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2018年09月06日

 一緒に学ぼう世界史のポイント 48  《西ヨーロッパ世界の膨張》


 
 一緒に学ぼう世界史のポイント 48  《西ヨーロッパ世界の膨張》

 

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  西ヨーロッパ世界の膨張



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 大開墾時代

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 ヨーロッパは森の世界だったと 言います。ヨーロッパ人たちは、広大な森林の周辺を何とか開墾して農地を開き森で牧畜をした。森の中で豚の放牧をしている絵がありますね。人間はこんな風に森の恵も受け取ってはいましたが、基本的に森は人間世界の外側にある恐ろしい所でした。
 「赤ずきんちゃん」でも「ヘンデルとグレーテル」でも、森には危険な狼や不気味な魔女が居る。ヨーロッパ人が森に対して感じていた恐怖がそういう形で描かれているのです。森を切り開いての農地の開拓は細々としたものでしたが、11世紀から13世紀にかけて大規模になる。これを大開墾時代という。鉄製農具の普及や修道院での農業技術の向上が背景にあった。
 特に有名な農業技術が三圃制。耕地を春作地・秋作地・休閑地の三つに分けて順繰りに耕作することで地力を維持したものです。

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 11世紀以降、耕地の拡大と農業技術の進歩で収穫量が増大して人口が増加します。やがて西欧のなかで蓄えられたエネルギーが外の世界に向かって行く。外部世界への活動が活発化します。外部への活動は三方向へ向かいます。一つはイスラム世界へ、これが十字軍。二つ目は東ヨーロッパへ。三つ目はイベリア半島へ。


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 十字軍

 十字軍については何度か出て来ましたが、背景には農業の発展があったのですね。イスラムのセルジューク朝が小アジア地方に勢力を伸ばし、領土を奪われたビザンツ帝国皇帝が西のローマ教皇に救援を要請したのがことの発端でした。
 救援依頼を請けたのがウルバヌス2世。丁度グレゴリウス7世の叙任権闘争で教皇権が強まっていた時でしたね。1095年、ウルバヌス2世はクレルモンの公会議で集まったヨーロッパ各地の諸侯たちにビザンツ救援と聖地イェルサレム奪還の為の遠征軍を呼びかけます。これを切っ掛けとして宗教的熱狂の中で十字軍が始まりました。

 

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 イェルサレムはユダヤ教・キリスト教・イスラム教の共通の聖地でした。ここは長い間イスラム教国の支配下にあったのですが、熱心なキリスト教徒はヨーロッパからも巡礼に出かけていた。処が、セルジューク朝の支配下に入ってからは巡礼が妨害されているというのです。これも十字軍呼びかけの理由の一つでした。巡礼が本当に妨害されていたのかどうかは好くわからないのですが。
 十字軍の十字というのはキリスト教のシンボルですね。十字軍の兵士たちは服に十字の印を縫いつけていたのでこう呼ばれたようです。英語ではクルセイダーズです。十字軍は何回も行われています。回数は数え方によってかなり変わって来ます。大がかりなものだけで7回あります。

   9-7-11.jpg イェルサレムの占領に成功

 第一回は、1096年から99年にかけて行われました。ある意味ではこれが成功した唯一の十字軍です。主力はドイツとフランスの諸侯。ドナウ川を下ってビザンツ帝国に入り、コンスタンティノープルから小アジアに渡り、ここにあったイスラム諸勢力と闘いながら南下、シリアに入りイェルサレムの占領に成功しました。
 十字軍はここにイェルサレム王国という国を建設して、諸侯のひとりを王に推戴しました。当時既にセルジューク朝は衰退して居て、イスラム側は地方政権が割拠状態でした。それに行き成りヨーロッパ人が攻めて来たので不意を突かれて負けてしまったのです
 十字軍の残虐振りは有名で、イェルサレムを占領した時にもイスラム教徒を殺しまくっています。十字軍に同行したフランスの聖職者の残した資料です。

 「サラセン人(イスラム教徒のこと)が、生きている間にその嫌らしい咽喉の中に呑みこんだ金貨を腸から取り出そうと屍の腹を裂いて調べて廻り…同じ目的で屍を山と積み上げ、これに火を点けて灰になるまで焼き、もっと簡単に金貨を見つけようとした」

 十字軍兵士は、宗教的情熱だけでは無くて金銭欲も激しかったようですね。イラク人の残した記録です。

 「住民は、一週間にわたって市街地を略奪して廻るフランク人(十字軍兵士のこと)によって斬り殺された。…エル=アクサ寺院内では7万人以上の人々が殺された。…又、彼らは岩のドームを空にするほどの莫大な戦利品を持ち去った」

