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2016年07月24日

扉シリーズ外伝「矢崎はるか2」

土雲神社の入り口である鳥居を潜ったはるかは、土雲神社の本殿になるであろう民家の玄関先で、

「あ、あの…突然すみません…あ、あの、お邪魔します…」

と、晴明に向かって深々と頭を下げた。
晴明はただ包み込むような優しい笑顔を見せると、家の中へ上がるようにジェスチャーした。
はるかはまた、深々と頭を下げながら玄関に入る。
しかし、玄関には一人の少女が腕組みをして仁王立ちしている。
おそらく、先ほどの敵意むき出しのアニメ声の女の子、晴明が『澪』と呼んだ少女に違いない。

年の頃17、8といった所だろうか?

艶々した黒髪をツインテールに束ね、少し丸っこいが小さい顔には細いがしっかりした眉毛…
すこしつり目気味であるが、猫のようなクリクリした可愛いらしい瞳、鼻筋は通っているが丸っこく、少し肉厚気味の唇は、はるかに向ける敵意の為か、真一文字に結ばれている。
細い首筋から下は黒いタンクトップと、カーキ色のホットパンツ。
もしかしたら晴明の妹なのだろうか…と、はるかが思う程、色白で手足がしなやかで細く、長い、その体型がそっくりである。

どこからどう見ても『美少女』。

その手のアニメ好きから見れば、たまらないビジュアルであろう。
しかし、はるかには、ただ一箇所だけ彼女に勝っていると思える所があった。
胸のサイズである。
自慢ではないが、自分はFカップ。
彼女はせいぜいB止まりであろう。

「澪!」

晴明は、優しいながらも失礼な態度を咎めるような口調で、その少女の名を呼んだ。
澪は、

「フン!」

と、敵意丸出しの態度で家の奥に消えた。
やはり、兄妹なのか?
はるかは思った。

「澪!冷たい物持ってきて!」

晴明はそういいながら、はるかを客間であろう部屋に案内する。

その部屋は、町屋造りの外見からは想像できない洋室だった。
リフォーム間もないといった感じで、設置されている白を基調としたソファーセットとテーブルが、それを強調させている。
壁には誰の作品かわからないものの、何故か目を惹きつけられる美しい風景画が飾られている。

晴明に促されるままソファにかけると、テーブルを挟んで向かいに晴明が座る。

少しの沈黙の後、

「あ、改めまして…僕が土雲晴明です。えっと…矢崎はるかさん、でしたよね?」

と、晴明がまた後頭部を掻きながらたずねる。
はるかは、おそらくそういう癖なのだろうと、少し笑いながら

「は、はい…はじめまして、矢崎はるかです…今日はアポも取らずに、突然押しかけてすみません…」

と、ペコリと頭を下げ下げた。

「いえいえ、今年の始めくらいから結構多いんですよね…何か、知らない内にネットで拡散されてたみたいで…矢崎さんも、もしかしたらネットで?」

苦笑いで上目遣いに尋ねるところを見て、晴明はあまりそれを歓迎していないようだと、はるかは感じた。
はるかも上目遣いで

「は、はい…」

と答えた。すると…

「はいじゃないよ、全く!」

可愛いらしいが敵意のある声…
澪だ…
澪は、アイスコーヒーだと思われるストローが刺さったグラスが二つ載った木製のお盆を両手に抱えて、はるかに対し、敵意のある眼差しをはるかに向けている。

「澪!」

晴明がまた、澪の失礼な態度を咎めるようにその名を呼んだ。
澪は唇を尖らせると、荒々しくテーブルの上にお盆をおいて、晴明の隣に腕組みをしながら、ドカッと乱暴に座ると、足を組んで前のめりに、

