2019年01月13日
山形の民話 4 (全68話)
山形の民話4
その9『地蔵むがし』(じぞうむがし)
むがし、むがし。むがし、あったど。 あるどこさ、貧(まず)しい暮(く)らしをしている爺(じい)ど婆(ばあ)どいであった。二人は、蓮(はす)の葉ば売って、盆(ぼん)の買い物すねばなんね。
「ほんデァ、盆の蓮の葉売りに行って来るぞ! 帰りに盆魚(ぼんざかな)でも買って来るべえ・・・」
て、爺、町へ蓮の葉売りに出がげだど。
挿絵:かわさき えり
とちゅうがら、雨こ降(ふ)って、ザアザア降(ぶ)りになった。爺、山道行ったらば、地蔵様(じぞうさま)あって、小屋こも持だねで、雨の中だらだらど濡(ぬ)れってだなだけど。爺、地蔵様どごば、かわいそうでかわいそうでな、蓮の葉ば売らねで、
「地蔵さん、地蔵さん!雨の中ご苦労にな。蓮の葉でもかぶってござれや」
て、自分の売り物ば、べろり地蔵様さかぶせで帰って来た。
「婆、婆、今帰った。町さ行がねで帰って来た。蓮の葉売りに行ったらば、小屋も持だねで地蔵様が ズブ濡れになってるもんで、売り物ばべろりかぶせで戻(もど)ったなよ。今年は盆魚は無しで水呑(の)んで暮(く)らすべは。えいの干物(ひもの)も昆布巻(こぶま)きも我慢(がまん)すんべぇ・・・」
て、二人、「早ぐ寝るべは」て、早々(はやばや)と寝敷(ねじき)さ入ったど。
すっと、夜中時分(よなかじぶん)、何だが、すばらす音がすっと。ずんずんじゅう地響(じひび)ぎもする。耳ばよっぐ澄(す)ますど、
「ドッコイショ。よっこらせ。ドッコイショ。よっこらせ!」
て、音がして、ズズンズズンて、たいした音よな。
「なえだて、こっちさ来るで。一体なえだべや?」
て、二人とも寝敷(ねじ)ぎの上さちょんこりど起ぎだ。どうも、二人の家の方さ向かって来る。
挿絵:かわさき えり
「よっこらせ、ドッコイショ!」て、よな。
「婆、婆。何がて言ってるぜ!」
「ん。何だべ。おかねごど」
て、ガダガダじゅうもんだった。すっと、
「蓮(はす)の葉ばかぶせでくった爺の家どごだべ、蓮の葉ばかぶせでくった爺の家どごだべ?」
って呼ばる。
「あ、地蔵様だ!」て、いうどな。
「あ!ここだ。ここの爺だ!」
て、ドヤドヤと声するけ、ザザーン、ジャラランどんて、金だの銭(ぜに)だの、えっぺ家の前さ置(お)いでった。
「これで、盆もちゃんとするえな。良(え)がった、良がった!」
て、爺も婆も大喜びだけど。
どんぺからっこねけど。
【管理人のひとこと】
誰かに親切にすると何時かは報われる・・・勧善懲悪(かんぜんちょうあく)のお話の一つで「傘地蔵」の変形のお話の様ですね。ハスの葉を採って売る様な仕事が在ったんですね?恐らく、お寺で飾るのでしょうか?ハスの葉は池の中で大きく広がり、中には人を乗せても浮くようなものもあるそうです。
昔は、村の外れには必ずお地蔵さまが建てられていて、赤い帽子を被され服が着せられていたものです。赤い色がすすけて薄いピンクになっていました。村に出入りする人の安全を願って建てられたのでしょう。恐らく、信心深い人が何度も縫い上げて着せ替えていたのです。昔からこの様な奉仕する人が居たのです。
その10『幽霊の願い』(ゆうれいのねがい)
むかし、越後(えちご)の国、今の新潟県(にいがたけん)に源右ヱ門(げんえもん)さまという侍(さむらい)がおったそうな。度胸(どきょう)はあるし、情(なさ)けもあるしで、まことの豪傑(ごうけつ)といわれたお人であったと。ある時のこと、幽霊(ゆうれい)が墓場(はかば)に出るという噂(うわさ)が源右ヱ門さまに聞こえた。
「とにかく幽霊が出ると皆騒(さわ)いでおるが、幽霊ナンザア、この世(よ)に何かうらみがある者とか、くやしいとか、願(ねが)いのある者が為るもんだ。あたり前の人は死んで仏(ほとけ)に為るもんだから、オレが行ってその幽霊を助けてやろう!」
