2024年08月19日
令和三年度修了考査 法適合確認(記述式)問題3
鉄筋コンクリート造建築物の耐震計算ルート3に関して、図1に示す耐力壁のない剛節架構に左側から水平力Pが作用した場合について、以下の設問に解答せよ。鉛直荷重及び軸方向力による影響は無視するものとし、塑性ヒンジが発生する可能性がある位置等を図2に示す。また、水平力Pによる曲げモーメント図の一例を図3に示す。
図1 架構の軸組図(単位:mm)
図2 塑性ヒンジの想定位置
図3 曲げモーメント図の一例(単位:mm)
水平力Pにより架構の崩壊形が形成される場合、塑性ヒンジの発生は下記の<その他の諸条件>の(イ) に従って判定するものとする。また、部材の種別は<その他の諸条件>の(ロ)に従って判定するものとする。
<その他の諸条件>
(イ) 塑性ヒンジの発生は、節点位置における曲げモーメント(節点曲げモーメント)を用いて、式(1)、あるいは式(2)により判定する。なお、判定に用いる各部材の節点曲げモーメントは、部材のせん断力を一定として、図2に示す部材の両端部に塑性ヒンジを仮定して曲げ終局モーメント(Mu)から算定してよい(図5参照)。ここで、gMuは梁の節点曲げモーメント、ΣgMuは節点まわりの梁の節点曲げモーメントの和、cMuは柱の節点曲げモーメントを示す。
・節点まわりの梁端部に塑性ヒンジ発生
ΣgMu ≦ cMu 式(1)
・柱頭部に塑性ヒンジ発生
ΣgMu > cMu 式(2)
(ロ) 部材の種別は、塑性ヒンジの発生状況に応じて、せん断終局耐力(Qsu)が崩壊形形成時のせん断力(QM)に対して、式(3)、あるいは式(4) を満足する場合にはFA、満足しない場合にはFDとする。なお、破壊形式を除き、各部材において昭和55年建設省告示第1792号第4の種別に関する諸数値は規定値を満足しているものとしてよい。
・部材の両端にヒンジが生じる状態
Qsu ≧ 1.10 QM 式(3)
・上記以外の状態
Qsu ≧ 1.25 QM 式(4)
[ No.1 ]
R階のA梁は両側スラブ付き梁(T形梁)であり、スラブが引張側になる曲げ終局モーメントは、有効幅内のスラブ筋により大きく影響される。A梁の曲げ終局モーメント及び種別に関する次の@〜Bの設問に解答せよ。その際、A梁の曲げ終局モーメントMu は式(5) によるものとする。ここでは、T形梁の有効せいは長方形梁の有効せいと等しいものとしてよい。A梁の引張側主筋、A梁のMuに考慮する引張側スラブ筋を図4に示す。断面1 では片側約 1m幅のスラブ筋、断面2では片側スパンの約半分に相当する幅のスラブ筋を有効とする。また、A梁及びA柱の両端部に塑性ヒンジが発生した場合の曲げモーメント図を図5に示す。
Mu = 0.9(at + as) ・sσy・d 式(5)
ここに、
Mu:梁の曲げ終局モーメント(N・mm)
at:梁の引張側主筋の断面積(mm2)
as:有効幅内の引張側スラプ筋の断面積(mm2)
sσy :主筋及びスラブ筋の材料強度(N/mm2)で、325 N/mm2としてよい。
d:長方形梁及びT形梁の有効せい(mm)で、920mmとしてよい。
(a) 断面1
(b) 断面2
共通事項:
主筋(D25)1本の断面積:507mm2
スラブ筋(D10)1本の断面積:71 mm2
図4 A梁の引張側主筋及び有効幅内の引張側スラブ筋
図5 部材両端部に塑性ヒンジが発生した場合の曲げモーメント
@ スラブが引張側になる場合、長方形梁としてのMu (Muo)に対する断面1のT形梁のMu(Mu1)の比率(Mu1/Muo)を求めよ。なお、長方形梁の引張側主筋は図4に示すA梁の引張側主筋である。
答え
曲げ終局モーメントは式(5)を用いてそれぞれ以下のように求める。
長方形梁としての曲げ終局モーメントは、
Mu(Muo) = 0.9 × (4 × 507)・ sσy・d
断面1のT形梁の曲げ終局モーメントは、
Mu(Mu1) =0.9 × (4 × 507 + 10 × 71)・sσy・d
よって、
Mu1/Muo = (4 × 507+10 × 71)/ (4 × 507)
= 1.35
となる。
A スラブが引張側になる場合、断面1のT形梁のMu (Mu1)に対する断面2のT形梁のMu(Mu2)の比率(Mu2/Mu1)を求めよ。
答え
同様に断面2のT形梁の曲げ終局モーメントは、
Mu(Mu2) = 0.9 × (4 × 507 + 30 × 71)・sσy・d
よって、
Mu2/Mu1 = (4 × 507 + 30 × 71)/(4 × 507 + 10 × 71)
= 1.52
となる。
B A梁の両端部に塑性ヒンジが発生した場合(図5 (a))について、A梁の種別を判定し、種別判定の根拠を簡潔に記述せよ。ここで、A梁両端部の塑性ヒンジの曲げ終局モーメントMuは a(kN・m)、A梁のせん断終局耐力Qsuは0.60 a(kN)とする。
