添加によって二つの効果が促進される。一つは他の相がより細かく析出することによる強度の大幅な増大で、もう一つは時効硬化型合金における粒界の非析出帯の減少である。

最初にアルミニウム-スカンジウム合金が使用されたのは、旧ソビエト連邦の一部の潜水艦発射弾道ミサイルのノーズ・コーンである。海氷を貫通してもミサイル本体が壊れないほどの強度を確保できたため、北極海での、海氷下に潜行中のミサイル発射が可能になった。

トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム(英語版)は、有機化学においてルイス酸触媒として用いられる。

1990年代半ばに東邦ガスの水谷らが、酸化ジルコニウム(IV)に酸化スカンジウム(III)を4-11 mol%固溶させたスカンジア安定化ジルコニアを固体酸化物燃料電池の電解質として見い出し、2000年になって第一稀元素化学工業の柿田らによって世界で初めて工業生産された。これまで高価と思われていたスカンジウムが市場に安価に供給されつつある。

出典[編集]

1.^ McGuire, Joseph C.; Kempter, Charles P. (1960). “Preparation and Properties of Scandium Dihydride”. Journal of Chemical Physics 33: 1584–1585. doi:10.1063/1.1731452.
2.^ Smith, R. E. (1973). “Diatomic Hydride and Deuteride Spectra of the Second Row Transition Metals”. Proceedings of the Royal Society of London. Series A, Mathematical and Physical Sciences 332 (1588): 113–127. doi:10.1098/rspa.1973.0015.
3.^ http://www.encyclo.co.uk/webster/S/25
4.^ 桜井 弘 『元素111の新知識』 講談社、1998年、123頁。ISBN 4-06-257192-7。
【このカテゴリーの最新記事】

カルシウム

カルシウム (新ラテン語: calcium[1], 英: calcium) は原子番号 20 の金属元素。元素記号は Ca。第2族元素に属し、アルカリ土類金属の一種で、ヒトを含む動物や植物の代表的なミネラル(必須元素)である。日本(主に保健分野)では、特定の商標にちなんで「カルシューム」と転訛することがある。



目次 [非表示]
1 性質
2 歴史
3 用途 3.1 建設・建築
3.2 工業
3.3 食品工業、家庭用品ほか
3.4 農業畜産

4 カルシウムの化合物 4.1 無機塩 4.1.1 オキソ酸塩

4.2 有機塩

5 同位体
6 環境における循環
7 生化学 7.1 生理作用
7.2 薬理作用
7.3 疫学
7.4 癌との関わり

8 脚注
9 関連項目
10 外部リンク


性質[編集]

酸化数は僅かな例外を除き、常に+IIとなる。比重1.55の非常に柔らかい金属で、融点は840-850 °C、沸点は1480-1490 °C(異なる実験値あり)。標準状態での結晶構造は面心立方格子構造 。

単体を空気中で放置すると酸素・水・二酸化炭素と反応して腐食するため、鉱油中で保存する必要がある。

空気中で加熱すると炎をあげて燃焼する。
2Ca + O2 → 2CaO
水に溶かすと反応して水素を発生する。生成した水酸化カルシウム溶液は石灰水と呼ぶ。
Ca + 2H2O → Ca(OH)2 + H2
石灰水に二酸化炭素を通すと炭酸カルシウムが沈殿するが、加熱すると元に戻る。
Ca(OH)2 + CO2 → CaCO3 + H2O
ハロゲンとは気相中で直接反応し、ハロゲン化物を生成する。

アルコールに溶解してカルシウムアルコキシド (C2H5OCa)、液体アンモニアに溶解してヘキサアンミンカルシウム ([Ca(NH3)6]2+) となる。

水と激しく反応して水素を発生するため、危険物(禁水性物質)に指定されている。

歴史[編集]

カルシウムは古代ローマ時代からカルックス(calx)という名前で知られ、化学的な性質を化合物の形で利用されていた[2]。ラボアジエの33元素にもライム(酸化カルシウム)が含まれている。

石灰(炭酸カルシウム)を主成分とする石灰岩や大理石は耐久性と加工性のバランスがよく、ピラミッドやパルテノン神殿などで石材として利用されている。しかし、カルシウムの化学的性質を活用した最初の例としてはセメントの発明をあげるべきだろう。

人類最初のセメントとして9000年前のイスラエルで使われていた「気硬性セメント」が知られている[3]。これは、砕いた石灰岩を熱して酸化カルシウムを生成させ、施工後にこれが空気中の水分や炭酸ガスと反応して炭酸カルシウムとなる事を利用して硬化させる。

現在に近い水を加え水酸化カルシウムを生成させる「水硬性セメント」は、5000年前の中国や4000年前の古代ローマで利用され、同じ頃にピラミッド建設には焼石膏(硫酸カルシウム)の水和反応を利用する漆喰(註:日本の漆喰とは異なる)が用いられた。

この様にカルシウムは広く利用され身近な物質だったが、金属として単離するには電気分解の登場を待つ必要があった。 1808年、ハンフリー・デービーが生石灰を酸化水銀とともに溶融電解し、金属カルシウムを得ることに成功した。calcium の名は、石を意味するラテン語の calx から転じ石灰を意味した calcsis に由来する[4]。

ちなみに、優れた実験化学者でもあったラボアジエが著作『化学原論』で近代元素観を確立したのは1789年で、11年後に電気分解が発明された時にはフランス革命により処刑された後だった。

用途[編集]

セメント・モルタルなど、建設・建築用資材として多用され、現在でも使用量の大部分をコンクリート製品が占める。日本の生コン生産量は、ピーク時(1990年)には約2億立方メートルに達している。 多くの用途があるが、金属元素としての需要はマグネシウムに劣る。

建設・建築[編集]
セメント日本は石灰岩資源が豊かで、自給自足し輸出もしてきたが、近年は減少傾向で2009年度生産量は5千8百万トンと、ピーク時の半分程度となっている。生産量の4分の3をポルトランドセメントが占め、残りの大部分は高炉セメントである。石材、窓材、彫刻白い大理石や、透明度の高い石膏が好んで利用される。漆喰消石灰や苦灰石を固化剤とする。モルタル主に細骨材セメントが用いられる。断熱材、保温材ケイ酸カルシウムを発泡させたもので耐火性を持ち、アスベスト代替品として用いられる。
工業[編集]
精錬酸素と結びつきやすい性質から、古来より蛍石(フッ化カルシウム)が融剤として銅の精錬に用いられた。製鉄、製鋼日本の生石灰生産量の半分を消費する。高炉の不純物除去剤として、鉄鉱石やコークスとともに投入され、シリカ、アルミナとスラグ(ケイ酸カルシウムアルミニウム)をつくり銑鉄から分離する。また、造粒強化、熱効率改善、窒素酸化物削減効果を持つ。転炉では主にリン、硫黄の除去と温度調整効果をもつほか、高級鋼の炉外精錬に用いる[5]。非鉄金属鉱業還元剤としてチタン[6]や希土類(還元拡散法)[7]、ウランやプルトニウム[8]、セシウムの精錬に用いられる。酸化物陰極仕事関数が小さい熱陰極(真空管、ブラウン管、蛍光ランプなど)材料として、バリウム、ストロンチウムとともに三元酸化物として1950年頃に用いられた[9]。合金添加剤マグネシウム合金に0.25 %添加すると、耐熱性が200-300 °C高い難燃性合金となる。るつぼ、耐火材多孔質のカルシア(酸化カルシウム)は2000 °Cまで使用でき、触媒作用・吸収・汚染が少ない。化学工業安価で安全なアルカリ剤として欠かせない。主に消石灰(水酸化カルシウム)の石灰乳(水でスラリー状にしたもの)が用いられる。マグネシア(酸化マグネシウム)製造消石灰により海水中の塩化マグネシウムを複分解回収する(主に日本)。ソーダ灰(炭酸ナトリウム)製造循環アンモニアの回収剤および塩化物イオンの吸収剤として使用する。エポキシ樹脂製造原料のプロピレンオキサイドやエピクロルヒドリンの製造で、ケン化、中和、加熱を同時に進行させる。カーバイド(炭化カルシウム)アセチレン製造に必要で、高温電気炉で石灰とコークスを強熱して製造される。さらし粉(次亜塩素酸カルシウム)生石灰に塩素を吸収させ、比較的安定で安価な消毒剤として広く使われている。パルプ工業蒸解に使用した苛性ソーダ廃液(リグニンを含む黒液)を、燃焼分解して炭酸ナトリウム溶液とし、生石灰で再生する。ガラス製造ソーダ石灰ガラスの原料として、ナトリウム、ケイ素、カルシウムの酸化物が用いられる。排水処理無機酸性排水の中和に多用されるほか、フッ素、リン、重金属の除去に使用される。排ガス処理火力発電所で硫黄酸化物吸収剤として排煙脱硫に利用され、副生する硫酸カルシウムは、原料石膏となる。ゴミ焼却炉炉などを腐食する塩化水素が大量に発生するため、生石灰、消石灰の粉末を吸収剤として煙道へ吹き込む。
食品工業、家庭用品ほか[編集]
製糖消石灰を粗糖溶液に加え炭酸ガスを吹き込み、炭酸カルシウムの吸着・凝集沈殿効果で精製する。食品添加物コンニャクの凝固剤、栄養強化剤として用いられる。乾燥剤無水物の水和反応を利用し、酸化カルシウムや塩化カルシウムが用いられた。能力はシリカゲルに劣るが、押入れの湿気取りなどで利用される。発熱剤酸化カルシウムの水和(発熱反応)を、携帯食品(弁当や飲み物など)を加熱する手段として用いる。融雪剤塩カル(塩化カルシウム)による溶解熱、凝固点降下を利用している。学校用品チョーク、ライン材(グラウンドの白線用消石灰)など。入浴剤湯を白濁させたりアルカリ性にして肌触りを変化させるため、炭酸カルシウムが利用される。研磨剤炭酸カルシウムが歯磨き粉や消しゴムなどに用いられる。
農業畜産[編集]
農薬ボルドー液、石灰硫黄合剤、石灰防除などに使われる。無機肥料苦土石灰、過リン酸石灰、硝酸カルシウムなどのほか、連作障害対策の土壌中和・殺菌兼用で生石灰、消石灰が使用される。飼料家畜の栄養保健剤。
カルシウムの化合物[編集]

無機塩[編集]
酸化カルシウム (CaO) - 生石灰
過酸化カルシウム (CaO2)
水酸化カルシウム (Ca(OH)2) - 消石灰
フッ化カルシウム (CaF2) - 蛍石
塩化カルシウム (CaCl2•2H2O) - 塩カル
臭化カルシウム (CaBr2•2H2O)
ヨウ化カルシウム (CaI2•3H2O)
水素化カルシウム (CaH2)
炭化カルシウム (CaC2) - カルシウムカーバイド
リン化カルシウム (Ca3P2)

オキソ酸塩[編集]
炭酸カルシウム (CaCO3) - 石灰石
炭酸水素カルシウム (Ca(HCO3)2)
硝酸カルシウム (Ca(NO3)2•4H2O)
硫酸カルシウム (CaSO4•2H2O) - 石膏
亜硫酸カルシウム (CaSO3)
ケイ酸カルシウム (CaSiO3 または Ca2SiO4)
リン酸カルシウム (Ca3(PO4)2)
ピロリン酸カルシウム (Ca2O7P2)
次亜塩素酸カルシウム (Ca[ClO]2) - さらし粉
塩素酸カルシウム (Ca(ClO3)2)
過塩素酸カルシウム (Ca(ClO4)2)
臭素酸カルシウム (Ca(BrO3)2)
ヨウ素酸カルシウム (Ca(IO3)2•H2O)
亜ヒ酸カルシウム (Ca3(AsO4)2)
クロム酸カルシウム (CaCrO4)
タングステン酸カルシウム (CaWO4) - 灰重石
モリブデン酸カルシウム (CaMoO4) - パウエル石
炭酸カルシウムマグネシウム (CaMg(CO3)2) - 苦灰石
ハイドロキシアパタイト (Ca5(PO4)3(OH) または Ca10(PO4)6(OH)2) - 水酸燐灰石

有機塩[編集]
酢酸カルシウム (Ca(CH3COO)2)
グルコン酸カルシウム (C12H22CaO14)
乳酸カルシウム (C6H10CaO6)
安息香酸カルシウム (C14H10CaO4)
ステアリン酸カルシウム (Ca(C17H35COO)2)

同位体[編集]

詳細は「カルシウムの同位体」を参照

カルシウムの原子番号20番は陽子の魔法数であり、安定同位体が4種と多い。さらに、中性子も魔法数である二重魔法数の同位体を2つ (40Ca, 48Ca) 持っている。40Ca は安定核種の列から外れた位置にあるにも関わらず、天然存在率が約97 %と著しく高い。一方の 48Ca も周囲を短寿命核種に囲まれながら、半減期430京年と極端に安定していて、存在率も 46Ca の数十倍である。

環境における循環[編集]

カルシウムは古典的なクラーク数で、第5位に位置し、地殻中の存在率は3.39 %とされていた。現在は地球温暖化の主要因となる二酸化炭素を、炭酸カルシウムとして封じ込める役を持つとして関心が高まっている。

石灰岩の成因は、無生物的に海水中のイオン反応のほか、サンゴ虫が形成する外骨格に由来するサンゴ礁の寄与が大きいと考えられている。石灰岩中の二酸化炭素は、自然界では火山による熱変成作用や鍾乳洞でみられるような溶出により大気中に放出されるが、炭酸水素イオンとして水系に取り込まれやすいため、短期間でカルシウムやマグネシウムなどと難溶性塩を生成し、再び固定される。

生化学[編集]

カルシウムは真核細胞生物にとって必須元素であり、植物にとっても肥料として必要である。

生理作用[編集]

人体の構成成分としてのカルシウムは、成人男性の場合で約1 kgを占める。主に骨や歯としてヒドロキシアパタイト Ca5(PO4)3(OH) の形で存在する。

生体内のカルシウムは、遊離型・タンパク質結合型・沈着型で存在する。ヒトをはじめとする脊椎動物では、主に骨質として大量の沈着型がストックされているが、細胞内のカルシウムイオンは外より極端に濃度が低く、その差は3桁に達する。同様の濃度差はカリウムとナトリウムでも見られるが、カルシウムでは細胞内濃度が厳密に保たれている。これは、真核細胞内の情報伝達を担うカルシウムシグナリングのためと考えられていて、細胞膜にカルシウムイオンを排出するカルシウムチャネルが備えられている。

筋肉細胞では、収縮に関わるタンパク質(トロポニン)に結合することが不可欠である[10]。カルシウムイオンは細胞内液には殆ど存在せず、細胞外からのカルシウムイオンの流入や、細胞内の小胞体に蓄えられたカルシウムイオンの放出は、様々なシグナルとしての生理的機能がある。

植物細胞では、有機酸の対イオンとなるなど物質代謝に関わっているため動物細胞より多く必要とし、肥料の三要素に次いで4番目に必須となっている。

薬理作用[編集]

カルシウムは便や尿として体外に排泄されるため、これを補う最低必要摂取量として、日本の厚生労働省は1日に700mg(骨粗鬆症予防には800 mgを推奨)をあげている[11]。

いくつかの症状に対し、医薬品として処方されることがある。定番となっている胃の制酸薬以外にも、カルシウム欠乏による筋肉の痙攣、くる病、骨軟化症、低カルシウム血症、骨粗鬆症の治療に、主に経口摂取で用いるほか、血液中のリン酸濃度を抑制したい場合に用いる。また、栄養補助食品も広く販売されており、病気治療で食事制限中だったり、重度の骨粗鬆症で大量摂取したいとき、食事量が落ちた高齢者などで効果が期待できる。

健常者では体液内濃度は平衡に保たれ、妊娠期の女性も食物からの吸収能力が自然に増すため、偏った食生活でなければ追加摂取は必要ない[12]。一方、過剰摂取は高カルシウム血症や腎結石、ミルクアルカリ症候群の原因となるため、一日摂取許容量上限として2300 mgが示されている。

俗説に、カルシウムが不足すると血液中の濃度が低下し、イライラなど精神不安定の原因になるとされる。しかし血液中の量は約0.5 g(成人男性の場合。濃度10mg/dL、血液量5kgとして)とわずかで、人体の成分として不足する事はなく、イライラの原因候補は無数に存在する。もし血中濃度が正常範囲を外れているならば、骨からの出し入れ量を調節する副甲状腺機能の異常などが疑われる[13]。

疫学[編集]

