最初は治療法の章だけを読んでいたのだが, うまく行かなかった.
ある時ふと前書きを読んでみたら, 治療法の章だけではなく最初から全部読んでほしい旨の記述があったので, 全体を知れば紹介されている治療法への理解が得られるかも知れないと思い最初から読んでみた.
著者のディビッド・マスは医師で PTSD を専門に治療している人のようである.
この本では PTSD の症状, 歴史, それを取り巻く状況などの記述の中に, 著者自身が考案した「巻き戻し法」という治療の方法が紹介されている. これは一人でも実行が可能であると書かれている.
自分はこの巻き戻し法というのを何度も試みているのだが, 中途半端にしか行えていない.
この方法は過去の記憶を正確に, 「撮影したフィルムを巻き戻すように」頭の中で再現する手順を含んでいる. これが自分には難しかった.
記憶を正確に思い出すのが辛い. うまく喩えることができないが, 生傷に触れるというかケロイドを再び切り開くような痛みがある.
以前 PSW さんに提案してもらったセルフカウンセリングというものもそうで, 所定の用紙に過去の出来事を詳細に書き留める作業から始める. 結局その作業が厳しくて行うことができなかった.
本を通して読んで, 実際に著者が巻き戻し法で患者を治療した例などを知り, 少なくとも現在の自分にはこの方法はまだ難しいと感じた.
一人で行えると言っても, 医師を含めた周囲の支援が必要なのだ.
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本の最初のほうでは, PTSD の歴史が語られる.
戦争に参加した兵士たちについての一連の記述は読んでいて苦しい. ヨーロッパでは 17 〜 19 世紀, 戦場において現在であれば心理的ストレス, さらに言えばれっきとした PTSD に苦しんでいると診断されたであろう兵士たちは, 臆病者・嘘つき・戦争拒否などと見做されて縛り首, 射殺, 拷問などによって殺された.
第一次世界大戦のときでさえ, 心理的ダメージを受けた兵士は臆病者・脱走兵として処刑された記録がある.
大戦の最後の二年間の間に, ようやく彼らの症状に「シェル・ショック」という名前が付いた. これは爆弾の爆発が引き起こす精神錯乱の総称としてであり医学的には非常に漠然とした用語だった.
「シェル・ショック」に陥った兵士には自制力の欠落, 記憶障害, 言語能力の喪失などの症状が見られたとある.
そしてこれを病態の一つだと考える指揮官や医師が現れ始める.
ここから医学的なデータなども蓄積されて, さらにベトナム戦争の帰還兵のかなりの割合 (本によれば 15 〜 35 パーセント) が心理的に破壊的な状態に陥っているとわかったことなどが契機で本格的な研究が開始される.
病状には PTSD (Post Traumatic Stress Disorder: 心的外傷後ストレス障害) という名前が付いた.
この本では戦争と自然災害によって引き起こされた PTSD の例が主に紹介されているが, 幼児期に受けた虐待, レイプなどによっても PTSD が発症することにも言及されている.
アルコールや薬物への依存, 異常な恐怖, パニック. しかも時間が経過してもこれらの症状は癒されない.
何と言うか痛まし過ぎる. 人の精神は戦争や暴力や災害で損傷する. 心というのは壊れるものなのだ.
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J・L・ハーマン『心的外傷と回復』を読み直したら, トラウマの治療としてまず, 当事者の心の安全の確保が強調されていた.
治療のプロセス, すなわち記憶と向き合う作業はその後になる.
長い時間がかかることをあらためて認識したほうがいい.
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