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2018年09月06日

 一緒に学ぼう世界史のポイント 51 《アメリカの征服とヨーロッパの変容》


 一緒に学ぼう世界史のポイント 51 《アメリカの征服とヨーロッパの変容》

 

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 アメリカの征服とヨーロッパの変容


 古代アメリカ文明の展開


     9-10-1.png

 コロンブスの到達以来、ヨーロッパ人が続々とアメリカ大陸に遣って 来る事に為るのですが、アメリカ大陸にはどんな人々がどんな暮らしをしていたのか、それを見て置きましょう。
 インディオとかインディアンという言い方は抵抗があるのですが、他に便利な呼び方が無いので、教科書に従ってスペインが支配した地域の先住民のことをインディオイギリス・フランスが支配することになる北アメリカの先住民をインディアンと呼ぶことで授業は進めて行きます。

 アメリカ大陸の先住民は約2万年前アジアから遣って来た。我々と同じモンゴロイドです。シベリアとアラスカの間のベーリング海峡が氷に覆われて繋がっていて歩いて渡れたのです。彼等はやがて南北アメリカ大陸と周辺の島に広がって行った。中でも中央アメリカのメキシコ高原と南アメリカのアンデス高地に高度な文明が発展します。

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 メキシコ高原から見て行こう。ここには前6000年頃には農耕文化が成立する。主な農作物はトウモロコシです。アメリカ大陸には小麦とか米とかの穀物は無いのね。因みに家畜の種類も少ない。後で見るアンデス高原にはアルパカとかリャマと云うラクダに似た大型の家畜がいますが、メキシコ高原にはいなかった。

      9-10-3.jpg 太陽のピラミッド

 メキシコ湾岸地域に最初に現れる文化がオルメカ文化。前9世紀頃のことです。オルメカ文化が元になって前2世紀頃からメキシコ高原で発展したのがテオティワカン文明。これは「太陽のピラミッド」なんて云う遺跡が有名だね。資料集にも写真があります。

      9-10-4.jpg

 メキシコ湾に突き出しているユカタン半島というのがある。ここで生まれたのがマヤ文明(3世紀〜10世紀)。聞いたことあるでしょ。これもオルメカ文化の影響で成立したものです。ここもピラミッドや石造りの神殿など巨大な遺跡が残されています。複雑なかたちをした絵文字も有名です。
 マヤ文明は10世紀を境にして衰退していて、スペイン人がここにやって来たときには、マヤ人達は巨大な建造物を造るような力を持っていなかった。だから、古代エジプト人がここに渡って文明を造ったんだとかアトランティス大陸が昔あって、彼等が残した遺跡だとか言われたこともあった。全然科学的根拠は無いんですけどね。

     9-10-5.jpg

 メキシコ高原ではテオティワカン文明の後トルテカ文明が引き続いて栄えます。色々な民族が興亡を繰り返すのですが、スペイン人が来た時に栄えていたのがアステカ帝国です。首都はテノチティトラン。人口20万を超えていた大都市で当時の世界で最大級です。アステカ帝国の繁栄ぶりをしめしているね。
 テノチティトランは湖の中に浮かぶ中之島にあった。島に渡る為の堰堤が三本つくられていて歩いて渡っていけた。初めてここを見たスペイン人たちはその壮麗さに驚いたという。現在では、湖は無くなってしまって、そこにメキシコシティがあります。アステカ帝国はスペイン人によって滅ぼされ、テノチティトランも破壊されたのです。

       9-10-6.jpg

 アンデス高原にはメキシコとは無関係に独自に文化が発展します。前10世紀に生まれるのがチャビン文化。7世紀にアンデス高原一帯に都市を建設をしたのがティアワナコ文明。トウモロコシ・ジャガイモ栽培・家畜ではアルパカやリャマを飼育します。

       9-10-7.jpg インカ帝国

 

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 この文化を受けて15世紀に成立したのがインカ帝国です。首都クスコを中心にして道路網を整備し中央集権的な国家を建設していました。クスコの町に今も残っている石積みの壁は全然隙間がなくてカミソリの刃一枚通らないという。
 そう云う高度な石造建築が残されています。このインカは文字を知りませんでした。但し、文字の代わりにキープと呼ばれる記録方法を取って居た。キープは「結縄」と訳されています。縄を結んでコマを造り、その結び目の形や数で数字をあらわした。税の徴収を記録する為に使われたようです。