というて、真夜中(まよなか)の丑満時(うしみつどき)に鉦(かね)を叩(たた)いて南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)と唱(とな)えながら墓場へ行ったと。そしたら、ボオーと白い衣装(いしょう)着た婆(ば)さまが出て来たと。そして、
「源右ヱ門殿(どの)、源右ヱ門殿!」
と呼(よ)ばったと。
挿絵:かわさき えり
「なんだ?」というたら、
「オレも死んではや四、五十年にも為る。人は死ぬ時、みんな末期(まつご)の水を貰(もら)って死ぬども、オレは水も何も無く、ただ棺桶(かんおけ)の中さ入れられてしもた。その水を飲ませて貰わなかったから、今、焦熱地獄(しょうねつじごく)に置(お)かれて、のどが渇(かわ)いてのどが渇いて仕様(しよう)がないごんだ・・・」
というたと。源右ヱ門さまは、
「そういう事なれば」
というて、沢(さわ)までドッドと降(お)りて行って、叩いていた鉦を裏返(うらがえ)しにして、そいつに十杯(じゅっぱい)水を汲(く)んで持って来てやったと。
「ホレ、こいつを飲(の)め!」
と差(さ)し出したら、幽霊の婆さまは、さもうまそうに飲んだと。
「これで少しは浮(う)かばれる・・・」
「そうか、そんならもう出んか?」
「いや、いまひとつ願いがある」
「何だ?」
「人は棺桶に入れられる時には、みんな湯灌(ゆかん)して化粧(けしょう)をして貰ったり髪(かみ)を剃(そ)って貰おうが。オレは湯灌も無ければ髪も剃ってもらわなかったもんだから、髪がのびにのびて、この通り地につくほどだがね。こいつを剃って呉(け)ろ!」
「ホウ、そいつあいいが、今日は剃刀(かみそり)を持って来ていないから、んじゃ、明日の晩(ばん)げにまた来るから、そのとき剃ってやる」
こういうて、幽霊と別れて家に帰ったと。
次の日、源右ヱ門さまがお城(しろ)へ勤(つと)めに出た時、仲間(なかま)にその話をしたと。
「・・・とマア、こんな訳(わけ)で、晩げになったら剃刀を持って墓場へ行き、あの幽霊の髪を剃ってやらねばならん。おぬしたちも、後学(こうがく)の為にオレの後について来て見てたらええ」
「それも面白(おもしろ)かろう。話の種(たね)だ」
いうて、物好(ものず)きなのばかり五、六人、あとから見え隠(かく)れについて来たと。そしたらやっぱり長い髪たらして、ボオーと出たと。幽霊の婆さまが。源右ヱ門さまが、
挿絵:かわさき えり
「髪、今剃ってやる!」というたら、幽霊は、 「どうか剃って呉ろ」
と、頭(あたま)を突(つ)き出したと。源右ヱ門さまは、脇(わき)の下にその幽霊の首をかかえて頭をキッチリ押(お)さえて剃ってやったと。
そのうちに夜が明けて来たと。そしたら、そのさまを隠れて見ていた仲間が、
「なんだ?その、源右ヱ門さま、さっきは頭を押さえて剃っていたようだげんども、今見るとそりゃ、古い墓石(はかいし)の頭さ、苔(こけ)が長く生えているのを剃っているように見えるな?」
というたと。源右ヱ門さまもあらためて見ると、その通りだったと。
「化(ば)かされたんだかな?」
「それとも幽霊のやつ、願いを叶(かな)えられて浮かばれたんだべか?」
と、 皆で浮かない顔して話しておったと。
とーびんと。
その11『与蔵沼』(よぞうぬま)
むがし、むがし。山形(やまがた)の庄内(しょうない)さ向かって行く方さ、炭焼(すみや)きしたっだ与蔵(よぞう)っていう男(あに)いであったけど。その与蔵(よぞう)、大変に働(はたら)ぎのええ人でな、仲間(なかま)の男と二人して、春にもなったんだし、山さ稼(かせ)ぎに行ったど。ほして、昼になったもんで、
挿絵:かわさき えり
「昼飯(ひるめし)にすっぺや。俺(おれ)、腹減(へ)ってしやね!」
て、二人でご飯食うごどにしだど。仲間は、
「俺、きれいな水汲(く)んで来る」
て、沢さ下(くだ)って行った。与蔵は小川の側(そば)で火ば燃(も)やしていだ。
火さあだりながら、ノンビンダラリど小川を見でいだら、何の魚だんだが、赤げな雑魚(ざっこ)が泳(およ)いでいだど。
挿絵:かわさき えり
「これだば焼いで昼飯のご馳走(ちそう)にするべえ」
