2018年06月09日
古代からのお話し その12
古代からのお話し その12
ヤマタノオロチの正体は誰か
一方、スサノオに退治されたヤマタノオロチの正体は何者であろうか。幾ら何でもヤマタノオロチの様な怪物があの様な姿で実在して居たとはとても思え無い。かと言ってヤマタノオロチは簸川の氾濫を象徴したものだとか製鉄に関係があると言う様な通説も子供騙しに過ぎ無い。スサノオ同様実在した誰かを象徴したものと考えて好いだろう。
有難い事に『日本書紀』の編纂者はここに『暗号』を用意して呉れて居る。スサノオがヤマタノオロチを倒した後、切った尾の中から草薙の剣が出て来るが、この剣について『日本書紀』にこの様な記載がある。
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元の名は天叢雲剣と云う。大蛇の居る上に、常に雲があった。それ故にこの様に名付けられたが、日本武尊の時に、名を草薙剣と改めたと云う。
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草薙剣は以前、天叢雲剣と呼ばれて居たと云うのがそれである。大蛇の居る上に常に雲があったのでそう名付けられたと云うのは『日本書紀』に好くあるコジツケだろう。「天叢雲」の名はここ以外には『古事記』、『日本書紀』に登場しないが、この名が登場する文献がある。それは『先代旧事本紀』である。
『先代旧事本紀』は平安時代の初めに物部氏の関係者によって書かれたとされる歴史書で、序文の本書成立に関する記述に疑いがある事から偽書とされた事もあるが『古事記』、『日本書紀』に無い記事も多く古代史研究では無くてはならない文献の一つとされて居る。その『先代旧事本紀』の中の天孫本紀にこの様な記述がある。
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天照国照彦天火明櫛玉饒速日尊、天道日女命を妃として、天上に天香語山命が誕生した。 ・・・・(中略)・・・・・・天香語山命、異妹穂屋姫命を妻として一人の男子を生んだ。天村雲命と云う。
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又京都府北部の丹後半島の付け根には日本三景の一つとして知られる天の橋立があり、その近くに「元伊勢」として知られる籠神社がある。
伊勢神宮の外宮が元々この地にあったと言われて居る事からその様に呼ばれて居るのだが、この神社に日本最古の系図と言われる宮司の海部氏の系図(国宝)が伝わって居る。その系図によれば、「始祖彦火明命の御子の天香語山命が穂屋姫命を娶り、天村雲命を生む」とある。
「天村雲」と「天叢雲」はどちらも「あめのむらくも」と読む。海部氏の始祖の彦火明命は『先代旧事本紀』の天照国照彦天火明櫛玉饒速日尊の事で、物部氏の始祖として好く知られていて、共にその三代目に「天村雲」の名が登場して居る。
恐らく天叢雲剣はこの天村雲命に由来する、物部氏に代々伝わって居た神剣だったのでは無いだろうか。従ってこの天叢雲剣を尾の中に隠し持って居たヤマタノオロチは物部氏の誰かを象徴したものでは無いだろうか。
即ちスサノオがヤマタノオロチを退治した話は蘇我氏の誰かが物部氏の誰かと戦い、これを打ち倒した事を象徴する神話だと考えられるのである。
物部氏の誰かを打ち倒した蘇我氏の誰かと為ると誰もが直ぐに思い着くのは、崇仏派の蘇我馬子と排仏派の物部守屋が戦った丁未の役の事だろう。即ちスサノオの正体は蘇我馬子で、ヤマタノオロチの正体は物部守屋なのでは無いだろうか。
スサノオがヤマタノオロチを退治した神話は、蘇我馬子が物部守屋と戦い勝利した事を神話として書いたものなのだろう。
