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2014年02月13日

ドブニウム

ドブニウム (英: dubnium) は原子番号105の元素。元素記号は Db。安定同位体は存在せず、半減期も短い。超ウラン元素、超アクチノイド元素であるが、その物理的、化学的性質の詳細は不明。発見された中で最も半減期が長い同位体は、 ドブニウム268の29時間。

同位体に関しては、ドブニウムの同位体を参照。

歴史[編集]

1970年、カリフォルニア大学バークレー校(アメリカ合衆国)のアルバート・ギオルソ (Albert Ghiorso) らにより発見された。同じ時期、1968年から1970年にかけてソビエト連邦(ロシア)のドブナにあるドブナ研究所(現:合同原子核研究所、JINR)でもリアム・モーランド (Liam Morland) が新元素発見を報告した。

当初は系統名でウンニルペンチウム (unnilpentium, Unp) と呼ばれていた。新元素の名前について、ソ連の研究者はニールス・ボーアにちなんだ「ニールスボーリウム」(nielsbohrium, 露: Нильсборий, Ns) を提案し[4]、アメリカの研究者はオットー・ハーンにちなんだハーニウム (hahnium, Ha) を提案していた(ボーアの名は後に107番元素として採用)。

1997年、ドブナ研究所のあるドブナの地名からこの名が付けられた[5]。

化合物[編集]

ドブニウムの化合物は4種類知られており、全て5価の化合物である。5価を取る性質はニオブやタンタルに類似している。
DbCl5:五塩化ドブニウム(dubnium pentachloride)
DbBr5:五臭化ドブニウム(dubnium pentabromide)
DbOCl3:オキシ塩化ドブニウム(dubnium oxychloride)
DbOBr3:オキシ臭化ドブニウム(dubnium oxybromide)

出典[編集]

1.^ Münzenberg, G.; Gupta, M. (2011). Production and Identification of Transactinide Elements. pp. 877. doi:10.1007/978-1-4419-0720-2_19.
2.^ a b c d e http://newscenter.lbl.gov/news-releases/2010/10/26/six-new-isotopes/
3.^ Oganessian, Yu. Ts.; Abdullin, F. Sh.; Bailey, P. D.; Benker, D. E.; Bennett, M. E.; Dmitriev, S. N.; Ezold, J. G.; Hamilton, J. H. et al. (2010). “Synthesis of a New Element with Atomic Number Z=117”. Physical Review Letters 104. doi:10.1103/PhysRevLett.104.142502. PMID 20481935.
4.^ [1]БЭС
5.^ 桜井 弘 『元素111の新知識』 講談社、1998年、419頁。ISBN 4-06-257192-7。
【このカテゴリーの最新記事】

ランタノイド

ランタノイド (lanthanoid) とは、原子番号57から71、すなわちランタンからルテチウムまでの15の元素の総称[1]。

スカンジウム・イットリウムと共に希土類元素に分類される。周期表においてはアクチノイドとともに本体の表の下に脚注のような形で配置されるのが一般的である。



目次 [非表示]
1 呼称
2 ランタノイドの電子配置
3 ランタノイド収縮
4 物性
5 脚注
6 参考文献


呼称[編集]

ランタノイドの呼称には、歴史的な事情により揺れがある。

ランタノイドは「ランタン (lanthan)」+「-もどき (-oid)」という造語のため、ランタン自身を含んだ呼称としては本来は不適切である[2]。このため、「ランタノイド」はランタンを除くセリウムからルテチウムまでの元素の呼称とし、ランタンを含める場合は「ランタニド(lanthanide、ランタナイドとも)」と呼び分けられたことがあった。しかし、後に混乱されてランタンを除くものが「ランタニド」と呼ばれるなどしたため、区別は曖昧になっている。また、「ランタニド」の語尾である「-ide」は陰イオンと紛らわしいこともあり、「ランタノイド」が推奨されている[2]。

また、ランタンとルテチウムは5d軌道に電子を持ち、かつ4f軌道が安定している(ランタンは4f電子なし、ルテチウムは4f電子が全て充填)ため、電子配置はむしろ典型的な3族元素に近く、性質も他のものとやや異なる(例えばランタンとルテチウムのイオンは共に無色である)。そのためこれらの一方または両方を除いて「ランタノイド」または「ランタニド」と呼ぶ場合もある。

IUPAC命名法ではランタンとルテチウムも含めて「ランタノイド」とされており、本項もそれに倣う。

ランタノイドの電子配置[編集]

ランタノイドの電子配置


軌道

1s-4d

4f

5s

5p

5d

6s

Cs [Xe] [Xe] 1
Ba 2
原子価


La
1 2 +3

Ce
1 1 2 +3,+4

Pr
3 2 +3,+4

Nd
4 2 +3

Pm
5 2 +3

Sm
6 2 +2,+3

Eu
7 2 +2,+3

Gd
7 1 2 +3

Tb
9 2 +3,+4

Dy
10 2 +3

Ho
11 2 +3

Er
12 2 +3

Tm
13 2 +3

Yb
14 2 +2,+3

Lu
14 1 2 +3
Hf 14 2 2
Ta 14 3 2

ランタノイドは、4f軌道の電子が詰まり(占有され)始める元素のブロック(fブロック元素)で、セリウムから順に4f軌道に電子が1個ずつ詰まっていき、イッテルビウムで4f軌道が14個の電子に占有されて全て埋まる。この過程において最外殻である5d軌道と6s軌道の電子の詰まり方があまり変わらないため、ランタノイドの各元素は性質がよく似ており、このためランタノイドのほとんどは安定な原子価として3価をとる。ただし一部の化合物においては2価や4価でも準安定となる場合があり、特にセリウムは4価、ユウロピウムは2価をも安定してとる。

ランタノイドでは原子番号の増加とともに原子核の電荷が増加し、内側の4f軌道に同じだけの電子が詰まっていく。

ランタノイド収縮[編集]

有効核電荷の計算におけるもっとも単純なスレーターの規則からすれば4f軌道は最外殻の6s軌道より主量子数が2つ小さく、原子核の電荷の増加はf電子の増加で完璧に遮蔽されるように思えるかもしれない。しかし実際には6s軌道は貫入により4f軌道の内側にもかなり広がっており、この結果4f軌道による6s軌道に対する遮蔽は不完全となる(また、そもそもスレーターの規則は重原子に対しては誤差が大きい)。

このため、ランタノイドにおいても、原子番号の増加とともに原子半径がわずかずつ縮んでいくという傾向が見られる。イオンの場合も同様に、核電荷の増加に対し5sや5p軌道への遮蔽の増加が小さいため、イオンサイズも原子番号とともに少しずつ小さくなっていく。このようなランタノイド元素のサイズが原子番号とともに小さくなっていく事をランタノイド収縮と呼ぶ[3]。

一般に他の典型元素や遷移元素でも族番号が大きくなるにつれ原子半径やイオン半径が減少するが、ランタノイド収縮が重要なのは周期表においてランタノイド以降の元素のサイズに大きな影響を与える点である。通常、同じ族の元素であれば周期が増す(周期表で下に行く)ほど原子半径は増大する。これは最外殻電子の主量子数が増加しより遠くの軌道となるためである。

しかし例えば第4族元素を見ると、第4周期のTiから第5周期のZrでは原子半径もイオン半径も通常通り増加しているものの、Zrから第6周期のHfへの変化では両半径ともやや減少という奇妙な振る舞いを見せる。これはHfの直前にランタノイドが位置し、この部分で原子半径・イオン半径が大きく減少するランタノイド収縮による効果が、周期の増加(最外殻電子の主量子数の増加)による半径の増大の効果を相殺していることに由来する。

なお、類似の効果は遷移元素の存在によっても発生し、例えば第13族のAlからGa(直前に遷移元素が存在する)での半径の増加がやや抑制されている。

物性[編集]

ランタノイドのイオンは色を呈するものが多い。これも4f軌道(上の電子)の影響。ランタノイドの化合物(例:CeCu2Si2、CeRu2Si2)の中には、フェルミエネルギー上の電子の有効質量が自由電子のものより2,3桁も大きい、重い電子系(Heavy fermion)と呼ばれる性質を持つものがある。