答え
A梁の両端に塑性ヒンジが生じた時のせん断力は、A梁の内法長さが 5mなので、
QM = 2 × a/5 = 0.40a (kN)
A梁の種別は、両端に塑性ヒンジが生じているので式(3)により判定すると、
Qsu = 0.60a (kN) ≧ 1.10QM = 1.10 × 0.40a = 0.44a (kN)
よって、式(3)を満足しているのでA梁の種別はFAである。
なお、ここでは問題文に「鉛直荷重及び軸方向力による影響は無視する」とあるので、A梁の常時の鉛直荷重によるせん断力は無視している。
[ No.2 ]
水平力Pの増大により、架構の崩壊形が形成される。各部材の耐力が表1に示す値となるケースT について、保有水平耐力及び構造特性係数等に関する次の@〜Bの設問に解答せよ。
表1 部材の耐力(ケースT )
@ 架構の崩壊形について、塑性ヒンジの発生位置を解答用紙のフレーム図に●で示せ。その際、図5を参考に、塑性ヒンジが発生している部材の端部に●を表記せよ。
答え
【解答(例)】
水平力Pの増大により、A梁端またはA・B・C柱柱頭のどちらに塑性ヒンジが生じるかは、節点位置における曲げモーメントの釣り合いから判断する。従って、柱頭部及び梁端部の危険断面位置に塑性ヒンジを仮定して、その場合の部材のせん断力から節点曲げモーメントを算出する。次に柱及び梁毎の節点曲げモーメントの総和の小さい方の部材(柱又は梁)に塑性ヒンジを設定して、塑性ヒンジが生じない部材の節点曲げモーメントを修正し、その値から部材のせん断力を修正する(<その他の諸条件>(イ)による)。
作成した崩壊形形成時の曲げモーメント・せん断力図を以下に記載する。
架構の崩壊形は以下の図となる。
A 架構の保有水平耐力(崩壊形形成時の水平力PT )を表1に示すaを用いて答えよ。
答え
架構の保有水平耐力P1は崩壊形形成時の柱のせん断力の合計となるので、
P T = 0.85a + 1.25a + 0.85a = 2.95a (kN)
B 1階が上記の崩壊形を形成するA柱、B柱及びC柱から構成される場合、1階の構造特性係数 Dsを昭和55年建設省告示第1792号第4に従って求め、その根拠を簡潔に記述せよ。
答え
先ずA梁、A柱、B柱及びC柱の種別を判定する。ここで、A梁には両端にヒンジが生じているので式(3)、A柱、B柱及びC柱は柱頭にヒンジが生じていないので式(4)にて判定する。なお、ここでは問題文に「破壊形式を除き、各部材において昭和55年建設省告示第1792号第4の種別に関する諸数値は規定値を満足しているものとしてよい。」とあるので、式(3)及び式(4)による破壊形式のみにて種別を判定する。
A梁:
Qsu = 0.60a (kN) ≧ 1.10QM
= 1.10 x 0.40a = 0.44a (kN)
∴ FA
A柱及びC柱:
Qsu = 1.36a (kN) ≧ 1.25QM
= 1.25 × 0.85a
= 1.06a (kN)
∴ FA
B柱 :Qsu = 1.60a (kN) ≧ 1.25QM
= 1.25 × 1.25a
= 1.56a (kN)
∴ FA
上記よりA柱、B柱及びC柱の水平耐力は全て種別FAである柱の耐力となるので、1階の部材群としての種別はAとなる。従って、 1階の構造特性係数Dsは0.30となる。
[ No.3 ]
架構の変形によりT形梁のスラブの有効幅が増大すると、スラブが引張側となるA梁の右端のMu が増大する。各部材の耐力が表2に示す値となるケースII(A梁右端以外はケース I と同じ)について、保有水平耐力及び部材種別に関する次の@及びAの設問に解答せよ。
表2 部材の耐力(ケースII)
@ 架構の保有水平耐力(崩壊形形成時の水平力PU )を表2に示すaを用いて答えよ。
答え
設問[No.2]と同様の方法にて作成した崩壊形形成時の曲げモーメント せん断力図を以下に記載する。なお、崩壊形形成時の塑性ヒンジ発生位置は設問[No.2]の結果と同じである。
架構の保有水平耐力はPUは崩壊形形成時の柱のせん断力の合計となるので、
PU = 0.86a + 1.40a + 0.99a
= 3.25a (kN)
A B柱の種別を判定し、種別判定の根拠を簡潔に記述せよ。
答え
B柱の種別は柱頭にヒンジが生じていないので式(4)にて判定する。
Qsu = 1.60a (kN) < 1.25QM
= 1.25 × 1.40a
= 1.75a (kN)
よって、式(4)を満足していないので、せん断破壊形式の部材となり、
種別はFDと判定する。
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