「…………………う…………あ…………ん。」
しばらくして気が付いた鈴香は、今度は鈴香が布団で寝ておりその隣にデライラが
いた。もちろん裸のままで。
「よかった心配したわ。まだ死なれちゃ困るもの。」
「えっ?…………………あ、そうだ!
デライラさん! いきなりキスするなんてどいうことですか!!」
「あはは♪ ごめんね。
久しぶりの精気だったから吸いすぎちゃった。」
「………………………………」
(今度は精気……。
突然、私の前に現れて倒れたと思えば、いきなりキスをしてきた。
そしてキスをされた時のあの虚脱感。この人……、本当に人間じゃない?)
鈴香はいまさらだがデライラが人であるかを疑問に思った。
「もしかして…、本当に人間じゃないんですか?」
「えー、だから最初からそう言ってるじゃない。」
それから少し落ち着いた鈴香は、デライラからいろいろな話を聞いた。デライラは、
戦国の世に生まれた西洋の悪魔らしく、日本でいうと妖怪の類だとか。なんで西洋
の悪魔が日本にいるのかというと、間違って魔界から降りた所がどうやら日本だっ
たらしい。そして法師に封印されて今にいたるのだと。この世に魔界やら妖怪を信
じていない鈴香だが、精気を吸われても、いきなりそんな話を信じられなかった。
そして話を進めていくと、鈴香はある重要なことに気が付いた。
「そういえばデライラさんって封印されてたとか言ってましたよね。
どうしてそんなことに?」
「どうして? そんなの簡単じゃない。
私は夢魔。悪魔であり、人々の煩悩の象徴でもあるのよ。
人の欲望を叶えたり、悪魔に変えることだってするわ。
だから人は私達のような者を危険だと思ったんじゃないのかしら?」
「えっ!? 人を悪魔にですか?」
「そうよ、人を悪魔に。あれ? どうかしたの? 顔色悪いわよ。
そっか、私が精気吸いすぎたせいだよね(笑)」
(この人、やっぱりおかしい。
もしかして私、大変なことに巻き込まれてるんじゃ…)
鈴香は、勇気を振り絞って最後の質問をしてみた。
「あの……人を悪魔にするってのはどういうことですか?」
その話を聴いた瞬間、デライラの顔が妖しく微笑む。
「気になるの? ふふふ…それはね……。
私達の魔力を人に与えるの。
そうするとあっという間に変わるのよ。
私達の同族にね。」
(どう…ぞく? やばい、この人、いやこの悪魔は本物だ。)
「そ、そう…ですか…。
わたしちょっと飲み物持ってきますから…。」
そう言うと鈴香は布団から出て、ふらふらと台所に向かおうとした。
(人を悪魔に変える?
もしそれが本当ならさっき言っていた言葉も…)
【「よかった、心配したわ。まだ死なれちゃ困るもの。」】
(もしかして……私を悪魔に?)
鈴香は一刻も早くこの部屋から、いやこのデライラから離れようとしていた。
飲み物を持ってくるという嘘をつき、神主を呼びに行くために。
(人を悪魔に変えるなんて信じてはいないけど、さっきのこともある。)
そして鈴香は障子に手を掛けて、横に引こうとするが…。
「ん………? ふんっ…………あれ? 立て付けが悪いのかな?
それならこっちの障子を…あれ、こっちも?
んーーー! あれ? どうして? どうして開かないの?」
鈴香がいくら横に引いても、どの障子も開かない。
いつもなら簡単に開く障子が、どれもいきなり開かなくなったのだ。
開かないというより、元から動く気配がないのだ。
そして障子の紙の部分が手に触れた時、変な感触が鈴香を襲った。
「えっ……堅い?」
紙の部分は、まるで壁を押しているのかのようで破ける気配はない。
続けて起こる異常な現象に、不安と緊張で体中から汗が滲み出てくる。
そしてさっきまでなかった鈴香の後ろでする妙な音。
ヒュッ………、ヒュッ………
まるで紐を振り回しているようなその音は、鈴香のすぐ後ろからしている。
(なにかいる!?)
さっきまでなかった後ろの異様な気配。
どう感じてもその気配は人間のものではない。
幽霊や妖怪を信じない鈴香にとって、初めての経験だった。
まるでカエルが後ろから蛇に睨まれている様に。
そしてゆっくりとデライラがいた方向へ振り向くと…。
「えっ・・・」