 

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 こういう虐殺を十字軍兵士は少しも悪いことと思っていないだけではなく、沢山殺せば殺すほど素晴らしいと思っている節があるのです。宗教的熱狂と戦争が合体すると不気味なことになる典型的な例です。
 イェルサレム王国を建てた十字軍ですが、国を維持する為の物資の補給を担当したのがイタリアの商人でした。ヴェネツィア・ジェノヴァ・ピサという商業都市国家がイタリアにはあって、輸送を担当したこれらの町の商人は大いに儲けた。やがて、イタリア商人たちが後の十字軍の主導権を握りますから要注目です。
 やがて、初めのショックから立ち直ったイスラム側が反撃を開始して、イェルサレム王国から領土を奪い始めた。これに対して第二回十字軍が行われます(1147〜49)。ドイツ皇帝やフランス王などが中心でした。第一回と同様のルートでシリアに向かいましたが、ダマスクスで大敗して失敗。その後もイェルサレム王国の領土縮小が続く。

    9-7-12.jpg サラーフ=アッディーン

 エジプトでアイユーブ朝を建てたサラーフ=アッディーンは、イェルサレム王国からイェルサレムを奪回しました。
 これに対して行われたのが第三回十字軍(1189〜92)。イギリス王リチャード1世・フランス王フィリップ2世・神聖ローマ皇帝フリードリヒ1世という豪華メンバーが参加しました。豪華なことは豪華だったんですが、フリードリヒ1世は目的地に着く前に行軍中川を渡る時に馬から落ちてそのまま溺れて死んでしまった。鎧が重すぎて泳げなかったんだね。期待外れの死に様でした。
 残るイギリス王とフランス王は仲が悪くて行軍中ケンカばかりしていた。到頭フランス王は作戦途中で怒って帰ってしまった。最後はイギリス王だけでサラーフ=アッディーンと戦ったんですが、イェルサレムを奪うことができない。

 この時のサラーフ=アッディーンの態度は十字軍の残虐ぶりとは正反対で寛大。ヨーロッパ人からも賞賛される騎士ぶりだったことで有名。例えば、サラーフ=アッディーンがキリスト教徒からイェルサレムを奪った時のこと、キリスト教徒を一人も殺さず、男は金貨10枚、女は5枚、子供は1枚と云う身代金で身の安全を保障してやる。身代金が払えない貧しいキリスト教徒はどうしたか。何と、サラーフ=アッディーンが代わりに払ってやったという。
 そんなサラーフ=アッディーンですから、イギリス王が矛を収めてヨーロッパに帰国出来る様にメンツを立ててやります。成果も無いままではお前も引っ込みがつかないだろうと、キリスト教徒の聖地巡礼を認めるという「おみやげ」をあたえてイギリスに帰しました。第三回十字軍はこれで修了。

 

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 第四回十字軍(1202〜04)は、教皇権絶頂期の教皇インノケンティウス3世の時に行われましたが、これは本来の目的から外れた十字軍です。
 フランスの諸侯が主体の十字軍で、兵士たちは海路イスラムへ遠征する積りでヴェネツィアに集結しました。処が、お金が無くて船賃が払えない。ヴェネツィア商人たちは宗教的情熱よりも商売が大事ですから、金を払わない客は運ばない。結局船賃代わりに十字軍兵士はヴェネツィアの商売敵コンスタンティノープルを攻撃させられてしまった。
 キリスト教の国であるビザンツ帝国を攻めてしまうという、訳の分からない十字軍です。挙句にコンスタンティノープル攻略に成功して、ここにラテン帝国(1204〜61)という国まで建ててしまった。
 これで、一時ビザンツ帝国は各地に亡命政権を作ることになりますが、やがてその中の一つニケーア帝国がラテン帝国を滅ぼしてビザンツ帝国を復活させました。結局得をしたのは地中海貿易をほぼ独占したヴェネツィア商人だけという結果でした。

    9-7-13.jpg 神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世

 第五回十字軍(1228〜29)は神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世が行います。この皇帝は異色の人で、母親の出身の関係で、ドイツ皇帝でありながらシチリア生まれのシチリア育ち。宮廷もシチリア島にあった。シチリア島というのは、イスラム教徒のアラブ人によって支配された時期もあり、その後はノルマン人に征服され、色々な民族、文化、宗教が同居している島でした。
 フリードリヒ2世の宮廷には、そういう色々な民族の者が仕えていた。ユダヤ人、アラブ人、イスラム教徒もいた。彼自身アラビア語がペラペラだったそうです。ヨーロッパ文化とキリスト教が絶対だと信じているような単純な人ではなかったのね。国際的感覚を身につけていたコスモポリタンだった。
 だから、十字軍なんてアホ臭いと思っていたみたいですが、政治的な立場から行かざるをえなくなった。そこで、軍隊を率いて現地まで行くのですが、一度もイスラム勢力と戦わず外交交渉だけでイェルサレムを手に入れて帰って来た。ちょっと当時のヨーロッパ人の水準からかけ離れた人物ですね。