4f、5d、6sなどの外側の軌道は、相対論効果の影響も受ける(例:スピン軌道相互作用←d軌道やf軌道に対して)。

脚注[編集]

[ヘルプ]

1.^ Shriver & Atkins (2001), p.12。
2.^ a b Shriver & Atkins (2001), p.13。
3.^ Shriver & Atkins (2001), p.37。

参考文献[編集]
Shriver, D. F. and Atkins, P. W. 『シュライバー無機化学(上)』 玉虫伶太・佐藤弦・垣花眞人訳、東京化学同人、2001年。ISBN 4-8079-0534-1。

アクチノイド

アクチノイド (Actinoid) とは、原子番号89から103まで、すなわちアクチニウムからローレンシウムまでの15の元素の総称である。

命名[編集]

アクチニド(Actinide、アクチナイドとも)と呼ぶこともあり、またランタノイドと同様に、最初と最後に当たるアクチニウムとローレンシウムの一方または両方をアクチノイドの範囲から除いて呼ぶこともある。IUPAC命名法ではアクチニウムとローレンシウムも含めて「アクチノイド」としており、本項もそれに倣う。

マイナーアクチノイド[編集]

アクチノイドに属する超ウラン元素のうちプルトニウムを除いたものをマイナーアクチノイド (Minor actinide) もしくはマイナーアクチニドと呼ぶ。使用済核燃料に含まれ、放射性廃棄物処理を考える上で大きな問題となる。

性質[編集]

全てが放射性元素で、半減期が短いものが多い。トリウムとウランには半減期が数億年以上の長命な同位体が存在するためにまとまった量が天然に存在するが、他の元素は天然には全くまたはごく僅かしか存在せず、ほとんどが人工的に作られたものである。特にウランより重いネプツニウム以降の元素のことを超ウラン元素といい、ほぼ自然界には存在しない。このため物理的、化学的性質の詳細はとりわけ不明な部分が多い。

アクチノイドの電子配置


軌道

1s-5d

5f

6s

6p

6d

7s

7p

Fr [Rn] [Rn] 1
Ra 2

Ac
1 2

Th
2 2

Pa
2 1 2

U
3 1 2

Np
4 1 2

Pu
6 2

Am
7 2

Cm
7 1 2

Bk
9 2

Cf
10 2

Es
11 2

Fm
12 2

Md
13 2

No
14 2

Lr
14 2 1
Rf (不明)

アクチノイドは、5f軌道の電子が詰まり(占有され)始める元素のシリーズで、4f軌道が詰まり始めるランタノイドと化学的性質が類似する。ただし電子の詰まり方はランタノイドとはやや異なり、アメリシウムより軽い方の元素では6d軌道にも電子が入り込む。そのため、ランタノイド及びアメリシウムより重いアクチノイドでは典型的な原子価が3価であるのに対して、アメリシウムより軽い方では3-6価の原子価を取る。またローレンシウムで5f軌道を充填した次の電子は、ルテチウムと異なり6d軌道ではなく7p軌道に入る。この理由はよくわかっていない。

ランタノイド収縮と同様に、アクチノイドも内側の5f軌道が先に詰まっていくため、原子番号が大きくなるほど原子半径、イオン半径が短くなる(アクチノイド収縮)。

アクチノイドの化合物の中には、フェルミエネルギー上の電子の有効質量が自由電子のものより2、3桁も大きい、重い電子系(Heavy fermion)と呼ばれる性質を持つものがある。

5f、6d、7sなどの外側の軌道は、相対論効果の影響も受ける(例:スピン軌道相互作用←d軌道やf軌道に対して)。

アクチニウム

アクチニウム (英: actinium) は原子番号89の元素。元素記号は Ac。アクチノイド元素の一つ。



目次 [非表示]
1 性質
2 同位体
3 歴史
4 出典


性質[編集]

アクチノイド系列の最初の元素。したがって、5f軌道には電子がなく、6d軌道に1個、7s軌道に2個の電子が詰まっている。銀白色の金属で、安定な構造は立方晶系。アクチニウムのアルファ線はとても強力で(ラジウムの150倍の放射能を持つ)、暗所では青白く光る。比重は10.07、融点は1050 °C、沸点は3200 °C。湿った空気中では酸化被膜を形成する。化合物中の原子価は唯一+3価が安定で、化学的性質はランタンに似る。Ac3+ のイオン半径が大きいため、酸化物および水酸化物はランタンより塩基性が強い。ランタンより錯塩を作りやすい傾向がある。

同位体[編集]

詳細は「アクチニウムの同位体」を参照

天然に存在するのは、アクチニウム227(半減期は21.7年)とアクチニウム228(半減期は6.13時間)。アクチニウム227はアクチニウム系列の過程で生成される。アクチニウム227はアクチニウムの同位体の中で最も長い半減期を持つ。またアクチニウム228はトリウム系列の過程で生成されるため、主にトリウム鉱石中に極微量含まれる。

アクチニウム系列:ウラン235(α崩壊)→ トリウム231(β崩壊)→ プロトアクチニウム231(α崩壊)→ アクチニウム227(α崩壊)→ フランシウム223 →(続く)アクチニウム227は、β崩壊してトリウム227にもなる。

歴史[編集]

1899年、アンドレ=ルイ・ドビエルヌ (A.Debierne) が、ピッチブレンドからウランを分離した際の残留物中から発見した[2](ピッチブレンド1トン中にアクチニウム227が0.15 mg含まれる)。ギリシア語の放射線を意味する aktis が語源[2]。1902年にギーゼル (F.Geesel) がドビエルヌとは独立に発見した新元素もアクチニウムであることが判明した[2]。

出典[編集]

1.^ Greg Wall (2003年9月8日). “C&EN: It's Elemental: The Periodic Table - Actinium”. C&EN: It's Elemental: The Periodic Table. Chemical and Engineering News. 2011年6月2日閲覧。
2.^ a b c 桜井 弘 『元素111の新知識』 講談社、1998年、360頁。ISBN 4-06-257192-7。

ラジウム

ラジウム(英: radium)は、原子番号88の元素。元素記号は Ra。アルカリ土類金属の一つ。安定同位体は存在しない。天然には4種類の同位体が存在する。白色の金属で、比重はおよそ5-6、融点は700 °C、沸点は1140 °C。常温、常圧での安定な結晶構造は体心立方構造 (BCC)。反応性は強く、水と激しく反応し、酸に易溶。空気中で簡単に酸化され暗所で青白く光る。原子価は2価。化学的性質などはバリウムに似る。炎色反応は洋紅色。

ラジウムがアルファ崩壊してラドンになる。ラジウムの持つ放射能を元にキュリー(記号 Ci)という単位が定義され、かつては放射能の単位として用いられていた。現在、放射能の単位はベクレル(記号 Bq)を使用することになっており、1 Ciは3.7 × 1010 Bqに相当する。なお、ラジウム224、226、228は WHO の下部機関 IARC より発癌性があると (Type1) 勧告されている。

以前は、放射線源として医療分野等に使用されたが、現在はコバルト60に取って代わられている。また、1990年代以前は時計の文字盤などの夜光塗料として利用されていた。

2011年10月、東京都世田谷区の木造民家の床下からラジウムが発見された。この床下のラジウムは毎時600マイクロシーベルト(年間5000ミリシーベルト)であった。この木造民家に50年間も住んだ女性(当時92歳)は最小限年間140ミリシーベルトを被爆しており、50年間の積算継続線量は9000ミリシーベルトである。この女性は病気とは無縁で癌になったことはなく、ここで育った3人の子供もさしたる病気をしたことはない[1][2]。

ラジウムそのものの崩壊ではアルファ線しか放出されないが、その後の娘核種の崩壊でベータ線やガンマ線なども放出される。






目次 [非表示]
1 歴史
2 ラジウムの化合物
3 同位体
4 脚注
5 関連項目


歴史[編集]

1898年、ウランの抽出残渣から分別結晶することにより、ピエール・キュリー、マリ・キュリー夫妻によってラジウム226(半減期1600年)が発見された[3]。放射線を出しているため、ラテン語の radius に因んで命名された[3]。

ラジウムの化合物[編集]
酸化ラジウム (RaO)
塩化ラジウム (RaCl2)

