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2018年08月06日

一緒に学ぼう世界史のポイント 7 《東地中海の文明》


 
 世界史講義録より参照


 一緒に学ぼう世界史のポイント 7 《東地中海の文明》


 東地中海の文明  

     26クレタ.jpg

 クレタ文明

 エジプトやシリアで諸民族の活動が活発になると、地中海を通じての交易も生まれて来ました。東地中海沿岸とそこに浮かぶ島々の間に交易圏が発生します。この交易圏に生まれたのがクレタ文明です。文明と呼ぶ様な大規模なものでは無いですが、こんな大きな言い方をするのはギリシア文明のご先祖様の位置にあるからでしょうね。

 クレタ文明の場所はクレタ島。ギリシアの南方に浮かぶ小島です。1900年、イギリス人エヴァンズがこの島の中央部クノッソスで巨大な宮殿跡を発掘しました。クノッソス宮殿と云います。この宮殿は周囲に城壁を持たず、また中が沢山の小部屋に分かれているのが特徴です。壁画にはタコやイルカなど海の生き物たちが実に生き生きと描かれていました。
 クレタ文明が栄えたのは前2000年から全1500年位までの約500年間です。絵画など、初めはエジプトなどオリエント文明の影響が色濃いのですが、段々と独自色が出て来ます。クレタ文明の担い手達はギリシア本土を支配して居た様で、ギリシア神話の中にそのことを思わせる話が残っています。ミノタウロス伝説と云う話です。

  

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 ミノタウロス伝説


 こんな話です。クレタ島にはミノタウロスと云う化け物が住んでいました。クレタに支配されていたギリシアのアテネの町は毎年ミノタウロスに生け贄をささげなければならない定めに為っていました。生け贄は少年少女夫々7人。彼等はクレタ島のクノッソスに連れて行かれてミノタウロスに食べられてしまう運命。
 毎年生け贄の子供を決める時期が来るとアテネの親達は悲しみに沈みながら、くじ引きをする。あたりくじをひいてしまったら自分の子供が生け贄です。このミノタウロスは何者かと云うと、それがこんな話になっている。

 クレタ島の王はミノス王と云います。彼は王位に就く時に海の神ポセイドンの力を借りるのですが、その際に王になったら美しい牡牛をポセイドンに捧げると約束した。処が実際に王になると、牡牛を捧げるのが惜しくなってしまってポセイドンとの約束を守ら無かった。怒ったポセイドンがミノス王に仕返しをします。
 どんな仕返しかと云うと、ミノス王にはパーシパエと云う妃がいるのですが、そのパーシパエに牡牛を好きに為ってしまうと云う呪いを掛けるのです。この辺から話が段々怪しく為るんですが、呪いを掛けられたパーシパエは牡牛に惚れてしまう。好きで好きでたまらなく為る。ハッキリ言うと、交わりたくて気も狂わんばかり。
 それで、雌牛ソックリの模型を作り、その中に入って牧場で草を食べてる牡牛に近づきます。牡牛は本物の雌牛と勘違いして交わってしまうのね。

 こんな風にして、王妃パーシパエは想いを果たすのですが、時が満ちて彼女のお腹が大きくなって来た。産まれた子供が、顔が牛、体が人間と云う化け物だった。これがミノタウロスです。
 困ったのがミノス王です。元はと言えば、自分のポセイドン神に対する裏切りが原因ですから。ミノタウロスを殺すことも出来ず生かす事も出来ず、悩んだ挙句に考え着いたのが迷宮を作ってここにミノタウロスを閉じ込めることでした。
 一度入ったら二度と出られない迷路の宮殿です。この宮殿の奥にはラブリスと云う両刃の斧が置かれていたので、この迷宮をラビリントスと言います。英語の迷路ラビリンスの語源。

 さて、アテネから連れて来られた子供達はこの迷宮に閉じ込められ、やがては迷宮の中でミノタウロスに出会って食べられてしまう運命です。
 神話ではこんな風に話が進みます。アテネに少年英雄テーセウスが登場します。彼は旅からアテネに帰って来ると、少年達が生け贄として捧げられることを聞いて憤慨する。「俺が化け物を退治する」と言って、自ら生け贄に志願してクレタ島に送られるのです。クレタに着くと、ミノス王の娘、王女アリアドネがテーセウスを見てしまう。テーセウスは、マア、物凄い美少年な訳でアリアドネは一目惚れするのですよ。

 アリアドネはこっそりテーセウスに近づいて「自分の夫に為って呉か」と聞く。テーセウスは彼女を妻にする約束をする。未来の夫がミノタウロスに殺され食べられては困るアリアドネはテーセウスにこっそりと麻糸の玉と短剣を渡します。
 迷宮に閉じ込められたテーセウスは入り口に麻糸の端を引っ掛けておいて、糸玉を解きながら迷宮の奥に進んで行きます。やがてミノタウロスと出会って闘うのですが、アリアドネから渡された短剣を使ってミノタウロスを倒す事が出来た。最後に糸を手繰って無事に迷宮からの脱出した。と、マア、こんな話。