て、獲(と)ってみだ。仲間の分も獲っだ。ほうして焼いだど。すっとな、ええ匂(にお)いがして、ええ匂いがして、とても我慢(がまん)してらんね。
「ひどつ、食ってみるか」
て、ポチっと食った。すっと、美味(んめ)どおな。美味もんで、とても食わねでらんね。頭の後ろばしょこしょこど食ったれば、腹も食わずにいられんね。つい、尾(お)っぽの先(さき)っぽまでべろっと全部食いあげでしまった。仲間の分までべろっと食いあげだど。
さあ、そうしたれや、与蔵、喉(のど)が渇(かわ)いでなや。水ば飲みでくて、小川の水ば掬(すく)って飲んだと。なんぼ飲んでも喉の渇いだなば元(もと)さ戻(もど)らねど。焼けるように喉が渇いで、ついには小川さ顔つっこんでゴグラゴグラど、水が無(な)くなってすまうまで飲んだったど。
すっと、与蔵、何だか妙(みょう)なごどになってな、尾っぽがビョンど出て、手さ鱗(うろこ)が生(は)えで来た。その様子(ようす)を、水汲みから戻った仲間が岩陰(いわかげ)に隠(かく)れて見ておった。とうどう、よぞうは蛇体(じゃたい)になってしまったなよ。
「俺、こんたな蛇体に変わってしまっては、何じぇもしゃねけど。生きて恥(はじ)晒(さら)すこと無(ね)。このまま沢さ落ぢで死(し)ぬがは!」
て、与蔵思ったど。ほすっと、そのあたりいったい水がまんまんとある、大っきな沼に変わってしまっだ。与蔵、そこさザブンど漬(つ)かって、沈(しず)んでしまった。そして、その沼の主(ぬし)になったけど。
よぞうがあんまり帰って来ねもんで親が心配(しんぱい)していたら、与蔵と一緒(いっしょ)に行った仲間が転(ころ)がるように家さ駆(か)け込(こ)んで来た。して、
「与蔵が、よぞうが、蛇体になったあ!」
って最初から終(しま)いまで見たことを話したと。親は、
「そんなことあるもんだか?」
って思ったれども、あわてて山さ行ったど。すっと、見たことのねえ大っきな沼、出来とった。その縁(へり)に立って呼ばった。
挿絵:かわさき えり
「与蔵、よぞう!」
って。すっと、恐(おそ)ろしげな蛇体が沼からザーッと立ち上がって、親をジイと見ているど。親は恐ろしくって、後退(あとじ)さったけんど、そこは親の感が働(はたら)いで、
「与蔵、お前(め)か?」
て、聞いたれば、蛇体の目がら涙(なみだ)こぼれたど。
「 与蔵、やっぱりお前か?何してそんな蛇体になったかや?」
て、聞いたって、蛇体は身悶(みもだ)えするだけだ。親はあきらめてはぁ、遠ぐから、
「与蔵、よぞう、よっく聞げ。決して里の人さ害(がい)するもんでねえど。雨が降(ふ)るのが分かったらば、沼さ波立でろ。雨が降らねぐて田の人達あ困(こま)ってらったらば、願(ねが)いは聞き届(とど)げるもんだぞ。わがったが!」
て、教え悟(さと)して、泣ぎ泣ぎ家さ戻ってったど。
与蔵沼は、んださげて、田の水が干上(ひあ)がった時、あそこさ行って水を掻(か)き回して来るど雨がくるし、こっちの村さ雨がくる時は、「まず山の方の与蔵沼さ波立ったさげ、雨降るぞ!」て、ちゃんと知らせるなだど。
六月一日には“蛇体の皮脱(かわぬ)ぎ”て、蛇がいるがら、決して与蔵沼の近まさ行ぐなよ。
どんべからっこ ねっけど。
【管理人のひとこと】
働き者の与蔵は、何の因果か美味しい魚を食べた為、喉が渇き川の水を沢山飲んだ。いくら飲んでも喉の渇きは収まらず、川の水をあらかた飲み干してしまったんだね。そして、自分の身は蛇に為り沼の主になってしまったんだ。
処が、そのことを決して恨みに思わず、村の為に為る事をしたんだよ。日照りが続くと雨を降らしたり、水害に為る様な大雨の時は、沼に水を蓄えたのだろうね。但し6月1日は、蛇の脱皮の為沼には近づかぬようにと言われたんだ。恐らく、脱皮は苦しいものだったんだろう。しかし、蛇は脱皮を繰り返して成長するんだ。恐らく、その苦しさを人には見せたくなかったんだろうな・・・
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