「あんたさあ、ウチがどんなとこか、全く分かってないでしょ?」

と、鋭い目付きで尋ねる。

「澪、いい加減にしなよ。」

晴明の声が少し低くなった。
しかし、澪は、

「ここはね、霊能者の世界じゃかなりヤバイ家柄なの…一般の人が気軽に尋ねて来ていい場所じゃないの…正直、ヤクザより質悪いよ?」

と、晴明の言葉など意に介さずにそう言った。
ヤクザより質が悪い…?
どういう意味?
はるかには、ヤクザという言葉と、晴明、それに澪が繋がらない。

「澪…それは前々宗主までの話だろ?あ、気にしないで下さい…兎に角、矢崎さんに憑いてる良くないモノは、僕が何とかしますので…」

晴明のその言葉に澪が噛み付く。

「晴明はさぁ、甘すぎるよ!宗主になったからって、土雲がすぐに変われると思ってんの?どうせまた謝礼も受け取らずに返す気なんでしょ?」

晴明はそれを受けて、

「土雲は僕が変える…それに、謝礼も受け取らないよ…十分に生活できる収入はあるんだから…」

と、澪の方には目をやらずにそう答えた。
はるかにはよく分からないし、聞くべき事でもない。
しかし、謝礼を受け取らないというのは本当らしい。
だが、キチンと除霊してもらえたなら、謝礼は置いていくつもりだ。

急にはるかを見る澪の目が変わった。
キラキラとした黒い瞳が、少しだけ緑がかって見える。
はるかは本能的に、

『自分に憑いてる何者かを見ているのだ』

と、思った。
澪は数十秒はるかを見た後、

「全く大した事ないじゃん…サッと終わらせて、さっさと帰ってもらいなよ!」

と言いながら勢いよく立ち上がり、部屋を出ていった。

晴明は、

「あ、冷たい物、飲んで下さいね…」

と、はるかの前にグラスを置いて、ミルクとシロップをそのグラスの脇に置いた。

「あ、い、頂きます…」

はるかはミルクとシロップを入れて、ストローでかき混ぜる。
白と黒が混じり合うマーブル模様を見ていると晴明が口を開いた。

「澪は、僕の姪に当たる娘で…あれでも、うちの一族の中では唯一の僕の理解者なんですよ…土雲家は霊能者の世界では外道と呼ばれてきた一族で、その行いも外道そのものだったんです…でも前宗主、僕の祖母だったんですが、祖母はそれまでの宗主とは考え方が違ったようで…祖母は強力な霊能者だったので、その力で一族を抑えつけて、そこから土雲家は変わり始めました…で、2年前に僕がその後を継いだんですが…なかなかうまくは行きません…はははっ」

外道の行いとは一体どんな事なのか…
でも、初対面の素性も知らない女にこんな事を話してもいいのか…
はるかは、恐縮しながらアイスコーヒーに口をつけた。

その後、晴明ははるかにニ、三質問をした。
生活や仕事、それに、今はるかが渦中にある霊障についてである。
晴明ははるかの話を時折うなづきながら、ただ静かに聞いていた。
そして、

「ありがとうございます…では矢崎さん、初対面で恐縮なんですが…その、肩を揉ませてもらってもよろしいでしょうか?」

と、言いにくそうに尋ねてきた。
はるかは一瞬「えっ?」という表情をした。

「すみません…僕は、そうやって中にいる者とコンタクトを取るんです…あっ!決してやましい気持ちからではないので…」

はるかは正直、やましい事であってもいいかな、と思った。
目の前にいる土雲晴明からは、男性から感じるギラギラした欲望や、邪気を感じる事がない。
この男性は信頼できる、本当にいい人なのだ。
そして、何よりイイ男だ…

「あ、か、構いません…よろしくお願いします。」

はるかはグラスを置いて、頭を下げた。
晴明はそれを聞くと立ち上がり、はるかの後ろに回った。
その動きだけで、はるかは鼓動が早くなるのを感じた。

「では、失礼します…」

晴明はそう言いながら、はるかの両肩に手を置いた。

その瞬間、はるかは今まで感じた事のない温かさを感じた。

薄いブラウスとキャミソールを通して、晴明の体温がはるかの素肌に伝わった。

「土雲さん…手が温かいんですね…」

思わず、はるかは思った事を口に出してしまった。
何か、いやらしい発言をしたような気がして、頬が赤らんだのを感じた。

「よく言われます…」

晴明の声には笑気が混じっていた。
そして、晴明が手を動かし始めた。
マッサージの勉強をした事があるのか、指の動きと、適度な握力が素人技ではないように感じる。

「力を抜いてリラックスして下さい…寝てもらっても構いませんよ…」

見事なマッサージと、晴明の優しい声に、はるかは本当に夢見心地になってきた。
しかし、寝てしまったらこの心地よさを感じられなくなってしまう…
晴明の手が徐々に、徐々に、自分の身体の中に入ってくる…混ざり合うような感覚がしてきた。
それが、たまらなく心地よい。