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 実際のクノッソス宮殿の遺跡には沢山の小部屋が作られていたと先程話しましたが、古代ギリシア人達はこれを迷宮と考えたのでしょうね。生け贄をささげると云うのは実際にあった話かも知れない。少なくともギリシアの人々はクレタ島の支配者に対して貢納義務とかがあったのでしょう。
 またクノッソス宮殿には牛を描いた壁画もあった。突進している牡牛が中央に描かれています。それと、三人の少年。一人は牡牛の角を掴んでいる。もう一人は牛の背中で逆立ちをしています。最後の一人は牛のうしろで両手を前に伸ばすポーズをとっています。

 この絵を宗教的な儀式だとする解釈があります。突進する牛を少年が待ちかまえていて、上手く牛の角を掴んだら、思い切りジャンプして、牛の背中に手をついて反転して着地する。成功したら好いんですが、失敗したら、牛の角に突かれて悪くすれば死んでしまうでしょう。
 この、サーカスみたいな見せ物自体を神に奉納したのではないか、と云う事です。牛を神に捧げる、もしくは牛そのものを神聖な生き物と考える、こんな発想が地中海世界には広くあるように思います。

  

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 牛と人間が真剣勝負で闘うというのは今でもありますね、思いつきますか。そう、闘牛ですよ。同じ地中海に面するスペインでは現在でも盛んにやってるね。一流の闘牛士はスーパースターだそうですよ。で、矢張り牛に突かれて死んでしまうことが偶にあるそうです。闘牛の起源はクレタ文明にあるのかも知れません。私は更に、クロマニヨン人がラスコーやアルタミラの洞窟に牛を沢山描いたことを連想するんですがね。 

     23クレタ.jpg

 ミケーネ文明とトロヤ文明
 
 クレタ文明は前15世紀には滅びました。理由は好く判りませんがアカイア人の南下が原因とも言われています。遅れて南下して来たドーリア人と併せて彼等がギリシア人に為ります。

 クレタ文明の滅亡と前後して、アカイア人がミケーネ文明を作ります。この文明は辺境国家と言った方が好い位規模は小さいです。ギリシア本土のミケーネ、ティリンスと云う町が中心です。未だ、青銅器文明の段階で、国家は後のギリシア文明の様な民主的なものでは無く専制的だったと言われています。
 トロヤ文明は前2600年位から存在していました。小アジアのトロヤが中心。これも青銅器段階で国家は専制的、民族系統は不明です。ミケーネ文明もトロヤ文明も前1200年頃滅びます。同じ頃、ヒッタイトが滅び、エジプト新王国も「海の民」と云う謎の集団に襲われて弱体化して居ます。多分、民族移動など大規模な変動があったのでしょう。

  

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 この二つの文明は文明そのものよりも、発掘した人によって有名です。それがドイツ人のシュリーマン。1870年代にこの二つとも発掘するんです。
 彼は幼い頃から寝物語に何時もギリシア神話を読んでいたの。大好きなのがトロヤ戦争の話。大人に為ったら絶対にトロヤの町を見つけようと子供心に決意するのです。当時はギリシア神話はあくまで神話であって、ホントにトロヤ戦争があったとかトロヤの町があったなんて誰も考えていなかったんですが、シュリーマンは若い頃から働きに働いて、商売で大成功して資金を貯めて50歳近く為ってから財産を投じて自力で発掘をはじめます。
 
 周囲の人たちは馬鹿だねえ、って思っていたみたい。浦島太郎の話を信じて竜宮城を探すようなものですな。処が彼は発掘してしまうんだね。トロヤの遺跡だけでは無く、トロヤ戦争の物語でトロヤに攻め込んだことになっているギリシア本土のミケーネの遺跡まで見つけてしまった。そんな訳で、この二つの文明はシュリーマンと結びつけてセットで覚えて置いてください。
 シュリーマンは『古代への情熱』と云う自伝を出してる。図書館にあるから興味があったら読んでください。幼なじみの女の子と一日の遅れで結婚しそびれたり、そんな話も出て来る。これを読んで考古学者や歴史学者になりたいと思う人結構いるみたいですよ。

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 トロヤ戦争

 シュリーマンが信じたトロヤ戦争の話の発端が面白い。テティスと云う女神がペーレウスと云う人間の男、これはギリシアの王の一人なんですが、と結婚する処から始まります。女神と人間の結婚だから披露宴は大賑わい。神々も出席するし、ギリシアの主だった王様たちもやってくる。
 大いに盛り上がっているんですが、一人だけ宴会に呼ばれ無かった女神がいたんだ。これが、嫉妬と争いの女神エリスです。結婚披露宴に嫉妬と争いは要らないからね。処が、エリス女神は披露宴に呼ばれないことに嫉妬してしまった。
 腹を立てた彼女は、披露宴に争いを持ち込みます。何をするかというと、宴会場に黄金のリンゴを投げ込む。突然、宴会場に転がり込んできた黄金のリンゴを取り上げてみるとそこにはこんな風に書いてあるんだね。

  