同位体[編集]

詳細は「ラジウムの同位体」を参照

脚注[編集]
1.^ 『週刊新潮』2011年10月27日号
2.^ 中川八洋『脱原発のウソと犯罪』
3.^ a b 桜井弘 『元素111の新知識』 講談社、1998年、356〜357頁。ISBN 4-06-257192-7。

関連項目[編集]

ウィキメディア・コモンズには、ラジウムに関連するメディアがあります。
放射能泉(ラジウム温泉)
ホルミシス効果(ラジウム温泉等の効能の根拠)
三朝温泉(世界屈指の高温ラジウム温泉湧出地。他バドガシュタインなど)

フランシウム

フランシウム (羅: francium) は原子番号87の元素。元素記号は Fr。アルカリ金属元素の一つ(最も原子番号が大きい)で、典型元素である。又、フランシウムの単体金属をもいう。

223Fr はアスタチンと同じくウランやトリウム鉱石において生成と崩壊を絶えず繰り返すため、その量は非常に少なく、フランシウムはアスタチンについで地殻含有量が少ない元素である。地球の地殻ではわずかに20-30 gほどではあるが 223Fr が常に存在しており、他の同位体は全て人工的に作られたものである。最も多いものでは、研究所において300,000以上の原子が作られた[1]。以前にはエカ・セシウムもしくはアクチニウムK[注釈 1]と呼ばれていた。

安定同位体は存在せず、最も半減期が長いフランシウム223でも22分しかないため、化学的、物理的性質は良く分かっていないが、原子価は+1価である事が確認されていて、化学的性質はセシウムに類似すると思われている。アクチニウム227の1.2 %がα崩壊して、フランシウム223となることが分かっている。また、フランシウムはアスタチン、ラジウムおよびラドンへと崩壊する、非常に放射性の強い金属である。

フランシウムは合成でなく自然において発見された最後の元素である[注釈 2]。



目次 [非表示]
1 歴史 1.1 誤発見
1.2 ペレーの分析

2 特徴
3 用途
4 存在 4.1 自然界
4.2 合成

5 同位体
6 注釈
7 出典
8 関連項目


歴史[編集]

1870年という早い時期に、化学者はセシウムの次のアルカリ金属である原子番号87の元素があるべきであると考えていた[2]。それは暫定的にエカ-セシウムという名で言及されていた[3]。この未確認な元素を発見し、単離するための研究チームによる試みは、本物のフランシウムが発見されるまでに、少なくとも四つの誤った主張がなされた。

誤発見[編集]

ソビエト連邦の化学者 D. K. Dobroserdov はエカ-セシウム(フランシウム)を発見したと主張した初の科学者であった。1925年、彼はカリウムおよび他のアルカリ金属のサンプルから弱い放射能を観測し、これはエカ-セシウムがサンプルを汚染しているためであると誤って結論付けた。しかし、サンプルからの放射能は、実際には天然に存在するカリウムの放射性同位体であるカリウム40によるものであった[4]。その後彼はエカ-セシウムの物性の予測を発表し、そこで彼は祖国の名を取ってこの元素を russium と名付けた[5]。その後すぐに、彼はオデッサのクライストチャーチ・ポリテクニック工科大学での教育活動に専念し、その元素に関する更なる研究を続けなかった[4]。

その翌年、イギリスの化学者 Gerald J. F. Druce および Frederick H. Loring は、硫酸マンガン(II)のX線写真の解析を行い[5]、彼らは観測したスペクトル線をエカ-セシウムであると推定した。彼らは87番目の元素の発見を発表し、それが最も重いアルカリ金属元素であることから alkalinium という名前を提案した[4]。

1930年、オーバーン大学のフレッド・アリソン(英語版)は、リチア雲母およびポルックス石(英語版)を彼の磁気光学機器を用いて解析した際に原子番号87の元素を発見したと主張した。アリソンは、彼の故郷であるヴァージニア州から virginium と名付け、その原子記号を Vi および Vm とするように要請した[5][6]。しかし、1934年、カリフォルニア大学バークレー校のH. G. マクファーソンは、アリソンの装置の効果と、この間違った発見の有用性について反証した[7]。

1936年、ルーマニアの化学者ホリア・フルベイ(英語版)と、彼のフランスの同僚イヴェット・コショワ(英語版)もまた、彼らの高解像度X線装置を用いたポルックス石の分析を行った[4]。彼らはいくつかの弱い輝線を観測し、それを原子番号87の元素であると推定した。フルベイおよびコショワはこの発見を報告し、彼らが仕事をしていたルーマニアの行政区からその名前を moldavium、原子記号を Ml と提唱した[5]。1937年、フルベイの仕事は、フルベイの研究手法を拒絶したアメリカの物理学者 F. H. Hirsh Jr. によって批判された。Hirsh はエカ-セシウムは自然界には存在しないと確信しており、フルベイは水銀もしくはビスマスのX線の輝線を見たのであろうとした。しかしフルベイは、彼のX線装置と手法はそのような取り違いをするにはあまりに精密であると主張した。このため、ノーベル物理学賞受賞者でありフルベイの師であるジャン・ペランは、マルグリット・ペレーが発見した francium よりも、エカ-セシウムとしての moldavium を支持した。しかし、ペレーは、彼女が原子番号87の元素のただ一人の発見者であると信じられるまで、フルベイの仕事を批判し続けた[4]。

ペレーの分析[編集]

フランシウムは、マルグリット・ペレー (M.Perey) がフランスのパリにあるキュリー研究所において1939年に発見した。彼女が 227Ac のサンプルを精製した際、220 keVの崩壊エネルギーがあることが報告された。しかし、彼女は80 keV以下のエネルギー準位の崩壊素粒子に着目した。彼女は、このサンプルの崩壊は、精製しきれなかった未確認の崩壊生成物に起因するのかもしれないと考えたが、再び純粋な 227Ac を用いて試験を行っても同一の結果となった。様々な試験の結果、この未知の物質がトリウム、ラジウム、鉛、ビスマス、タリウムである可能性が消去された。この新しい生成物は、セシウム塩と共沈するようなアルカリ金属の化学的性質を示し、227Ac のアルファ崩壊によって生成した、原子番号87の元素であるとペレーは信じた[3]。ペレーはその後、227Ac のアルファ崩壊とベータ崩壊の割合の測定を試みた。彼女の初めの試験では、アルファ崩壊への分岐は0.6 %であり、その後彼女はその数字を1 %に修正した[8]。

ペレーは新しい同位体元素をアクチニウム-K(現在は223Frとして知られる)と命名した[3]。そして、1946年に、彼女は新しく発見された元素の名前を catium とするよう提案した。これは、彼女がこの元素が全ての元素の中で最も電気陽性 (cation) であると考えていたためである。ペレーの監督者の一人であるイレーヌ・ジョリオ=キュリーは、cation よりむしろ cat の含意のためにその名称に反対した[3]。ペレーはその後、フランスにちなんだフランシウムという名前を提案した。フランシウムという名称は1949年に国際純正・応用化学連合によって公式に採用され[2]、ガリウムに次いで二つ目のフランスにちなんで名づけられた元素となった。フランシウムは初め、元素記号 Fa を割り当てられたが、その後まもなく Fr に修正された[9]。フランシウムは1925年に発見されたレニウムに続いて発見された、自然界で発見された最後の元素であり、その後発見された元素は全て合成されたものである[3]。フランシウムの構造に関する更なる研究は、1970年代から1980年代にかけて、Sylvain Liebermanおよび彼のチームによって欧州原子核研究機構において行われた[10]。

特徴[編集]

フランシウムは自然に産出する元素の中で最も不安定な元素である。最も長い半減期を持つフランシウム223でも半減期が22分しかないため、秤量可能な量の単体金属及び化合物として取り出すことがほとんどできない。よってフランシウムの化学的、物理的性質は実験結果として求められた実際の数値は少なく、理論的な推定値が大半を占める。対照的に、自然に産出する元素の中で2番目に不安定な元素であるアスタチンの最大の半減期は8.5時間である[2]。フランシウムの全ての同位体は崩壊してアスタチン、ラジウムもしくはラドンとなる[2]。215mFrは半減期がわずか3.5ナノ秒しかなく、原子番号105(ドブニウム)までの合成された元素の内、最も不安定なものである[11]。単体は銀白色の金属と推定されている。また、フランシウムは高度に放射性である。

