2013年10月13日
ごちそう
風の涼しい夜でした。
夏祭りもすんだ
神社の境内にはだあれもいません。
「腹へったなあ」
いっぴきの蚊がよろよろ飛んできました。〓
「もう、ずいぶん血をすってない。
誰か、来ないかなあ」
ふゆゆ〜と
頼りなく飛んでいると、なんだか人の気配がして、
あま〜い匂いがしてきました。
おかっぱ頭の女の子がお堂のそばにやってきたのです。
「おお!久しぶりのごちそうだ!」
蚊はそおっと女の子に近づき、今にもぶすり!と、針をさそうとしていたそのときです。
女の子は、ちょこんとお堂の縁側に座ると、しくしく泣き始めました。
「ええ!」
蚊は、おろおろしました。
今まで、泣いてる子から血を吸ったことはありません。
なんだか、悪いことをしているような気がしてきます。
「どうしたらいいんだよ。」
蚊は女の子の顔の前をいったりきたり。
でも、だんだんお腹がすいて目が回ってきました。
「ああ〜」
ふらふらしながらよく見ると、女の子は、手に大きなぶどうを一粒持っています。
蚊は、もうがまんできなくて
女の子の手に持ってるぶどうにとまりました。
「あれ?」
女の子は、ぶどうにとまった蚊
をみて、ぶどうを振りました。
蚊も、最後の力をふりしぼり、ぶどうに吸いつきました。
ぐるぐるしても
ふりふりしても
蚊は落ちません。
女の子は、おかしくなって笑いだしました。
「あはは」
「けいちゃ〜ん」
その時、鳥居の方から、お母さんの声がしました。
「お母さん!」
女の子はぶどうから手を離し、走って行きました。
蚊はぶどうと一緒に地面に転がっていました。
「たまには、変わったごちそうもいいもんだ」
蚊は、ぶどうを吸いながら、つぶやきました。
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