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「最も美しい女神へ」

 「そのリンゴは私が貰う権利がある」と、三人の女神が名乗りをあげた。「私が一番美しい」と三人の女神は大喧嘩を始めてしまって、宴会は滅茶苦茶に為ってしまった。

 三人の女神はこんな顔ぶれです。まずは女神ヘーラー、彼女は主神ゼウスの妻で、女神の中では一番偉い。世界の支配を司ります。次が女神アテナ、戦いの女神です。最後が女神アフロディーテー、美の女神だね。「私は美しい」と喧嘩するのですが決着がつか無い、そこで三人はゼウスの所に行って「誰が一番きれい?」って聞くのですが、ゼウスも困るよね。思ったことを言って残りの二人に恨まれたらたまりません。そこで、ゼウスは「美の判定者」を指名して、その人物に最も美しい女神を決めさせる事にしました。「美の判定者」とされたのが羊飼いの少年パリスです。これは人間。

 ここまで来ると、女神たちは意地でも「美しい」と言われて黄金のリンゴを手に入れたいわけですよ。女神たちはパリスの所に行って買収工作をするのです。
 ヘーラーは、一番にして呉れたら「世界の支配者にしてあげる」アテナは「あらゆる戦での勝利があなたのものに」アフロディーテーは「人間の中で一番の美女をあなたの妻に」三択問題です。皆さんなら、誰にしますか。このあたりはギリシア人の人生観がうかがえて最高に面白いですね。
 パリスは美女を選択したんです。世界の支配よりも勝利よりも美ですよ。ギリシア人らしいでしょ。彼等の残した彫刻を見るとつくづくそう思う。

  

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 さて、最も美しい女神はアフロディーテーで決着。彼女は、約束通り最高の美女をパリスに与えるのですが、それが人妻だったのですよ。ギリシアはスパルタ王メネラーオスの妻ヘレネーです。パリスはアフロディーテーの手引きで彼女を浚って自分の妻とします。
 処で、パリスは実はトロヤの王子だったのです。妻を浚われたメネラーオスは怒るわな。妻を取り返すため、兄のミケーネ王アガメムノーンに助力を頼みます。アガメムノーンは全ギリシアの盟主なんです。彼の号令で全ギリシア軍が出動です。海を渡ってヘレネーを奪い返す為にトロヤに攻め込みました。これがトロヤ戦争です。

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 ギリシア軍の中にはギリシア随一の戦士アキレウスもいます。アキレウスは戦争の発端となった宴会の主役女神テティスが人間との間に生んだ子です。テティスは死すべき定めにある人間の息子を不死身にする為に、生まれたばかりのアキレウスを不死の泉に浸けます。
 その時テティスはアキレウスの足首を掴んでいたので、そこだけが不死の泉に漬からず、彼の唯一の弱点と為ります。アキレス腱だね。そのアキレウスもスッカリ成長してこの戦争に参加するんだ。

 こんな話を信じて、トロヤを発掘しようとするとは、シュリーマン、只ものでは無い。このトロヤ戦争が始まって10年目、戦争の最終段階をアキレウスを主人公に描いたのがホメロスの叙事詩『イーリアス』です。ホメロスは前8世紀のギリシアの詩人。
 『オデュッセイアー』と云う叙事詩もホメロスの作。これは、ギリシア随一の知恵者オデュセイウスがトロヤ戦争が終わって、トロヤから故郷へ帰る長い旅を描いた物語。

  

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 トロヤ戦争の最終段階でトロヤを撃ち破る作戦を考えたのがオデュッセイウスでした。両軍とも名だたる英雄、勇士は次々に死んで行き、それでも決着は着かず、オデュッセイウスは有名な「木馬の計」と云うのを提案します。全ギリシア軍は撤退する振りをしてトロヤの海岸から引き挙げて、浜辺には大きな木馬だけが残っている。木馬にはギリシアの戦士が百何人か隠れているのです。
 トロヤ側は、今日も戦だと海岸に来てみるとギリシア軍がいない、到頭諦めて撤退したと思い込みます。海岸に残された木馬を戦利品としてトロヤ城内に持ち込んで、夜に為ったらどんちゃん騒ぎの勝利の宴会です。トロヤの兵士達が飲み潰れたのを見計らって隠れていたギリシア兵が木馬から出て来る。そして、内側から城門を開き、外の兵と合流してトロヤ人を殺しまくるのです。トロヤは炎上して滅んだ、と云う。このトロヤの陥落炎上を描いた絵本がシュリーマンに強烈な印象を与えたそうです。

 (2002/3/5校正)


 参考図書紹介・・・・もう少し詳しく知りたいときは・・・

 ギリシア神話  ギリシア神話 上 (1)新潮文庫 く 6-1  ギリシア神話 下  新潮文庫...新潮文庫 く 6-2 呉茂一氏のギリシア神話解説書。
 私が持っているのは一番上のものだが、下の文庫版も内容は同じと思います。 多分、最高水準のギリシア神話の本。単純に読んでも面白いし、調べものにも役立つほど中味は濃い。勿論、トロヤ戦争の話も載っています。

 《東地中海世界の文明》 おわり 次のページへ 《古代ギリシア》


  

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 水槽が決まったら 次には万全な準備をしようね・・・

 

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