フランシウムは、化学的性質の大部分がセシウムに似たアルカリ金属元素である[11]。1個の価電子を持つとても重い元素であり[12]、元素の当量は最も大きい[11]。もし固体のフランシウムが作られたならば、その融点において表面張力はおそらく0.05092 ニュートンN/mである[13]。フランシウムの融点は計算上およそ27 °C付近になると主張されている[14]。しかし、融点はフランシウム元素の非常な希さと放射性のためはっきりと確認されていない。このように、推定された677 °Cという沸点もまた未確認である。放射性元素は放熱するため、その熱によってフランシウムはほぼ間違いなく液体であると考えられている。

ライナス・ポーリングは、フランシウムの電気陰性度を、その値が正しいとするような実験データはないものの、セシウムのもつ0.79というポーリング・スケールからポーリング・スケールで0.7と推測した[15][16]。フランシウムのイオン化エネルギーは不活性電子対効果より想定されるように、セシウムの375.7041(2) kJ/molよりわずかに高い392.811(4) kJ/molであり[17]、これはセシウムがフランシウムよりも電気陰性度が低いことを示唆している。

過塩素酸セシウムと共沈させることによってごく少量の過塩素酸フランシウムが得られる。この共沈物はL. E. グレンダナンおよびC. M. ネルソンによる放射性セシウムの共沈法を適用することによってフランシウムを分離するのに用いることができる。それはまた、ヨウ素酸塩、ピクリン酸塩、酒石酸塩(酒石酸ルビジウムも)、ヘキサクロロ白金酸塩、タングストケイ酸などを含む、他の多くのセシウム塩と共沈させる事ができる。タングストケイ酸および過塩素酸塩による共沈もまた、担体としての他のアルカリ金属なしにフランシウムを分離する方法を提供する[18][19]。ほとんど全てのフランシウム塩は水溶性である[20]。

用途[編集]

フランシウムの不安定さと希少性ゆえに、市販されたとしても用途はなく[21][22][23][24][25]、生物学[26]および原子構造の分野における研究目的で用いられるのみである。かつてさまざまながんの潜在的な診断補助の用途も検討された[2]が、この用途においても実用的でないとみなされた[23]。

合成、捕集、冷却されたフランシウムの比較的単純な原子構造を専門的な分光学実験の対象に利用され、これらの実験により原子を構成する素粒子同士の結合定数やエネルギー準位に関する情報の特定につながった[27]。レーザートラッピングされた 210Frイオン による発光の研究は、量子力学によって予測された値と非常に類似した、原子エネルギー準位間の遷移の正確なデータを与えた[28]。

存在[編集]


A shiny gray 5-centimeter piece of matter with a rough surface.


この閃ウラン鉱のサンプルはおよそ100,000個のフランシウム原子 (3.3 × 10-20 g) を常に含んでいる[23]。
自然界[編集]

223Fr は、227Ac のアルファ崩壊によって生産されるため、ウランおよびトリウム鉱石中に痕跡量存在している[11]。ウランのサンプル中には、ウラン原子1 × 1018個中に1個のフランシウム原子が存在していると推定される[23]。また、地殻中には常に多くても30 gのフランシウムが存在していると算出されている[29]。フランシウムは、地殻中においてアスタチンに次いで2番目に存在量の少ない元素である[2][23](地殻中の元素の存在度も参照)。

合成[編集]

フランシウムは核反応によって合成することができる。
{\mathrm {^{{197}}_{{\ 79}}Au+\ _{{\ 8}}^{{18}}O\longrightarrow \ _{{\ 87}}^{{210}}Fr+5\ _{{0}}^{{1}}n}}
このプロセスはニューヨーク州立大学ストーニーブルック校物理学科によって開発され、209、210、211のフランシウムの同位体を生じさせる[30]。これらは磁気光学トラップ (MOT) によって分離される[31]。特定の同位体の生産率は酸素ビームのエネルギーに依存する。ニューヨーク州立大学ストーニブルック校の電子・陽電子線形加速器 (LINAC) から放たれた 18O ビームは、金のターゲットにおける核反応によって 210Fr を合成する。この生産は、理解と発展にいくらかの時間を要した。金のターゲットを融点の非常に近くまで操作し、その表面が非常に清浄であることを確認することが重要であった。核反応は、フランシウム原子を金のターゲットの奥深くに埋め込み、それを効率的に除去しなければならなかった。その原子は金のターゲットの表面を素早く拡散し、イオンとして放出される。フランシウムイオンは静電レンズによって誘導され、熱されたイットリウム上に誘導され、再び電気的に中性となる。その後、フランシウムはガラス球に噴射される。磁場とレーザービームによって冷却され、ガラス球中に留められる。とはいえ、元素を留めておくことができるのはフランシウム原子が逃げるか崩壊する前のわずか20秒ほどだけであり、新しい原子の規則的な流れが失われた原子と入れ替わることで、数分以上の間一定数の原子の数を保持される。まずはじめに、およそ1,000個のフランシウム原子が実験においてトラップされた。この方法は徐々に改善され、単位時間ごとに300,000を超える中性のフランシウム原子をトラップできるだけの能力に改善された[1]。これらは中性な金属原子(フランシウム金属)であるとされているものの、結合していないバラバラな気体状態になっている。フランシウム原子によって放たれる光を蛍光としてビデオカメラで捕らえることができるのに十分な量のフランシウムがトラップされた。原子は直径1ミリメートルの赤熱した球として現れる。これはフランシウムを見た最初の瞬間であった。研究者は、トラップされた原子による発光と吸収を測定するための非常に敏感な測定器を作り、フランシウムにおける原子エネルギー準位間のさまざまな遷移に関する初めての実験結果を得た。始めの測定結果は、量子論に基く実験値との間で非常に良い一致を示した。他の合成方法は、ラジウムを中性子で攻撃する、トリウムを陽子、重陽子もしくはヘリウムイオンで攻撃する方法が含まれる[8]。フランシウムは、2012年現在、まだ十分に多くの重量は合成されていない[2][11][14][23]。

同位体[編集]

詳細は「フランシウムの同位体」を参照

フランシウムは34の同位体が知られており、その質量範囲はフランシウム199からフランシウム232までである[11]。フランシウムは七つの準安定核同位体を有している[11]。安定同位体は存在せず、非常に不安定な元素である。223Fr および 221Fr のみが自然に存在する同位体であり、前者の方がはるかに一般的である[32]。

半減期21.8分の 223Fr が最も安定であり[11]、これまでに発見および合成されたフランシウムの同位体で、これより長い半減期を持つものは非常にありそうにない[8]。223Fr はアクチニウム系列における5番目の生成元素であり、その後大部分はベータ崩壊によって1149 keVの崩壊エネルギーとともに 223Ra へと崩壊し、0.006 %はアルファ崩壊の経路によって5.4 MeVの崩壊熱と共に 219At へと崩壊する[33] 。

221Fr は4.8分の半減期を有している[11]。それはネプツニウム系列の9番目の生成元素であり、225Ac の娘核種である[25]。221Fr はα崩壊によって6.457 MeVの崩壊熱と共に 217At へと崩壊する[11] 。

最も不安定な基底状態の同位元素は 221Fr であり、0.12マイクロ秒の半減期を有し、9.54 MeVの崩壊熱と共に 211At へと崩壊する[11]。準安定状態の核異性体である 215mFr はさらに不安定であり、その半減期はわずか3.5ナノ秒である[34]。

注釈[編集]

1.^ 実際には最も安定な同位体元素 223Fr に対して
2.^ テクネチウムのような合成された元素が後に自然において発見されることはあった

出典[編集]