カルシウムは必須元素として以上の効果を期待され、幾つもの疫学調査が行われている。
有効性ありと判定された例[14]
低カルシウム血症くる病・骨軟化症制酸剤おそらく効果有りと判定された例
閉経前後の骨量減少胎児の骨成長・骨密度増加(註:リバウンドを含め、出生後の追跡調査例見つからず)上皮小体亢進症(慢性腎機能障害患者)可能性有りと判定された例
骨粗鬆症、骨密度減少(ステロイドの長期間服用者でビタミンD併用時)高齢者における歯の損失歯へのフッ素の過剰沈着(小児でビタミンC・D併用)虚血性発作血圧減少(腎疾患末期)高血圧、子癇前症での血圧減少(カルシウム摂取不足の妊婦)直腸上皮の異常増殖、下痢(腸管バイパス手術を受けた人)妊娠中のこむらがえり骨粗鬆症診療ガイドラインでは、カルシウムのサプリメントの摂取は骨密度を2 %増やすが骨折率には変化がないので、すすめられる根拠がない(グレードC)に分類される[15]。
加齢による骨の減少を遅くする効果 ハーバード大学の公衆疫学部によれば、十分なカルシウムを摂取することで効果があるが、乳製品がもっとも良い選択かは明らかではないとする。乳製品以外のカルシウムの摂取源として コラード、チンゲンサイ、豆乳、ベイクドビーンズ が挙げられている[16]。
ビタミンDは、小腸の腸細胞の柔もうを通じてカルシウムを吸収する際にカルシウム結合タンパクの量を増加させるカルシウム吸収の要因として重要である。ビタミンDは、腎臓において尿からカルシウムが損失することを抑制する[17]。

癌との関わり[編集]
2つの無作為化比較試験[18][19]の国際コクラン共同計画によるメタ分析[20]によると、カルシウムは大腸腺腫性ポリープをある程度抑制し得るかもしれないことが発見された。
最近の研究結果は矛盾したものであるが、1つはビタミンDの抗癌効果について肯定的なものであり(Lappeほか)、癌のリスクに対してカルシウムのみから独立した肯定的作用を行っているとしたものである(以下の2番目の研究を参照のこと)[21]。
ある無作為化比較試験は、1000 mgのカルシウム成分と400 IUのビタミンD3は大腸癌に何も効果を示さなかった[22]。
ある無作為化比較試験は、1400-1500 mgのカルシウムサプリメントと1100 IUのビタミンD3が塊状の癌の相対的リスクを0.402まで低下させることを示した[23]。
ある疫学的研究では、高容量のカルシウムとビタミンDの摂取は更年期前の乳癌の発生リスクを低めていることが発見された[24]。
日本の国立がん研究センターが4万3000人を追跡した大規模調査では、乳製品の摂取が前立腺癌のリスクを上げることを示し、カルシウムや飽和脂肪酸の摂取が前立腺癌のリスクをやや上げることを示した[25]。

脚注[編集]

1.^ http://www.encyclo.co.uk/webster/C/7
2.^ 桜井 弘 『元素111の新知識』 講談社、1998年、118頁。ISBN 4-06-257192-7。
3.^ セメントの歴史コンクリートの世界
4.^ 元素を知る事典〜先端材料への入門〜,村上雅人 編著,
5.^ 鋼を作る日本石灰協会・日本石灰工業組合
6.^ [1]
7.^ 還元拡散法による希土類機能性材料の製造に関する基礎的研究科学研究費補助金データベース
8.^ 緻密なウラニウム精錬用弗化カルシウム容器NII論文情報ナビゲータ
9.^ 酸化物陰極を備えた真空管ekouhou.net
10.^ 筋収縮を調節する分子メカニズムの一端を解明 科学技術振興機構
11.^ 骨粗鬆症予防のための食品栄養成分ノート国立病院機構
12.^ 妊産婦のための食生活指針 (厚生労働省)
13.^ カルシウムが高い時日本臨床検査専門医会
14.^ 「健康食品」の安全性・有効性情報国立健康・栄養研究所
15.^ 『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版』 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会、ライフサイエンス出版。2006年10月。ISBN 978-4-89775-228-0。34-35、77頁。
16.^ The Nutrition Source Calcium and Milk: What's Best for Your Bones? (Harvard School of Public Health)
17.^ en:Calcium in biology
18.^ Baron JA, Beach M, Mandel JS (1999). “Calcium supplements for the prevention of colorectal adenomas. Calcium Polyp Prevention Study Group”. N. Engl. J. Med. 340 (2): 101–7. doi:10.1056/NEJM199901143400204. PMID 9887161.
19.^ Bonithon-Kopp C, Kronborg O, Giacosa A, Räth U, Faivre J (2000). “Calcium and fibre supplementation in prevention of colorectal adenoma recurrence: a randomised intervention trial. European Cancer Prevention Organisation Study Group”. Lancet 356 (9238): 1300–6. doi:10.1016/S0140-6736(00)02813-0. PMID 11073017.
20.^ Weingarten MA, Zalmanovici A, Yaphe J (2005). “Dietary calcium supplementation for preventing colorectal cancer, adenomatous polyps and calcium metabolisism disorder.”. Cochrane database of systematic reviews (Online) (3): CD003548. doi:10.1002/14651858.CD003548.pub3. PMID 16034903.
21.^ Lappe, Jm; Travers-Gustafson, D; Davies, Km; Recker, Rr; Heaney, Rp (2007). “Vitamin D and calcium supplementation reduces cancer risk: results of a randomized trial” (Free full text). The American journal of clinical nutrition 85 (6): 1586–91. PMID 17556697.
22.^ Wactawski-Wende J, Kotchen JM, Anderson GL (2006). “Calcium plus vitamin D supplementation and the risk of colorectal cancer”. N. Engl. J. Med. 354 (7): 684–96. doi:10.1056/NEJMoa055222. PMID 16481636.
23.^ Lappe JM, Travers-Gustafson D, Davies KM, Recker RR, Heaney RP (2007). “Vitamin D and calcium supplementation reduces cancer risk: results of a randomized trial”. Am. J. Clin. Nutr. 85 (6): 1586–91. PMID 17556697.
24.^ Lin J, Manson JE, Lee IM, Cook NR, Buring JE, Zhang SM (2007). “Intakes of calcium and vitamin d and breast cancer risk in women”. Arch. Intern. Med. 167 (10): 1050–9. doi:10.1001/archinte.167.10.1050. PMID 17533208.
25.^ 乳製品、飽和脂肪酸、カルシウム摂取量と前立腺がんとの関連について―概要― PMID 18398033

カリウム

カリウム(ドイツ語: Kalium、新ラテン語: kalium)は原子番号19の元素で、元素記号は K である。アルカリ金属に属す典型元素である。医学・薬学や栄養学などの分野では英語のポタシウム (Potassium) が使われることもある。和名では、かつて加里(カリ)または剥荅叟母(ぽたしうむ)という当て字が用いられた。

カリウムの単体金属は激しい反応性を持つ。電子を1個失って陽イオン K+ になりやすく、自然界ではその形でのみ存在する。地殻中では2.6%を占める7番目に存在量の多い元素であり、花崗岩やカーナライトなどの鉱石に含まれる。塩化カリウムの形で採取され、そのままあるいは各種の加工を経て別の化合物として、肥料、食品添加物、火薬などさまざまな用途に使われる。

生物にとっての必須元素であり、神経伝達で重要な役割を果たす。人体では8番目もしくは9番目に多く含まれる。植物の生育にも欠かせないため、肥料3要素の一つに数えられる。



目次 [非表示]
1 単体の特徴 1.1 物理的性質
1.2 化学的性質

2 同位体
3 産出
4 商業生産
5 生理作用 5.1 神経伝達
5.2 摂取
5.3 医学的なサプリメントと病気

6 用途 6.1 肥料
6.2 食品
6.3 工業 6.3.1 反応試薬
6.3.2 化学分析

6.4 同位体の用途

7 歴史
8 危険性
9 出典
10 参考文献
11 関連項目
12 外部リンク


単体の特徴[編集]





カリウムの炎色反応
物理的性質[編集]

銀白色の金属で、常温・常圧で安定な結晶構造は体心立方構造 (BCC) である[1]。比重は0.86で水より軽く、リチウムに次いで2番目に比重の軽い金属である。融点は 63.7 °C、沸点は 774 °C[1]。ナイフで簡単に切れる軟らかい金属である。

カリウムの電子配置は[Ar] 4s1であり、電子を1つ失うことで非常に安定なアルゴンと同じ希ガス型の電子配置となる。そのため、カリウムの第1イオン化エネルギーは 418.8 kJ/mol と非常に低く、容易に電子を1つ失いK+の陽イオンとなる。対照的に、電子を2個失えば安定な希ガス型の電子配置が崩れるため、第2イオン化エネルギーは 3052 kJ/mol と非常に高く[2]、+2価の酸化状態の化合物は容易には形成されない[3]。このようにカリウムは1価の陽イオンに非常になりやすい性質を有しているが、アルカリドイオンの K− も知られている[3]。

炎色反応において、カリウムとその化合物は淡紫色を呈する。主要な輝線は波長 404.5 nm の紫色のスペクトル線および、波長 769.9 nm と 766.5 nm の赤色の対となったスペクトル線(双子線)である[4]。ナトリウムと共存していると、ナトリウムの強い黄色の発色によって覆い隠されることもあるが、コバルトガラスを使うことでこのナトリウムの強く黄色い炎色を除去することができる[5]。

化学的性質[編集]

アルカリ金属類の窒素以外の試薬に対する反応性は電気陰性度が低いほど高くなるため、カリウムは、より電気陰性度の大きいリチウム、ナトリウムよりも反応性が高く、より電気陰性度の小さいルビジウム、セシウムよりは反応性が低い[6]。切断してすぐのカリウムの断面は銀色の外観をしているが、空気によってただちに酸化されて灰色へと変色していく[7]。

水、ハロゲン元素と激しく発火して反応する。高温では水素とも反応し水素化カリウムを生成する[8]。カリウムと水との反応においては、反応によって水素が発生し、さらに発生した水素が引火するに足る反応熱を生じるため爆発の危険がある[9]。その上、水素の燃焼によって生じた水が残ったカリウムと再び反応して水素をさらに発生させるため、金属カリウムが消費され尽くすまでこの反応は進行し続ける[10]。このカリウムの性質は、金属カリウムやナトリウム-カリウム合金として、蒸留前に溶媒を乾燥させるための強力な乾燥剤として利用される[10][11]。空気中においても酸素との接触により反応熱で自然発火することもある[12]。そのため金属カリウムの保管は空気や水から遮断する必要があり、他のアルカリ金属と同様に鉱油やケロシンのようなアルカリ金属類と直接反応をしない炭化水素中やアルゴンで満たしたガラスアンプル中などで保管される[13]。アルコールとも反応してアルコキシドを生成する[14]。カリウムは液体アンモニアに対する溶解度が非常に高く、0 °C で 1000 g のアンモニアに対して 480 g のカリウムが溶解する。その溶液は黄みがかった青色であり、その電気伝導度は液体金属に類似している。純粋な液体アンモニアに対しては、徐々に反応してKNH2を形成するが、微量の遷移金属元素の塩が存在していると反応が加速される[15]。

カリウムの化合物は、K+ イオンの水和エネルギーの高さのため水に対する溶解性が非常に高く、従ってカリウムイオンを沈降分離させることは困難である。考えられる沈降方法としては、テトラフェニルホウ酸ナトリウムやヘキサクロロ白金(IV)酸、亜硝酸コバルチナトリウムとの反応が挙げられる[10]。

溶液中のカリウム濃度は、一般にフレーム測光法(英語版)や原子吸光分析、イオンクロマトグラフィーによって測定される[16][17]。誘導結合プラズマ発光分光分析[18]、イオン選択電極(英語版)なども利用される。イオン選択電極を用いて測定する場合には、イオン選択電極において通常用いられる塩化カリウムを用いた塩橋を使用すると、塩橋からのカリウムイオンの混入により分析誤差が生じるため、カリウムを分析する際には硝酸アンモニウムなどが用いられる[19]。また、カリウムは非常にイオン化しやすいため、原子吸光分析を行う際に他の共存元素のイオン化平衡に干渉(イオン化干渉)して、他の元素の測定値に影響を与える[20]。

同位体[編集]

詳細は「カリウムの同位体」を参照

カリウムは宇宙において、より軽い元素から合成される(元素合成)。カリウムの安定同位体は、超新星においてより軽い元素が急速に中性子捕獲することによってR過程を経由して形成される(超新星元素合成)[21]。

カリウムには24種類の同位体が存在することが知られている。これらの内、自然に産出するものはカリウム39 (93.3%)、カリウム40 (0.0117%)、カリウム41 (6.7%) の3つである。





カリウム40の崩壊
これらのうち、質量数40のカリウム40は放射性同位体である。半減期はおよそ12.5億年である[22]ため、地球創生時にとりこまれたものが未だに自然界に残存している(元をただせば超新星爆発で核反応がおこって生成・放出されたものとされる)。カリウム40の内11.2%は、電子捕獲もしくは陽電子放出(β+崩壊)によってアルゴン40へと崩壊し、88.8%は陰電子崩壊(β− 崩壊)によって非放射性の安定同位体であるカルシウム40となる[22]。大気中に存在するアルゴンの多くの部分は、このカリウム40の崩壊により生成したものだと考えられている。また、大気中のアルゴン40の一部は宇宙線(太陽からの放射線)と反応することによりカリウム40となる。このためカリウム40は炭素14とともに常時生成されている。

カリウム40は、カリウムが商用の代用塩として大量に用いられるほどに自然界から十分な量が産出し、教室での実演のための放射線源に用いられる。このようにカリウムは大量に存在する上に生体に含まれる量も多いため、健康な動物や人間にとって炭素14よりも大きな最大の内部被曝源である。70 kg の体重の人間において、1秒間にカリウム40はおよそ4,400個崩壊する[23]。天然カリウムの活性は 31 Bq/g である[24]。

産出[編集]





カリウムを含んでいる長石(花崗岩などの主成分)
単体のカリウムは、カリウムのその強い反応性のために自然中からは産出しない[10]。カリウムは様々な化合物として地殻のおよそ2.6%を占めており、地殻の2.8%を占めるナトリウムに次いで地殻中で7番目に存在量の多い元素である(地殻中の元素の存在度も参照)[25]。例えば花崗岩はカリウムをおおよそ5%と、地殻の平均量以上を含んでいる。金属カリウムは非常に電気的に陽性であり(電気陰性度)、また非常に反応性が高いため、鉱石から直接生産することは難しい[7]。

工業原料としてのカリウム資源はほぼすべて塩化カリウムの形で採取される。年間生産量は3500万トン(K2O 換算、2008年)である[26]。2008年において、主な産地はカナダ (30.0%)、ロシア連邦 (19.2%)、ベラルーシ (14.2%)[26]。推定埋蔵量は K2O 換算でおよそ180億トン[26]。カリウムは植物の成長に必須であるため、塩化カリウムの90%以上はそのまま、もしくは硫酸カリウムの形で肥料(カリ肥料)として用いられる[27]。残りは水酸化カリウムを経由して、炭酸カリウムとなる。

商業生産[編集]





ニューメキシコで産出したシルバイト(英語版)
純粋なカリウム金属は水酸化カリウムの電気分解という、19世紀初期にハンフリー・デービーがカリウムを単離した方法とほぼ同じプロセスで単離することができる[7]。この電気分解による製法は1920年代に開発され産業規模で用いられていたものの、金属ナトリウムと塩化カリウムを化学平衡を利用して反応させることによる熱的方法が1950年代には主流となった。この方法は反応時間および反応に用いるナトリウムの量を変えることでナトリウム-カリウム合金も生産することができる。フッ化カリウムと炭化カルシウムの反応を利用するグリースハイマー法もまた、カリウムの生産に利用される[28][29]。
Na + KCl → NaCl + K (熱的方法)2 KF + CaC2 → 2 K + CaF2 + 2 C (グリースハイマー法)
また、カーナライトやラングバイナイト(英語版)、ポリハライト(英語版)、カリ岩塩(英語版)などカリウム含有量が非常に高い鉱石を用いて、商業生産できる規模のカリウム塩類を抽出することも出来る。[28]。世界における主要なカリウムの供給源はカナダ、ロシア、ベラルーシ、ドイツ、イスラエル、アメリカ、ヨルダンだが、他にも世界中の様々な場所で採掘されている[30]。カナダの行政区、サスカチュワン州の地下3,000フィートには、地球上で最大のカリウム鉱床が発見されている。サスカチュワンでは大規模な鉱山が1960年代から操業しており、ブレアモア(英語版)地層において、鉱山に縦穴貫通孔を通すために湿った砂を凍らせる手法を開発した。サスカチュワンの主なカリウム採掘会社としてポタッシュ・コープ(英語版)がある[31]。