 メキシコ高原のマヤ・アステカ・アンデスのインカに共通して言えることですが、基本的にこれ等の文明は孤立している。だから、高度な石造建築術や複雑な暦法を編み出している割には旧大陸で当たり前のものを知ら無かったりします。
 金属器に関して言うと、金・銀・青銅は利用していますが鉄器を知ら無い。面白いのは車輪を知ら無かったことです。コロみたいに上に何かを載せて転がすことも知らなかったらしい。ピラミッドなどを造る為の巨大な石材をどうやって運んだのかと思いますね。「ろくろ」も知らなかった。回転すると云う技術を利用しなかったのですね。
 動物では馬がいなかったので当然ですが騎馬を知らない。だから、マヤ人たちはスペイン人が騎馬でやって来た時にそれを一つの動物だと思ったと言います。鉄器も持たず馬に乗ることも無いアメリカ先住民達がスペイン人が遣って来た時に簡単に征服されてしまったのはある意味では当然かもしれない。

      9-10-8.jpg マチュピチュ

 

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 アメリカ大陸原産の農作物です。トウモロコシ・ジャガイモ・サツマイモ・トマト・唐辛子、この辺が有名処。トウモロコシやジャガイモは旧大陸にもたらされて、アッと云う間に世界中に広がった。特にジャガイモは寒くて痩せた土地でも収穫出来たので、世界中でどれだけ多くの人を飢餓から救ったかわからない。
 唐辛子がアメリカ原産というのは知ってましたか。コロンブスがアメリカに行ったのが1492年でしょ。その百年後、日本が朝鮮半島に攻め込みます。戦国時代を統一した豊臣秀吉の朝鮮出兵です。この時に日本軍が朝鮮にもたらしたのが唐辛子だと云う。百年間で唐辛子はグルッと地球を一周したのですね。その伝わるスピードの速さが面白いですね。韓国・朝鮮料理に欠かせ無いキムチですが、或る意味ではコロンブスのお影かもしれない。

 脱線しますが、梅毒と云う性病があります。これもアメリカにしか無かったんですがコロンブスが早速ヨーロッパに持って帰る。日本で初めて梅毒の記録が現れるのが何時かというと、驚くなかれ1512年。梅毒は地球一周に僅か20年。ウーン。人間と云うのは凄い動物ですね・・・と云う話でした。

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 アステカ帝国の征服

 コロンブス以来スペイン人がアメリカで植民地経営を始めるのですが、初めはキューバ島やその東のイスパニョーラ島が中心でアステカ帝国やインカ帝国には気づいていなかった。
 処がインディオの奴隷狩りに出かけた船が偶々ユカタン半島に漂着して、初めてスペイン人はマヤ人に接触したんだ。マヤ文明は衰えたと言っても、マヤ人たちはそれまでスペイン人が知っていたインディオ達とは全然違って高い文明を持っていた。そしてマヤ人達の情報からアステカ帝国の存在を知ります。

      9-10-10.jpg コルテスの戦い

 このアステカ帝国の征服に出掛けたのがコルテス。成功すれば莫大な財宝と地位と名誉が手に入る。コルテスはかなり強引で野心的な人で、キューバ総督の制止命令を無視して遠征に出かけた。
 兵力は約500・馬16頭・銃50丁。武力としては少ない。何しろ目指すアステカ帝国の首都テノチティトランの人口は20万以上ですよ。ひとつの国を滅ぼすのに500の兵力はやっぱり少ないでしょう。処がコルテスは成功してしまう。
 実はコルテスはアステカ帝国の首都に攻め込む前に周辺の民族から細かく情報収集をしている。アステカ帝国は、新興のアステカ族が建設したばかりの国でした。アステカ族は武力は強いが支配の仕方が乱暴だったので、支配下に入った多くの民族から反感を買って居た。

      9-10-13.jpg 宗教儀式    

 アステカ族がどういう具合に反感を買っていたかと言うと、例えば宗教儀式です。アステカ族は太陽神を信仰しているのですが、この太陽神の活力が衰えるのを防ぐ為に生贄を捧げる儀式を毎日のようにしていた。生贄は生きた人間です。
 これを祭壇の上に寝かせて王が黒曜石のナイフでその胸を切り裂く。ドックンドックンとまだ脈打っている心臓を掴み出してそれを祭壇の後ろにある太陽神の像にバシッと投げ着けるのです。石造に真っ赤な血がベットリと着く。その生き血が太陽神に活力を与えると信じられていた。その後生贄は首を切り落とされて、その首は物干し竿みたいな棒に串刺しにされて晒された。胴体は祭壇の下の溝に落とされる。そこにはジャガーが飼ってあって、その餌に為ったというんだね。