神話の中で、崇仏派の蘇我馬子が神道の最高神の一人スサノオで、物部守屋は怪物のヤマタノオロチにされて居る訳でこれでは、日本古来の宗教を守ったとされる排仏派の物部守屋も真っ青だ。
蘇我馬子は欽明天皇の大臣を務めた蘇我稲目の長男として生まれ、敏達、用明、崇峻、推古の四代の天皇に大臣として仕え、又仏教を擁護し、広めた功労者としても知られて居る。
スサノオが牛頭天王等の仏教の守護神として習合されて居たのはその正体が蘇我馬子だったからと考えれば好く理解出来る。その蘇我馬子の発願により建てられた飛鳥寺(法興寺、元興寺とも云う)は我が国で最初の本格的な寺院として知らない人は居ないだろう。
用明天皇二年(五八七)排仏派の物部守屋と用明天皇崩御後の皇位継承を廻って対立、物部守屋と戦って勝利を収め、蘇我氏の全盛時代を築いた飛鳥時代を代表する人物である。
崇峻天皇を自分の意に添わぬからと言って、弑逆(臣下が天皇を殺害する事。蘇我馬子が崇峻天皇を殺害したのが日本史上唯一の例とされて居る)する等その傍若無人さは推古天皇を悩ませたとも言われて凍て、蘇我蝦夷は馬子の子、蘇我入鹿は孫である事は言うまでも無い。
草薙の剣(天叢雲剣)は物部氏に代々伝わって居た神剣を物部守屋との戦いの後、戦利品として蘇我馬子が手に入れたものだったのだろう。歴代天皇が継承する三種の神器の一つとして知られる草薙の剣は、蘇我馬子と物部守屋の戦いに由来する神剣なのである。
朱鳥元年(六八六)六月十日天武天皇が病気に為りその病を占うと、草薙の剣の祟りと出たので、直ぐに尾張国の熱田神宮に送って安置したとの記述が『日本書紀』にあるが、この事からも草薙の剣が物部氏に由来する剣だと判る。
熱田神宮の大宮司家は平安時代迄は尾張氏が務めて居たが、尾張氏は籠神社の海部氏同様彦火明命の孫の天村雲命の後裔とされる物部氏の一族である。
天武天皇の病気が草薙の剣の祟りと云う事で剣を元に返す事に為ったのだろうが、物部宗本家は既に守屋で滅びて居るので物部一族の尾張氏に預ける事に為ったのだろう。
スサノオが蘇我馬子の事と為ると、その后と為ったクシナダヒメは蘇我馬子の正妻で物部守屋の妹と言われる人物の事と考えられる。その名は「太媛」と記録には残され、蘇我蝦夷の母とされて居る。この女性に関して『日本書紀』にはこの様な記述がある。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 時の人は語り合って行った。「蘇我大臣の妻は物部守屋の妹である。大臣は妄りに妻の計略を用い、大連を殺した」と。
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大連とは物部守屋の事である。人々は、物部守屋はその妹と蘇我馬子の計略に嵌まり、その結果、蘇我馬子に討たれたと言って居るのである。ヤマタノオロチにクシナダヒメ達が用意した酒を飲ませ、酔い瞑れた処をスサノオが討つと云うヤマタノオロチを退治する神話もその様な話の展開と為って居る。
この蘇我馬子の妻が一体どの様な人物であったのか、窺い知るものは殆ど無いが恐らくかなりの実力者だったのだろう。『日本書紀』には蘇我蝦夷はこの母方の財力によって世に勢威を張った事が記されて居る。
天照大神のモデルは推古天皇
スサノオの正体を蘇我馬子と考えると天皇の皇祖神とされるアマテラスは誰の事であろうか。アマテラスも大国主神やスサノオ同様、誰かがモデルに為って居ると見て好いだろう。『日本書紀』ではアマテラスは大日霎貴とも書かれて凍て、この名からアマテラスのモデルは巫女的な女性だったのでは無いかとも言われて居る。
蘇我馬子と同時代の人物でアマテラスのモデルに為り得る様な女性と云うと、アマテラスがスサノオに取って姉と云う目上の人物として描かれて居る事からも、これは当然推古天皇しか該当する人物は考えられ無い。
