2018年12月15日
宮城県 郷土の昔話 その2
しばらの間、私が住まいする宮城県の郷土の昔話をお伝えしようと思います。お子様やお孫様が寝る前の一時、語ってお伝え願えれば幸いです・・・その2
宮城県の昔話(全14話)
再話 佐々木 徳夫
整理・加筆 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社
第四話『お月お星』(おつきおほし)
挿絵:かわさき えり
昔、あるところにお月(つき)とお星(ほし)と云う二人の娘がいたと。お月は亡くなった先妻(せんさい)の子で、お星は継母(ままはは)の子であったが、二人はとても仲が良かったと。継母は娘のお月を、
「お月は何て嫌な子だべ」
云うて、憎んで憎んで、何時か殺してやろうと思っていたと。或る時のこと、父親が急用で上方(かみがた)へ出かけて行った。継母はこの時とばかり、お月を殺す恩案をしたと。妹のお星は母親のたくらみを知って、
「姉さん姉さん、今夜はオラの布団さ一緒に寝るべ」
云うて姉を誘い、姉の布団の中には西瓜を寝させて置いたと。そうとは知らない継母は、そっと忍んでそれを出刃包丁で突き刺したと。
「これでもう憎らしいお月も死んだべ」
とニンマリしていたら、翌朝になってお月が、
「母さん、お早うござりす」
と朝のあいさつをしたので悔しがったと。そこで今度は、継母は石の唐櫃(からびつ)の中にお月を入れて、奥山へ運んで行って穴の中へ埋めさせることにしたと。
妹のお星はこれを知って、石屋にソッと頼んで、唐櫃の底に小さい穴を開けて貰ったと。そして姉のお月に、
「姉さん、この芥子(からし)の種を持って行ってけさい。唐櫃の中からこの芥子の種をこぼしていけば、春になったら芥子の美しい花コ咲くべから、それをたどりたどり必ず助けに行くから」
云うて芥子の種を渡したと。お月は、お星から貰った芥子の種を石の穴からポトリポトリこぼしながら、山へ連れて行かれ、穴の中へ埋められてしまったと。
やがて冬が去って春が来たと。野山に花がほころびはじめ、お月の撒いて行った芥子の種が芽を出して、美しい花が咲いたと。お星は母に弁当を作って貰い、山遊びに行かせて貰った。お星は芥子の花の咲いている道を辿って、山の奥へ奥へと分け入ったと。そして声一杯に、
「お月姉さん、お月姉さ―ん」 と呼ぶと、向こうから細い声で、
「ホーイ、ホーイ」
と云う返事が聞こえて来た。
お星は急いで穴を掘って、石の唐櫃を開けると、お月を救い出したと。お月はもう、骨と皮ばかりに痩せ細って、髪の毛はトーキビの毛のように赤く縮れていたと。
「んでも姉さん、好く生きていただ」
「オラ、お星が呉れた芥子の種の残りを食べて、やっと持ち応えただ」
言い合って、二人は抱き合って嬉れし泣いたと。
「姉さん、これから又家さ戻っても殺されるべから、何処か遠くさ行くすべ」
云うて、お月とお星は、手をたずさえて何処へともなく姿を消したと。
それから間もなく、旅に出ていた父親が家へ帰って来たと。土産を一杯持って来たが、お月もお星も姿を見せない。女房に、
「ふたりは、どこさ行っただ」
と尋ねると、女房は、
「多分、山さでも遊びに行ったのだべ」
と知らんプリをしている。しかし何日待っても娘たちが帰って来ない、父親は心配のあまり六部(ろくぶ)になって、お月とお星を探しに出かけたと。
「お月お星が 居るならば 何しにこの鉦(かね)っコ叩くべや カ―ンカーン」と鉦を叩きながら、何処までも何処までも探し歩いたと。これが鉦叩き鳥のはじまりだと。お月とお星は、空高く昇って行って、お月さんとお星さんになったとも言われとる。
えんつこもつこ さげえた。
管理人の一言
何とも悲しい話だナ、涙が出て止まらないべ。それにしても、継母(ままはは)とは何でこんなに意地悪なんだべや?これは、時代を幾ら超えても無くならない業の様なものだべナ。継母に悪気が無いとも言えないが、自然に出て来る・・・「母性愛の裏返し」の様なもんだべナ。きっと我が子が可愛いのと逆に憎しみが出て来るんだナ。
父親は六部に為って、鉦を叩きながら二人の娘を探し回ったそうな。殺したい程憎んだり、全てを投げ捨て娘を探す深い父親の愛情・・・人間には、この様な深い業があるんだナ。
第五話 『蟻と蜂の旅』(ありとはちのたび)
挿絵:かわさき えり
昔、昔、あるところに蟻(あり)と蜂(はち)があったと。或る時道端(みちばた)のタンポポの花のてっぺんで蟻と蜂が出逢(あ)った。
「やあ、蜂」
「やあ、蟻」
って、あいさつして語りあっていたら、時は春、あんまりにもウララカだから、何処かへ旅をしようかということになったと。蜂は空をブンブン飛びながら、蟻は地面をセッセ、セッセと足動かして行ったと。
「蟻、アリ、おめ、なかなか足が速(はや)いな」
「蜂、お前(め)、8(はち)の字に行ったり来たりして俺(お)らに合わせて呉れているども、くたびれたべ」
って、ちょこっとの間(ま)休んで、また旅したと。いくがいくがいくと、デッカイ魚が道に落ちてあった。さて、何の魚かナア、って、旅の人が来たから聞いたら、
「こいつは鯛(たい)っていう魚だ」
って、教えてくれた。蜂が、
「好いもの見つけたナア。俺(おれ)達二人で拾ったものだから俺達の物(もん)だ」
