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2017年04月01日

ヴェルナー・ゾンバルト『ユダヤ人と経済生活』(1911)

なぜ資本主義が発展したのかという問題について、日本で有名なのはマックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』だ。いわゆる『プロ倫』は、カトリックの「節制」が資本主義を作り上げたと説明する。一方でゾンバルトはこの論に反対し、「奢侈」が資本主義を作り上げたと主張する。
 ユダヤ人が流入した地域は勃興し、退出した地域は衰退した。ユダヤ人はいかなる苦境にあっても世界を肯定し富を楽しむ態度を勧める。ゾンバルトによれば、資本主義の理念とはつまるところ営利であり、それは長期的展望のもとで事物に関心を持つ「企業家」と、有利な仕事をしようとする「商人」の「二つの魂」から成り立っている。
 経済思想史の展開を見れば、企業家の投資活動に注目するウェーバー説は、アダム・スミスや新古典派の供給重視の立場にあり、奢侈や商売熱心さを重視するゾンバルト説は、ヴェブレン、ボートリヤール、ハイエクなど需要重視の立場にある。


2017年03月30日

ソースティン・ヴェブレン『有閑階級の理論』(1899)

ヴェブレンは、階級の上下を消費の見せびらかしや見栄の張り合いによって示そうとする文明社会の経済を「野蛮」と評して、読者からの熱狂的な評価と同時に敵意をも買い取った。もともと人間の本能は「有用性や効率性を高く評価し、不毛性、浪費すなわち無能さを低く評価する」ものであったが、暴力で他を屈服させるようになるとその証拠として戦利品を見せびらかすようになり、市場社会が開かれると習得に有閑が必要な礼節や教養が重んじられ、見知らぬ人との接触が多くなる機会産業の時代には有閑よりも消費が評価される。裕福さのわかりやすいシンボルが必要だからだ。
 消費は個人の欲望の充足というよりも、「裕福である」とか「どの階層に属しているか」を見知らぬ他者に対して示す自己表現の手段となった。これは経済学の議論からすれば、「供給されたものはすべて需要される」という供給ベースの考え方を批判し、需要の側から経済を考える視点になる。


2017年03月29日

レオン・ワルラス『純粋経済学要論』(1874)

ワルラスの主著は彼の生前にあまり読まれなかったが、20世紀に入ると本書が展開した「一般均衡理論」は誰もが共有すべき理論と注目されることになる。1936年に書かれたケインズの『一般均衡』は本書への反論として一世を風靡したが、戦後のアメリカではケインズ理論のほうが本書の「一般均衡理論」に吸収され、後に「IS=LM」や「総需要=総供給」というマクロ経済学の主要な理論に繋がっていく。
 彼の理論は、自由主義のもとで市場が自動的に需給の均衡をもたらすことを論証する資本主義経済の擁護に使われたが、ワルラス自身は土地の国有を主張する社会主義者だった。多くの社会主義者の主張は「結果の平等」を求めるものだったが、ワルラスは「条件の平等化」のためにこそ土地の公有化が必要だと考えた。
株式投資の学校

2017年03月28日

カール・マルクス『資本論』(1867)

『資本論』についてはあまりにも多くのことが語られてきたが、現代から振り返っての経済学的な核心は二つ。一つは、貨幣はどんな商品とも交換できるのに、商品は貨幣と交換されるとは限らないこと。「命がけの宙返り」が果たされ、貨幣が商品から「流動性」という万能の価値を持つようになる。「欲望の二重一致」は偶然にしか起きないから、手持ちの商品と自分の欲する商品を交換するための手段として貨幣が導入されたというフィクションが生まれたが、商品を売って貨幣を得ることと貨幣で商品を買うことは根本的に非対称であり、マルクスはその謎を解明する。二つ目は「投下労働価値説」と言われるもの。これはリカードも唱えていたが、マルクスはただの商品だけにではなく、「労働力という商品」にも労働価値説を適用した。



2017年03月26日

J・S・ミル『経済学原理』(1848)

1890年にマーシャルの『経済学原理』が現れるまで、本書は経済学の代表的な教科書として普及していた。豊かさの観念、自由論、人間観、それぞれにおいて魅力的な本だ。ミルは名文家として知られ、経済学に限らない多作な思想家だった。
 ミルは、彼流の功利主義にのっとって人類に幸福をもたらす経済制度を求め、現実社会を漸進的に改革する道を模索した。寛容さを求める自由論者のミルからすれば、マルクスの革命論はやがて他者への危害も招き寄せるであろうほど急進的すぎた。この洞察は一世紀半の時間を経て的を射たものだったことが明らかになる。


