2016年03月06日
六十七話 お題:全文(文章の全体) 縛り:帝王(国家や領地を統治する最高位の者)、付け台(寿司屋で握った寿司を置く客の前にある台)、草花(花の咲く草)、窒素酸化物(酸化窒素の総称)
馴染みの寿司屋で起きたことである。
それが起きた時、私は寿司屋のカウンター席に座り、頼んだ寿司が出てくるのを待っていた。ガラガラガラ、と引き戸が開く音がして、男が一人入ってきた。その男は店に入るなり服のポケットから紙を取り出し、それに書かれていることを読み上げ始めた。
「人が地球の帝王のように振る舞うのは間違っています。動物を自分達の好き嫌いで時に守り、時に殺すことも、魚を手当たり次第に獲るのも、草花に悪い影響を与える窒素酸化物をまき散らすのも全て間違いです。人は地球の生き物としての領分を忘れています。この地球に生まれた命として、正しく生きましょう……すいませんでしたっ!」
読み上げている途中で唐突にその男は謝った。客が一人呆れたように店を出ていった。男はその場で店主に事情を説明し始めた。
「俺、金がなくて、どんなことしてでも金が欲しいって思ってたんです。そしたらこの店で紙に書かれたことを全部読むだけで三万円やるって話を持ちかけられて、それで途中まで読んだんですけどいきなりあんな訳のわからないこと読み出したら店の迷惑になるだろうし、金は欲しかったけど申し訳なくなっちゃって、ほんと、すいませんでした!」
私がつい、話を持ちかけてきたやつはどうやって君が頼んだことを実行したかどうか確かめるつもりだったんだろう、と聞くと、
「いや、その、さっき店を出ていったやつに頼まれたんです。多分金、もらえないと思います」
と言った。店主は男に、
「金がなくてとち狂うことは珍しいことじゃねぇ、よかったら今度は客として来な」
とだけ言って一切叱責することはなかった。男は何度もすいません、すいませんと頭を下げながら店を出ていった。私が流石ですね、と店主に言うと、
「ほんと、わざわざ人に金やってあんなことさせるとは、おかしなやつがいるもんですね」
と呆れたように言って付け台に私が注文していた寿司を置いた。
それが起きた時、私は寿司屋のカウンター席に座り、頼んだ寿司が出てくるのを待っていた。ガラガラガラ、と引き戸が開く音がして、男が一人入ってきた。その男は店に入るなり服のポケットから紙を取り出し、それに書かれていることを読み上げ始めた。
「人が地球の帝王のように振る舞うのは間違っています。動物を自分達の好き嫌いで時に守り、時に殺すことも、魚を手当たり次第に獲るのも、草花に悪い影響を与える窒素酸化物をまき散らすのも全て間違いです。人は地球の生き物としての領分を忘れています。この地球に生まれた命として、正しく生きましょう……すいませんでしたっ!」
読み上げている途中で唐突にその男は謝った。客が一人呆れたように店を出ていった。男はその場で店主に事情を説明し始めた。
「俺、金がなくて、どんなことしてでも金が欲しいって思ってたんです。そしたらこの店で紙に書かれたことを全部読むだけで三万円やるって話を持ちかけられて、それで途中まで読んだんですけどいきなりあんな訳のわからないこと読み出したら店の迷惑になるだろうし、金は欲しかったけど申し訳なくなっちゃって、ほんと、すいませんでした!」
私がつい、話を持ちかけてきたやつはどうやって君が頼んだことを実行したかどうか確かめるつもりだったんだろう、と聞くと、
「いや、その、さっき店を出ていったやつに頼まれたんです。多分金、もらえないと思います」
と言った。店主は男に、
「金がなくてとち狂うことは珍しいことじゃねぇ、よかったら今度は客として来な」
とだけ言って一切叱責することはなかった。男は何度もすいません、すいませんと頭を下げながら店を出ていった。私が流石ですね、と店主に言うと、
「ほんと、わざわざ人に金やってあんなことさせるとは、おかしなやつがいるもんですね」
と呆れたように言って付け台に私が注文していた寿司を置いた。
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