海はもう一つの主要なカリウム源であるが、単位量当たりのカリウム含有量は 0.39 g/L とナトリウムが 10.8 g/L であるのと比べて非常に低い[32][33][34]。これはカリウムが土壌に吸着されやすく、また植物によって吸収されるためである[35]。





カリウム鉱山の採掘の結果生じた、主として塩化ナトリウムからなるボタ山(ドイツ)
色々な方法でカリウム塩類をナトリウムおよびマグネシウム化合物から分離し、それによって生じたナトリウムやマグネシウムの副産物は地下に保存されるかボタ山に積み上げられる。採掘されたカリウム鉱石の大部分は処理されて最終的に塩化カリウムとなる。塩化カリウムは鉱山産業において、カリ (potash)、カリの塩 (muriate of potash) もしくは単純に MOP と呼ばれる[28]。

試薬グレードの金属カリウムは、1ポンドあたりおよそ10ドル(1キロあたり22ドル)で売られている。純度の低いものは相応に安く販売される。カリウム金属市場は、金属カリウムの長期保管が困難であるために不安定である。金属カリウムは、その表面で超酸化カリウムが形成されないように乾燥した不活性ガスもしくは無水の鉱油中で保存しなければならない。この超酸化物は引っ掻かれた際に爆発を起こす、感圧性の爆薬である。超酸化物の形成が引き起こす爆発は、時に消火の難しい火災を引き起こす。[36]。

キログラム単位よりも多い量のカリウムは1キロあたり700ドルと、非常に大きなコストが生じる。これは危険物の輸送に必要なコストのためである[37]。

生理作用[編集]

カリウムは人体で8番目もしくは9番目に多く含まれる元素であり、体重のおよそ0.2%を占めている(すなわち、60 kg の成人ではおよそ 120 g のカリウムが含まれる)[38]。これは硫黄や塩素と同程度の含有量であり、主要なミネラルでカリウムより多く含まれているのはカルシウムとリンのみである[39]。

神経伝達[編集]





ナトリウム-カリウムポンプによるイオンの輸送
詳細は「イオンチャネル」、「膜電位」、および「活動電位」を参照

カリウムは人体に不可欠の電解質であり、脳および神経などにおけるニューロンの情報伝達に重要な役割を果たしている。カリウムはイオン(陽イオン)として主に細胞内に分布しており、その濃度は細胞内液が 100–150 mmol/L と高濃度に保たれているのに対し、細胞外液の濃度は 3.5–4.5 mmol/L 程度と非常に小さく保たれている。これは、いわゆるナトリウム-カリウムイオンポンプの働きによるものである[40]。このイオンポンプは、アデノシン三リン酸 (ATP) を1個消費して、ナトリウムイオン3個を細胞外へと運び出し、カリウムイオン2個を細胞内へと運び込む。このイオンポンプの働きによって細胞の内外にイオン濃度差が生じ、細胞膜上に電気的な勾配を発生させる。この電気勾配は通常時は静止電位と呼ばれる値に保たれているが、カリウムイオンチャネルが開くとカリウムイオン濃度の高い細胞内からカリウムイオン濃度の低い細胞外へと濃度勾配の方向にカリウムイオンが移動し、また、ナトリウムイオンチャネルが開くと、同様にナトリウム濃度の高い細胞外からナトリウムイオン濃度の低い細胞内へとナトリウムイオンが移動する。カリウムイオンはナトリウムイオンよりもイオン半径が大きく、その違いによって細胞膜のイオンポンプおよびイオンチャネルはこれらを区別することができ、一方を通過させてもう一方を通過させないように選択的に機能することが可能である[41]。このイオンチャネルの開閉による細胞内外のイオン濃度のバランスの変化によって膜電位(細胞外に対する細胞内電位)が変化し、それによって活動電位が発生(いわゆる「点火」)する。この活動電位が伝導することで情報が伝達されていく。活動電位が生じて細胞膜が脱分極(ナトリウムイオンの移動によって正の膜電位が発生)している場合には、カリウムイオンチャネルが開くことで再分極(膜電位が静止電位に戻る)させることになる。

また、右心房にある洞房結節から発生する活動電位によって心拍の調節が行われているが、そのためには適切なカリウムイオン濃度が必要である。静脈注射、あるいは何らかの異常によりカリウムイオンの血中濃度が過剰になる高カリウム血症となった場合、洞房結節のペースメーキングに変調を生じさせ、致命的な不整脈を引き起こしたり、心停止に至ることもある。また、心臓等の外科手術で心停止が必要な場合には塩化カリウムが用いられ、塩化カリウムはアメリカにおいて薬殺刑にも用いられる[42]。

カリウムイオンチャネルの KirBac3.1 の解析によって、これに含まれる5本のイオンチャネル (KcsA, KirBac1.1, KirBac3.1, KvAP, MthK) は全て原核生物に由来していることが明らかにされている[43]。

摂取[編集]

経口の場合では吸収は緩やかであり、全身の細胞で速やかに取り込まれることと、過剰分は腎臓での K+ 調節機能により排泄されるので、細胞外液中濃度は常に低レベルに維持される。一日の所要量は約 0.8–1.6 g とされる[44]。2010年5月の厚生労働省「日本人の食事摂取基準」で目安量は男性 2,500 mg/日、女性 2,000 mg/日と勧告されている[44]が、アメリカ、イギリスでは生活習慣病予防の観点から、男女ともに4,700 mg/日(目安量)、3,500mg/日(推奨量)を推奨している[44]。1981年に発表されたモネル・ケミカル・センシズ・センターの研究員が行ったアルカリ金属のハロゲン化物に対する味覚調査によると、臭化カリウムおよび塩化カリウムの溶液に対する味覚は、濃度が希薄な状態では苦味が強いが、濃くなるほど苦味が弱まって塩味が強くなる傾向が示された[45][46]。

植物、動物の細胞全てに豊富に含まれているため、生命を維持するために必要なカリウムの摂取量は、様々な食品を食べることで通常は十分に賄われる。そのため、カリウムの血中濃度の低下によるカリウム欠乏症の徴候や症状などがはっきりとするようなケースは健康な個人においては希である[44]。カリウムの豊富な食品として、パセリや乾燥させたアンズ、粉ミルク、チョコレート、木の実(特にアーモンドとピスタチオ)、ジャガイモ、タケノコ、バナナ、アボカド、ダイズ、糠などに特に多く含まれるが、大部分の果実、野菜、肉、魚において人体に十分な量が含まれている[47]。

高血圧についての疫学的研究および動物実験の結果、カリウム含有量の高い食品の摂取によって高血圧のリスクを低減できることが示され、高血圧を原因としない場合の脳卒中についてもおそらくは低減される。また、ラットにおいて、カリウムの欠乏はチアミン(ビタミンB1)摂取量の不足と複合することで心臓病に罹患することが示された[48]。そのため、カリウムの摂取制限における最適摂取量に関していくつかの議論が存在する。例えば、2004年にアメリカ医学研究所はカリウムの食事摂取量基準(英語版)を4,000 mg (100 mEq) と指定したが、大部分のアメリカ人の一日のカリウム摂取量はその半分でしかなく、この基準では大部分のアメリカ人が正式にはカリウムの摂取が不十分であると考えられる[49]。同様に欧州連合、特にドイツとイタリアにおいても、カリウム摂取量の不足はいくぶん一般的である[50]。2011年のイタリアの研究者のメタアナリシスに基づく報告によると、一日に 1.46 g 以上カリウムを摂取することで脳卒中のリスクを21%低減させるとされる[51]。

医学的なサプリメントと病気[編集]

医薬品におけるカリウムのサプリメントはループ利尿薬やサイアザイド利尿薬(英語版)と併用して広く使われている。これは、利尿剤がその薬効として尿によって体内からナトリウムと水を排出するが、その副作用としてカリウムも尿と共に排出されてしまうため、その失われたカリウムを補給することを目的としている。典型的な医薬用サプリメントは、一回につき 10 mg 当量(400 mg、およそカップ一杯の牛乳や6オンスのオレンジジュースに含まれるカリウムと同じ量)から 20 mg 当量 (800 mg) の範囲で服用される。サプリメントのカリウム濃度が非常に高濃度になるとカリウムイオンが細胞組織を殺してしまい、また胃や腸の粘膜も傷付けるため、高濃度のカリウムがゆっくりと浸出するようなタブレットやカプセルの形でも用いられる。このような理由により、アメリカの法律では処方箋の不要なカリウム錠はそのカリウムの含有量が 99 mg までに規制されている。

非医薬的用途としてもカリウムのサプリメントは利用されている。塩化カリウムのようなカリウム塩は水によく溶けるものの、濃度の高い溶液では前述のように苦味と塩味を刺激するため、高濃度のカリウムが含まれるようなサプリメント飲料にとって障害となることがある。そのため、このようなサプリメント飲料の口当たりをよくする研究が行われている[52][53]。

前述のようにカリウムは生体の神経伝達において非常に重要な役割を担っているため、一般的に嘔吐、下痢、多尿症などによって引き起こされる体液中のカリウムの不足は、低カリウム血症として知られている致命的な状態を引き起こすことがある[54]。カリウム欠乏の徴候としては、筋力の低下、イレウス(腸閉塞)、心電図の異常、反射機能の低下が見られ、重度の場合では呼吸困難やアルカローシス、不整脈が見られる[55]。腎臓病の患者においては、逆にカリウムの大量摂取が健康を悪化させることがある。これは、カリウムの排出を腎臓が制御しているためで、腎不全によってこの機能が低下すると摂取したカリウムの排出が困難になり、体内のカリウム濃度が高まることで高カリウム血症が引き起こされ、致命的な不整脈を誘発する危険があるためである[56]。このような腎不全による高カリウム血症の対症療法として、カリウムの摂取制限やカリウムイオン交換樹脂薬の服用などが行われる[57]。

用途[編集]

カリウムはほかの多くの元素と同じように、金属カリウム単体としてよりも、カリウム化合物としての用途のほうが重要である。しかし、同じアルカリ金属であるナトリウムがカリウムとほぼ同じような用途を持つため、より安価なナトリウム塩で代替可能な用途も多くコスト面で劣るカリウムの用途は非常に限られている。例えば、2008年度の水酸化ナトリウムの日本における消費量は986,744トンであるが、同年の水酸化カリウムの日本における消費量は28,044トンでしかない[58]。

肥料[編集]





硫酸カリウムおよび硫酸マグネシウムからなる肥料
カリウムイオンは植物にとって重要な主要栄養元素の一つであり、様々なタイプの土壌に含まれている[59]。近代の高収穫率な農業においては、土壌中のカリウムは自然に供給されるよりも非常に速い割合で消費されるため、肥料としてカリウムを人工的に土壌に補給する必要がある。大部分の種類の農作物に含まれるカリウム量は通常収穫量の0.5%から2%の範囲であり、それだけの量のカリウムが収穫ごとに土壌から持ち出される。カリウム肥料は農業や園芸、水耕栽培などの耕作、栽培において、塩化物 (KCl) や硫酸塩 (K2SO4)、硝酸塩 (KNO3) のような形で利用される。世界で生産されるカリウム製品のおよそ93%(2005年[34])が肥料として消費されており、そのうち90%は塩化カリウムとして供給されている[59]。塩化カリウムはカーナライト (KCl•MgCl2•6H2O) 鉱石などから、塩化カリウムと塩化マグネシウムの溶解度差を利用して水中で分離することによって製造される[60]。塩化物に敏感な作物や、硫黄分を必要とするような作物に対しては硫酸カリウムが用いられる。硫酸カリウムはラングバイナイト(英語版) (MgSO4・KCl・3H2O) やカイナイト(英語版) ((Mg, K)SO4) のような鉱石の複分解によって生産される[61]。硝酸カリウムの肥料としての消費量は非常に少ない[62]。肥料成分の表記は通常、窒素、リン、カリウムの順に示され、カリウム量は K2O として表される[63]。

食品[編集]

前述のように、カリウムイオンは人の生命と健康を支えるのに重要な役目を果たす栄養素である。高血圧を抑えるためにナトリウムの摂取量を制限している人々によって、食塩の代替として塩化カリウムが用いられる(代用塩)。昆布、わかめ、ひじきなどの海藻類に多く含まれる。アメリカ合衆国農務省は、トマトペースト、オレンジジュース、テンサイ、ホワイトビーンズ、ジャガイモ、バナナその他多くのカリウムをよく含む食品をリストアップし、カリウム含有量をランク付けしている[64]。一方で腎臓病の患者にはカリウム摂取制限を行う必要があり、近年は水耕栽培でカリウム含有量を大幅に抑えたレタスなどの生野菜の生産も行われている。

酒石酸カリウムナトリウム(KNaC4H4O6、ロッシェル塩)はベーキングパウダーの主成分であり、鏡に銀メッキをする際にも用いられる。臭素酸カリウムは強力な酸化剤 (E924) であり、パン生地や魚肉練り製品の改良剤として用いられていた[65]。また、亜硫酸水素カリウム (KHSO3) はワインやビールなどの防腐剤として用いられていたが、肉には用いられなかった[66]。亜硫酸水素カリウムは織物や麦わらの漂白剤としてや、皮なめし剤としても用いられていた。

工業[編集]





硝酸コバルトカリウム(コバルト・イエロー)
純粋なカリウム蒸気は数種類の磁気センサに用いられる[67]。また、光電子素子としても用いられる。ナトリウムとカリウムの合金(NaK、ナトリウムカリウム合金)は熱交換媒体として原子炉の冷却材などに低融点合金として用いられる液体であり、希ガスや溶媒からわずかに含まれる二酸化炭素や水、あるいは酸素を高度に除去するための反応剤、乾燥剤としても用いられる。ナトリウムカリウム合金はまた、反応性蒸留(英語版)においても用いられる[68]。ナトリウム、カリウム、セシウムをそれぞれ12%、47%、41%含んだ三元合金は、合金としては最低である融点 −78 °C を持つ[69]。

全てのカリウム化合物は強いイオン性を有しているため、カリウムはしばし有用な陰イオンを保持させるのに用いられ、その一例として、クロム酸カリウム (K2CrO4) がある。クロム酸カリウムは黄色の染料やインク、爆薬や花火、皮なめし剤、ハエ取り紙、安全マッチ[70]など様々な用途に用いられるが、これらはカリウムイオンの特性というよりはむしろクロム酸イオンの特性であり、カリウムイオンはクロム酸イオンを保持する役目を担っている。





水酸化カリウム
水酸化カリウムは強塩基であり、強酸や弱酸を中和してpHをコントロールするために用いられる。また、カリウム塩類の生産や、エステルの加水分解反応、洗剤産業における油脂のけん化などにも用いられる[71]。





硝酸カリウム
硝酸カリウム(KNO3、硝石)は、火薬(黒色火薬)において酸化剤として働き、また肥料としても重要である。歴史的には、チリ硝石の主成分である硝酸ナトリウムに塩化カリウムを反応させる「転化法」と呼ばれる方法によって工業生産されていたが、ハーバー・ボッシュ法による空気から化学的に窒素を固定する手法(化学的窒素固定法)が確立してからは、炭酸カリウムもしくは水酸化カリウムを硝酸に溶解させる方法で作られるようになった[72]。また、グアノや蒸発岩などの天然鉱石からも得られる。





過マンガン酸カリウム
シアン化カリウム(KCN、青酸カリ)は銅や貴金属(特に金や銀)を錯体を形成することによって溶解させる用途に使われ、それらの金属の電鋳や電解めっき、金鉱山の採掘にも用いられる。シアン化カリウムはまた、有機合成においてニトリル類を合成するためにも用いられ、さらには、シアン化銀と共にメッキ浴としても用いられる[73]。シアン化カリウムはこのように多くの用途を有する有用な化合物であるが、生物に対して非常に強い毒性を示す[74]。炭酸カリウム(K2CO3、ポタッシュ)は穏やかな乾燥剤として用いられ、ガラスや石鹸、カラーテレビのブラウン管、蛍光灯、織物の染料や顔料の製造にも利用される。過マンガン酸カリウム (KMnO4) は酸化剤や漂白剤、浄化物質として利用され、サッカリンの製造にも用いられる。塩素酸カリウム (KClO3) はマッチや爆薬に加えられる。臭化カリウム (KBr) は、以前は写真の定着剤や医薬品の鎮静剤として用いられていた[59]。また、フェリシアン化カリウムやフェロシアン化カリウムも写真の作成に利用される。ヘキサフルオロケイ酸カリウム (K2SiF6) は琺瑯や陶器の釉薬、特殊ガラスなどの用途に利用される。ヨウ化カリウム (KI) は殺菌消毒薬などに使われる。