1.^ a b Luis A. Orozco (2003), “Francium”, Chemical and Engineering News
2.^ a b c d e f g Price, Andy (2004年12月20日). “Francium”. 2007年3月25日閲覧。
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4.^ a b c d e Fontani, Marco (2005-09-10). “The Twilight of the Naturally-Occurring Elements: Moldavium (Ml), Sequanium (Sq) and Dor (Do)”. International Conference on the History of Chemistry. Lisbon. pp. 1–8. オリジナルの2006-02-24時点によるアーカイブ。 2007年4月8日閲覧。
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8.^ a b c “Francium”, McGraw-Hill Encyclopedia of Science & Technology, 7, McGraw-Hill Professional, (2002), pp. 493–494, ISBN 0-07-913665-6
9.^ Grant, Julius (1969), “Francium”, Hackh's Chemical Dictionary, McGraw-Hill, pp. 279–280, ISBN 0-07-024067-1
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13.^ Kozhitov, L. V.; Kol'tsov, V. B.; Kol'tsov, A. V. (2003), “Evaluation of the Surface Tension of Liquid Francium”, Inorganic Materials 39 (11): 1138–1141, doi:10.1023/A:1027389223381
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29.^ Winter, Mark. “Geological information”. Francium. The University of Sheffield. 2007年3月26日閲覧。
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33.^ National Nuclear Data Center (1990年). “Table of Isotopes decay data”. Brookhaven National Laboratory. 2007年4月4日閲覧。
34.^ National Nuclear Data Center (2003年). “Fr Isotopes”. Brookhaven National Laboratory. 2007年4月4日閲覧。

ラドン

ラドン (英: radon) は原子番号86の元素。元素記号は Rn。



目次 [非表示]
1 歴史
2 特徴
3 同位体
4 発生
5 用途
6 ラドン温泉
7 屋内ラドンの危険性 7.1 ラドン濃度から被曝線量への換算
7.2 WHOによる屋内ラドンの危険性に関する問題提起

8 ラドンの化合物
9 脚注


歴史[編集]

ラジウムに接した大気が放射性を持つということはキュリー夫妻が発見していたが、1900年になって、ドイツの物理学者フリードリヒ・エルンスト・ドルン (Friedrich Ernst Dorn) が元素であることを発見し、アーネスト・ラザフォードとフレデリック・ソディがトリウムから発見していた放射性の気体と同一であることを示した[1]。

ドルンはこの元素を「放射」を意味する “emanation” と呼んだが、ラザフォードは “radium emanation” と呼び、ウィリアム・ラムゼーはラテン語で「光る」を意味する “nitens” にちなみ「ニトン (Niton)」と呼んだ。結局、1923年になってラジウムから生まれる気体という意味から、ラテン語の radius を語源とする “radon” とすることが化学者たちの国際機関により決定した。

特徴[編集]

ラドンは自然起源の無色無臭の気体で希ガスの中で最も重い元素である。安定同位体は存在せず、すべて放射性同位体である。

融点は−71.15 °C、沸点は−61.85 °C。

希ガス元素なので不活性であるが、フッ素との化合物が存在する。水に対するラドンの溶解度は他の希ガス元素と比較して、キセノンの約2倍、クリプトンの約4倍、アルゴンの約8倍、ネオンやヘリウムの約20倍である。有機溶剤やプラスチックに対するラドンの溶解度は水に対するそれよりも約50倍大きい。

同位体[編集]

詳細は「ラドンの同位体」を参照

最も半減期の長い 222Rn は 238U を始まりとするウラン系列に属し、起源は 238U(半減期4.468×109年) → 234U(2.455×105年) → 230Th(7.538×104年) → 226Ra(1600年) → 222Rn(3.8日)である。

222Rn の壊変生成物は数十分の半減期で高エネルギーのα線3本及びβ線2本の放射線を出して 210Pb(約22年)に至る。

ラドンの同位体には特に名前が付いているものがある。222Rn を狭義にラドン、220Rn をトロン(thoron、記号 Tn)、219Rn をアクチノン(actinon、記号 An)と呼ぶ。ラジウム、トリウム、アクチニウムの壊変によって得られることに由来し、それぞれ別の気体と考えられていた頃の名残である。

なお、222Rn は WHO の下部機関 IARC より発癌性があると (Type1) 勧告されており、土壌に含まれるラドンが地下室に蓄積することなど、危険性が指摘されている。

発生[編集]

ラドンの上位核種であるウランは地下深部にあってマグマの上昇とともに地表にもたらされる。マグマが比較的ゆっくりと固まると、花崗岩に見られるように長石、石英、雲母の結晶が大きく成長する。その結果として、ウランなど他の元素成分は結晶間の隙間に追いやられる。風化によって結晶間のウランが岩石から解き放たれ、河川上流など酸化環境で水に溶けやすいウラニル錯体として水によって運搬される。水中ウランは扇状地や断層など河川水が地下水化しやすい還元環境で堆積層に濃集を繰り返し、ウラン、ラジウム、ラドンの濃度の高い地層が形成される。

用途[編集]

放射線源(放射性同位体)として利用されていたが、現在は他のもの(コバルト、ストロンチウムなど)に置き換えられている。

地下水中のラドンの調査は、掘り返すことの困難な地下構造を知る上で重要である。ラドンの拡散速度及び地下水の垂直流動速度に比較して、ラドン半減期の短さから地層単位で異なるラドン濃度を反映しやすい。短いスケールとしての、水のトレーサーとしての利用がある。地震の先行現象としての地下水ラドン濃度変化は、1970年代より数多く報告されているが、その機構はまだ十分解明されてはいない。

保健衛生面からは、ラドンは気体として呼吸器に取り込まれ、その娘核種が肺胞に付着することでウラン鉱山労働者などに放射線障害を起こしやすい。公衆の発ガン性リスクとしては、石造りの家、地下室などの空気中ラドン濃度調査が重要である。

ラドンによる体内被曝量は、日本平均で年間0.4 mSv、世界平均で年間1.28 mSvと言われている[2][3][4]。

ラドン温泉[編集]

温泉の含有成分としてラドンを含むものは放射能泉として分類される。ラドンおよびそれ以後の各種放射性同位体が放つ放射線が健康に寄与するとの考え方(ホルミシス効果)があり、痛風、血圧降下、循環器障害の改善や悪性腫瘍の成長を阻害するなどの効能が信じられている。

ラドン温泉とは、ラドン222の濃度が74 Bq/L以上のものを指し、ラジウムが100 ng/L以上含まれるものである。オーストリアや日本、ロシアをはじめ、世界中に、療養のために活用されるラドン温泉やラドン洞窟が存在する。

1940年にオーストリアのバートガシュタイン(「バートガシュタイン」が地元のドイツ語読み、英語読みが「バドガスタイン」)のタウエルン山でラドン温泉が発見され、1950年代からインスブルック大学医学部とザルツブルク大学理学部の共同研究で、ラドン濃度と治療効果との関連性について研究が開始された[5]。研究の結果、臨床医学的に有効である病気には、強直性脊椎炎(ベヒテレフ病)、リュウマチ性慢性多発性関節炎、変形性関節症、喘息、アトピー性皮膚炎などが挙げられ、ラドン (222Rn) 放射能レベルが300 - 3000 Bq/Lと高い世界の全ての温泉では、適応症のリストが経験的に同じようなものになるとされる。バートガシュタインのラドン温泉ではラドン222の濃度が110 Bq/L以上で放射能療養泉と呼ばれ、年間約10,000人の患者が訪れる。

また、バートガシュタインの近郊には、ガシュタイン療養トンネルがあり、「トンネル療法」が実践されている[5]。治療方式は、電動トロッコでトンネル内に入り、約2.5 km奥にある4か所の治療ステーションで一定時間ベッドに臥床する。ラドン濃度は166,500 Bq/m2で、トンネル内温度は37 - 41.5 °C、湿度は70 - 95 %である。標高は1,888 - 2,238 m。

日本国内では三朝温泉(鳥取県三朝町)、有馬温泉(兵庫県神戸市)、るり渓温泉(京都府南丹市)、湯来温泉(広島市佐伯区)などがラドン温泉として知られている。特に三朝温泉は療養泉として古くから様々な患者を受け入れている。

屋内ラドンの危険性[編集]