 何ともオドロオドロシイ話ですが、生贄にされたのがアステカ族に支配された他民族の捕虜。プリントにあるのはその太陽神の像です。太陽神は舌をベーッと突き出していますが、この舌の上に乗せているのが黒曜石のナイフ。生贄の心臓を取り出すナイフです。
 こう云う絵柄で、太陽神が生きた心臓を要求している様子を現しているのです。アステカ族以外の民族に取っては、この太陽神を信仰している訳では無いですから、儀式は異常に残酷で理解し難い。しかも自分たちが生贄にされるのですから、アステカ族は当然のように反感を買う訳だ。
 そこへ、スペイン人のコルテスがアステカを征服する為に遣ってくる。他民族は進んで協力を買って出るんだね。こんな風にしてアステカ族以外のメキシコ高原の民族を従えて進撃して来るコルテスを見て、アステカの王は反撃するのを諦めてしまいます。コルテスに黄金を贈ってお引取りを願うんですが、黄金を見てコルテスは益々やる気満々。テノチティトランに入り無抵抗のアステカ王を捕らえて自分の傀儡にしてしまった。

 その後、王の弱腰振りに怒ったアステカの人々がコルテスが不在の隙を突いてスペイン軍に反乱を起こします。この時に捕まえられたスペイン人の捕虜が例の太陽神の生贄にされたりする。コルテス側はこの反乱を鎮圧する為に結構苦労して、この過程でテノチティトランの街は徹底的に破壊されてしまった。最終的にはスペイン側が勝利してアステカ帝国は滅亡します。1521年のことでした。

 

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 インカ帝国の征服

     9-10-14.jpg ピサロ

 インカ帝国を滅ぼしたのがピサロ。ピサロは初めて太平洋に到達したバルボアの副官をやっていた男。バルボアは黄金を求めて偶々パナマ地峡を横断したんでしたね。
 その部下だったピサロも当然、アメリカの何処かに黄金郷はないかとずっと探索を続けていた。そんな時にコルテスがアステカ帝国を発見し滅ぼし莫大な財宝を手に入れたと聞く。俺も第二のアステカを見つけるんだと躍起になります。南アメリカの太平洋岸を探索しているうちにインディオから、ペルーの山の上に大帝国があるという情報を得るんだ。これがインカ帝国
 只、探検を行うにも軍資金が必要なので資金提供者を集めたりするのにかなり苦労します。その後7年間くらいかけてピサロはインカ帝国の政治情勢とか情報収集します。

 丁度その頃インカ帝国では前の王が死んで、腹違いの二人の息子の間で王位継承戦争が起こっていたんです。兄のアタワルパが勝利して即位式の準備をしようか、と云う時にピサロ一行はインカ帝国征服を目指してアンデス山脈を登り始めます。ピサロの兵力はコルテスよりも更に少ない。兵180・馬27・銃の数は不明。インカの人口は一千万とも言われていますから、無謀とも言える。

 

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 インカ帝国は今のエクアドルからチリの中程までアンデス山脈の太平洋岸に繋がる長い国です。首都のクスコを中心にして道路網が発展していて、かなり中央集権的な政治機構が出来上がっていました。この当たりが部族連合国家的だったアステカ帝国と違う処です。ピサロはコルテスのようにインカに反発する他の民族を味方に着けると言うことも出来なかったのです。
 で、新しい王アタワルパは、ピサロたち白人の一行が武器を持って山を登って来ると云う情報をちゃんと掴んでいました。200人にも満たないと聞いてアタワルパは完全に見くびっています。しかも兄弟を倒した戦争の直後で、彼は3万の兵士を率いているのです。
 悠々とピサロ一行が遣ってくるのをカハマルカと云う湯泉の都市で待ち構えていた。やがてピサロは使者をアタワルパに遣わして会見を申し込みます。アタワルパは話を聞いてからユックリ捕まえて奴隷にしてやろうと、会見を承諾しました。場所はカハマルカの広場と決定した。