「いましたね…」

どれくらいそうしていたのか、本当に寝てしまっていたのか…
はるかは晴明のその声によって我に帰った。

「十くらいの女の子…この子がはるかの中にいたんですね…そうか、君はミキちゃんて言うのか…うんうん…そうか…ミキちゃん、君はね、もう亡くなってしまったんだ…だから、行くべき所へ行かなきゃならない…うん、怖くないよ…ほら、渦が見えるだろ?君はあの渦の中に溶けて、またいつの日か生命を授かって、この世に帰ってくるんだ…今のままじゃ、君はずっと一人ぼっちでいなきゃならないんだよ…だから、あの渦に入ろう…大丈夫…僕が連れていってあげるから…さあ、行こう…」

晴明の声は、慈愛に満ちていた。
自分に憑いている者と対話をしているんだろう…
元来霊感の鋭いはるかには、今、晴明とミキが見ている『渦』というものが、容易にイメージできた。
おそらくあれが、『生命』そのものなのだろう…
自分もあそこから来て、また、いつの日か、あそこへ帰る時がくる…
はるかは、そう感じていた。

「うん、バイバイ、ミキちゃん…またいつか、会えるかも知れないね…今度は丈夫な身体に生まれてくるんだよ…じゃあね、バイバイ…」

その声の後、晴明は肩もみをやめ、パンパンと両肩を刺激を与えると、

「はい、除霊終了です…」

と、かすかな笑気の混じった声で、そう言った…

はるかは気づいた。

ここに来るまでに感じていた倦怠感が、嘘のように消えている…
その上、いつも悩んでいた肩凝りさえも、全く感じない…

この人の『除霊』は、『癒し』なのだ、とはるかは思った。

晴明は自分の席に戻ると、氷が溶けきって少し薄くなったブラックのままのアイスコーヒーに口をつけ、

「矢崎さん達が行かれた心霊スポットは、もう何十年も前に閉鎖された、子供向けの療養施設だったみたいですね…矢崎さんに憑いていたミキちゃんという女の子は、そこで病死したようでした…彼女はこの世でやりたい事がたくさんあったみたいで、その思いが彼女をこの世に縛り付けてしまっていた…でも大丈夫、帰るべき所へ帰る事ができましたから…」

と、説明してくれた。

「あ、あの…土雲さんは…生命の起源みたいなものを御存知なんですか?」

御礼よりまず、はるかはそれが気になった。
どんな偉い学者でも、その答えを持つ者など、この世にはいないのだから…

「生命の起源…いい表現ですね…分かったような気になってはいる…それが答えとして相応しいかな?」

晴明ははるかの質問にそう答えた。

それを受けて、はるかの中に激しい欲求が生まれた。

『この人から教えを乞いたい』

物心ついた時から、はるかには『生命の起源』を知りたいという欲求があった。
人はどこから来て、どこに行くのか…
それははるかにとって、何にも勝る魅力的な学問なのだ。

「あ、ありがとうございました…本当に、何と御礼を言えばいいのか…あの、またお伺いしてもよろしいでしょうか?」

はるかが御礼と共にそう言いかけた時、携帯の着信メロディが響いた。
晴明が、デニムのポケットに手を入れると、携帯を取り出した。

「あ、すみません、ちょっと失礼…」

晴明はそう言いながら電話に出た。

「もしもし…どうだった?…そう、来週こっちに…えっ?伊田さんも来てくれるんだ、それは心強いな…わかった、それじゃあまた詳細わかれば連絡して…で、AYAさん…絶対に油断はしちゃいけないよ…向こうは、いつも君を見てるからね…うん、それじゃ…」

その電話中、晴明さんは今までにない鋭い目つきを見せた。

「あ、すみません…」

そう言った晴明の目は優しい眼差しに戻っていた。
その後、はるかと晴明は謝礼を受け取る受け取らないで問答を続けた結果、はるかは強引に謝礼を置いて、

「また来ます!」

と、言い残して土雲神社を後にした。
はるかは、土雲晴明という男性に対し、今まで感じた事のない高揚感を感じていた。
あの人になら、人生の全てを捧げても構わない。
それに勝る、はるかが人生に求めている言葉にならない『何か』を獲得できるという確信があった。

はるかは、現在住む神奈川に戻る途中、彼氏と別れ、会社もやめ、生まれ故郷である京都へ帰る決意を固めたのだった…







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