2017年03月25日

フリードリッヒ・リスト『経済学の国民的体系』(1841)

経済史において優勢を保ってきたのは貿易自由化の勢力だった。ケネーらの重農主義、古典派のスミス、比較優位説のリカード、新自由主義のフリードマンという流れだ。それに対抗する「幼稚産業保護」などの主張でリストは知られている。リストはドイツの経済学者であり、当時のドイツはヨーロッパの中でも田舎だった。
 例えばイギリスは、東インドからの輸入を航海条例によって規制したために、亜麻、木綿、絹、鉄といった国内工業の育成を行えた。そして発展の頂点に立った以後、イギリスの経済思想家達は「はしごを後ろに投げ捨てる」ようにして自由貿易を唱えています。
 リストは二つの点で自由貿易論を批判する。第一に、発展には段階があること。産業は保護しなければ育たず、発展の初期に経済先進国と自由競争をさせるのは幼児と成人が格闘するのと同様の結果になる。第二に、経済は物質と精神、世界性と地域性、個人と社会という二つの面を持っている。青年の教育、法の維持、国防などの公的支出は民間の交換価値を奪うが、長い目で見ればそれがあってこそ社会全体の生産性が高まっています。


2017年03月23日

デヴィッド・リカード『経済学および課税の原理』(1817)

これまでの経済学者は道徳的存在として人間を捉えていたのに対して、リカードは「特定の定義のもとでの限定的な市場経済」を仮想し、数式こそ出てこないものの周到な論理展開を持つ経済学を論じた。リカードの「比較優位」説は高校の教科書に出てくるほど有名。
 本書で注目すべきは、交換価値(価格)が投下労働量に比例するという投下労働価値説を唱えたところ。アダム・スミスも投下労働価値説を論じていたが、それは地代も利潤も存在せず、自分で得た商品のみが交換される初期未開経済だけに当てはまるとした。一方でリカードは、資本や土地を用いて他人を雇う資本主義社会にも投下労働価値説が妥当だとした。これが後にマルクスを感激させ、余剰価値論を思いつかせるきっかけとなりました。


2017年03月22日

アダム・スミス『国富論』(1776)

「各人が社会全体の利益のために努力しようと考えているわけではないし、自分の努力がどれほど社会のためになっているかを知っているわけでもない」のに、「見えざる手に導かれて」人々の自由な振る舞いは市場のメカニズムによって適切に調整される。妙な政策によって歪められずに自然な状態におかれれば、市場経済は物的な豊かさを最大限の引き出すことができる、というのが本書の中心的な主張。
 しかしスミスは本書後半の「自然な資本投下の順序」という考え方で、利益率が同じであるなら、まず資本は土地の農業の投じられ、次に都市の製造業へ、そして貿易は後回しにするべきだと述べている。名著として広く知られていながら、このようなスミスの考えに注目が集まることは少ない。彼は自由貿易を唱えてはいたが、人々は当たり前のようにコミュニティの経済や国民経済を優先するはずだ、という前提を信じてもいたのだ。


2017年03月20日

経済の原理 第3 第4 第5編

スチュアートは有効需要論や発展段階説などの重要な考えを生み出したが、「悲劇の経済思想家」という印象がつきまとっている。スミスの『国富論』よりも9年早く経済学を体系的に論じておきながら読者に見逃され、盛名において天と地ほどの差がある。また、市場への介入を論じたことから重商主義者という誤解も長らくつきまとっていました。
 彼は、貨幣経済の不安定性や有効需要の創出を述べた点ではマルクスやケインズ、発展の段階に注目した点ではリストを生み出す源泉であった。しかし20世紀以前にスチュアートを高く評価したのはマルクスのみでした。
作者 ジェイムズスチュアート


2017年03月19日

アダム・スミス[道徳感情論](1759)

アダム・スミスはご存知の通り古典派経済学の創始者だ。本書は1967年の『国富論』より17年前の著作だが、その後の1970年に「まったく別の著作」と評されるほど大幅に書き直された。彼がかつて言い損ない、最晩年に言い残したことが書かれています。
 スミスが関心を寄せたのは、「フェア・プレイを侵犯されたとする基準は何か」という問題だった。18世紀の半ばには、以前までは認められなかった富を名誉と出世を目指す競争が受け入れられつつあった。そこでは競争相手を追い抜いて構わないとされたにもかかわらず、ある一線を越えるやり方で他人を押しのけるのは許しがたいこととされた。なぜなら、他者への侵害が市場社会を存続し得なくするからだ。そしてそれは、どうして人が誰かのアンフェアな行為で不利を被った他者に「同感」できるのかというテーマにも繋がっています。


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