2016年10月22日
扉シリーズ第五章 『狂都』第四話 「異界」
眼…特に瞳あたりがチリチリと焦げるような感覚がするが、熱くはない…
それよりも気になるのは、前方に立ちはだかる人影…
近づいていく程に、その姿がハッキリとしてくる…
黒いシルクハットと黒い燕尾服に身を固め、右手にステッキを持った、安物の手品師のような出で立ちの老人だ…
彼はうっすらと微笑みをたたえながら、そこに立ちはだかっている…
「何か、人間立ってないすか?」
木林が伊田に尋ねる。
「ああ…判然としないが…確かに何かいるね…」
前を見据えたまま、伊田はそう答えた。
どうやら前の二人には人影にしか見えていないようだ…
武市はそう思うと、前の二人には気付かれぬよう、翔子の腕をポンポンと叩いた。
翔子はそれに反応して武市に目線を送る。
『言わなくていい』
翔子の視線から、その意思を受け取った武市は、そのまま沈黙してた。
しかし、何故武市と翔子にしか見えていないのか…?
そこにはやはり『神格』の存在が関係しているのだろうか…?
だとすれば、今そこに見えるのは
人間でもない、単なる霊体でもない…
『魔星』
武市の頭に、その言葉が浮かんだ…
それと同時に泉州大学での打ち合わせの際、三角綾が持ち込んだ書物『闇黒経』を通してメッセージを伝えてきた『月形ゼオン』の名も…
『月形ゼオン…』
武市が心の中でそう呟いた瞬間、前方の老人の姿が闇に溶けるように、消えた…
それと同時に、武市の頭に声が響く。
『御名答…』
年輪を重ねてしわがれたその声には、内臓にズシリとくる霊圧が感じられる。
『貴公と通じるのはこれで二度目…もはや名乗る必要はありませんな…ようこそ我が領域へ…これより、小生の悪戯にお付き合い頂く…なに、貴方方に危害を加える意思はありません…ただ、貴方方が小生の仕掛けたいくつかの悪戯の謎を解けねば、目的地には永久に辿りつけぬというだけ…ふふふふ、またお会いできるのを楽しみにしております…それでは…』
声は、一方的にそう言って、遠ざかるように消えた…
武市は隣を見たが、翔子はただ前方を見ている…
前の二人は人影が消えた事に安堵しているようだ…
今の声は、自分にしか聞こえていない…
武市はそう判断すると、口を開いた。
「今、そこに立ってたの…魔星ですわ…」
車内の視線が武市に集中した。
「また、月形ゼオンでした…」
武市の言葉に、木林が食いつく。
「月形ゼオンて、あの北尾の絵とか、AYAさんが持ってきた本の、アイツか?」
武市がそれに答える。
「そうや…そいつが今、オレの頭の中に声を送ってきた…何か、あのジジイが仕掛けた謎を解かんと、目的地には永久に辿りつけんらしいで?」
武市の答えに、木林は眉間にシワを寄せ、
「あ、あ〜ん…それ、その謎を解かんと、目的地に辿り着くのはおろか、永久にこのキモイ空間の中やって事やろ?」
と、シートに深く身を預けた。
伊田は沈黙を通しているが、翔子が口を開く。
「とにかく、この車が止まらないと、なにもできないね…あるいは…この車を止める所から始めないといけないのか…」
翔子の声に、木林が反応する。
「だいぶスピード落ちたみたいやけど、まだ走ってますね…止められるんすか、これ?」
翔子は少し沈黙してから、木林の問いに答えた。
「さっき木林君が永久にここから出られないって事を言って思ったんだけど…この車、本当に走ってるのかしら?」
翔子の答えに、
「えっ?」
という声を発した木林は、周りを見渡し、少し沈黙すると、また口を開いた。
「それは、景色だけが動いてるって意味ですか?」
翔子が答える。
「ええ…少し試してみるわね…」
翔子はそう言うと、後部座席のドアを開けようとする。
「ちょっ!危ないっすよ翔子さん!」
木林の制止も届かず、翔子はドアを開けた。
冷たい空気が車内に流れ込む。
しかし、その空気に勢いがない。
「止まっているわね…」
やはり車は止まっていたようだ…
景色だけが動いているように見えていたのだ…
景色と言っても真っ暗闇だが…
しかし、これに気付かねば車から出られずに、それこそ永久に止まっている車の中にいたのかもしれない…
「降りてみる…」
そう言うと、翔子は車から乗り出し、足元を確認しながら安全だと判断すると車外へと降り立った。
「得体の知れない地面だけど…大丈夫、ちゃんと立てるわ…」
翔子の言葉に、木林もドアを開けて、ゆっくりと地に足をつける。
「あ、ホンマや…ちゃんと立てますね…」
伊田も無言のまま車を降りる。
武市もそれに続いた。
伊田がようやく口を開いた。
「とにかく、ここから移動しないといけないみたいだな…装備を整えて出発しよう…」
翔子がそれに答える。
「肯定します…しかし、何が起こるかわからない…源さんの言うとおり、しっかり装備をして出発しましょう…」
武市は思った。
危害を加えないというゼオンの言った事が本当なら、要は謎さえ解ければ、自力でこの空間から抜け出る事は可能なのだ。
しかし、その方が難しい事であると、四人を包む闇が囁いているような気がした…
続く
それよりも気になるのは、前方に立ちはだかる人影…
近づいていく程に、その姿がハッキリとしてくる…
黒いシルクハットと黒い燕尾服に身を固め、右手にステッキを持った、安物の手品師のような出で立ちの老人だ…
彼はうっすらと微笑みをたたえながら、そこに立ちはだかっている…
「何か、人間立ってないすか?」
木林が伊田に尋ねる。
「ああ…判然としないが…確かに何かいるね…」
前を見据えたまま、伊田はそう答えた。
どうやら前の二人には人影にしか見えていないようだ…
武市はそう思うと、前の二人には気付かれぬよう、翔子の腕をポンポンと叩いた。
翔子はそれに反応して武市に目線を送る。
『言わなくていい』
翔子の視線から、その意思を受け取った武市は、そのまま沈黙してた。
しかし、何故武市と翔子にしか見えていないのか…?