って、言うたら、蟻が、
「何、俺らが這(は)って来て、一番に見つけたから、俺らの物だ」
って、言うた。そしたら蜂は、
「何だよ、そんなこと言うか、俺は空から先に見つけてたぞ。俺のもんだべ」
って、けんかになったと。そんだら弘法(こうぼう)様のところへ行って、どっちの物だかお聞きしてみよう、と云う事になり聞いたと。そしたら弘法さま、
「そうだな、拾ってありがたかったべ、ありがたいだから、鯛は蟻の物だな」
って、おっしゃられた。 蟻は喜(よろこ)んで、何処かへ運んで隠(かく)したと。
また、蟻と蜂は旅した。アッチを見、コッチを見して、旅は面白いナアって言っていたら、夏が過ぎて秋になったと。今まで咲(さ)いてた花も枯(か)れて涼(すず)しくなった。それでも、いくがいくがいくと、また、見たこともない魚が道に落ちていた。旅の人に聞いたら、
「こいつは鰊(にしん)っていう魚だ」
って教えて呉れた。蟻がまた欲(よく)たれて、
「オラが先に走って来て見つけたんだから、こいつも俺らのだ」
って言うた。そしたら蜂が、
「この前は、お前が鯛とったべ。鰊まで、またお前がとることなかべ」
って、けんかになったと。そんだら弘法さまのところへ行って、どっちの物だか、お聞きしてみよう、ということになり、聞いたと。 そしたら、弘法さま、
「そうだな、これは初鰊(はつにしん)だな。初めてとれた鰊だから蜂の物だ。はちにしんだ」
って、おっしゃられた。蜂は喜んで、何処かへ運んで隠したと。蟻と蜂は、
「お前はアリガタイだす」「お前はハチニシンだす」
って言うて、又、仲好く旅したと。
えんつこ もんつこ さげぇた。
管理人の一言
「お前はアリガ鯛(たい)だす」「お前はハチ鰊(にしん)だす」って結局、弘法様のシャレなんだね。何れにしても友達同士仲良くしなさいと云う事の様だな。チャンチャン!
第六話『犬の眼』 (いぬのめ)
挿絵:かわさき えり
昔、あるところに一人の男があった。男は眼(め)の病気になったと。痒(かゆ)くなり、痛(いた)くなり、かすんで来て、段々見えなくなった。眼医者(めいしゃ)へ行って、診(み)てもらったら、
「これは、眼ん玉はずして、よっく手入れをせなんだら、この先もたんな」
と言われた。
「眼ん玉をはずすだと、トンでもねえ」
男が怖気(おじけ)づいて眼をむいたら、すかさず眼医者が、男のおでこを小槌(こづち)でトンと叩(たた)いた。眼ん玉が飛び出たと。そこを匙(さじ)でくり抜(ぬ)いた。
「ホウラ抜けた。お前はしばらくそこで寝とれ」
こう言うと眼医者は、塩水やら何たら薬やらで手入れして、眼ん玉を日向(ひなた)に干(ほ)したと。
処が、干し過ぎて眼ん玉が縮(ちぢ)んで小さく為ってしまった。
「ありゃ、こりゃ、いかんわい」
眼医者はその眼ん玉を、今度は水に浸(ひた)して置いたと。処が、浸し過ぎて眼ん玉がフヤケて大きくなってしまった。
「ありゃ、こりゃ、いかんわい」
眼医者は、その眼ん玉を再度(ふたたび)日向に干したと。処が、犬が来て、その眼ん玉を食うてしまった。
「ありゃ、こりゃ、いかんわい」
困った眼医者は、
「この犬の眼ん玉くり抜いて、あの男に入れてやろ。何、眼にはかわりない」
と言いながら、犬の眼を見たら、犬は怖気づいて眼をむいた。すかさず眼医者が、犬のおでこを小槌でトンと叩いた。眼ん玉が飛び出たと。そこを匙でくり抜いた。その犬の眼ん玉を男に入れてやったと。
「どうじゃ、見えるか」
「へえ、おかげさんで足元(あしもと)がよおっく」
男は喜(よろこ)んで帰って行ったと。
処が、それからというもの、男は糞(くそ)を見ると無性に食いたくなる。困って、また眼医者に行き、話をしたと。眼医者は、こりゃ、犬の眼の所為に違いないと思うたが、
「なに、直(じき)に治(なお)る。理由(わけ)は分かってる」と、男を安心させた。早速(さっそく)男から眼ん玉をくり抜いて、手入れをし、また戻してやったと。処が、今度は裏返(うらがえ)しに入れてしまった。
男は、見えることは見えるのだが、何が見えているのか、好く判(わか)らん。不思議に思うていたら、どうやらおのが身体(からだ)の中が見えているらしいと気がついた。サア、そうなると面白(おもしろ)くてならん。身体の隅(すみ)から隅までたどって観(み)たと。
身体の仕組(しく)みやら加減(かげん)やら、様々(さまざま)理解(わか)るようになった男は、病気ひとつしなくなって、とうとう五臓六腑(ごぞうろっぷ)を扱(あつか)う評判(ひょうばん)の医者殿になったと。
どんびすかんこねっけど。
管理人の一言
オデコを金づちで「ポコッ!」叩くと目ん玉が飛び出すんだネ。それをスプーンでほじくり出す・・・これが意外にリアルで面白いネ。自分でやってしまおうかな? 目を繰り抜かれた犬が可愛そうだけど、達者にやってるかな?
マア、そんなことを抜きににして物語は進み、裏返しに入れられた目ん玉で自分の身体の中を覗く・・・と云う着想も面白いネ。そして内臓を知り抜いた男は名医に為ったって?とても身勝手で適当で無責任だけど、結果オーライって訳だね。それはそれで好いのでは?
宮城の民話 その3につづく
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