 兵力で段違いに劣るピサロの作戦は奇襲によってアタワルパ王を生け捕りにしてインカ軍の動きを封じることだった。事前に部下を広場の周りにコッソリ配置します。スペイン兵の中には圧倒的な敵軍の数に怯えてオシッコを漏らすものもいたという。ギリギリのバクチみたいな作戦だったんです。
 会見の当日になって、インカ軍3万は町の広場に入場して来ます。そこにピサロは側近と宣教師を連れて近づきます。スペイン人は何時も宣教師を連れているのです。

      9-10-15.jpg アタワルパとピサロ 

 

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 アタワルパは護衛の兵の担ぐ輿に乗って遣ってきます。ピサロとアタワルパが挨拶を交わした後、宣教師がアタワルパに聖書を渡す。アタワルパは聖書を手に取ってペラペラとページを捲るのですが、そもそもインカには文字がありません。当然本だってない。聖書を見せられたってそれが何かわかる訳がないです。そこで、アタワルパは聖書をポーンと放り投げた。その途端宣教師が「神に対する冒涜だ!」と大声で叫んだ。
 これが合図で、ピサロは輿に飛び掛かってアタワルパを引きずり降ろして連れ去ろうとした。同時に隠れていたスペイン兵が一斉に広場に結集しているインカ軍に対して銃弾や矢を打ち込んだ。

 インカは鉄砲なんて知りませんから、行き成り轟音がしたと思ったら味方がバタバタと倒れて行くから、途端にパニック状態に為ってしまった。彼等が居た広場は壁に囲まれていたので、逃げようとして出口に殺到して一層混乱が増すでしょ。押し潰されて死んだインカ兵も沢山いたという。
 大混乱のなかでピサロはアタワルパを生きたまま捕虜にするのに成功しました。王が人質に捕られてしまってインカ軍は抵抗することが出来なくなってしまった。こんな風に結果的に見れば実に呆気なくインカ帝国はピサロによって征服されてしまったんです。
 捕虜となったアタワルパはピサロの目的が黄金だと直ぐに気づいた。有名な話ですが、アタワルパは自分が捉えられている石牢の中で背伸びして伸ばした腕で壁に線を引いてピサロに言うのです。「この部屋のこの線まで黄金で満たしたら釈放して呉れるか?」 渡りに船だ。ピサロは釈放してやると約束したので、アタワルパは牢の中から全土に黄金を集めるように命令します。

 中央集権的な国ですから王の命令に従って、村々から黄金が差し出されてアッと云う間に彼の石牢は黄金で一杯になった。ピサロは約束を守る筈はなく、この後アタワルパを殺して別の王族の者を傀儡皇帝としてインカ帝国に号令します。事実上この時にインカ帝国は滅んだと言って好いでしょう。これが1533年でした。
 只、インカの残存勢力がその後もアンデスの山奥に立て籠ってスペイン人に対してゲリラ活動を続けています。有名な「マチュ・ピチュの遺跡」資料集に写真もありますが、これはこの時期にインカのゲリラ活動の根拠地として利用されたと云う都市遺跡です。標高2500メートルの山頂でしょ。どうやって建設したのか、ここに住んでいた人達は何処へ行ってしまったのか、考えていると幻想的な気分になります。

 

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 スペインのアメリカ植民地統治

 スペインはアメリカ植民地を経営するのにエンコミエンダ制と云う仕組みを敷きました。スペイン人の入植者に土地とインディオに対する支配権を与える制度です。その代わり入植者はインディオにキリスト教を布教する義務を負います。支配権の代償が布教というのは何か変ですが、レコンキスタ以来強烈な宗教的情熱を持つ国だから、こんな制度を作ったのですね。
 この制度は結果としてスペイン人が自由にインディオを酷使して構わないと云う事を意味しました。インディオは事実上の奴隷です。

 初めスペインは香辛料を求めてアメリカに来てはみたものの、結局アメリカには香辛料は無い訳でしょ。そこで、スペインはカリブ海の島々で農園を経営する。主にサトウキビです。この砂糖をヨーロッパで売りさばいて儲けようと云う訳だ。
 サトウキビ農園で働かされたのは奴隷とされたインディオ達でした。処が、インディオは過酷な奴隷労働に耐えられずにバタバタ死んで行く。又彼等は、スペイン人がもたらした天然痘や「はしか」などの伝染病に対して免役が全くなかったから、これも死亡の大きな原因に為った様です。

