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2016年11月27日

扉シリーズ第五章  『狂都』第二十六話  「澪8」

地下室へと言うよりは…

少し降りてみると、鍾乳洞の洞窟のようだ…

地下とはいえ、なぜ狂都のど真ん中にこんな場所があるのか…?

澪は階段を降りながら、やはり暗闇の中でこんなに目が効く自分が不思議でたまらない…

それを感じたのか、静馬が背中を向けたまま口を開いた。

「不思議だよな…実はオレにもよくわかんねぇんだけど…多分、ここからすでに『この世』じゃねぇんだよ…神様ってのは、この世におわすもんじゃねぇからな…」

澪はゆっくりと落ち着いた口調で話す静馬に違和感をおぼえつつも、その話には妙に納得してしまった。

この暗闇の中、見える事自体普通ではありえない…

しばらく階段を下りると、階段の入り口よりは少し簡素で軽く見える観音開きの扉の前に行き着いた。

ここは施錠されていないが、おそらく、ここに辿り着けるのは入殿を許された者だけでありるからだろう…

「澪…扉を開けるけどな…開けたら変な感覚するかも…いや、するだろうけど、取り乱すなよ…何の害もねぇからな?」

静馬が珍しく、優しく気遣うような声で、そう言った。

澪には、その優しい気遣いが逆に恐ろしく思えた。

あの静馬にそんな事をさせるような事が、この扉を開けると起こるのだろう…

澪は緩く下唇を噛んだ後に、

「うん…」

と短く返事した。

静馬はそれを確認すると、

「じゃあ、開けるからな…」

と言うと、両手で扉の取っ手を握り、ゆっくりと、扉を開く…

その隙間から冷たい風が澪の頬を鋭くかすめた。

風そのものが凍っているよだと感じるほどの冷気を、その風から感じた。

静馬はまた、

「雲神の君、呪神が末たる者、入殿したるを是れ、許し給え」

と呟く。

乾いた音を立てながら、静馬が扉を開けきると、部屋の中の光景が目に飛び込んだ。

澪の真正面、10メートル以上離れた場所に祠のようなものが見えるだけで、何も無い…

いや、無色透明の空間ではあるが、そこに何らかのエネルギーの流れのようなものが存在する事は感じる…

「行くぞ…」

静馬はそう言うと、部屋に足を踏み入れた。

澪は、その光景に目を奪われた。

静馬が足を踏み入れた瞬間、その後ろ姿が、まるで螺旋の渦に巻き込まれたように、上下左右左右がクルクルと変化するのだ。

澪は無意識に一歩引き下がった。

静馬は足を止めてこちらを振り向くと、

「大丈夫だから入ってこい」

とこちらに声を投げるが、立ち止まっていながらも、その姿はクルクルと回り続け、その声すら螺旋を描いて、こちらに届いているように感じる。

澪は目眩をおぼえた。

「入ればわかる…とにかく入ってこい!」

静馬がこちらに手招きしてくる。

静馬が平気そうな顔をしているので、澪は静馬を信じて、ゆっくりと部屋に足を踏み入れた。

その瞬間、身体の中を風が吹き抜けたような気がした。

澪は、何となくだが、この部屋が何なのかわかったような気がした。

この部屋自体が、もう神様なのだ…

祠はあるが、あれはこの神様と交信しやすくする為の形だけのものなのだろう…

それに、おそらく自分の身体も外に出から見ればクルクルと回っているのだろうが、地に足のつかない浮遊感はあるものの、回転している感覚はなく、まっすぐ前に進んでいるようだ…

静馬は祠の前で立ち止まると、片膝をついて頭を垂れた。

澪も、何とか静馬に追いつくと、その隣で、片膝をついて頭を垂れた。

静馬に倣ったのではなく、無意識に身体がそう動いていた。

澪が頭を垂れると、澪の頭に…いや、澪の全身が耳になったように、全身に伝わる声が響いた。

『よく参った…我が末たる血統の者、汝、土雲澪…その眷属たる者、汝、都古井静馬よ…』

威厳に満ちているが、優しく、何か柔らかいモノに包まれたように感じるその声から、澪は自分の祖神が、女性の神格である事を、その時、初めて知ったのだった…

続く






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