超酸化カリウムは橙色固体であり、持ち運び可能な酸素源として自給式ガスマスクに用いられる。気体の酸素よりも少ない容積しか占有しないため、鉱山や潜水艦、宇宙船において呼吸のための酸素供給システムとしても広く用いられている[75][76]。また、過酸化カリウムは二酸化炭素吸収剤として利用される。
4 KO2 + 2 CO2 → 2 K2CO3 + 3 O2↑
硝酸コバルトカリウム(英語版) (K3[Co(NO2)6]) はオーレオリンもしくはコバルトイエローと呼ばれる色の絵の具として用いられる[77]。

反応試薬[編集]

カリウムアミドは、強い求核性を有するアミドアニオン (NH2+) 源として芳香族求核置換反応などに利用される強塩基性の化合物であり、液体アンモニアにカリウムを反応させることで得られる[78]。また、有機金属化合物であるアルキル化カリウムは、しばし反応の中間体として利用されている。しかし、単離されたアルカリ金属のアルキル化合物は少なく、その例外的なものとしてメチルカリウム (CH3K) がある。これはメチル水銀とナトリウム-カリウム合金との反応によって得られ、副生成物としてナトリウムアマルガムが形成される。カリウムの金属有機化合物はイオン性物質であるため炭化水素などの有機溶媒への溶解性はそれほど高くない。また、反応性が強く空気中で発火し、水と激しく反応する[79]。カリウムのアルコキシドは強塩基性の求核剤としてハロアルカンの脱離反応などに利用される[80]。代表的なものにクライゼン縮合に利用されるカリウム tert-ブトキシドがある。このようなカリウムのアルコキシドは、水素化カリウムもしくは金属カリウムとアルコールとを反応させることによって合成される。水素化カリウムは、アルコールのヒドロキシ基からプロトンを引き抜くことが可能なほどの強力な塩基であり、反応後の副生成物が水素しか発生しない利点を有している[81]。

化学分析[編集]

臭化カリウムは、赤外分光法において分析試料の錠剤を作るためのマトリックスとして用いられる(臭化カリウム錠剤法)[82]。フェリシアン化カリウム(ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム、赤血塩) K3[Fe(CN)6] は、チオクローム法と呼ばれるチアミン(ビタミンB1)の分析において、チアミンを酸化させる酸化剤として用いられる[83]。また、フェリシアン化カリウムはフェロシアン化カリウム(ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム)K4[Fe(CN)6] とともに、鉄イオンの定性分析にも用いられる[84]。二クロム酸カリウム (K2Cr2O7) や過マンガン酸カリウムは、その強い酸化力を利用して酸化還元滴定における1次標準物質として用いられる[85]。

同位体の用途[編集]

前述のカリウム40がアルゴン40へと崩壊する特性は、一般的に岩の放射年代測定に利用されている(カリウム-アルゴン法)。岩石がマグマから形成された時点では岩石中にアルゴン40は含まれていないが、岩石が形成されて以降は岩石中のカリウム40の崩壊によってアルゴン40が生成し岩石中に蓄積されていく。岩石中のアルゴン40の存在量は、岩石が形成されてからの時間に比例して増加していくため、岩石中のカリウム40の濃度と蓄積されたアルゴン40の量を測定することで岩石の年代を推定することができる。年代測定に最も適した鉱石には、白雲母、黒雲母、深成岩/広域変成岩の角閃石や火山岩の長石などがある。火山流や浅い貫入に由来する岩石試料もまた、例えば加熱されて試料中のアルゴンが失われたりするような変化を受けていないそのままの状態の試料であれば、全て年代測定することができる[86][22]。年代測定以外では、カリウムの同位体は風化の研究における放射性トレーサーとして幅広く用いられる。また、カリウムが生命維持のために必要とされる栄養素であるため、生物地球化学的循環の研究にも用いられる。

カリウム40はフェルミ粒子であるので、低温物理学において使われる事がある。2003年には50万個のカリウム40原子を用いてフェルミ凝縮による縮退物を生成することに成功し、2013年には10万個のカリウム40原子を用いて絶対零度を下回る負温度の状態を実現することに初めて成功した[87]。

歴史[編集]





ハンフリー・デービー
カリウムは、草木を焼いた灰として古来から利用されてきたが、これがナトリウム塩とは根本的に異なる物質であるという事は理解されていなかった。元素としてのカリウムや、他の塩類から分離された独立した要素としてのカリウム塩類は古代ローマ時代には知られておらず、元素のラテン語名は古典ラテン語でなく、むしろ新ラテン語であった。ラテン語のカリウムという名称は、アラビア語で「植物の灰」を意味する al -qalyah(アラビア語: القَلْيَه‎)に由来しており、現在元素名として用いられているドイツ語の Kalium は、このラテン語の名称を音訳したものである[13]。似た発音のアルカリとは語源が同じである(より一般的な標準アラビア語においては アラビア語: بوتاسيوم‎ として知られている)。カリウムは、カノのハウサ人による濃青色の織物を生産するために、灰とインディゴ、湯を混ぜ合わせて使われていた秘密の成分であった[88]。

1736年、ゲオルク・シュタールはナトリウムとカリウムの塩の重要な差異について彼が提唱するに至った実験的な徴候を得[89]、1736年、デュアメル・デュ・モンソー(英語版)によってその違いが証明された[90]。1807年、イギリスのハンフリー・デービーが新しく発見されたボルタ電池を用いて、水酸化カリウム(苛性カリ)を電気分解(溶融塩電解)することによって金属カリウムを初めて単離した。この元素は電気分解によって分離された最初の金属であった[91]。デービーはこの元素が草木灰 (potash) に多く含まれることから、「ポタシウム (potassium)」と名付けた[92]。potash は、草木を壺 (pot) で焼いて灰 (ash) とすることから作られた合成語である。植物はほとんどナトリウムを含有しないため potash は主にカリウム塩であり、残りの成分は主に水溶性の低いカルシウム塩である。

その数年後、デービーはカリウムを単離したのと類似した技術によって、植物塩でない、鉱石より誘導された水酸化ナトリウムから金属ナトリウムを単離し、カリウムとナトリウムの元素、塩類が違う物質であることを示した[93][94][94][95]。この単離された金属ナトリウムおよび金属カリウムが共に元素であることが示されたが、この見解が一般に認められるまでには多くの時間がかかった[96]。

カリウム以後、新たに発見された金属元素にはラテン語の派生名詞中性語尾 "-ium" を付ける習慣が一般化した。非金属に -ium がつけられるのはヘリウムだけである。

長い間、カリウムの大きな用途はガラス、石鹸と漂白剤の製造に限られていた[97]。動物性油脂および木炭や植物油から作られるカリウム石鹸は軟石鹸として知られ、非常に水によく溶け柔らかい傾向があり重宝されていた[59][98]。1840年ドイツのユストゥス・フォン・リービッヒによって、カリウムが植物のために必要な元素であり、しかも大部分の土壌においてカリウムが欠乏していることが発見され[99]、カリウム塩類の需要は急激に増加した。モミの木から作られる木の灰がカリウム源として使われていたが、ドイツのシュタースフルト近郊において塩化カリウムを含んだ鉱床が発見され、1868年にドイツでカリウム肥料の工業規模の生産が始まった[100][101][102]。その他のカリウム鉱床は、1960年代までにカナダで大きなものが発見され、主要な生産源となった[103][104]。

危険性[編集]



ファイル:Potassium water 20.theora.ogv



金属カリウムと水との反応。カリウムと水との反応で生じた水素がピンクもしくは薄紫色で燃焼している(この炎色はカリウムの蒸気によるものである)。強アルカリ性の水酸化カリウムは水溶液として生成する。
単体の金属カリウムは消防法第2条第7項及び別表第一第3類1号により第3類危険物に指定されている[105]。

カリウムは水と激しく反応し、水酸化カリウムと水素ガスを発生させる[9]。
2 K (s) + 2 H2O (l) → 2 KOH (aq) + H2↑ (g)
この反応は発熱反応であり、その発熱量は発生した水素を引火させるのに十分な熱量である。そのため、酸素存在下において爆発するおそれがある。また、反応によって生じる水酸化カリウムは皮膚に炎症を起こすほどの強アルカリである。

カリウムの微細粒子は空気中において室温で発火し、加熱されれば塊状金属でも発火する。発火したカリウムに水をかけると、カリウムの比重は 0.89 g/cm3 と水より軽いため、燃焼しているカリウムが水に浮かび大気中の酸素にさらに曝されることになり、また、水とカリウムの反応によって水素と反応熱が生成するため、カリウムによる火災はより一層悪化する。そのため、通常の消火活動ではカリウムによる火に対して、効果がないか悪化させることとなる。カリウムの火の消火には、乾燥した塩化ナトリウム(食卓塩)、炭酸ナトリウム(ソーダ灰)、および二酸化ケイ素(砂)が効果的である。また、金属火災用に設計された一部の粉末消火器や、窒素およびアルゴンも効果的である。

カリウムはハロゲンと激しく反応し、臭素と反応すると爆発する。硫酸ともまた爆発的に反応する。燃焼によってカリウムは過酸化物や超酸化物を形成し、これらは油のような有機物もしくは金属カリウムと激しく反応するかもしれない[106]。

カリウムは空気中の水蒸気と反応するため通常乾燥した鉱油中で保管されるが、リチウムやナトリウムと異なり無期限に鉱油中に保存してはいけない。半年から1年以上保管されると、刺激に敏感な過酸化物が金属カリウム上や保管容器のフタの下に形成され、フタを開けた際に爆発する。そのため、カリウムは酸素を含まない不活性な気体もしくは真空下で保存しない限り、3か月以上は保管しないことが推奨される[107]。

金属カリウムは反応性が非常に高いので、扱う人の皮膚や目を完全に保護し、カリウムとの間に防爆壁を置くことが望ましく、非常に慎重に取り扱わなければならない。

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オクテット則

オクテット則(-そく、Octet rule)は原子の最外殻電子の数が8個あると化合物やイオンが安定に存在するという経験則。オクテット説(-せつ)、八隅説(はちぐうせつ)ともいう。

第二周期の元素や第三周期のアルカリ金属、アルカリ土類金属までにしか適用できないが、多くの有機化合物に適用できる便利な規則である(→18電子則)。ただし、無機化合物を中心とする多くの例外も存在する。

歴史[編集]

1916年にワルター・コッセル(英語版)はボーアの原子模型を元に、希ガス原子と同じ最外核電子が8個の状態が化学的に安定であり、原子はこの電子配置を持とうとしてイオン化するという説を提唱した。

同じ年にギルバート・ルイスはコッセルとは独立に最外殻電子は原子核を中心とする立方体の8つの頂点(オクテットまたは八隅子(はちぐうし))を1つずつ占めようとすると提唱した(実際には1902年にすでにこの考えを示していたという)。そしてその頂点に占める電子の数で原子の化学的性質が決まるとし、周期律を説明した。また、コッセルと同様にすべての頂点に電子がある場合には希ガス原子と同様に原子は化学的に安定となるとした。さらにルイスは、この説を用いて共有結合の説明をした。単結合を作ろうとする2つの原子は立方体の1つの辺を共有し、その両端の頂点にある電子も共有する。二重結合の場合は1つの面を共有し、その頂点の4つの電子を共有する。このようにしてメタンの正四面体構造を説明することも可能である。一方でこの説では三重結合の結合の説明が困難であることや単結合が自由に回転できることを説明できないことも述べている。オクテット説はボーアの原子模型の電子が円運動をしているとする仮定と矛盾しており、ルイスはこのことからボーアの考えに否定的であった。

1919年にアーヴィング・ラングミュアは、ルイスの考えに立脚して四面体型の対称性を持つ新しい原子模型を提唱した。

ルイスの考えた立方体型の電子の配置やラングミュアの考えた四面体対称の原子はパウリの排他原理を元にさまざまな化学結合を簡単に矛盾なく説明できる。20世紀に発展した量子力学の詳細な理解とは対照的に直感的な理解をすることができる。その結果、直感的な化学結合論は電子の混成軌道や量子力学を用いた分子軌道などの理論的扱いにも取り入れられている。

アルゴン

アルゴン (英: argon) は原子番号18の元素で、元素記号はArである。周期表において第18族元素 (希ガス) かつ第3周期元素に属す。アルゴンは地球大気中に3番目に多く含まれている気体で、その容量パーセント濃度は0.93 %であり、二酸化炭素 (0.039%) より多く存在している。地球上のアルゴンのほとんどは質量数40のもの (アルゴン40) であり、これは地殻中のカリウム40の崩壊により生成した。一方、宇宙においてはアルゴン36が最も多量に存在し、超新星爆発による元素合成によりつくられた。

「アルゴン」という名はギリシャ語で「怠惰な」「不活発な」を意味する「αργον」という単語に由来する。事実、アルゴンは化学反応をほとんど起こさない元素である。最外殻電子数が8でありオクテット則を満たしているので、アルゴンは安定でほかの元素と結合しにくい。三重点 は83.8058 Kであり、これは1990年国際温度目盛 (ITS-90) の定義定点に採用された。



目次 [非表示]
1 特徴
2 用途
3 歴史
4 化合物
5 同位体
6 出典
7 外部リンク


特徴[編集]





凍結させたアルゴン
希ガスの一つ。常温、常圧で無色、無臭の気体。希ガスのため不活性である。比重は、1.65(-233 ℃ : 固体)、1.39(-186 ℃ : 液体)、空気に対する比重は、1.38。固体での安定構造は、面心立方構造 (FCC)。

空気中(地表)に 0.93% 含まれているのでアルゴンは空気を液化、分留して得ることができる(酸素の沸点が近いので、これとの分離が少々面倒)。

希ガスの中では最も空気中での存在比が大きく、乾燥空気を構成する物質では第2位の酸素の 20.93% についで第3位の 0.93% である。空気中のアルゴンの存在比が希ガス中最も大きいのは、自然界すなわち岩石中に存在していたカリウム 40 の一部(11%)が電子捕獲によってアルゴン 40となったためである。このため地球および火星など岩石惑星大気中ではアルゴン 40の同位体比が圧倒的に大きいのに対し、太陽大気中ではアルゴン 36の同位体が大部分を占める[2]。第4位は二酸化炭素だが、2008年現在得られる資料では 0.038% であり3位との差は大きい。

用途[編集]
アルゴンは、水銀灯、蛍光灯、電球、真空管等の封入ガス、アルゴンレーザー、アーク溶接時の保護ガス、チタン精練、チタン入りろう材による加工、食品の酸化防止のための充填ガスなどに利用される。
分析化学の分野ではICP(誘導結合プラズマ)のプラズマ用ガスや、ガスクロマトグラフィーを行う際の移動相として利用する。
テクニカルダイビングにおいて、ドライスーツ用ガスや混合ガスとして使用される。
岩石の年代測定にカリウム・アルゴン(K-Ar)法として用いられ、岩石が最後の加熱を受けてからの年代を求める事が出来る。数千万年前から数十億年前という幅広い年代の推定が可能。

アルゴンの2004年度日本国内生産量は219,461 km3、工業消費量は38,348 km3である。近年の需要に対応して、2005年に日本工業規格 (K1105) が改正され、純度が高められた。

歴史[編集]

1892年にレイリー卿(ジョン・ウィリアム・ストラット)が大気分析の過程で未知の気体に気づき、1894年にウィリアム・ラムゼーと共にその正体がアルゴンであることを突き止めた[3]。しかし、その100年も前に、ヘンリー・キャヴェンディッシュが存在に気がついていたと言われている。なお、1904年にレイリー卿は「気体の密度に関する研究、およびこの研究により成されたアルゴンの発見」よりノーベル物理学賞を、ウィリアム・ラムゼーは「空気中の希ガス元素の発見と周期律におけるその位置の決定」によりノーベル化学賞を、それぞれ授与された。

アルゴンという名称はギリシャ語で「不活発、不活性」という意味の「αργόν」に由来する。「働く」という意味の「εργον」に「αν」をつけた「αν εργον」(働かない)が語源とする説もある。また、ギリシャ語で「怠け者」という意味の「αργος」が語源とする説もある。

化合物[編集]

アルゴンは単原子でオクテット則を満たしていることから、他の原子と結合した化合物は長い間知られていなかった。2000年、フィンランドの研究者により初のアルゴン化合物、アルゴンフッ素水素化物 (HArF) の合成が発表された。これは、アルゴンとフッ化水素、ヨウ化セシウムを混合して 7.5 K で紫外線照射することにより合成された[4]。