そこにはやはり『神格』の存在が関係しているのだろうか…?
だとすれば、今そこに見えるのは
人間でもない、単なる霊体でもない…
『魔星』
武市の頭に、その言葉が浮かんだ…
それと同時に泉州大学での打ち合わせの際、三角綾が持ち込んだ書物『闇黒経』を通してメッセージを伝えてきた『月形ゼオン』の名も…
『月形ゼオン…』
武市が心の中でそう呟いた瞬間、前方の老人の姿が闇に溶けるように、消えた…
それと同時に、武市の頭に声が響く。
『御名答…』
年輪を重ねてしわがれたその声には、内臓にズシリとくる霊圧が感じられる。
『貴公と通じるのはこれで二度目…もはや名乗る必要はありませんな…ようこそ我が領域へ…これより、小生の悪戯にお付き合い頂く…なに、貴方方に危害を加える意思はありません…ただ、貴方方が小生の仕掛けたいくつかの悪戯の謎を解けねば、目的地には永久に辿りつけぬというだけ…ふふふふ、またお会いできるのを楽しみにしております…それでは…』
声は、一方的にそう言って、遠ざかるように消えた…
武市は隣を見たが、翔子はただ前方を見ている…
前の二人は人影が消えた事に安堵しているようだ…
今の声は、自分にしか聞こえていない…
武市はそう判断すると、口を開いた。
「今、そこに立ってたの…魔星ですわ…」
車内の視線が武市に集中した。
「また、月形ゼオンでした…」
武市の言葉に、木林が食いつく。
「月形ゼオンて、あの北尾の絵とか、AYAさんが持ってきた本の、アイツか?」
武市がそれに答える。
「そうや…そいつが今、オレの頭の中に声を送ってきた…何か、あのジジイが仕掛けた謎を解かんと、目的地には永久に辿りつけんらしいで?」
武市の答えに、木林は眉間にシワを寄せ、
「あ、あ〜ん…それ、その謎を解かんと、目的地に辿り着くのはおろか、永久にこのキモイ空間の中やって事やろ?」
と、シートに深く身を預けた。
伊田は沈黙を通しているが、翔子が口を開く。
「とにかく、この車が止まらないと、なにもできないね…あるいは…この車を止める所から始めないといけないのか…」
翔子の声に、木林が反応する。
「だいぶスピード落ちたみたいやけど、まだ走ってますね…止められるんすか、これ?」
翔子は少し沈黙してから、木林の問いに答えた。
「さっき木林君が永久にここから出られないって事を言って思ったんだけど…この車、本当に走ってるのかしら?」
翔子の答えに、
「えっ?」
という声を発した木林は、周りを見渡し、少し沈黙すると、また口を開いた。
「それは、景色だけが動いてるって意味ですか?」
翔子が答える。
「ええ…少し試してみるわね…」
翔子はそう言うと、後部座席のドアを開けようとする。
「ちょっ!危ないっすよ翔子さん!」
木林の制止も届かず、翔子はドアを開けた。
冷たい空気が車内に流れ込む。
しかし、その空気に勢いがない。
「止まっているわね…」
やはり車は止まっていたようだ…
景色だけが動いているように見えていたのだ…
景色と言っても真っ暗闇だが…
しかし、これに気付かねば車から出られずに、それこそ永久に止まっている車の中にいたのかもしれない…
「降りてみる…」
そう言うと、翔子は車から乗り出し、足元を確認しながら安全だと判断すると車外へと降り立った。
「得体の知れない地面だけど…大丈夫、ちゃんと立てるわ…」
翔子の言葉に、木林もドアを開けて、ゆっくりと地に足をつける。
「あ、ホンマや…ちゃんと立てますね…」
伊田も無言のまま車を降りる。
武市もそれに続いた。
伊田がようやく口を開いた。
「とにかく、ここから移動しないといけないみたいだな…装備を整えて出発しよう…」
翔子がそれに答える。
「肯定します…しかし、何が起こるかわからない…源さんの言うとおり、しっかり装備をして出発しましょう…」
武市は思った。
危害を加えないというゼオンの言った事が本当なら、要は謎さえ解ければ、自力でこの空間から抜け出る事は可能なのだ。
しかし、その方が難しい事であると、四人を包む闇が囁いているような気がした…
続く
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