アマテラスと言えば伊勢神宮の主祭神として有名であるが、伊勢神宮の起源は推古朝をより古いと考えられるので、推古天皇がアマテラスとして祀られて居る訳では無い。
恐らく神話が書かれた時には推古天皇をモデルとして大日霎貴だったものが、その後の政治的事情でアマテラスに差し替えられたのだろう。神話に登場するアマテラスと伊勢神宮に祀られて居る天照大御神は本来、全く無関係と思われる。
推古天皇は正式に即位した最初の女帝として好く知られて居る。父は第二十九代欽明天皇で十八歳の時、第三十代敏達天皇の皇后と為り、その後第三十三代の天皇に即位(五九二年)した。皇太子で摂政の厩戸皇子(聖徳太子)や大臣の蘇我馬子と共に冠位十二階(六〇三年)・憲法十七条(六〇四年)を次々に制定して、国家の法令・組織の整備を進めると共に仏教興隆に熱心だったと言われて居る。
推古天皇の母は蘇我稲目の娘の蘇我堅塩媛(そがのきたしひめ)だから稲目の息子の馬子からすると姪と言う事に為るが、馬子は推古天皇の臣下の大臣と云う立場だから推古天皇は馬子に取っては目上と云う事に為る。
目上の人物を妹や姪とする訳にはいかない。そこでアマテラスは姉、スサノオは弟として書かれる事に為ったのだろう。
アマテラスの登場する場面は幾つかあるが特に天の岩戸の神話が良く知られて居る。この神話は大変大らかで華やかな神話なので人気があり、神楽などの演目としても良く演じられて居る。では天の岩戸の神話は何を元にして書かれた話だろうか。
『日本書紀』には推古天皇即位時の事情としてこの様な記載がある。推古天皇紀の即位前紀に
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十八歳の時、敏達天皇の皇后と為られた。三十四歳の時、敏達天皇が崩御された。三十九歳の時、崇峻天皇五年十一月、崇峻天皇は大臣馬子宿禰の為に弑せられ皇位は空いた。群臣達は敏達天皇の皇后である額田部皇女(後の推古天皇)に皇位を継がれる様請うたが皇后はお受けに為ら無かった。百官が上奏文を奉って尚もお勧めしたので、三度目に至って要約従われた。
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馬子以下群臣達は崇峻天皇の後継者として額田部皇女に白羽の矢を立て即位を要請したが何度も断られ、三度目にしてやっと受諾させたと云うのである。異母弟の崇峻天皇が蘇我馬子に殺された後、その後釜に指名され、増してや前例の無い女性の天皇とあっては、即位した処で馬子の傀儡にされてしまうのは目に見えて居る。誰だってこの様な状況下で即位したくは無いだろう。
恐らく彼女は自宅に引き篭もって即位を固辞し続けた筈だ。最後には即位を引き受けたとは言え再三断り続けたのも当然だったろう。この時の事情が天の岩戸の神話に反映されて居るのでは無いだろうか。尚この天の岩戸の神話は日食を連想させる処があり、その事から天文学を駆使、三世紀中頃の卑弥呼の時代に日食があった事を根拠にアマテラスは卑弥呼の事であるとする説が唱えられ、この説は結構広く支持されて居るがアマテラスのモデルは推古天皇と考えられるのでこの説は間違いである。
邪馬台国に関する多くの著書の中で神話は必ずと言って好い程好く取り上げられるが、『記・紀』の神話には邪馬台国の卑弥呼に関する伝承は一切含まれてはいない。これ迄の説明から『記・紀』の神話はどうやら推古天皇の代から天武天皇の頃までの人間関係と出来事を基にして書かれて居るらしいと云う事がおわかり頂けた筈である。
出雲神話の最後に有名な国譲りの神話が登場するが、この神話は出雲の勢力が大和朝廷に征服されたと云う歴史上の出来事を反映して居るのではないかと云う事で古代史の研究者にも好く取り上げられる神話である。