ラドンは喫煙に次ぐ肺癌のリスク要因とされ、これまでに、住居内におけるラドン濃度と肺癌リスクの関係について多数の研究が行われている。それらの研究を統合したメタアナリシスの結果によれば、屋内ラドンによるリスクは線量に依存し、時間加重平均暴露値として150 Bq/m3あたり24 %の肺癌リスクの増加になることがわかった[6]。同様に大規模な症例数を用いた解析として、欧州9ヶ国の13の症例対照研究を対象にしたプール解析の結果は、線量応答反応は LNT モデルに従っており、統計学的に有意な正の値で、100 Bq/m3(ランダム誤差を調整した暴露推定値)あたり16 %の肺癌リスクの増加を示し[7]、他の組織型に比べて小細胞肺癌のリスクが高く、ラドンに暴露した鉱夫の小細胞癌の疫学的研究とも矛盾しない結果が得られた[8]。

ラドン濃度から被曝線量への換算[編集]

屋内ラドンの吸入による被曝線量 D [mSv]は、UNSCEAR により次式で表される[9][10]。


D = QKTF

Q は空気中のラドン濃度 [Bq/m3]、K は線量換算係数で、値は9×10−6 mSv/(Bq h /m3) が用いられる。T は所在期間で、年間の逗留率を0.8と仮定すると、0.8×8760 h/年。F はラドン壊変生成核種のラドンに対するポテンシャルアルファエネルギーの比で、屋内の値として0.4が用いられる。

これらの値を用いて計算すると、屋内ラドン濃度の世界の算術平均は40 Bq/m3なので、年間の被曝線量D は、(40 Bq/m3) × (9×10−6 mSv/(Bq h/m3)) × (0.8×8760 h/年) × 0.4 ≒ 1 mSv/年と見積もられる。日本の屋内ラドン濃度の算術平均は15.5 Bq/m3で、年間の被曝線量 D は0.39 mSv/年となる。100 Bq/m3なら、2.5 mSv/年と換算される。

WHOによる屋内ラドンの危険性に関する問題提起[編集]

2005年6月、世界保健機関 (WHO) は、ラドンは喫煙に次ぐ肺癌のリスク要因とし、これまでに、住居内におけるラドン濃度と肺癌リスクの関係について多数の研究が行われているとして、放射性であるラドンが肺癌の重要な原因であることを警告した[11][12]。

同機関は、各国の肺癌の発生率を低減させる活動の一部として、各地域におけるラドンガスに関連する健康被害の軽減を支援するための初の国際ラドンプロジェクトを2005年に発足させ[11]、2009年にはその成果を「屋内ラドンに関するWTOハンドブック」として公表した[13]。

2004年、欧州の疫学調査の基礎データを解析した結果、100 Bq/m3レベルというラドン濃度環境においても肺がんのリスクが有意に高く、その線量-効果関係は、閥値無しで直線的な関係(どれほど微量な線量であっても、それに見合った分だけ発がん確率が上昇する)にあるという論文が発表された[14][15]。

2005年8月、WHO は、高自熱放射線とラドンに関する第6回国際会議 (6th lnt. Conf. on High Levels of Natural Radiation and Radon Areas) を開催し、RRR (Residential Radon Risk) に関するラドンプロジェクトを開始した。200 - 400Bq/m3の室内ラドン濃度を限界濃度あるいは基準濃度として許容している国が多数である[16]。

アメリカの環境保護庁 (EPA) の見解によると、ラドンに安全量はなく、少しの被曝でも癌になる危険性をもたらすものとされ、米国科学アカデミーは毎年15,000から22,000人のアメリカ人が屋内のラドンが関係する肺癌によって命を落としていると推定している[17][18]。

ラドンの化合物[編集]
二フッ化ラドン

脚注[編集]

1.^ 桜井弘 『元素111の新知識』 講談社、1998年、350頁。ISBN 4-06-257192-7。
2.^ http://www.chuden.co.jp/energy/nuclear/nuc_hosha/nuch_sizen/index.html
3.^ 国連科学委員会 (UNSCEAR) 2000年報告(「原子力・エネルギー」図面集2009)
4.^ http://safety-info.nifs.ac.jp/safe/safe_ref.html
5.^ a b 滋賀医科大学名誉教授 青山喬. “ラドンで関節炎を治そう”. 2011年3月30日閲覧。
6.^ Maria Pavia et al. (2003). “Meta-analysis of residential exposure to radon gas and lung cancer”. Bulletin of the World Health Organization 81 (10): 732-738. doi:10.1590/S0042-96862003001000008. "Our meta-analysis suggests a significantly increased risk of lung cancer in people exposed to radon gas in their homes. This association seems to be dose related, and an increase of 24% in the risk of lung cancer was found at a time-weighted mean exposure of 150 Bq/m3."
7.^ Sarah Darby et al. (2004). “Radon in homes and risk of lung cancer: collaborative analysis of individual data from 13 European case-control studies”. British medical journal 330 (7485): 223-227. doi:10.1136/bmj.38308.477650.63. "This corresponds to an increase of 16% (5% to 31%) per 100 Bq/m3 increase in usual radon−that is, after correction for the dilution caused by random uncertainties in measuring radon concentrations. The dose-response relation seemed to be linear with no threshold and remained significant (P = 0.04) in analyses limited to individuals from homes with measured radon < 200 Bq/m3."
8.^ Sarah Darby et al. (2004). “Radon in homes and risk of lung cancer: collaborative analysis of individual data from 13 European case-control studies”. British medical journal 330 (7485): 223-227. doi:10.1136/bmj.38308.477650.63. "The increase in risk per 100 Bq/m3 measured radon, however, was 31.2% (12.8% to 60.6%) for small cell lung cancer, while for all other histological types combined it was 2.6% (< 0% to 10.2%) (P = 0.03 for difference), in accordance with the steeper dose-response relation reported for small cell cancer in early studies of miners exposed to radon."
9.^ 下道國 (December 2007), “自然環境中のウラン −環境中ウラン濃度とウランのクリアランス・レベル−”, 原子力バックエンド研究 (原子力学会バックエンド部会) 14 (1): pp. 43-50 2011年7月5日閲覧。
10.^ 下道國ほか (2006), “岐阜県の一温泉施設のラドン濃度と被曝線量試算”, 温泉科学 (日本温泉科学会) 55: pp. 177-187 2011年7月5日閲覧。
11.^ a b 「WHO、ラドンによる危険性を最小化するためのプロジェクトを開始」
12.^ 飯本武志(東京大学准教授)「ラドンの安全規則」(「職場と一般環境のラドンの対策」)
13.^ (WHO) International Radon Project
14.^ [Radon in homes and risk of lung cancer:collaborative analysis of individual data fromn 13 European case-control studies] - Br. Med. J, 24
15.^ (独)放射線医学総合研究所 山田裕司. “WHO国際ラドンプロジェクトについて”. 2011年3月30日閲覧。
16.^ 「大気中と水中のラドン濃度に関するガイドライン」『ラドンと癌』(pdf) p. 3
17.^ US Environmental Protection Agency. “Radon, Radiation Protection”. 2011年5月18日閲覧。 “There is no safe level of radon--any exposure poses some risk of cancer. In two 1999 reports, the National Academy of Sciences (NAS) concluded after an exhaustive review that radon in indoor air is the second leading cause of lung cancer in the U.S. after cigarette smoking. The NAS estimated that 15,000-22,000 Americans die every year from radon-related lung cancer.”
18.^ 翻訳責任 国立保健医療科学院、生活環境部 鈴木元、緒方裕光、笠置文 (2009年1月), 環境保護庁 住居内ラドンによるリスクの評価, “生活環境部の提供する情報”, 国立保健医療科学院生活環境部 2011年7月3日閲覧。

アスタチン

アスタチン (英: astatine) は原子番号85の元素。元素記号は At。ハロゲン元素の一つ。約30の同位体が存在するが、安定同位体は存在せず半減期も短いため、詳しく分っていない部分が多い。



目次 [非表示]
1 歴史
2 特徴
3 用途
4 同位体 4.1 アスタチン211

5 自然界での発生
6 アスタチンの化合物
7 脚注
8 関連項目


歴史[編集]

アスタチンはメンデレーエフによって「エカヨウ素」として予言された[1]。1932年、アラバマ工科大学のフレッド・アリソンがモナザイトから85番元素を発見したと発表し、アラバミン(元素記号 Ab)と命名したが後に否定された。1940年、アメリカのカリフォルニア大学バークレー校でセグレ等によりビスマス209にアルファ粒子を当てて、アスタチン211が初めて作られた。半減期が短いため、ギリシア語の不安定という astatos が語源。