 例えばハイチ島の原住民の人口です。1494年30万人、50年後にはなんと500人。これは絶滅です。少なくなった奴隷を補充する為にキューバ島から大陸に奴隷狩りに向かった船が難破して、これがマヤ文明発見の切っ掛けに為ったりしている。
 結局、カリブの島々では先住民インディオは絶滅して行きます。労働力を補充する為にスペインはアフリカ大陸の黒人を奴隷として連れてきた。今、ジャマイカでもハイチでもキューバでも国民の多数はアフリカ系の人たちかスペイン人の子孫ですね。

 

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 アステカ帝国とインカ帝国の征服によってスペイン人の植民地は一気に広がります。インカ帝国の旧領土では銀の大鉱脈が発見されてスペインに莫大な富をもたらすことになった。ポトシ銀山というのが特に有名です。ここで働かされたのもインディオです。
 ちょっと絵を見ましょう。こちらは鉱山の内部の様子を描いた絵。坑夫たちの多くは村々から徴発されたインディオたちです。坑道は深さ300メートル、真っ暗な穴のなかでロウソクの光を頼りにインディオたちは鉱石を採掘するのです。
 掘り出した鉱石を地上に運び挙げるはしご、これが縄ばしごです。20メートルの縄ばしごを何本も乗り換えて登り降りするんですが、坑夫たちは背中に鉱石を背負っている。縄ばしごなんてフラフラ揺れて不安定でしょ。ロウソクを持つことが出来ないので、彼等は親指にロウソクを括りつけられている。それに、皆裸ですね。地中は暑いにしても素っ裸とは一層悲惨な感じがする。

 こちらは別の絵。インカの王族の血を引くワマン・ポマという人がいます。この人が17世紀の初めにインカ時代からスペイン統治時代までの歴史の本を挿し絵つきで書いていて、これは挿し絵です。
 坑夫を集め切れなかった村長と鉱山で反抗したか逃亡しようとしたインディオを処罰している処です。ここでもインディオは素っ裸にされている。身体に模様みたいに沢山の線が描かれていますが、これは鞭で打たれた傷です。一人が両手を縛られ裸でリャマに乗せられている。これを右の男が鞭で打っています。この鞭をもっている男は服装髪型からみてインディオですね。
 インディオの中にもスペイン人に取り立てられて奴隷頭みたいに仲間を監視する者が居たのが判る。その奴隷頭の働き振りを右端の男が椅子に座って見物しています。この人物がスペイン人ですね。

 

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 下には三人のインディオが裸で杭に縛り付けられています。一人は逆さ吊り状態。見せしめにされているのだと思います。その右の男は服を着て手を合わせています。これは神に祈っているのですね。スペインはインディオをキリスト教に改宗させて行きましたから、この祈っている対象はキリスト教の神でしょう。好く見ると、この人の足は枷にはめられていて、これも何か罰を受けているのでしょう。
 男たちが鉱山に連れて行かれた後のインディオの村の様子がこの絵です。残された女性が機織をしている。背中に赤ちゃんを背負っているから母親ですね。彼女の髪を掴んでいるのがスペイン人の宣教師です。織りかけの布を指差している。「モット沢山織れ」と命令しているようでもある。男を坑夫にするだけで無く、女には機を織らせてそれを税金代わりに取り立てるのです。この女性は泣いているんですよ。好く見ると目の下に線が書かれているでしょ。これ涙です。

 多くのスペイン人は、インディオを奴隷扱いしたり虐殺することを酷いこととも思っていなかった。キリスト教を知らない野蛮人に対しては罪悪感も無かった様です。
 しかし、インディオに対する非人間的な扱いに抗議をしたスペイン人宣教師がいました。ラス・カサスという人です。この人は元々従軍司祭としてイスパニョーラ島やキューバ島で先住民の征服に付き従っていた。
 征服はこんな具合にやる。先ず、スペイン人たちはインディオの村に入って行く。そして、村人を集めて、スペイン王への服従とローマ教会への改宗を勧告します。この勧告はスペイン語でやります。聞いているインディオたちには何のことかさっぱり判りませんから、当然降伏するとも改宗するとも返事をする訳がない。これをスペイン人は拒否とみなして武力で征服するのです。虐殺もある。ラス・カサスもキューバ西部のカオナオ村という処で3000人を虐殺した現場に居合わせている。

 

