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2020年05月04日

【禍因子育て企画】「大正妖怪異聞-廓座お仙-」【番外編/佐之助の話】

「無意味な言葉が僕の翼になる」より。
2013年05月31日投稿。




最近、一座の幼いもんが集まって遊ぶようになった。
とは言え、一座の幼いもんといっても長く生きてる妖しの類なので、本当に幼いのは、紀伊ぐらいなのだが。
そしてそれに手を焼いているのが、鴉であった。
「あっち行きぃさ」
ぞろぞろとついてくる幼子達に苛立ちを隠しもせずに言うと、一瞬三人とも歩みを止めはするが、鴉が歩き始めるとまたくっついて歩いてくるもんだから、鴉はいい加減うんざりしていた。
かなんわぁ。
心の中で憎々しげに吐いてから、舌打ちをする。
すると、やっぱり一瞬三人とも歩みを止め、でもやっぱりすぐにくっついてくる。
何が鬱陶しいって、お愁以外口をきかないことだ。
何も言わずにぽてぽてぽてと。
いや、そのお愁でさえ、特に喋りもしないのだから、余計、鴉の苛々を助長した。
そもそも何で俺が……、
鴉の不運は、今朝起きた時から始まっていた。




「おい、鴉、」
「なんや」
嫌な予感はしていた。
朝いつものようにゆっくり顔を洗っていると、いつの間にか隣に来ていた銀が声を掛けてきた。
「そういえば座長がお前に買い出……、」
「お前が行きよし。外は嫌いなんだわ」
「……、分かったよ、じゃあお紀伊の世……、」
「そんなんお愁や佐之助にさせときなはれ。俺は、餓鬼は嫌いなんだわ」
銀の声に嫌な予感しかしなかったもんで、早々に話を切り上げて、自分の部屋へと引っ込んだ。そう、その後、事件は起きた。
鴉が何の気なしに部屋の外に出ると、珍しいことに佐之助が立っていた。
「なんやの」
鴉がそう言って佐之助の頭を撫でてやると、そう、来たのだ、お愁と紀伊が、ぞろぞろと。
そこから悲劇が始まった。
佐之助に引っ張られ、木の上に引っ掛かった羽子板の羽根を取ってやったところまではまぁよしとしよう。何でこんなデカいもさもさ木の下で羽子板やっとんのや、というツッコミもしないようにしよう。
「じゃあ、今度は引っ掛けんように遊び」
言いながら鴉は木から飛び降り、埃を払うように着物を叩いた。
「じゃあな」
言って、その場から離れようとすると、ぽてぽてぽて、紀伊の奴がついてきやがった。
鴉は溜め息を吐きながらも気付かないふりで歩き続けた。そしたらどうだ、佐之助もお愁もついてきて。あろうことか先ほどまで遊んでいた羽子板は木の下に放り出している。
だから餓鬼は嫌いなんさ。
鴉は苛立ち、なんとかまこうとぐるぐる敷地内を歩いていたのだが、次第にそれすら面倒になってきた。
そして、今に至る。
そう、まだついてきているのだ。




佐之助は四尺ほどの童だ。口は聞けないがなかなかに感情表現が豊かで、何より寂しがりが手伝ってか、面倒見が良かった。
いや、訂正しよう。
佐之助は、普段は、四尺ほどの、童だ。
しかしその実、大人の姿になると鴉よりも背が高いのだ。つまりそれは、この一座で一番高いことを意味している。鴉はだいたい六尺越えで、それより半尺足らず高いのだから、だいぶ背が高い。
佐之助を見つけたのは鴉であった。お妲が三味線を欲しい欲しいとねだるので、仙次郎と三人で見に街を歩いていた時のことだ。古物屋の前を通りがかった時、そいつはそこにいた。
ぼろになった三味線、叩きに撥痕が広がり、かろうじて残っている弦も擦りきれていた。元の持ち主がどれだけ熱心に三味線を弾いていたのだろうと思わせるに十分な代物だった。
聞いてみると、どうやらこれは昔この辺りにあった遊び女の物だったらしい。
昼は三味線を弾いて謳い、夜は男の中で歌う。
そんな彼女がやがて引かれ幸せな家庭を持ってからも、ずっとずっと大切にされていたもの、だそうだ。
だからか。
鴉は合点がいった。
元来九十九とはそういうものだ。まぁ、実際に見たのはこれが初めてだったが。
暗い暗い部屋の中、三味線の横でうずくまっている。
そんなの嫌やなぁ、お前も。
そうして仙次郎に引き取らせた。もちろんお妲は、お古は嫌だ新しいのが欲しいだと駄々こねるので新しいものを買いもしたが、こうして佐之助は一座にやってきたのだ。
ある日、鴉は苛立ちながら言った。
「そんなデカい図体で掻きついてこんといてや。腰いわしたらどないしてくれんの」
自分が連れてきておいてなんだが、鴉は佐之助が気に食わなかった。口はきけないし、自分より大きいくせにぽてぽて子鴨のように後をついてくるし、掻きついてくるし。餓鬼か、と。
「そんな童みたいなことするんやったら、童になりよし!」
苛々しながら言って、すぐにまずい、と、思った。
その瞬間、ぱぁあああぁ、と表情を輝かせたかと思うと、佐之助はするする小さくなって、童になってしまった。
そしてまた、掻きついてくる。
違う、そうやない。
鴉は溜め息を吐いた。
この餓鬼が、と。




