夜中の3時頃まで仕事場のパソコンに向かっていました。一服しようとしたら、タバコが切れていました。
散歩がてらにコンビニに出かけ、買い求めた後は気持ちよくくゆらしながら歩いていました。
路地の角近くまで来たとき、「トラ」が街路灯の下を小走りで此方に向かって来るのが見えました。こんな夜更けに何をしているのだろう、と思いながらタバコをもみ消し、
「やあ、トラじゃないか」
と声をかけました。気が付いたのか、立ち止まって
「にゃーん」
と返事をしました。
トラとは茶色の縞模様のオス猫です。痩せていて哀しそうな顔をしています。馴染みの居酒屋「もみじ」で知りました。トラは、必ず夜の10時に家族を引き連れてこの店を訪れる馴染みの常連猫です。餌を貰いに来るのです。
トラは、私の足元に来て、上目使いで見上げています。
私は、腰を下ろして、
「一人かい、今日は? 何処をパトロールしていたのだ?」
「うにゃー」
「明日の天気はどうだろうね」
「・・・・・・・」
「また来るかい、明日、もみじに・・・」
「にゃ」
「じゃあな」
「にゃー、にゃー」
私は腰を上げて、歩き出そうとしました。それでもトラは私の足元を離れません。
無理やり歩き出したところ、トラも諦めたようで、首を項垂れ、尻尾を下げてトボトボと路地の方に歩き始めました。
暫く歩いて後を振り返ると、トラが同じようにして此方を見ています。更に5歩ほど歩いて振り返ると、トラも同様の事をするのです。お互いの距離が遠ざかって、お互いが見えなくなるまでそれを繰り返しました。
今度トラと「もみじ」で出会ったら、焼酎を振舞って遣ろうと思いました。
実は、「もみじ」のお客さんがトラ一家に小魚などを与えている時、私は日本酒の熱燗を飲まそうとして女将さんに怒られたのです。雪の寒い日の事です。
「猫に酒を飲ませた事があるんや、僕は、子供の頃・・・。酔うてしもうて、足がふらついていたけど」
「飲めへん、飲めへん」
と女将さんが厳しい口調で、しかし笑顔で答えたのを思い出しました。
今日、夜の10時に「もみじ」に行くかどうかは未だ決心が付いていません。成り行き次第です。
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