同位体[編集]

詳細は「アルゴンの同位体」を参照

出典[編集]

1.^ Magnetic susceptibility of the elements and inorganic compounds, in Handbook of Chemistry and Physics 81st edition, CRC press.
2.^ 小嶋稔 『地球物理概論』 東京大学出版会、1990年
3.^ 桜井 弘 『元素111の新知識』 講談社、1998年、109頁。ISBN 4-06-257192-7。
4.^ Khriachtchev, L.; Pettersson, M.; Runeberg, N.; Lundell, J.; Räsänen, M. Nature, 2000, 406, 874-876. DOI: 10.1038/35022551

塩素

塩素(えんそ、英: chlorine)は原子番号17の元素。元素記号は Cl。ハロゲン元素の一つ。

一般に「塩素」という場合は、塩素の単体である塩素分子(Cl2、二塩素、塩素ガス)を示すことが多い。ここでも合わせて述べる。塩素分子は常温常圧では特有の臭いを持つ黄緑色の気体で、毒性と腐食性を持つ。



目次 [非表示]
1 性質
2 地球上の塩素の存在
3 生産
4 人体・環境への影響 4.1 消毒
4.2 単体の毒性
4.3 オゾン層への影響

5 歴史
6 塩素の化合物 6.1 塩素のオキソ酸

7 同位体
8 出典
9 参考文献
10 関連項目
11 外部リンク


性質[編集]

塩素原子の電子親和力は非常に大きく、通常イオン化する際は1価の陰イオンとなる。EA = 3.617 eV[2]

単体(塩素ガス)は、常温常圧では特有の臭いを有する黄緑色の気体。融点-101 °C、沸点-34.1 °C、比重2.49。非常に反応性が高く、多くの金属や有機物と反応し塩化物を形成する。

強い漂白・殺菌作用をもつため、パルプや衣類の漂白剤や、水道水やプールの殺菌剤として使用される。ただし、気体を扱うのは困難であり、また保存性の点から水酸化ナトリウム水溶液と反応させた次亜塩素酸ナトリウムの形で利用されることが多い[3]。

地球上の塩素の存在[編集]

地球上において、92ある天然元素のうち18番目に多く存在し、鉱物やイオン、気体などとしてマントルに99.6 %、地殻に0.3 %、海水に0.1 %が保有されている[4]。
マントル - アルステア・キャメロンによる隕石の分析で、ケイ素10,000原子に対し塩素190原子が含まれていると考えられていることから、地球の質量約6,000 Ygに対し22 Yg (22×1024 g) の塩素が存在すると推測される。
地殻 - 塩素が地殻の総重量の0.19 %を占めると考えられていることから、約60 Zg (60×1021 g) の塩素が地殻に存在すると推測される。火山噴火により毎年0.4 - 11 Tg (0.4 - 11×1012 g) の塩素が主に塩化水素の形で対流圏に放出され、その大部分が地表や海洋に降下する。
海水 - 約1.36×108 km3の海水の総量のうち平均塩素濃度19.354 g/kgであることから、26 Zgが主に塩化ナトリウムとして存在すると推測される。海面上で生じる波により、年間6 - 18 Pg (6 - 18×1015 g) が大気中に放出される。大部分が海洋に戻るが、一部は揮発性塩素となる。
河川水・湖水 - 河川・湖の水の総量は約1×105 km3であり、河川水には約5.8 mg/L含まれていることから、河川・湖水総量に対し580 Tgが含まれていると推測される。
地下水 - 帯水層および土壌中の地下水は地球の水量のおよそ8 %であり、標準的塩素濃度が40 mg/Lであることから、地下水中の塩素含有総量は320 Pgと推測される。
雪氷圏 - 極地や大陸の氷原には、0.5 Gg (0.5×109 g) の塩素が存在すると推測される。
対流圏 - 大気中では主に塩化水素やクロロメタンの状態で存在し、塩化水素は地表近くでは100 - 300 pptv(1 pptvは1兆分の1)、都市部の高濃度域では3,000 pptvが測定される。クロロメタンや、より高層の塩化水素、海水からのエアロゾルなどを含めると、5.3 Tgが存在していると推測される。対流圏から成層圏へは年間約0.03 Tgが放出され、成層圏から対流圏へもほぼ同量が移動する。
成層圏 - 成層圏には約3 pptvの塩素が含まれ、約0.4 Tgの塩素が存在すると推測される。

生産[編集]

現在では一般的に塩化ナトリウム水溶液からイオン交換と電気分解とを併用するイオン交換膜法によって水酸化ナトリウムと共に生産される[5]。塩素ガスの2008年度日本国内生産量は3,911,492トン、消費量は3,497,936トン、液体塩素の2008年度日本国内生産量は519,817トン、消費量は243,098トンである[6]。高圧ガス保安法に基づく容器保安規則により、黄色いボンベに保管するように決められている[7]。また液化塩素専用タンク車のタキ5450形も塗装は黄色である。

塩酸やクロロホルムなど各種塩化物の原料、ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデンなどの合成樹脂原料として多方面で使用されるほか、合成中間体としてシリコーンやポリウレタン、各種ポリマーなど塩素を含まない製品の製造にも用いられる[8]。

人体・環境への影響[編集]

消毒[編集]

塩素は水道水の消毒に使用されており、水道法の規定で、各家庭の蛇口で1リットル当たり0.1 mg以上の濃度を保つように規定されている。一方、有機物と塩素が反応することにより、塩素臭(カルキ臭)が発生するほか[9]発癌性が疑われるトリハロメタンを生成するといわれ、同様に塩素で汚水処理を行うと水路に塩素化有機物が流れ出てしまうのではないかという懸念の声もある。ただし、コレラなどの病気がほとんどの国で駆逐されたのは塩素を含んだ水道水のおかげでもある。近年は水道水の高度処理が進み、塩素臭は以前に比べて弱まっている[9]。

単体の毒性[編集]

塩素は強い毒性を持つ為、人類初の本格的な化学兵器としても使われた。第一次世界大戦中の1915年4月22日、イープル戦線でのことである。この時にドイツ軍の化学兵器部隊の司令官を務めていたのは後年(1918年)ノーベル化学賞を受賞するフリッツ・ハーバーである。

塩素を吸引するとまず呼吸器に損傷を与える。空気中である程度以上の濃度では、皮膚の粘膜を強く刺激する。目や呼吸器の粘膜を刺激して咳や嘔吐を催し、重大な場合には呼吸不全で死に至る場合もある。液体塩素の場合には、塩素に直接触れた部分が炎症を起こす。

塩素を浴びてしまった場合、直ちにその場から離れ、着ていた衣服を脱ぎ、毛布に包まるなどして体を温めなければならない。直ちに医療機関での処置を要する。呼吸が停止している場合には一刻も早く人工呼吸による蘇生を行わなければならない。呼吸が苦しい場合には酸素マスクの着用を要する。

特に塩素を含む漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)と酸性の物質(主にトイレ用の洗剤)を混合すると、有毒な単体の塩素ガスが遊離し危険な状態となる。このため、漂白剤や酸性のトイレ用の洗剤には「混ぜるな危険」との大きく目立つ表示がある(しかしこれだけの表示では、具体的に何と混ぜると危険なのかが示されていない)。このような表示がされる前(当時も小さな注意書き自体は存在した)には1986年には徳島県で、1989年には長野県で、実際に塩素系漂白剤と酸性洗浄剤を混ぜたことにより、塩素ガスが発生し死亡した事故が起こっている。

オゾン層への影響[編集]

「一酸化塩素」も参照

塩素はオゾンホールの原因物質としても指摘されている。フロンなどの塩素原子を含む化合物が紫外線に当たると、結合が切断され塩素ラジカルが生じる。塩素ラジカルは周囲のオゾンと反応して触媒的にオゾンを酸素分子へと分解するため、オゾン層の破壊効果が大きい。

歴史[編集]

1774年にスウェーデンのカール・ヴィルヘルム・シェーレが、海塩酸(塩酸)と二酸化マンガンを加熱させることによって単体を分離し、「脱フロギストン海塩酸気」と命名。1810年にハンフリー・デービーが元素であると認め、気体が黄緑色である点から、ギリシャ語で「黄緑色」を意味する χλωρος (Chloros) を取って chlorine と命名した。日本語に直訳すれば緑気(りょっき)である。

日本語の「塩素」は、食塩の主成分である点による命名である。

塩素の化合物[編集]

塩化物イオンあるいは置換基として塩素を含む化合物は塩化物あるいは塩素化合物と呼ばれる。塩素はほとんどすべての元素と安定な化合物を形成し、また有機化合物にも塩素を含むものが多く知られている(記事 塩化物に詳しい)。個々の化合物については、「塩化物のカテゴリ」及び「有機ハロゲン化合物のカテゴリ」を参照されたい。

有機塩素化合物は、安定で、かつ安価に合成できるために、クロロホルムやジクロロメタンのような代表的な有機溶媒として、あるいはポリ塩化ビニルなどのプラスチックとして、大量に生産・使用されている。

反面、多くは毒性を持ち、環境中に放出された際に化学分解され難い点、更に焼却時にはダイオキシンを発生する点から、法令等で規制されている物質も多い。

塩素のオキソ酸[編集]

塩素のオキソ酸は慣用名をもつ。次にそれらを挙げる。


オキソ酸の名称

化学式(酸化数)

オキソ酸塩の名称

備考

次亜塩素酸
(hypochlorous acid) HClO (+I) 次亜塩素酸塩
( - hypochlorite) 次亜塩素酸塩は塩基性を示し、遊離酸よりも安定で漂白剤、殺菌剤として使用される。
亜塩素酸
(chlorous acid) HClO2 (+III) 亜塩素酸塩
( - chlorite) 亜塩素酸は中程度の酸 (pKa 2.31)。亜塩素酸塩は危険物第1類。
塩素酸
(chloric acid) HClO3 (+V) 塩素酸塩
( - chlorate) 塩素酸は強酸。塩素酸塩は危険物第1類でマッチや火薬などの酸化剤として用いられる。
過塩素酸
(perchloric acid) HClO4 (+VII) 過塩素酸塩
( - perchlorate) 過塩素酸は強酸で危険物第6類。過塩素酸塩は危険物第1類。

※オキソ酸塩名称の '-' にはカチオン種の名称が入る。

塩素のオキソ酸はいずれも酸化力が強い。代表的な化合物に次のようなものがある。
次亜塩素酸ナトリウム (NaClO)
さらし粉(CaCl(ClO)•H2O) - 不純物として原料の Ca(OH)2 を含む

同位体[編集]

詳細は「塩素の同位体」を参照

出典[編集]

1.^ Magnetic susceptibility of the elements and inorganic compounds, in Lide, D. R., ed. (2005), CRC Handbook of Chemistry and Physics (86th ed.), Boca Raton (FL): CRC Press, ISBN 0-8493-0486-5
2.^ 日本化学会編 『化学便覧 基礎編 改訂4版』 丸善、1993年
3.^ 『化学大辞典』 共立出版、1993年
4.^ 『塩素白書』p10-21
5.^ F.A. コットン, G. ウィルキンソン著, 中原 勝儼訳 『コットン・ウィルキンソン無機化学』 培風館、1987年
6.^ 化学工業統計月報 - 経済産業省
7.^ 容器保安規則(法令データ提供システム)
8.^ 『塩素白書』p45
9.^ a b 尼崎市水道局

硫黄

硫黄(いおう、英: sulfur, sulphur, 羅: sulphur)は原子番号16の元素。元素記号は S。酸素族元素の一つ。多くの同素体や結晶多形が存在し、融点、密度はそれぞれ異なる。沸点444.674 °C。硫黄の英名 sulphur は、ラテン語で「燃える石」を意味する言葉に語源を持っている[2]。



目次 [非表示]
1 用途
2 同素体
3 性質
4 硫黄の所在・製法 4.1 日本での硫黄の生産

5 硫黄の化合物 5.1 硫黄のオキソ酸
5.2 その他の硫黄化合物
5.3 塩

6 生物における硫黄化合物
7 脚注
8 関連項目
9 参考文献
10 外部リンク


用途[編集]

硫黄から製造される硫酸は化学工業上、最も重要な酸である。一般的に酸として用いられるのは希硫酸、脱水剤や乾燥剤に用いられるのは濃硫酸である。また、種々の硫黄を含んだ化合物が合成されている。

硫黄は黒色火薬の原料であり、合成繊維、医薬品や農薬、また抜染剤などの重要な原料であり、さまざまな分野で硫化物や各種の化合物が構成されている。農家における干し柿、干しイチジクなどの漂白剤には、硫黄を燃やして得る二酸化硫黄が用いられる(燻蒸して行われる)。

ゴムに数%の硫黄を加えて加熱すると(架橋により)弾性が増し、さらに添加量を増やすと硬さを増して行き、最終的にはエボナイトとなる。

また、金属の硫化鉱物は半導体の性質を示すものが多く、シリコン鉱石検波機やゲルマニウムダイオードが実用化される以前は、鉱石検波機の主要部品として重用された。

同素体[編集]





S8硫黄
硫黄は30以上の同素体を形成するが、これは他の元素に比べてもかなり多い[3]。通常、天然に見られる同素体は環状の S8 硫黄である[4]。

常温、常圧で固体である S8 硫黄は3つの結晶形を持つ。
α硫黄(斜方硫黄) - 融点112.8 °C、比重2.07、淡黄色斜方晶
β硫黄(単斜硫黄) - 融点119.6 °C、比重1.96、淡黄色単斜晶
γ硫黄(単斜硫黄) - 融点106.8 °C、比重1.955、淡黄針状晶

いずれも、S8 硫黄を単位構造とする結晶であるが、95.6 °C以下では斜方硫黄が安定であり、それ以上の温度では単斜硫黄系が安定である。また、250 °Cまで加熱すると50万個以上の硫黄原子が繋がった直鎖状硫黄 (Sn) となる。これはゴム状硫黄またはプラスチック硫黄とも 呼ばれる。

性質[編集]





硫黄は融解すると血赤色の液体となり、燃やすと青い炎を上げる
S8 硫黄は融点直上の温度では黄色をしており、粘性も低いが、温度が上昇するにつれて直鎖状硫黄へと変化が進み、159.4 °C以上では暗赤色となり粘性が増大し殆ど流動性を失う。この温度以上では S8 硫黄の環が解裂し、直鎖状のビラジカルが発生し、直鎖状 S16, S24 などのオリゴマー化が進行し直鎖状硫黄 (Sn) が形成され粘性が急速に増大する。さらに加温すると、直鎖状の分子が切れて再び流動性を取り戻し、沸点の444.674 °Cにいたる。暗赤色の150 - 195 °Cの硫黄を冷水に投入すると、褐色を帯びたゴム状硫黄が得られる。鉄分など不純物を含む場合は黒褐色、不純物が微量である(純度が99 %を超える)場合は黄色のゴム状硫黄となるという報告も成されているが[5]、実際の硫黄の研究においては純度99.9999%以上の原料などが用いられており、褐色を帯びるのを単に不純物に帰するのは不正確であると言える。そもそもゴム状硫黄(amorphous sulfur)と呼ばれる物質は高温でS8の環状構造が開裂、様々な長さの鎖状構造や、濃い色を示すS3などの小さな分子の混合体となったものであり、その生成時の加熱温度や冷却速度などにより異なる組成を示す。このため色や粘度、ヤング率などの物理特性は合成条件に大きく依存する。例えば急速圧縮法[6]を利用すると黄色透明なゴム状硫黄が得られるが[7]、これは通常の手法で得られる褐色のゴム状硫黄とは熱力学的な特性が大きく異なるアモルファス相である。つまり、不純物により着色すると言うよりは、「ゴム状硫黄」としてまとめられている不定形化合物には様々なものが存在し、作り方によっては黄色透明な種類のゴム状硫黄も作成可能であったり、不純物の存在によりS8環の開裂や鎖状構造の伸張・再開裂速度が異なり同じ加熱時間でも異なる組成のものが生成する、と捉えた方がよい。 なお、準安定状態であるゴム状硫黄は放置すると斜方硫黄に徐々に変化していく。

他の同素体として、硫黄蒸気の分子量測定から S2, S4, S6, S7 などが存在することが判明している。また、ハッブル宇宙望遠鏡での木星の衛星「イオ」のスペクトル観測では S2, S3, S4 の存在が観測されている。2200 °C以上、低圧下では原子状硫黄が主となる[8]。