しかしこの神話は大国主神の国作り以降の話と為って居る。と云う事は天武天皇以降の話と云う事に為るのでこの話には何ら歴史的事実は含まれて居ないと見て好い。単に出雲の神話を天皇家の祖先神話と統合する為に創作された話であろう。
その為だろうか、話自体はスケールの大きな話と為っては居るが、荒唐無稽さばかりが目立ち、他の神話の様に目立った主人公がいない為話が散漫で余り面白い神話とは為って居ない。
謎の神話『誓約』
天の岩戸の神話の前に、スサノオとアマテラスの間に一寸不思議な神話が語られて居る。天の安河でのウケヒの神話である。ウケヒは『古事記』では「宇気比」『日本書紀』では「誓約」と表記されている。
泣き止ま無い為追放される事に為ったスサノオが、追放される前に姉のアマテラスに挨拶する為に高天原に昇るのだが、アマテラスはスサノオが自分の国を奪おうとして居るのではないかと疑い武装して待ち受ける。そこではスサノオはその様な事は無いと云うのだが、アマテラスは信じ無い。そこでスサノオの心が清い事を証明する為に行われるのがウケヒである。占いの一種と考えれば判り易い。
アマテラスとスサノオはウケヒを行い、アマテラスはスサノオの持って居た十握の剣を使って吹き出した霧の中から三柱の女神を生み、スサノオはアマテラスの持って居た玉を使って吹き出した霧の中から五柱の男神を生む。処がその後、アマテラスはスサノオが吹き出した五柱の男神は、アマテラスの持って居た玉を使って生んだのだから自分の子だと言い、三柱の女神はスサノオの持って居た十握の剣を使って生んだのだからスサノオの子だと言い出したのだ。これを図で表すと次の様に為る。
誓約の神話
まるでスサノオが生んだ子がアマテラスの養子に為り、アマテラスが生んだ子がスサノオの養子に為った様な話である。天皇の先祖を遡って行くと五柱の男神の一人、オシホミミに辿り着くのでこれではアマテラスとオシホミミは直接には血の繋がりの無い養子の関係に見えてしまう。
この部分は皇統譜が高天原のアマテラスに繋がって行く大変重要な部分なのでこの部分がこの様な曖昧な形で描かれるのは腑に落ち無い。オシホミミから推古天皇迄の皇統譜はどの様な形であろうと確りと血が繋がった関係で書かれて居るのだから尚更不可解な話である。
このウケヒの神話は古来よりもっとも謎の多い部分とされて居て、神話学者達もこの解釈に付いては殆ど匙を投げて居る様だ。色々な文献を調べてみたがこの神話に付いて納得の行く解釈をした文献は遂に見当たら無かった。
アマテラスやスサノオに付いては想像逞しく様々な説を展開する歴史作家達もこのウケヒの神話はお手上げらしく巧妙に避けて居る。
一体この神話には何が隠されて居るのであろうか。又この話は『古事記』の中でも特に荘重に語られる部分でそれだけ天皇家に取っては神聖な神話である事が窺える。
特にスサノオがアマテラスの持って居た玉を使って五柱の男神を生む場面はこの様な構成に為って居る。
****に巻いてあった玉を貰い受け、好く噛んで吹き出した息吹の霧から現れた神の名は、*****。
****に巻いてあった玉を貰い受け、好く噛んで吹き出した息吹の霧から現れた神の名は、*****。
* ***・・・以下同様
* ***・・・以下同様
* ***・・・以下同様
貰い受けた玉を噛み潰し、吹き出した息の中から神が誕生すると云う何とも神秘的な話が繰り返し五回、一切省略する事無く実に丁寧に語られて居る。
アマテラスがスサノオの十握の剣を使って三人の女神を生む場面はこの様な丁寧な記述はされて居ないので、ここには深い意味が潜んで居ると考えて好いだろう。
実はこの神話は『古事記』の中でも天皇家の起源に纏わる重大な意味を持った神話なのである。この神話の謎は後に解いてみたい。
その13につづく
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