特徴[編集]

アスタチンは壊変系列中の短寿命生成物として存在する元素で半減期が短いのが特徴である。したがって、実験している最中にどんどん崩壊して他の元素に変わっていくため、その詳しい化学的、物理的性質は分かっていない部分が多い。融点は302 °C、沸点は337 °C(アスタチン210のものと思われる)である。

昇華性があり、水に溶け、ヨウ素に似た化学的性質を持つが、ビスマスやポロニウムのように金属と非金属の中間的性質を持つ。アスタチンはヨウ素のように甲状腺に蓄積すると思われている。また色は黒もしくは銀色と推測されている。

また、常温では揮発するが、水溶液は安定しており、四塩化炭素によって水溶液からの抽出も可能である。

自然界にはアスタチン215、アスタチン217、アスタチン218、アスタチン219の存在が知られており、それ以外の同位体は人工放射性同位体である。アスタチンの人工放射性同位体の中で最も普通に作られるのはアスタチン210、アスタチン211である。

用途[編集]

アスタチンは強い放射能と短い半減期(アスタチン210でも8.1時間しかない)のため、研究用以外に用途はない。

しかし、アスタチン211は細胞殺傷性の高エネルギーのα線を放出するため、癌の治療という用途に期待されている。現在はアスタチン211の運び屋となる比較的長い半減期を持つ放射性同位体が研究されている。

同位体[編集]

詳細は「アスタチンの同位体」を参照

アスタチンは約30の同位体の存在が確認されている。しかし前文で記入したとおり安定同位体は存在せず半減期も短い(アスタチン210でも8.1時間しかない)。それらの質量数の範囲はアスタチン191からアスタチン223までの存在が確認されており、さらに23の核異性体が存在する。その中で一番長い半減期を持つのがアスタチン210(半減期8.1時間)で、一番短い半減期を持つのはアスタチン213(半減期125ナノ秒)である。

アスタチン211[編集]

アスタチン211は7.2時間の半減期を持つ同位体である。セグレ等によりビスマス209に亜鉛70のα粒子を当ててアスタチン211が作られた。現在は用途はないが、将来は放射線治療に使われると思われる。

自然界での発生[編集]

アスタチンは壊変系列中の短寿命生成物として存在するため、鉱物の主成分とはならず、自然界では非常に稀な元素である。そして、アスタチンはすべての元素の中で地殻含有量が最も少ない元素で、ウラン100万個の原子の中にはアスタチンの原子は数個しか存在しない。地殻中に存在するアスタチンの全量は28g(約1オンス)といわれている[2]。

アスタチンはウラン系列の崩壊では ウラン238(α崩壊)→トリウム234(β崩壊)→プロトアクチニウム234(β崩壊)→ウラン234(α崩壊)→トリウム230(α崩壊) →ラジウム226(α崩壊)→ラドン222(α崩壊)→ポロニウム218(α崩壊)→鉛214(β崩壊)、アスタチン218(β崩壊)→続

このようにポロニウム218のα崩壊の分岐点でアスタチン218(半減期1.6秒)が生じる。また、アクチニウム系列の崩壊の際に、フランシウム223からアスタチン219(半減期56秒)が生じ、ポロニウム215(β崩壊)からアスタチン215(半減期0.001秒)が生じる。ネプツニウム系列の崩壊の際に、フランシウム221からアスタチン217(半減期0.323秒)が生じる。また、人工ではビスマス209に亜鉛70のアルファ粒子を当ててアスタチン211が作られる。

アスタチンは酸性溶液から硫化水素によって沈殿し、電解によって分離することができる。

アスタチンの化合物[編集]

酸化数は7, 5, 3, 1, -1価をとることがわかっている。うち、他のハロゲン同様-1価が最も安定である。

他のハロゲンと同じように水素との化合物を作ることが知られている。知られている化合物の中では、-1価の化合物が最も多い。
アスタチン化水素 (HAt)
性質はヨウ化水素に似ており、刺激臭を持つ有毒な気体と考えられている。
その他にも AtO、AtO3 などの化合物も確認されている。

脚注[編集]

1.^ 桜井 弘 『元素111の新知識』 講談社、1998年、347頁。ISBN 4-06-257192-7。
2.^ 地殻中に含まれるフランシウムは20〜30gと言われており、アスタチンよりも稀な元素である可能性もある。

ポロニウム

ポロニウム (英: polonium) は原子番号84の元素。元素記号は Po。漢字では釙。安定同位体は存在しない。第16族元素の一つ。銀白色の金属(半金属)。常温、常圧で安定な結晶構造は、単純立方晶 (α-Po)。36 °C以上で立方晶から菱面体晶 (β-Po) に構造相転移する。



目次 [非表示]
1 特徴
2 歴史 2.1 暗殺の手段として

3 同位体 3.1 ポロニウム210

4 発生
5 出典
6 関連項目


特徴[編集]

昇華性があり、化学的性質は、テルルやビスマスに類似する。水に溶けない。塩酸にはゆっくり溶ける。硫酸、硝酸には易溶、アルカリにはわずかに溶ける。酸化数は、−2,+2,+4,+6価を取り得る(+4価が安定)。

ウラン系列の過程でラドン222が崩壊することによってポロニウム218が生じ、更にこれが崩壊していく過程でポロニウム214、ポロニウム210が生じる。自然界に存在するポロニウムでは、ポロニウム210の半減期が138.4日と一番長い。人工的に作られるポロニウム209の半減期は102年である。全ての同位体が強力な放射能を持っている。

マリ・キュリーがポロニウムの存在を示唆した際に、ポロニウムを含む精製物がウランの300倍の放射活性を持つと記した表現[1]が一人歩きして、ウランの300〜330倍の強さの放射能を持つという表現がされることが多いが、実際にはウランの100億倍の比放射能(単位質量当りの放射能の強さ (Bq/mol, Bq/g))を有し、ごく微量でも強い放射能を持つ(ただし、逆に自然界にはウランの100億分の1程度しか存在しない)。このため、昇華性のあるポロニウムは内部被曝の危険が大きいため、厳重な管理の下で取り扱われなければならない。しかし、ポロニウムが発するα線自体は皮膚の角質層を透過できないため、ポロニウムを体内に取り込まない外部被曝に関しては危険性は少ないともいえる。

アルファ線源や原子力電池に加えてベリリウムと組み合わせて中性子発生源として核兵器の起爆装置にも使われる。

歴史[編集]

1869年、周期表を発表したドミトリ・メンデレーエフは未発見の第84番元素が存在すると予言、テルルの一つ下に位置する元素であることから、サンスクリット語で「1」を意味する「エカ」をテルルにかぶせエカテルルと仮に名付けた。原子量を約212と予測している。

1898年7月、ピエール・キュリーとマリー・キュリーがウラン鉱石から発見[2]。発見者は当時、祖国ポーランドをロシア帝国から解放する運動に強い関心を寄せていたことから、祖国の名である「Polonia」(ラテン語)が元素名の語源となった[2]。1896年にアンリ・ベクレルによる放射能の発見を受け、まず放射能を測定する機器を開発する。ピエール・キュリーの考案した圧電気計を改良し、ウランを中心に放射能を測定する。ウラン鉱石(ピッチブレンド)を測定したところ、ピッチブレンドに含まれるウランの濃度から計算した放射線より少なくとも4倍の線量を検出した。このため、ウランとは異なる未知の放射性元素が含まれているのではないかと推論した。しかしながら、ピッチブレンドは高価であり、新元素を単離するだけの分量が入手できなかった。オーストリア政府に頼み込んだ結果、ヨアヒムスタール鉱山から採掘したウラン鉱の残りかすを数トン入手できた。ポロニウムの分離には数か月を要したという。12月にはラジウムも発見した。

ポロニウムは強いアルファ線を放出するため発熱する。1 gのポロニウム塊はアルファ崩壊熱により500 °Cに達し、520 kJの熱を放出する。この特性から、人工衛星用原子力電池の熱源として利用された[3](実際のところは、発熱体としては 238Pu の優秀性が際立っている)。 英語版Wikipedia アイソトープ電池参照のこと