また、硫黄の同素体は環状硫黄分子として人為的に合成されてきており、シクロ-S6 を筆頭に、シクロ-S7、シクロ-S9、シクロ-S10、シクロ-S11、シクロ-S12、シクロ-S18、シクロ-S20 等が合成され、X線結晶構造解析でその構造が確認されている。

水には溶けにくいが、二硫化炭素に溶解しやすく、ベンゼンおよびトルエンにも少量溶解する。アルカリ水溶液と加熱すると多硫化物およびチオ硫酸塩を生じて溶解する。金、白金以外の多くの金属と反応して硫化物を形成する。銀や銅とは接触により室温でも反応して黒色の硫化銀や硫化銅を生成する。

シクロ-S6 はアルケンの硫化に用いる際の反応性が S8 硫黄より高いことが知られている。

硫黄の所在・製法[編集]





アトサヌプリの硫黄鉱山跡
天然には数多くの硫黄鉱物(硫化鉱物、硫酸塩鉱物)として産出する。単体でも産出する(自然硫黄)。深海では熱水噴出口付近で鉄などの金属と結合した硫化物や温泉(硫黄泉)では硫黄が昇華した硫黄華や、湯の花としてコロイド状硫黄が見られ、白く濁って見える。そして人体では硫黄を含むシステインや必須アミノ酸のメチオニンとして存在する。

火山性ガスには硫化水素、二酸化硫黄が含まれ、それが冷えると硫黄が析出する。これを応用したのが昇華硫黄(火口硫黄ともいう)であり、噴気孔から石で煙道を造り、内部に適宜石を入れて、この石に昇華した硫黄を付着させる採取法であった。ガスから分離し、煙道内に溜まった硫黄は最初の内は液状であるが、温度の低下に伴い次第に粘度を増してゆき、採取口に近づく頃にはほぼ固化した状態で純度の高い硫黄が得られた。那須岳、十勝岳、九重山などの活火山ではこのような方法で硫黄採掘に従事する鉱山が点在していた。これとは別に、鉱床から得られる硫黄も存在しており、こちらは採掘・選鉱した後、製錬所において焼き釜に鉱石を入れて硫黄分を溶出させていた。
2 H2S + SO2 → 3 S + 2 H2O
単体硫黄を産出することで、古来からイタリアのシチリア島が有名である。また現代ではハーマン・フラッシュが1891年に開発した、165 °Cの過熱水蒸気を鉱床に吹き込み硫黄をガスとして回収するフラッシュ法で、アメリカのテキサス州やルイジアナ州、メキシコ、チリ、南アフリカの鉱山で大量に採掘される[9]。取り出されたガスを冷やすと硫黄が析出する。この方法は、上記の火山性ガスからの硫黄の析出の逆反応である。
3 S + 2 H2O → 2 H2S + SO2(高温で進行)2 H2S + SO2 → 3 S + 2H2O(低温で進行)
この他に、火口湖の湖底から硫黄を採取する方法も取られた。この場合は、湖上に浚渫船を浮かべ、湖底に沈殿している硫黄分を多く含む泥を採取していた。

また石油精製の脱硫による副産物として大量の硫黄が供給されている。石油精製における製法については硫黄回収装置の項に説明されている。

日本での硫黄の生産[編集]





知床硫黄山の噴煙
日本には火山が多く、火口付近に露出する硫黄を露天掘りにより容易に採掘することが可能であることから、古くから硫黄の生産が行われ、8世紀の「続日本紀」には信濃国(長野県米子鉱山)から朝廷へ硫黄の献上があったことが記されている。鉄砲の伝来により火薬の材料として、中世以降は日本各地の硫黄鉱山開発が活発になった。江戸時代には硫黄付け木として火を起こすのに用いられた。明治期の産業革命に至り鉱山開発は本格化する。純度の高い国産硫黄は、マッチ(当時の主要輸出品目)の材料に大量に用いられ、各地の鉱山開発に拍車が掛かった。1889年には知床硫黄山が噴火と共にほぼ純度100 %の溶解硫黄を沢伝いに海まで流出させるほど大量に産出したため、当時未踏の地だった同地に鉱業関係者が殺到したという。

昭和20年代の朝鮮戦争時には「黄色いダイヤ」と呼ばれるほど硫黄価格が高騰し、鉱工業の花形に成長したが、昭和30年代に入ると資源の枯渇に加え、石油の脱硫装置からの硫黄生産が可能となったことで生産方法は一変する。エネルギー転換に加え大気汚染の規制が強化されたことから、石油精製の過程で発生する硫黄の生産も急増し、硫黄の生産者価格の下落が続いた結果、昭和40年代半ばには国内の硫黄鉱山は全て閉山に追い込まれた(岩手県の松尾鉱山など)。現在、国内に流通している硫黄は、全量が脱硫装置起源のものである。

硫黄の化合物[編集]

硫黄のオキソ酸[編集]

詳細は「硫黄のオキソ酸」を参照

硫黄は数種のオキソ酸を作る。最も有名なのものに硫酸 H2SO4 がある。

その他の硫黄化合物[編集]
硫化水素 (H2S)
二酸化硫黄 (SO2)
三酸化硫黄 (SO3)
六フッ化硫黄 (SF6)
二塩化硫黄 (SCl2)
二硫化炭素 (CS2)
有機硫黄化合物

塩[編集]
チオ硫酸ナトリウム(ハイポ) (Na2S2O3)
硫酸バリウム (BaSO4)

生物における硫黄化合物[編集]

硫黄化合物は生物でも不可欠な役割を果たしている。ビタミンB1とB7 (ビオチン、ビタミンHとも) に含まれる。

植物の根では、硫黄は硫酸イオンの形で吸収され、還元されて最終的に硫化水素となってから、システインやその他の有機化合物に取り込まれる。

アミノ酸ではシステインとメチオニンが硫黄を含み、それらがさらにペプチド・蛋白質に取り込まれる。そのほか含硫アミノ酸としてはホモシステインとタウリンがあり、これらはペプチド・蛋白質には取り込まれないが代謝上は重要である。

蛋白質のシステイン残基にあるチオール基は、システインプロテアーゼなどの活性中心として機能する。また1対のシステイン残基の間にジスルフィド結合(S-S結合)が形成され、蛋白質の高次構造(三次構造・四次構造)を形成・維持する上で重要である。顕著な例として、羽毛や毛髪が力学的・化学的に頑丈なのは、主要蛋白質ケラチンに多数の S-S 結合が含まれていることが大きな要因である。これらを燃やしたときの特異なにおい、またゆで卵のにおいも、主に硫黄化合物による。

硫黄を含む低分子ペプチドとして特に重要なのはグルタチオンで、細胞内でそのチオール基により還元剤として、あるいは解毒代謝に働いている。またアシル基に関係した多くの反応は、例えば補酵素A、α-リポ酸などの、チオール基を含む補欠分子を必要とする。

一部の光合成・化学合成細菌では、硫化水素が水の代わりに電子供与体として使われる。多くの生物の電子伝達系で、硫黄と鉄からなる鉄-硫黄クラスターが働いている(フェレドキシンなど)。また呼吸鎖のシトクロムc酸化酵素の銅中心 CuA にも含まれる。

脚注[編集]

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1.^ Magnetic susceptibility of the elements and inorganic compounds, in Handbook of Chemistry and Physics. CRC press. (2000). ISBN 0849304814.
2.^ ロナルド・ルイス・ボネウィッツ著、青木正博訳『ROCK and GEM 岩石と宝石の大図鑑』誠文堂新光社 2007年 120ページ
3.^ Ralf Steudel, Bodo Eckert (2003). “Solid Sulfur Allotropes Sulfur Allotropes”. Topics in Current Chemistry 230: 1–80. doi:10.1007/b12110.
4.^ Steudel, R. (1982). “Homocyclic Sulfur Molecules”. Topics Curr. Chem. 102: 149.
5.^ ゴム状硫黄「黄色」です―17歳が実験、教科書変えた 2009年1月5日閲覧
6.^ S. M. Hong, L. Y. Chen, X. R. Liu, X. H. Wu and L. Su, Rev. Sci. Instrum., 76, 053905 (2005).
7.^ P. Yu, W. H. Wang, R. J. Wang, S. X. Lin, X. R. Liu, S. M. Hong and H. Y. Bai, App. Phys. Lett., 94, 011910 (2009).
8.^ F.A. コットン, G. ウィルキンソン著, 中原 勝儼訳 『コットン・ウィルキンソン無機化学』 培風館、1987年
9.^ 硫黄の主な生産国は、アメリカ、カナダ、ポーランド、フランス、ロシア、メキシコ、日本である

リン

リン(燐、新ラテン語: phosphorus[4])は原子番号15の元素。元素記号は P。窒素族元素の一つ。白リン(黄リン)・赤リン・紫リン・黒リンなどの同素体が存在する。+III(例:六酸化四リンP4O6)、+IV(例:八酸化四リンP4O8)、+V(例:五酸化二リンP2O5)などの酸化数をとる。



目次 [非表示]
1 同素体 1.1 同素体ではないもの

2 反応
3 歴史
4 生化学
5 用途 5.1 規制

6 リンの化合物 6.1 リンのオキソ酸

7 同位体
8 脚注
9 関連項目
10 外部リンク


同素体[編集]

リンは数種類の同素体をもつことが古くから知られている。白リン以外の同素体は、安定でほぼ無毒である。

白リン (P4) は四面体形の分子からなり、比重が1.82、融点が44.1 °C、沸点が280 °Cの、常温常圧で白色ロウ状の固体である。発火点は約60 °Cで些細な事で自然発火するため、水中で保存する。空気中で室温でも徐々に酸化され、熱および青白い光を発する。現在燐光は別の発光現象の意味で用いられているがその語源でもある。ベンゼン、二硫化炭素 (CS2) などの有機溶媒によく溶ける。強い毒性を持ち[5]、にんにくのような臭いがある。

黒リンは比重が2.69の固体である。黄リンを約12000気圧で加圧し、約200 °Cで加熱すると得られる。リンの同素体中で最も安定である。半導体であり鉄灰色の金属光沢をもちβ金属リンともよばれる。空気中ではなかなか発火しない。

紫リンは比重が2.36の固体である。褐色を帯びた暗紫色で金属光沢をもちα金属リンともよばれる。密閉して、黄リンに鉛を加え加熱することで得られる。電気伝導性は小さい。

赤リンは紫リンを主成分とする白リンとの混合体で、融点590 °C、発火点260 °Cの赤褐色の粉末である。二硫化炭素に不溶。マッチの材料に使われる。密閉した容器で黄リンを約250 °Cで加熱すると得られる。

紅リンは比重が1.88の深紅色の粉末である。微細な粒子からなる赤リンと考えられている。

二リン (P2, P≡P) は、リン同士が三重結合して二原子分子になったものである。

同素体ではないもの[編集]

黄リンは同素体とされていたが、黄色は白リンの表面が微量の赤リンの膜で覆われたもので、融点沸点などの物理的性質は白リンに準じ、同素体ではない。リン鉱石(リン酸カルシウム)をケイ砂、コークスと共に混合強熱して得られる淡黄色蝋状固体で、不純物(赤リンなど)を含む粗製白リンであり、19世紀にマッチの材料として使用されたが、自然発火事故や健康被害により20世紀初頭に使用が禁止された。赤リンの乾留でも得られる。

反応[編集]

燃焼すると五酸化二リンが生成する。 
4 P + 5 O2 → P4O10
白リンは強塩基の水溶液と反応するとホスフィンを生成する。
P4 + 4 OH- + 2 H2O → 2 HPO32- + 2 PH3[6]
歴史[編集]

1669年にヘニング・ブラントが錬金術の実験中に、尿を蒸発させた残留物から発見した[7]。ギリシャ語で'光をはこぶもの'という意味の「phosphoros」から命名された。phos が'光'、phoros が'はこぶもの'の意味。

生化学[編集]

生体内では、遺伝情報の要である DNA や RNA のポリリン酸エステル鎖として存在するほか、生体エネルギー代謝に欠かせない ATP、細胞膜の主要な構成要素であるリン脂質など、重要な働きを担う化合物中に存在している。また、脊椎動物ではリン酸カルシウムが骨格の主要構成要素としての役割も持つ。このため、あらゆる生物にとっての必須元素であり、農業においてはリン酸が、カリウム・窒素などとともに肥料の主要成分である。

2010年12月、体内に大量のヒ素を持つ「GFAJ-1」の発見が、NASA 宇宙生物学研究所から発表された。このバクテリアは、リンが不足した環境では代謝系や細胞の構成要素をヒ素で代替している可能性があり、リンを必須としない新しいタイプの生命ではないかと注目されている。

海洋においては浅い地域に多く、元素の中では偏在性が強い。メキシコ、コンゴ、南米付近の海底には大規模なリンの鉱床がある[8]。

用途[編集]

用途としては、化学肥料の原料として使われるものが最も大きい。近年では、過リン酸石灰の生産が落ち込んでいるのに加え、従来の重過リン酸石灰の生産量は減少し、代わりにリン酸アンモニウム肥料がその重要性を増している。リン酸は金属の表面加工や工業用触媒に用いられるほか、食品添加物としてコーラなどにも少量添加されている。

代表的なリン酸の関連化合物の用途については、農薬や殺虫剤としての利用も多く、化学兵器として研究されるほど強力な毒性を持った製品も開発されたが、その多くは使用が中止されている。現在はリン酸エステル系の殺虫剤が主力になっている。

同じくリン酸化合物であるリン酸ナトリウム水溶液は強塩基性を示すため、単独で金属の洗浄剤として使われるほか、次亜塩素酸と混合することで強力な洗剤となるので、三リン酸ナトリウムは洗剤として広く利用されていたが、排水に高濃度のリンが含まれるために微生物の異常な繁殖の原因となり、赤潮などの公害を引き起こした。それゆえ、環境への配慮から日本国内での使用はほとんどなくなってきている。リン酸水素カルシウムは研磨剤として歯磨きなどに含まれ、フッ素を含む歯磨きには二リン酸カルシウムなど、口腔衛生にかかわる場面でもリン酸化合物が数多く配合されている。

そのほかにも、コーンフレークやベーキングパウダー、飼料にもリン酸化合物が含まれるほか、ハムやチーズなどの製造時にも使用されている。燃料の不凍液にリン酸化合物が加えられたり繊維製品の難燃加工にも利用されている。製紙工業では消泡剤として、核燃料の再処理では、ウラン・プルトニウム抽出の際の溶剤としてなど、多様なリン酸化合物が開発され、さまざまな場面で利用がある。

一般的に工業用の材料として使用されるものは、無機被覆または樹脂被覆処理を行った被覆リンとして流通している。被覆されることによって有毒なホスフィンの発生を抑制して自然発火がおきないようにすることで取り扱いを容易にしている。販売されている被覆リンは保存に特別な設備を必要とせず、常温の空気中に保存することが出来る。

潤滑用途では様々な種類のリン系添加剤が使用されており、特に耐摩耗性、極圧性に優れたものが多く存在する。ジチオリン酸亜鉛などは磨耗防止、酸化防止、腐食防止といった機能を持つ多機能添加剤であるため昔から潤滑油用途で多用され、現在でも一般的な4ストローク用エンジンオイルの殆どに添加されている。

2012年、電極の間にリン原子を1個はさむことによって、世界最小のトランジスタの作成に成功した[9]。

規制[編集]

リンは細胞の不可欠な構成要素であるため、環境中に過剰に存在すると、微生物の大量増殖を導いてしまう。赤潮などの公害が多発した1960年代以降、合成洗剤のビルダーとしての使用が禁止されるなどの対策が講じられ、その後も閉鎖性水域を中心に、環境基準の項目として定番となっている。

ガソリンエンジンの排気ガスを浄化する三元触媒はエンジンオイルに含まれるリンによって被毒する。そのためILSACなどのエンジンオイル規格においてリンの含有量規制が存在する。ただしリンは磨耗防止など様々な機能を担っている重要な要素であり、現状では潤滑性能を維持する観点から最低含有量も同時に設定されている。

リンの化合物[編集]
酸化物 十酸化四リン (P4O10) - 組成式 P2O5 より五酸化二リンとも呼ばれる。
八酸化四リン (P4O8)
六酸化四リン (P4O6)

ハロゲン化物 三フッ化リン (PF3)
五フッ化リン (PF5)
三塩化リン (PCl3)
五塩化リン (PCl5)
三臭化リン (PBr3)
五臭化リン (PBr5)
三ヨウ化リン (PI3)

ハロゲン化ホスホリル フッ化ホスホリル (POF3)
塩化ホスホリル (POCl3)
臭化ホスホリル (POBr3)