「あっち行きぃさ」
鴉は別に佐之助が嫌いなわけではない。お愁も嫌いではないし、紀伊も、嫌いではない。餓鬼が、嫌いなのだ。
鴉がしっしと三人を手で払うと、三人とも何も言わずに寂しそうな目をしてくるもんだから、何だかこっちが悪いかのような錯覚にすら陥る。
「そもそも何でついてくんだ」
鴉が言うと、やっとお愁が口を開いた。
「お紀伊ちゃん、鴉の字のことが好きなのよ。一緒に遊んでちょうだい」
すると紀伊も、遊んでと催促するかのようになぁー、なぁー、と鳴く。
鴉は頭を掻いた。
「俺は羽子板なんかせぇへんぞ」
「羽子板じゃなくていいのよ」
「餓鬼の世話は嫌いなんだわ、知っとるやろが」
だいたい遊ぶって何しろって言うんだよ。
鴉は舌打ちする。
すると、紀伊ではなく佐之助が悲しそうな寂しそうな顔をするもんだから、何だかバツが悪くなって、鴉は顔を背けた。
実は鴉は、佐之助の寂しそうな顔に弱いのだった。
佐之助は口がきけない分、ころころと表情を変えて意思表示をする。だから自然と佐之助といる時は佐之助の表情を伺う癖がついているし、何より鴉は佐之助が嫌いなわけではないのだ。そもそもここに連れてきた張本人だ、佐之助に弱いのは仕方ないのである。
「あー、うん、ちょっとだけだぞ……?」
鴉は言う。
すると三人はぱぁあああぁっと顔を輝かせた。
そして佐之助がお愁をおんぶなんてし始めるもんだから、鴉は紀伊をおんぶすることになったりして、内心悪態を吐きながら、そのまま夕日が暮れて紀伊が背中で寝てしまうまで遊んでやる羽目になったのは、この四人だけの秘密の話である。




夜、皆で集まっての夕餉が終わると、銀が紀伊を引っ張って早々に部屋に戻っていった。紀伊が目を擦っていたところを見ると、あいつ、人で散々遊びやがって自分はおねむですぐねんねかい、と苛立ったが、今更言う宛もない。
仕方ないので鴉は、舌打ちだけくれてやって、自分も部屋へと足を進めた。
すると、とたたたたたっ、何かが後ろから走ってくる音がする。
そしてむぐっと腰に掻きついてくるもんだから、すぐにそれが何か判った。そう、佐之助だ。
「何や、もう部屋帰るし、放さんかい」
鴉が言う。すると案外あっけなく手がほどけた。
そしてすぐに目の前に佐之助が現れると、背中に自身の三味線を背負って、にこにこと、鴉に手を差し出した。
あぁ、そうけ。
ふっと鴉の顔が綻んだ。
「そやねぇ、久しぶりに何曲か、子守唄代わりに弾いてもらおかね」
そう言って鴉が佐之助の頭を撫でてやると、佐之助は嬉しそうに息を漏らした後、するするすると、大きな大人の姿になった。
そうして鴉を引っ張って、鴉の部屋まで行って部屋の片隅に陣取ると、胡座を掻いて嬉しそうに撥を叩くもんだから、鴉も何だか嬉しくなって、眠気がくるまで、ずっとずっと、その音色に耳を傾けるのであった。


続く






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