暗殺の手段として[編集]

2006年11月にイギリスで発生した、元ロシア連邦保安庁 (FSB) 情報部員アレクサンドル・リトビネンコの不審死事件で、ポロニウム210が被害者の尿から検出されたことが明らかになった(死因は体内被曝による多臓器不全と推測され、暗殺その他の謀略死の可能性が広く指摘されている。なお、事件の詳細は当人の項参照)。ロシア運輸省は航空機から基準値を超える放射線を検出したと発表したが、その後の調査で基準値の範囲内であると判明した。

2004年11月に死去したPLO執行委員会議長ヤーセル・アラファートの死因も当初不明とされたが、その後病院で使用していた衣類よりポロニウム210が検出されたことより、ポロニウムによる暗殺が疑われている[4]。

ポロニウム210は99.99876%アルファ崩壊のみで崩壊し、崩壊過程でガンマ線の放射を0.00123%しか伴わない[5](殆どのアルファ崩壊はガンマ線の放射を伴う)。アルファ線は紙一枚で遮断されるために、容器に入ったポロニウム210(が微量仕込まれた食品等)を、ガンマ線計測により検出することは不可能であり、運搬者が被爆しない点でも放射性暗殺用薬物として適した特徴がある。

同位体[編集]

詳細は「ポロニウムの同位体」を参照

ポロニウムには安定同位体が存在せず、すべてが放射性である。ポロニウム194からポロニウム220までの質量範囲がある。主な同位体は、加速器で生成されるポロニウム208(半減期2.898年)、ポロニウム209(半減期102年)、自然界に存在するポロニウム210(半減期138.376日)がある。

ポロニウム210[編集]

詳細は「ポロニウム210」を参照

ポロニウム210は自然界に存在するポロニウムの同位体のうち一番長い半減期(138.376日)を持つ。1 mgにつき5 gのラジウムとほぼ同数のα粒子を放射する。1 gのポロニウム210のアルファ線は、熱エネルギーを140ワット生成する。

発生[編集]

自然界ではウラン鉱に極微量に存在するだけの非常に稀な元素であり、ラドン222から崩壊するポロニウム218などがある。1934年に実験が行われ、天然のビスマス209に中性子を照射することでビスマス210が生成し、そのビスマス210が崩壊しポロニウムが発生することが判明した。

出典[編集]

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1.^ Nanny Fröman, Marie and Pierre Curie and the Discovery of Polonium and Radium, Nobelprize.org, December 1, 1996.
2.^ a b 桜井 弘 『元素111の新知識』 講談社、1998年、344〜345頁。ISBN 4-06-257192-7。
3.^ John Emsley (2001),"Nature's Building Blocks", Oxford University Press, p.331 ISBN 0-19-850340-7
4.^ アラファト氏は毒殺? 中東TV 衣類に放射性物質と報道『中国新聞』2012年7月5日 17版 国際・総合
5.^ http://www.nucleide.org/DDEP_WG/Nuclides/Po-210_tables.pdf

ビスマス

ビスマス(英: bismuth) は原子番号83の元素。元素記号は Bi。第15族元素の一つ。日本名は蒼鉛。



目次 [非表示]
1 特徴
2 産出 2.1 ビスマス鉱石

3 用途
4 同位体
5 ビスマスの化合物
6 結晶
7 脚注
8 関連項目


特徴[編集]

淡く赤みがかった銀白色の金属で、柔らかく脆い。多彩な色を示すことがあるが、これは表面の酸化膜で光が回折することによる構造色であり、ビスマス本来の色ではない。電気伝導性や熱伝導性は高くない。融点は271.3 °Cと低い。

常温で安定に存在し、凝固すると体積が増加するのが特徴。またビスマス化合物には医薬品の材料となるものがあり、他の窒素族元素(ヒ素やアンチモン)の化合物に毒性が強いものが多いことと対照的である。

産出[編集]

天然には硫化物(輝蒼鉛鉱)として主に産出するが、自然蒼鉛として単体での産出も知られている。なお、鉱工業上はこれらの鉱物ではなく、主に鉛、モリブデン、タングステン精錬の副産物として生産される[2]。ビスマスのドイツ語Wismutは、1472年に与えたシュネーベルクの草原(Wiese)の採掘許可権(Mutung)から生まれた語Wiesemutungに由来するが、当時はビスマスはアンチモン、錫、亜鉛などと混同されていた[3]。18世紀にフランスのクロード・F・ジョフロアにより、単体であることが確認された。

ビスマス鉱石[編集]

ビスマス鉱石を構成する鉱石鉱物には、次のようなものがある。
自然蒼鉛(自然ビスマス)(Bi)
輝蒼鉛鉱(輝ビスマス鉱)(Bi2S3)
蒼鉛土(ビスマイト)(Bi2O3)

用途[編集]

医薬品(整腸剤)の原料として、日本薬局方に収載されている。

単体のビスマスと他の金属(カドミウム、錫、鉛、インジウムなど)との合金は、それぞれの金属単体より低い融点となる。このため、鉛フリーはんだに添加されたり、あるいはより低温で溶けるウッド合金のような低融点合金に使われる。また、ビスマスは大きな熱電効果を示す物質であり、特にテルルとの合金は熱電変換素子として実用化されている。

化合物としては、銅酸化物高温超伝導体の1成分としても用いられ、ビスマスを含む超伝導物質はしばしばビスマス系高温超伝導物質または単にビスマス系と呼ばれる。

上記以外にも、高比重・低融点で比較的柔らかく無害である事から鉛の代替として注目され、散弾や釣り用の錘、鉛・カドミウムの代替として黄銅への添加剤、ガラスの材料などとして用いられている。

同位体[編集]

詳細は「ビスマスの同位体」を参照

天然に存在するビスマスの同位体はすべて放射性同位体である。主要な同位体である 209Bi は長らく安定同位体とされてきたが、近年、精密な測定で非常に長い半減期を持つ放射性同位体であることが判明し、最重安定同位体の地位を鉛 (208Pb) に譲ることとなった。

209Bi はごくわずかにα崩壊により崩壊するが、その半減期は2003年に測定された値で (1.9 ± 0.2) × 1019 年(≒ 1700京〜2100京年)である。この値は現在の宇宙年齢の9桁以上も長い[4]。

その他にも、半減期は短いが自然界には5つの同位体が存在する。いずれも、壊変系列の崩壊過程によって発生する同位体である。ウラン233の崩壊過程でできるビスマス213はがんの治療に期待されている。

ビスマスの化合物[編集]

収れん作用を持つビスマスの化合物は、腸粘膜のタンパク質と結合して被膜を作り炎症を起こした粘膜への刺激を和らげる効果があり、整腸剤として利用される。
酸化ビスマス(Bismuth Oxide) (Bi2O3) - 整腸剤
次没食子酸ビスマス(Bismuth subgallate)( C7H5BiO6) - 整腸剤(日本薬局方収載)
輝蒼鉛鉱 (Bi3S3)
塩化酸化ビスマス(III)(Bismuth oxychloride) (BiClO) - 化粧品、パール塗料の原料。
次硝酸ビスマス(Bi5O(OH)9(NO3)4) - 整腸剤(日本薬局方収載)
次サリチル酸ビスマス - 整腸剤
炭酸酸化ビスマス(III) - 整腸剤
チタン酸ビスマスナトリウム ((Bi1/2Na1/2)TiO3)

結晶[編集]





ビスマスの結晶
人工的に作ったビスマスの結晶は、酸化膜による多彩な着色と骸晶による特徴的な形状から、観賞用として市販される場合がある。




脚注[編集]

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1.^ Bismuth, mindat.org
2.^ http://minerals.usgs.gov/minerals/pubs/commodity/bismuth/bismumcs96.pdf Bismuth, Mineral Commodity Summaries(1996)Bismuth, USGeological Survey.
3.^ 大学教育研究会編 「化学―物質と人間の歴史―」開成出版、1985年、ISBN 4-87603-044-8
4.^ de Marcillac, P. Coron, N. Dambier, G. Leblanc, J. & Moalic, J.-P. Experimental detection of α-particles from the radioactive decay of natural bismuth. Nature 422, 876-878 (2003).
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