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カリガラ湾の伝説

カリガラ湾の伝説(フィリピン民話)

竹内一郎 訳 「フィリピンの民話 青土社」より抜粋
フェ・P・ナプト/タクロバン市、レイテ州

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レイテ

 

 エテの村人たちは幸せに暮らしていましたが、湾のそばの王宮には、それ以上の幸せが満ちていました。

 エテを治めていたダトゥのガニには、子供がなかったので、幼い甥のプロ、アメド、ウネカン、それから幼い姪のアロナ、カリ、ガラをそばに呼びよせて一緒に暮らしていました。

 子供たちのおかげで、王宮には明るく楽しい雰囲気が満ち満ちていました。

 彼を偉大な伯父として尊敬する子供たちがいたからこそ、ダトゥのガニは平和な村を立派に治めていくことができたのです。

 海の近くに住んでいたので、子供たちは泳ぎが得意でしたが、ガラだけは七歳になるというのに、まだ泳げませんでした。

 考えてみればおかしな話です。

 海はなかよしのお友達なのに、今だに泳げないなんて。

 海辺にいっても、ガラは浜辺を歩いたり、ちょっと水につかるだけです。

 姉のアロナやほかのいとこたちが水の中ではしゃいでるのを、ただ眺めているだけ。

 ダトゥのガニは何度も彼女に泳ぎを教えようとしました。

 プロやアメド、ウニカン、カリを見やりながら、こうもいったものです。

「ガラや。どうしていとこたちと一緒に海に入らないんだね?」

「だって、こわいんだもの」

「だからこそ、泳ぎを覚えなくてはな。だいたい、うちの家系はみんな泳げるはずなんだから。はじめは誰だってこわい思いをするもんなんだよ。一回くらいでおじけづかないで、もう一度海に入ってごらん」

 でも、ガラはこわそうにぶるぶると身を震わせたり、かんしゃくを起こしたりするのでした。

 大きな波が押し寄せてくると、体が海の底に引き込まれていくような感じがして、こわくてしかたがなかったのです。

 初めて泳ぎ方を教わった時のことは忘れられません。

 水が口の中に入ってきて、あまりの苦しさに思わず口をぱくぱくさせました。

 鼻は布でおさえられた感じがして、息ができませんでした。

 もうこりごり。二度と海になんか入りたくありません。

 だからといって、青く、冷たい海が嫌いだったわけではありません。

 いろいろな種類の貝や石をたくさん集めました。

 いとこたちは、あの日の午後、ガラがもがくのを見ていましたが、そのことをからかったりしませんでした。

 それどころか、泳ぎを教えてあげようと親切に声をかけてくれるのでした。

 ある日、ダトゥのガニの誕生パーティが催され、王宮にたくさんの人がやってきました。

 部屋という部屋に、果物や絹、金のイヤリング、アンクレット、ネックレス、ブレスレット、指輪、壺、陶器の皿、香水、色つきのグラスやビーズの贈り物が運び込まれました。

 盛大なお祝いで、食べ物も山のようにありました。

 子供たちは昼食後、海で遊びました。

 王宮のざわめきが浜辺まで届いてきます。

 歌ったり、踊ったり、曲芸をしたりする人々の声が聞こえてきます。

 ガラは、ヒトデを突っついたりしていましたが、ふいにカリの声を聞きました。

 振り向くと、カリの頭と手がゆっくりと海の中に沈んでいくではありませんか。

 沖の深いところまでいきすぎて、溺れてしまったのです。

 ほかのいとこたちが近くにいないのを見てとると、ガラは海に向かって走り出し、カリを助けようと手をのばしました。

 けれど間にあわず、結局二人とも溺れてしまいました。

 アメドたちにはカリの声は聞こえませんでした。

 王宮のざわめきや自分たちの遊ぶ声にかき消されて、助けを求めるカリの叫びが届かなかったのです。

 お祝いは中止になり、ふたりの子供たちの葬儀が営まれることになりました。

 ダトゥのガラは悲観にくれながら、人々に葬儀に参列してくれと頼みました。

 ふたりの子供、カリとガラと失った人々は、それまでは名前のなかったその湾にカリ-ガラという名前をつけました。










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