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 こう云う征服戦争に参加した功績でラス・カサスは土地とインディオを手に入れるのですが、ある日聖書を読んでいて改心するんだ。それ以後は自分の所有していたインディオを解放し積極的にインディオの救済運動を開始します。
 スペイン国王にインディオの待遇改善を訴えたり、インディオの実態についての報告をヨーロッパに送る。インディオの相次ぐ反乱や急激な人口激減で労働力不足も問題に為って居たので、スペイン王カルロス1世はラス・カサスを招いてインディオ問題の会議を開いた。1543年にはインディオの待遇を改善する新しい法律が発布されています。
 マアどれだけ効果があったか判りませんが、そう云う問題を提起したスペイン人もいたと云う事は覚えておきましょう。次の文は1552年にラス・カサスが書いた『インディアスの破壊についての簡単な報告』と云う本の一節です。

 「この40年間、また、今もなお、スペイン人達は過つて人が見たことも読んだことも聞いたことも無い種々様々な新しい残虐極まりない手口を用いて、只管インディオたちを斬り刻み、殺害し、苦しめ、拷問し、破滅へと追い遣って居る。例えば、我々が初めてエスパニョーラ島に上陸した時、島には約300万人のインディオが暮らしていたが、今では僅か200人位しか生き残っていないのである」(染田秀藤訳、岩波文庫)

 結果から見ると、アンデス山脈の山の上など辺鄙な所にいたインディオ以外は白人と混血するか殆ど絶滅に近い状態に為ってしまった。そしてスペインは労働力としてアフリカから黒人奴隷を輸入することに為って行きます。

 

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 ヨーロッパ世界の変容

 ポルトガルのアジア貿易とスペインのアメリカ植民地経営でヨーロッパ社会が大きく変化して行きます。

 先ず、商業革命。大航海時代以前はイタリアを中心とする地中海貿易圏がヨーロッパの商業・経済の中心でしたが、これが、ポルトガル、スペインを中心とする大西洋岸に移動した。今のベルギーとオランダは当時ネーデルラントと言ってスペインの領土でした。ネーデルラントはドイツ・イギリス・フランスの中心にあって特にここが商業の中心に為っていきます。
 次に価格革命。アメリカから大量にもたらされた金銀が西ヨーロッパにインフレを起こす。沢山金銀が入って来るから金銀の価値が下がる。逆に色々な商品の値段が上がる。だから価格革命と言っています。
 もっと簡単に言えば、アメリカの金銀は奴隷労働で採掘しているのだから、只同然な訳。只で手に入れた金銀がスペインやネーデルラントから西ヨーロッパ全体に流れる。西ヨーロッパ中がアメリカから奪った富によって豊かになったと云う事です。商人の中には莫大な富を蓄える者があらわれるし、農民でも豊かになるものが出て来る訳で、これが封建的な身分制度を急速に変化させて行きます。

 最後に国際分業の成立
 ネーデルラントは元々毛織物業が盛んだったね。ここがスペインの窓口として商業の中心にも為るわけで、ここと経済的にも繋がりの深いイギリス、フランスなど西ヨーロッパの商業・工業がとりわけ発展していく。
 それに対して東ヨーロッパでは、西ヨーロッパの工業地帯に輸出する為の穀物や原材料を生産することが主要な産業に為っていきます。輸出穀物は安いほど売れるわけで、安く穀物を生産する為には農民の地位が低い方がよい。だから東ヨーロッパではこの頃から農奴制が強化される。領主たちは農民の権利を押さえ込んで行きます。こういう新たな農奴制を「農場領主制」と言っています。

 

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 更にこれにアメリカ植民地が絡んで国際貿易の環が出来る。東ヨーロッパの安い穀物、原材料が西ヨーロッパに。西ヨーロッパはこれを利用して工業を発展させ、毛織物などの製品を東ヨーロッパやアメリカ大陸に輸出して儲ける。
 アメリカではインディオや黒人奴隷によって金、銀、砂糖などが生産され、西ヨーロッパを更に豊かにする。アメリカ、アフリカでは資源や人間そのものが収奪され、使い捨てられ伝統的な社会が破壊されて行く。この商品の流れの中で主導権を握り、最も豊かになるのは西ヨーロッパです。西ヨーロッパはこの位置を守る為に、他の地域にその役割を押し付け続けていくことに為ります。


 アメリカの征服とヨーロッパの変容 おわり 次のページへ 《ルネサンス(1)》

 

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