その他 ホスフィン (PH3)
リン化カルシウム (Ca3P2)
リン酸 (H3PO4) - 生体にとっても重要、核酸を構成する。
リン酸ナトリウム (Na3PO4)
ヘキサフルオロリン酸 (HPF6)


リンのオキソ酸[編集]

リンのオキソ酸は慣用名をもつ。次にそれらを挙げる。


オキソ酸の名称

化学式(酸化数)

オキソ酸塩の名称

備考

ホスフィン酸
(phosphinic acid) HPH2O2
(+I) ホスフィン酸塩
( - phosphinate) 水素原子のうち2個がリンに直接結合しているため、リンの原子価は1価。
ホスホン酸
(phosphonic acid) H2PHO3
(+III) ホスホン酸塩
( - phosphorite) 亜リン酸の互変異性体。水素原子のうち1個がリンに直接結合しているため、リンの原子価は5価。
亜リン酸
(phosphorous acid) H3PO3
(+III) 亜リン酸塩
( - phosphite) 詳しくは亜リン酸、三酸化二リンを参照。
リン酸
(phosphoric acid) H3PO4
(+V) リン酸塩
( - phosphate) 詳しくはリン酸、五酸化二リンを参照。
ペルオキソ一リン酸
(peroxomonophosphoric acid) H3PO5
(+V) ペルオキソ一リン酸塩
( - peroxomonophosphorate) 水溶液としてのみ得られ、強い酸化力がある。

※オキソ酸塩名称の '-' にはカチオン種の名称が入る。

同位体[編集]

詳細は「リンの同位体」を参照

脚注[編集]

1.^ webelements
2.^ Ellis, Bobby D.; MacDonald, Charles L. B. (2006). “Phosphorus(I) Iodide: A Versatile Metathesis Reagent for the Synthesis of Low Oxidation State Phosphorus Compounds”. Inorganic Chemistry 45 (17): 6864. doi:10.1021/ic060186o. PMID 16903744.
3.^ Magnetic susceptibility of the elements and inorganic compounds, in Handbook of Chemistry and Physics 81st edition, CRC press.
4.^ http://www.thefreedictionary.com/Element+15
5.^ PHOSPHORUS (YELLOW) 国際化学物質安全性カード
6.^ アメリカ毒性物質登録管理局 (ATSDR) が 1997年に作成したTOXICOLOGICAL PROFILE FOR WHITE PHOSPHORUSによる。http://www.atsdr.cdc.gov/toxprofiles/tp103.pdf TOXICOLOGICAL PROFILE FOR WHITE PHOSPHORUS
7.^ 桜井 弘 『元素111の新知識』 講談社、1998年、94頁。ISBN 4-06-257192-7。
8.^ 臼井朗「海底鉱物資源」(オーム社)53ページ
9.^ 原子1個のトランジスタ 米豪のチーム成功、世界最小 朝日新聞デジタル

ケイ素

ケイ素(ケイそ、珪素、硅素、英: silicon、羅: silicium)は、原子番号14の元素である。元素記号は Si。「珪素」「硅素」「シリコン」とも表記・呼称される。地球の主要な構成元素のひとつ。半導体部品は非常に重要な用途である。

常温・常圧で安定な結晶構造は、ダイヤモンド構造。比重は2.33、融点1410 °C (1420 °C)、沸点は2600 °C(他に2355 °C、3280 °Cという実験値あり)。ダイヤモンド構造のケイ素は、1.12 eVのバンドギャップ(実験値)をもつ半導体である。これは非金属であるが、圧力(静水圧)を加えるとβスズ構造に構造相転移する。このβスズ構造のケイ素は金属である。周期表においてすぐ上の元素は炭素だが、その常温常圧での安定相であるグラファイト構造は、ケイ素においては安定な構造として存在できない。



目次 [非表示]
1 歴史
2 概要
3 用途 3.1 赤外光学系
3.2 半導体
3.3 ケイ素含有合金
3.4 ケイ素含有セラミックス類

4 ケイ酸塩・ケイ素樹脂
5 製法 5.1 原料
5.2 精製

6 ケイ素化合物
7 同位体
8 脚注
9 参考文献
10 関連項目
11 外部リンク


歴史[編集]

1787年にアントワーヌ・ラヴォワジエがはじめて元素として記載し、ラテン語で「燧石」を意味する "silex"・"silicis" にちなみ "silicon" と命名。だがラヴォワジエは燧石そのものを元素だと思っており、1800年になってハンフリー・デービーにより化合物と判明したことからこれは否定された。1823年にイェンス・ベルセリウスが四フッ化ケイ素とカリウムを加熱して単離に成功した。しかし、それ以前の1811年、ジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサックとルイ・テナールが同様の方法でアモルファスシリコンの分離に成功したと考えられている。

概要[編集]

地殻中に大量に存在するため鉱物の構成要素として重要であり、ケイ酸塩鉱物として大きなグループを形成している。これには Si-O-Si 結合の多様性を反映したさまざまな鉱物が含まれている。しかしながら生物とのかかわりは薄く、知られているのは、放散虫・珪藻・シダ植物・イネ科植物などにおいて二酸化ケイ素のかたちでの骨格への利用に留まる。栄養素としての必要性はあまり判っていない。炭素とケイ素との化学的な類似から、SF などではケイ素を主要な構成物質とするケイ素生物が想定される事がある。

バンドギャップが常温付近で利用するために適当な大きさであること、ホウ素やリンなどの不純物を微量添加させることにより、p型半導体、n型半導体のいずれにもなることなどから、電子工学上重要な元素である。半導体部品として利用するためには高純度である必要があり、このため精製技術が盛んに研究されてきた。現在、ケイ素は99.9999999999999 % (15N[5]) まで純度を高められる。また、Si(111) 基板はAFMやSTMの標準試料としてよく用いられる。

用途[編集]





ケイ素の単結晶
赤外光学系[編集]

ケイ素は赤外域(波長2-6 μm)で高い透過率があり、レンズや窓の素材に用いられる。波長4 μmの屈折率は3.4255[6]。

半導体[編集]

最も重要な用途としては、四塩化ケイ素やトリクロロシランなどから作られる高純度ケイ素が半導体作成に用いられることが挙げられる。また、液晶ディスプレイの TFT や太陽電池にはアモルファスシリコンや多結晶シリコンなどが用いられる。ヒ化ガリウムや窒化ガリウムなどの化合物半導体の基板にシリコンを用いれば大幅な低価格化が可能であり、様々な研究が進められている。

ケイ素含有合金[編集]

電気炉における製鉄材料として鉄1トンあたり4 kg前後のケイ素が添加されるほか、ケイ素合金として製鉄の脱酸素剤に用いられる。そのほかに、ケイ素を混ぜた鋼板(ケイ素鋼板)は、うず電流による損失が少なくなるため、変圧器に使われている。アルミニウム工業の分野でもケイ素の合金が使われている。また、鉛レス黄銅にも添加される。

ケイ素含有セラミックス類[編集]

ケイ素の酸化物(シリカ)を原料とするガラスは、窓その他で使われるほか、繊維状にしたグラスウールは断熱材や吸音材としても用途がある。ゼオライトは、イオン交換体、吸着剤あるいは、有機化学工業における触媒ともなっている。シリカゲルとしては、非常に利用しやすい乾燥剤になる。

炭化ケイ素は、耐火材や抵抗体として使われたり、高いモース硬度 (9.5) を持つために、研磨剤として使われる。その他のケイ素化合物として、アルミノケイ酸塩が粘土に含まれ、陶器やセメント・煉瓦などセラミックスと呼ばれる材料の主成分になっているほか、カルシウム化合物を除去する働きから、水の精製に使われるなどしている。

ケイ酸塩・ケイ素樹脂[編集]

ケイ酸塩は、さまざまな形で地殻上に存在しており、天然に存在するケイ素化合物のほとんどすべてが二酸化ケイ素およびケイ酸塩である。工業的にも広く用いられ、ガラス、陶磁器など、枚挙に暇がない。アスベストは、繊維状のケイ酸塩鉱物であり、その耐薬品性や耐火性から以前は建材などに広く用いられたが、人体への悪影響が問題になったため、使用量は激減している。日本ではアスベストによる健康被害が社会問題となり、労災認定や健康被害を受けた国民に対しての補償問題、また、依然として多く残るアスベストの撤去に対しての問題を抱える。

有機基を有するケイ素二次元および三次元酸化物はシリコーンと呼ばれる。このものは、優れた耐熱性、耐薬品性、低い毒性などの有用な性質を示し、油状のものはワックス、熱媒体、消泡剤などに用いられる。三次元シリコーンはゴム弾性を示し、ゴム状のものはホースやチューブ、樹脂状のものは塗料や絶縁材、接着剤など各種の用途に利用される。

製法[編集]

原料[編集]

工業用ケイ素の主原料は SiO2 から成る二酸化ケイ素(珪石、珪砂、シリカとも)である。日本国内の埋蔵量は2億トンあるとされるが、アルミニウムと同様、酸化物から還元するには大量の電力を必要とするため、金属シリコンの状態になってから輸入するのが一般的である。電力の安い国が金属シリコンの供給源となるため、これまで中国、ブラジル、ロシア、南アフリカ、ノルウェーなどが主要な供給国であったが、近年はオーストラリア、マレーシア、ベトナムなども注目されているという[要出典]。

世界の二酸化ケイ素の埋蔵量は極めて潤沢であり、高純度のものも世界に広く分布する[7]。二酸化ケイ素#埋蔵量を参照。

精製[編集]
金属グレード (MG) シリコンケイ素の単体はカーボン電極を使用したアーク炉を用いて、二酸化ケイ素を還元して得る。この際、精製されたケイ素は純度99%程度のものである。
SiO2 + C → Si + CO2

SiO2 + 2 C → Si + 2 CO
高純度ポリシリコンさらに純度を高めるには、塩素と反応させ四塩化ケイ素とし(ガス化)、これを蒸留して純度の高い製品を得る。
Si + 2 Cl2 → SiCl4

SiCl4 + 2 H2 → Si + 4 HCl
半導体グレード (SEG) シリコン集積回路など半導体素子に使用する超高純度のケイ素(純度 11N 以上)は、上記の高純度シリコンからさらに FZ(フローティングゾーン)法などのゾーンメルティングや Cz(チョクラルスキー)法などの単結晶成長法による析出工程を経ることで製造される。ゾーンメルト法では融解帯に不純物が濃縮する過程を繰り返すことで高純度のケイ素を得る。Cz 法においては偏析を利用して高純度化するため、原料であるポリシリコン(多結晶珪素)には非常に純度の高いものが要求される。半導体に利用するには基本的に結晶欠陥(転位)のない単結晶が必要なので、FZ 法においても Cz 法においても単結晶を回転させながら一旦細くし、転位を外に追い出した段階で結晶の径を大きくすることにより所定の大きさの結晶を得る。FZ 法は大口径化に向かないため、産業用に使用されているシリコンウェーハの大部分は Cz 法によって製造されている。現在製品化されているシリコンウェーハの径は直径300 mmまでである。太陽電池グレード (SOG) シリコン太陽電池には SEG グレードほどの超高純度は必要なく、7N 程度の純度で済み、また多結晶でも良い。このため上記の単結晶シリコンインゴットの端材などが原料に利用されてきたが、需要の増大に伴い、専用の太陽電池グレード(ソーラーグレード)シリコンの生産法が開発されている。手順としては上記の半導体グレードの精製工程を簡略化した方法のほか、下記のような手法が用いられる。半導体グレードに比べ、使用するエネルギーやコストが数分の1以下になるとされる手法が多い(ソーラーグレードシリコンを参照)。 流動床炉 (FBR) 法:種結晶を気流で巻き上げながら、表面にシリコンを析出させる。
冶金法:金属グレードシリコンから冶金学的手法によって直接ソーラーグレードシリコンを製造する。
水ガラス化法:珪石 (SiO2) を水ガラス化した状態で高純度化してから還元する。
NEDO溶融精製法:金属グレードシリコンを電子ビームやプラズマで溶融させて特定の不純物を除いたあと、一方向凝固させる。
ソーラーグレードシリコンは2006年頃には高純度シリコン市場の約半分を占め、今後もその割合は拡大すると見られている[8]。今後はソーラーグレードが高純度シリコン生産量の大部分を占め、半導体級は特殊品になっていくと予測されている[9]。また太陽電池用シリコン原料は2008年までは供給の逼迫で価格が高止まりしていたが、2009年からは価格の低下が予測されている[10]。
ケイ素化合物[編集]
一酸化ケイ素 (SiO)
二酸化ケイ素 (SiO2) - 石英など
ケイ酸
窒化ケイ素 (Si3N4)
炭化ケイ素 (SiC)
ケイ酸塩 (MgSiO3 など)
四塩化ケイ素 (SiCl4) - 煙幕
シラン (SiH4)
シリコーン
ケイ素樹脂
環状シロキサン (D3, D4 など)
有機ケイ素化合物 - トリメチルシリル基 (-Si(CH3)3) などを有する有機化合物。保護基や脱離基として有機合成に汎用されている。

同位体[編集]

詳細は「ケイ素の同位体」を参照

脚注[編集]

[ヘルプ]

1.^ T. Michael Duncan, Jeffrey Allen Reimer, Chemical engineering design and analysis: an introduction, p. 25, Cambridge University Press, 1998 ISBN 0521639565
2.^ R. S. Ram et al. "Fourier Transform Emission Spectroscopy of the A2D–X2P Transition of SiH and SiD" J. Mol. Spectr. 190, 341–352 (1998)
3.^ Magnetic susceptibility of the elements and inorganic compounds, in Handbook of Chemistry and Physics 81st edition, CRC press.
4.^ a b c d http://www.ioffe.ru/SVA/NSM/Semicond/Si
5.^ 「9」(Nine)が15個並ぶことを意味する略称。
6.^ 岸川利郎 (1990). ユーザーエンジニアのための光学入門. オプトロニクス. ISBN 4-900474-30-4.
7.^ SAND AND GRAVEL(INDUSTRIAL), アメリカ地質調査所
8.^ Wacker Polysilicon: Expansion Announcement June 2006(Wacker 社による生産量拡大のアナウンス資料)
9.^ 河本洋、奥和田久美、高純度シリコン原料技術の開発動向(科学技術政策研究所)
10.^ New Energy Finance Predicts 43% Solar Silicon Price Drop, greentechmedia, 18 August 2008

参考文献[編集]
SOG 製法 山田興一・小宮山宏「太陽光発電工学」ISBN 4-8222-8148-5
小長井誠「薄膜太陽電池の基礎と応用」ISBN 4-274-94263-5

SEG 製法 シリコンウェーハ 志村史夫「半導体シリコン結晶工学」ISBN 4-621-03876-1


関連項目[編集]
半導体工学
シリコンバレー
珪藻
プラント・オパール
ケイ素生物

アルミニウム

アルミニウム (羅: aluminium[2], 英: aluminium, aluminum) は、原子番号13の元素である。元素記号は Al。軽銀やアルミニウムをアルミと略すことも多く、「アルミ箔」、「アルミサッシ」、一円硬貨など非常に生活に身近な金属である。天然には化合物のかたちで広く分布し、ケイ素や酸素とともに地殻を形成する主な元素の一つである。自然アルミニウム (Aluminium・Native Aluminium) というかたちで単体での産出も知られているが、稀である。

単体は銀白色の金属で、常温常圧で良い熱伝導性・電気伝導性を持ち、加工性が良く、実用金属としては軽量であるため、広く用いられている。熱力学的に酸化されやすい金属ではあるが、空気中では表面にできた酸化膜により内部が保護される。



目次 [非表示]
1 単体の性質 1.1 化学的性質
1.2 機械的性質

2 生産
3 用途 3.1 アルミニウム粉

4 人体への影響
5 植物への影響 5.1 作用機序
5.2 アルミニウム耐性植物
5.3 アルミニウム耐性土壌菌
5.4 この節の参考文献

6 化合物
7 歴史
8 同位体
9 脚注
10 関連項目 10.1 物質
10.2 アルミ製品

11 外部リンク


単体の性質[編集]

単体は常温常圧では良好な熱伝導性・電気伝導性を持つ。融点933.47 K、沸点2792 K (別の報告もある)。密度は2.7 g/cm3で、金属としては軽量である。常温では面心立方格子構造が最も安定となる。酸やアルカリに侵されやすいが、空気中では表面に酸化アルミニウムAl2O3の膜ができ、内部は侵されにくくなる。この保護現象は酸化物イオンO2-のイオン半径 (124 pm) とアルミニウムの原子半径 (143 pm) が近く、アルミニウムイオンAl3+ (68 pm)が酸化物の表面構造の隙間にすっぽり収まることが深く関係している。また濃硝酸に対しても表面に酸化被膜を生じ反応の進行は停止する(不動態)[3][4]。陽極酸化による酸化被膜はアルマイトとも呼ばれる。