 

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 フリードリヒ2世、多民族が雑居しているシチリア島に育って疑問に思ったことがあった。人は本来何語を話すのだろうか、と。そこで、早速実験をした。生まれたばかりの何人もの赤ちゃんを一切の言葉を話しかけずに育てたんです。
 どうなったか。言葉をかけられずに育てられた赤ん坊は皆死んでしまったんだって。残酷といえば残酷な実験ですが、不思議な、ちょっと考えてしまう結果ですね。ともかく、思いついたら実験してみたいという、実証精神のある人だったという逸話です。

 第六回、第七回の十字軍は末期の十字軍で尻すぼみで終わりました。行ったのはフランス王ルイ9世。真面目な信仰の持ち主だったようですが、第六回十字軍(1248〜54)ではエジプトに遠征して捕虜になり、莫大な身代金を払って釈放して貰って終了。第七回十字軍(1270)はエジプトまでも行かずに、フランスの対岸のチュニスを攻撃しますが、病気で死んで終わり。以上が一般に認められている十字軍です。

 これ以外に一般民衆が宗教的熱狂からイェルサレムに向かったり、子供たちだけで行った少年十字軍とかあります。こういうのは途中で襲われたり、人さらいにあって奴隷に売られたりして、目的地に到着することすらできなかった。
 ほぼ200年にわたって行われた十字軍でしたが、最終的には聖地イェルサレムを維持することはできず、ビザンツ帝国を救うという目的にも外れてしまい、何の為にやっているのかわからないものになって終わりました。

      9-7-15.jpg 十字軍の携帯品

 十字軍はヨーロッパの歴史にどんな影響を与えたのか。

 1 教皇の呼びかけではじまった十字軍が失敗に終わったので教皇の権威が衰えた。
  従軍した諸侯、騎士は戦費の負担から没落する者が多かった。その結果相対的に各国の王の権力が強化されることになった。
  十字軍を切っ掛けとして西アジアとの貿易、東方貿易と言いますが、これが活発化した。東方の産物がイタリア商人によってイタリアに運ばれ、そこからヨーロッパ各地に運ばれた。この結果、商業と都市が発展し商業をになう新興市民階級が台頭した。
  ビザンツ文明、イスラム文明が西欧に伝えられ、ヨーロッパ文化の発展に大きな影響を与えた。

 

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 東方植民運動

 ドイツのエルベ川より東の地域は未開の土地が多く残っていました。原住のスラブ人を征服しながら、この土地をドイツの諸侯が積極的に開拓して行ったのが東方植民運動です。エルベ川以東の領主は有利な条件で農民を誘い、多くの農民が開拓民として移住して行きました。十字軍で結成されたドイツ騎士団と云う武装した修道士の団体も積極的にこの東方植民運動を行いスラブ人にキリスト教を布教した。ヨーロッパの東への拡大運動です。

    9-7-14.jpg レコンキスタ

 レコンキスタ

 イベリア半島にはイスラム国家がありましたが、北部辺境地帯のキリスト教諸侯がイスラム国家と戦闘を繰り返しながら徐々に領土を拡大して行きます。これをレコンキスタという。再征服運動と訳しています。
 有力諸侯を中心にして、イベリア半島北部にレオン・カスティーリャ・ナヴァル・アラゴンなどの王国が建設され、さらにこれらが領土を南に拡大しながら合体してスペイン、ポルトガル両国が成立します。ヨーロッパの南への拡大運動です。
 イベリア半島南部に追い詰められた最後のイスラム国家がナスル朝でした。首都はグラナダ。スペインがグラナダを占領しナスル朝を滅ぼしたのが1492年。この年号は暗記すること。これで、イベリア半島からイスラム勢力は完全に消えてレコンキスタは終了しました。

 この1492年、もう一つ大きな世界史的事件が起きます。コロンブスがアメリカに到達したのです。コロンブスの航海を援助したのがスペインでした。大航海時代というのは、レコンキスタの延長線上にあるのですよ。ヨーロッパの拡大運動はスケールアップして続いて行きます。


 西ヨーロッパ世界の膨張 おわり  次のページへ 《ヨーロッパ中世世界の解体》

 

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