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ν賢狼ホロν
「嫌なことなんて、楽しいことでぶっ飛ばそう♪」がもっとうのホロです。
ザ・タイピング・オブ・ザ・デッド2
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2008年12月29日
『闇の狭間の淫略〜淫水魔月海』 Part2
「?なんだ、これは…」
出雲荘にたどり着いた時、月海は妙な寒気に襲われた。
別に風邪をひいたとかそういう類ではない。出雲荘の中から漂ってくる空気が妙に寒々しいのだ。
まるで異界と繋がっているような、そんな非現実的な考えすら浮かんできてしまう。
「なにか…、あったのか?」
もしかしたら、他のセキレイが出雲荘の中に侵入し待ち構えているのかもしれない。
月海はあたりを警戒しながら、出雲荘の玄関のドアまで歩み寄った。
「………」
このドアを開けたら、中から奇襲攻撃…。充分にありうる。
月海がそっとドアノブに手をかけた時

「あら月海さん、おかえりなさいませ」

月海の背後から唐突に声が聞こえてきた。
「どわあああぁぁっ!!」
緊張の只中にいた月海は、思わず情けない悲鳴をあげながら慌てて後ろを振り返った。
そこには、出雲荘の管理人であり月海を買い物に生かせた張本人の美哉が箒を持ったまま立っていた。
「お、大家殿!驚愕させないでいただきたい!!心臓に悪いではないか!!」
「あらあら、私そんなつもりは全然無かったのですけど……」
悲鳴を上げた恥ずかしさと背後の美哉に全く気づかなかった情けなさで顔を真っ赤にしている月海に、美哉は口元を手で隠しながらきょとんとしていた。
「まあ…、考えてみれば大家殿がいる限り出雲荘にセキレイが侵入できるはずもないか…少し勘が鈍ったのやもしれぬな…」
この美哉、一見おっとりしていてひ弱そうに見えるが、実は月海ですら敵わないほどの戦闘能力を持っている恐怖の管理人さんなのだ。そんな彼女がいる限り、出雲荘へ不法侵入できるセキレイなどいるべくもないし、なにかがおこるはずもない。
「いやすまなかった大家殿。吾が少し思い違いをしていたようだ。
あ、これは頼まれた買い物だ。台所のほうへ置いておくのでな…」
「うふふ、月海さんご苦労様でした。それでは約束どおり、お夕食の時に佐橋さんと食べる権利は月海さんのものにいたしますね」
「うむ!それがあるからこそ吾も買い物に行く意義があったというものだ!!」
美哉から確約を得て、月海は意気揚揚と台所のほうへと消えていった。
それを見ながら、美哉は口を袖で隠しながらクスリと微笑んだ。
「ふふ…。夕食まで待つこともありませんけどね。
すぐに与えて差し上げますわ。月海さんにも『佐橋さんを食べる権利』をね……」
袖の上に見える瞳は、いつも優しげな美哉とは思えない邪な光を放っていた。


月海が台所へと向う道の途中、ふと眼に入ったものがあった。
風呂場の電気がついていたのだ。
「誰だこんな昼間から…。人が暑い中買い物をしてきたというのに……」
出雲荘には各部屋に風呂はついておらず一階の風呂場を全員が使っている。基本的に湯を沸かすのは管理人の美哉なのだが、許可を得れば誰でも好きな時に沸かしてはいることが出来る。
だから別に昼間でも入っていて構わないのだが、自分が汗をかきながら仕事をしてきた一方で誰かが優雅に湯船に浸かっていたと考えるのは決して気持ちのいいものではない。
ぶつくさ言いながら月海は荷物を台所へ置き、自室がある二階の階段へと急いで上っていった。
家を出るとき、美哉から歩いて帰ってくればその頃には皆人も戻ってきているだろうと聞かされていたので、月海は部屋にいる皆人に今すぐにでも会いたかったのだ。

「つーちゃん、おかえりなさい…」
「あ、おかえりです月海たん」

だが月海がドアを開けると、部屋の中には同居している草野と松しかいなかった。
「…なんだ、ミナトはまだ戻っていないのか……」
当てが外れ、月海はがっくりと肩を落とした。これでは急いで上がってきた意味もない。
「あれ、見てなかったですか?みなたんはもう帰ってきてますよ」
「なんじゃと?しかし、外にはいなかったようだが……」
「何言ってるですか。みなたんは今お風呂に入ってるのですよ」
そう言いながら、松はニンマリと微笑んだ。
「風呂?!ミナトは風呂に入っているというか!」
風呂という単語に月海はビコン!と反応した。このところ皆人は月海たちが一緒に入ろうと誘えばいつの間にやら姿をくらまし、自分が風呂に入るときは風呂場の鍵をかけてしまうので、月海は一緒に風呂に入れないことをずっと不満に想っていたのだ。
「よし…!今日という今日はミナトと共に湯船へと浸かってくれるわ!覚悟いたせ!!」
こんな昼間から皆人が風呂に入るのはかなり珍しいことだが、月海や結の裏をかいたと考えればまあ納得がいくことであろう。
「ふっふっふ…そうはいかんぞミナトめ。汝の背中、吾がゆっくりたっぷりと洗いぬいてやろうぞ…」
凄みを利かせた笑顔を浮かべ、両手をわきわきとさせるその姿はどう贔屓目に見ても獲物を前にして狩りの期待に心躍らせる肉食獣のそれだ。
「わぁみなたんの命は今まさに風前の灯ですね〜〜。でも、お風呂場の鍵がかかっていたらどうす
るんですかぁ?」
「決まっておろう!結がいないこの機会を見逃せるものではない!!
有無を言わさず破壊して、無理やりにでも押し入るまで!」
確かに、結が出かけている以上これは皆人を独占するまたとない機会だ。まあ厳密に言えばここにいる松も草野もライバルと言えるのだが、皆人が風呂に入っているのを知っているのにここに留まっているならば、とりあえず員数外といえるだろう。
「で、無理やり押し入ってそのままコマしちゃうですか?確かに既成事実を作ることが出来れば、結たんとのみなたん争奪戦では圧倒的優位に立ちますからねぇ〜〜〜」
「な、なぁ?!」
松がニヤケ笑いを浮かべながら放ったあまりにも下に走りすぎた表現に、月海の顔は一気にボッと赤く染まった。
「バ、バ、バ!馬鹿者!!そ、そんな下衆な物言いをするでない!
わ、わ、吾とミナトがそ、そそそのようななことをぉ……」
普段それなりに破廉恥な服装をしている割には、月海はそっちの話題にあまり耐性がない。松の言葉で皆人との『そのようなこと』が脳裏に浮かんできているのか、月海の顔のあちこちから蒸気が噴き出てきているように見える。
「と、とにかく!吾は今から風呂に入る!松!草野!決して後を追うでないぞ!!」
まだ顔から蒸気を蒸気を噴出したまま、月海は押入れから洗面用具一式を取り出すとそそくさと部屋を後にしていった。
「はいは〜い、いってらっしゃい月海たん〜〜〜」
後ろで松が手をひらひらさせて見送っていたが、それに月海が気づくことはなかった。
「あ〜あ、行ってしまいましたね月海たん。どうなりますかね〜、ねえ草野たん」
松はくすくすと笑いながら部屋の隅でじっとしている草野に話し掛けた。
「うん…。つーちゃんも、きっととっても……きもちよくなると…思うの」
松に微笑み返した草野の顔には、子供には絶対に作れない淫蕩な笑みが張り付いていた。

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