化学的性質[編集]

アルミニウムは両性金属で、酸にも塩基にも溶解する。塩基性の水溶液では、以下の反応によって水が還元されて水素を発生する。


6 OH- + 2 Al + 6 H2O → 6 OH- + 2 Al(OH)3 + 3 H2

ただし、生成する水酸化アルミニウムの溶解度積 ([Al3+][OH-]3) は1.92 × 10-32であり、ほとんど水に溶解しない。したがって、薄い塩基では皮膜が発生して反応が止まる。しかし、強塩基条件では水酸化アルミニウムが次式によって水溶性のアルミン酸を形成するため、反応は表面のみでなく内部まで進行する。


OH- + Al(OH)3 + 2 H2O → [Al(OH)4(H2O)2]-

したがってアルミニウムと強塩基水溶液との反応はこれらの式を合わせて以下のようになる[4]。


2 Al + 10 H2O + 2 OH- → 2 [Al(OH)4(H2O)2]- + 3 H2

機械的性質[編集]

アルミニウムは鉄の約35 %の比重であり、密度は (2.70 g/cm3) と低く金属の中でも軽量な方に属し、展性に富む。純アルミニウムは強度は低いが、ジュラルミンなどのアルミニウム合金はその軽量さ、加工のしやすさを活かしつつ強度を飛躍的に改善しているため、様々な製品に採用され、産業界で幅広く利用されている(「用途」を参照)。

アルミニウム合金は軟鋼などと違い、応力がかかった時の変形に降伏現象を示さない。それは侵入型固溶体である炭素によるコットレル雰囲気を持つ鉄合金とは違い、アルミニウム合金には置換型固溶体合金が多いことに起因する[5]。よって、構造設計等の計算を行う場合には、材料力学では降伏点の代わりに「0.2 %耐力」が代わりに用いられる。「0.2 %耐力」とは、応力をかけた際の永久ひずみが0.2 %になる時の応力である[6]。こういった特性のために、アルミは押し出し成形や摩擦攪拌接合に向いている。

生産[編集]





ボーキサイト。赤い色をしているのは、中に含まれている鉄分のためである。
アルミニウムは、鉱物のボーキサイトを原料としてホール・エルー法で生産されるのが一般的である。ボーキサイトを水酸化ナトリウムで処理し、アルミナ(酸化アルミニウム)を取り出した後、氷晶石(ヘキサフルオロアルミン酸ナトリウム、Na3AlF6)と共に溶融し電気分解を行う。したがって、アルミニウムを作るには大量の電力が消費されることから「電気の缶詰」と呼ばれることもある。ちなみに、ホール・エルー法での純度は約98 %なので、より高純度なアルミニウムを得るには三層電解法を使う。アルミニウム1トンを生産するために消費される材料およびエネルギーは以下の通りである[5][7]。
アルミナ 1.96トン(ボーキサイト 4トン)
氷晶石 0.07トン
炭素陽極 0.5トン
電力 13000〜14000 kWh

電力価格が高いためコスト競争に弱い[7]日本国内のアルミニウム精錬事業は、オイルショック後採算困難になり、大部分は国外に拠点が移った[5]。現在、日本国内で原石(ボーキサイト)から製品まで一貫生産を行っているのは、自前の水力発電所により自家発電を行っているため低価格の電力が入手可能な日本軽金属(工場所在地は静岡市清水区)のみである。

ボーキサイトからアルミニウムを精練するのに比し、アルミニウム屑からリサイクルして地金を作る方がコストやエネルギーが少なく済む。そのため、回収された空き缶等をリサイクル原料とし、電気炉等を用いる形態で再生するケースは徐々に増えている。アルミニウム屑を溶解するにあたっても融点が約660 °Cと銅や鉄などの主要金属の中では低い方なので少ないエネルギーで行うことができる。この利点をとらえて、アルミニウムはしばしば「リサイクルの優等生」や「リサイクルの王様」と表現される。

アルミニウムの生産量は2002年時点で2574万トンに及ぶ。中国が約1/6を生産し、これにロシア、カナダ、アメリカを加えた4カ国で生産量の過半数を占める。中国、ロシア、アメリカはボーキサイト原産国でもある。他のボーキサイト原産国であるオーストラリア、ブラジル、インドも世界生産量のシェア10位以内に含まれる。

用途[編集]

アルミニウムは金属の中では軽量であるために利用しやすく、また、軟らかくて展性も高いなど加工し易い性質を持っており、さらに表面にできる酸化皮膜のためにイオン化傾向が大きい割には耐食性もあることから、一円硬貨やアルミホイル、缶(アルミ缶)、鍋、窓枠(アルミサッシ)、外構/エクステリア、建築物の外壁、道路標識、ガソリンエンジンのシリンダーブロック、自転車のフレームやリム、パソコンや家電製品の筐体など、様々な用途に使用されている。ただし大抵はアルミニウム合金としての利用であり、1円硬貨のようなアルミニウム100 %のものはむしろ稀な存在である。

有名な合金としてはジュラルミンが挙げられる。ジュラルミンは航空機材料などに用いられているが、金属疲労に弱く、腐食もしやすいという欠点を持つため、航空機などでは十分な点検体制を取ることが求められている。また、鉄道車両でも加工性が良く、軽量であることから、新幹線電車を始めとして特急型電車や通勤型電車などでアルミ車体の採用例も多い。なお、一時期自動車も航空機材料にならうかたちでアルミ化が進んだが、費用対効果を両立させるため、現在はアルミではなくハイテン材料(高張力鋼)の適用が進みつつある。

高圧送電線にもアルミニウム線が使用される。銅に比べ単位体積あたりの電気伝導度は劣るが、密度が低いため断面積を大きく取る(太くする)ことができ、かつ軽いので、単位質量当りの電気伝導度はむしろ銅を上回り、かつ材料費はほぼ拮抗する。このため、支柱(送電鉄塔)のスパンが大きくなる高圧送電線の材料として有利である。

熱伝導性にも優れ、調理器具にアルミニウム合金がよく利用される。熱伝導度についても銅に劣るが、銅よりも安価であるため広く使われる[4]。

真性半導体であるケイ素に微量のアルミニウムを添加することにより、P型半導体が得られる。

俗に「銀ペン」とも呼ばれる、銀色の塗料には、アルミニウムの微粉末が顔料として加えられている。耐食性があるため、橋梁などの建築物によく使われた。

アルミニウム粉[編集]

粉末になったアルミニウムは可燃物であり、粉塵爆発を起こす場合がある。アルミニウム粉は燃焼熱が大きく、燃焼するときにガスを生じないため熱が集積して高温となり、強い白色の光を発する。これを利用して火薬類に発熱剤として添加される。スペースシャトルの固体燃料補助ロケットでも燃料として使用された。アルミニウム粉の性質は表面積の大きさによって左右されるため、等級は粒度ではなく重量当たりの表面積を示す水面拡散面積で表示される場合が多い。粒度で表示されるような粒の大きい物は粒状アルミニウム粉(アトマイズドアルミニウム粉)と呼んで区別することが多い。

スラリー爆薬などの水湿状態の火薬に混ぜるとアルミニウムの表面で以下のような反応が起きて発熱する。このため、アルミニウム粉の火災には水をかける事は禁忌とされている。


2 Al + 6 H2O → 2 Al(OH)3 + 3 H2

アルミニウム粉末は塗料に混ぜて使う場合もある。また、指紋の検出(主に警察の鑑識課による捜査活動)などでアルミニウムの粉を使用することもある。

アルミニウム粉と酸化鉄(III)との混合物はテルミットと呼ばれ、マグネシウムリボンで着火すると激しく反応し、酸化アルミニウムおよび溶融鉄を生じる。この反応は鉄の溶接にも使われているテルミット反応である。

日本の消防法では、150 μmの網ふるいを通過する量が50 %を超えるアルミニウム粉を第2類危険物と定めている。

人体への影響[編集]

人体へは摂取しても吸収される量は微量で、ほとんどはそのまま排出される。アルミニウムが体内でどのような役割を果たしているかは、まだよく分かっていない。人工透析に水道水を用いていた時代に、水道水中の微量のアルミニウムを原因とする透析脳症が発生した。そこから「アルミニウムがアルツハイマー病を引き起こす」という主張もなされたが、透析脳症と異なりアルツハイマー病患者の脳のアルミニウム蓄積量は患者以外と変わらず、腎臓が正常に機能しアルミニウムイオンを排出することのできる成人が通常の食生活で経口摂取するアルミニウムによりアルツハイマー病を患うという根拠は乏しいとされている。[8]

植物への影響[編集]

アルミニウムは長石および粘土鉱物などとして普遍的に存在するため、地殻を構成する元素としては酸素、珪素に次いで3番目に多い(クラーク数:7.56 %、重量比)。工業的に多彩な用途が見出される一方、酸性土壌中のアルミニウム含量は、植物の成長に影響する重要な要素である。農業や園芸における人工的な栽培環境では中性付近に調整された土壌を用いる場合が多いが、それでも有害なアルミニウムイオン (Al3+) が根の伸長成長を阻害する事が知られている。

作用機序[編集]

土壌中のアルミニウムは、pH が5.0を下回ると急激にイオン化して溶解度が高まり、pH 3.5ではほぼ完全に溶存体となる。水溶化したアルミニウムイオンが農作物その他の植物に及ぼす害として、以下のようなもの知られている。
肥料として土壌に添加したリン酸と結合し、難溶性の塩を形成する。結果として施肥効率が低下する。
根の成長阻害を引き起こす。アルミニウムイオンは根の細胞の細胞壁〜アポプラスト領域へ結合し、種々の応答反応を引き起こす。応答反応としてはβ-1,3グルカンであるカロースの分泌などが知られるが、成長阻害の具体的なメカニズムは分かっていない。

成長阻害に関する研究は今も進められているが、アルミニウムが活性酸素の発生を促し、脂質の過酸化やミトコンドリアの機能障害を引き起こすとする意見が有力である。

アルミニウム耐性植物[編集]

コムギやトウモロコシ、アジサイ、ソバなど一部の植物は、アルミニウム耐性を持つ(あるいは高アルミニウム環境にも適応し得る)事が知られている。アルミニウムを無毒化するメカニズムは様々であるが、一般にカルボン酸(シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸など)を中心とした有機酸でアルミニウムイオンをキレートし、水溶性の錯体を形成する機構によると言われている。

アルミニウム耐性に関与する遺伝子は最初にコムギにおいて発見された。耐性関連遺伝子はトウモロコシからも見つかっている。これらの植物においては単一の遺伝子によりアルミニウム耐性が実現されているが、全ての植物のアルミニウム耐性が同一の機構によるわけではないと考えられている。

アルミニウム耐性土壌菌[編集]

遺伝子組み換えによりアルミニウム耐性植物を作出する際、その遺伝子源として注目されているものに、土壌性のアルミニウム耐性菌がある。根粒菌として知られる Rhizobium もアルミニウム耐性菌の一種である。強酸性 (pH 3.0) 高アルミニウム条件にて選抜されてくる菌はほとんどが糸状菌であり、従ってアルミニウムの多い土壌ではこれらの生物が優占していると考えられる。以下はアルミニウム耐性菌を含む属の一部である。
Emericellopsis, Paecilomyces, Mortierella(クサレケカビ), Sporothrix, Penicillium(アオカビ), Aspergillus(コウジカビ), Metarhizium

この節の参考文献[編集]
アルミニウム耐性土壌菌の選抜 金澤 晋二郎 PDF
山本洋子 (2002). “アルミニウムによる根伸長阻害の分子機構”. 根の研究 11 (4): 147-54. PDF
Tashiro M, Fujimoto T, Suzuki T, Furihata K, Machinami T, Yoshimura E (2006). “Spectroscopic characterization of 2-isopropylmalic acid-aluminum(III) complex”. J Inorg Biochem 100 (2): 201-5. PMID 16384602
Ma JF, Hiradate S, Nomoto K, Iwashita T, Matsumoto H (1997). “Internal Detoxification Mechanism of Al in Hydrangea (Identification of Al Form in the Leaves)”. Plant Physiol 113 (4): 1033-9. PMID 12223659

化合物[編集]

合金についてはアルミニウム合金を参照。
酸化アルミニウム - 通称アルミナ。モース硬度が 9 と高く、研磨剤として利用される。サファイアやルビーもほぼ同じ組成である。
塩化アルミニウム
ミョウバン
窒化アルミニウム
硫酸アルミニウム
水素化アルミニウム
水酸化アルミニウム
氷晶石

歴史[編集]
1807年 - イギリスのハンフリー・デービーは水素気流中で融解アルミナを電気分解する手法でアルミニウムと鉄の合金を得た。鉄はアルミナの不純物によるものであった。合金からアルミナを生成できたため、何らかの未知の元素の存在が確認できたことになる。デービーはアルミニウムの硫酸塩であるミョウバンを表すラテン語の単語 Alumen から、未知の新元素を Alumium と名付けた。
1825年 - デンマーク物理学者エルステッドが、塩化アルミニウムをカリウムアマルガムにより還元し、世界で初めてアルミニウムの単離に成功した。ただし水銀などの不純物が多かったとされる。カリウムを還元剤としたため生産性は極端に低く、貴金属としての扱いを受けた。
1827年 - ヴェーラーが塩化アルミニウムをカリウムで還元して純粋なアルミニウムを得たため、ヴェーラーをアルミニウムの発見者とすることもある。
1846年 - フランスの科学者ドビーユがエルステッドの手法を改良し、カリウムの代わりにナトリウムを用いる還元法を開発した。生産コストを下げることに成功し、電解法も開発した。
1855年 - ドビーユは粘土から電解法で生産したアルミニウムをパリの万国博覧会に展示した。出品タイトルは「粘土からの銀」であった。展示を見たナポレオン3世はドビーユに援助を始める。目的は甲騎兵の防具を改良するためであった。また、皇帝夫妻専用にアルミ製食器を作らせ、晩餐会では銀製食器を使う来賓の前でこのアルミ食器を自慢して食事をした。(詳細は「ナポレオン3世とアルミニウム製品」も参照)
1886年 - アメリカのホールとフランスのエルーがアルミナと氷晶石を用いた融解塩電解法をそれぞれ独自に発明した(ホール・エルー法)。これは今日でも利用されている手法である。
1888年 - オーストリアのバイヤーが、ボーキサイトから高純度のアルミナを効率的に製造する方法を発明した(バイヤー法)。
19世紀後半 - 電気精錬の手法が進歩するが、肝心の発電、送電技術が未熟であり、生産性は依然として低いままであった。
20世紀中〜後半 - 大規模で効率的な発電所の建設が可能になるとともに、送電システムが確立された。大規模な電気精錬が行えるようになり、大量生産が可能となった。

同位体[編集]

詳細は「アルミニウムの同位体」を参照

脚注[編集]

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1.^ Magnetic susceptibility of the elements and inorganic compounds, in Handbook of Chemistry and Physics 81st edition, CRC press.
2.^ http://www.encyclo.co.uk/webster/A/64
3.^ 『化学大辞典』 共立出版、1993年
4.^ a b c Geoff Rayner-Canham, Tina Overton 『レイナーキャナム 無機化学(原著第4版)』 西原寛・高木繁・森山広思訳、p.193-195、2009年、東京化学同人、ISBN 978-4-8079-0684-0
5.^ a b c 西川精一 『新版金属工学入門』 アグネ技術センター、2001年
6.^ JIKO. 8.応力ひずみ線図 材料力学.
7.^ a b 亀山直人 『電気化学の理論と応用』 丸善、1955年
8.^ 「アルミニウムと健康」連絡協議会

関連項目[編集]

ウィキメディア・コモンズには、アルミニウムに関連するメディアがあります。
アルツハイマー型痴呆 - アルミニウムの過剰摂取が原因であると疫学的には警鐘を鳴らされているが、医学的メカニズムは検証の途上にある。
非鉄金属
テルミット反応
大倉一郎 (土木工学者)

物質[編集]
アルミニウム合金
ルビー(クロム+アルミニウム)
サファイヤ(鉄・チタン+アルミニウム)
含アルミニウム泉

アルミ製品[編集]
パナール・ディナ(世界で初めてのオールアルミ合金の本格量産車)
ホンダ・NSX(世界で初めてオールアルミモノコックボディを採用した)
A-train (日立製作所が製造するアルミニウムダブルスキン構造の鉄道車両)
アルミホイル(調理用アルミ箔)
アルミホイール(自動車用ホイール)
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