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2022年01月08日

盆の踊りと夏の夢

「君を愛せる世界のすみっこで」より。
2016年08月29日投稿。




からん、ころん。
朱色の浴衣に黒の経子を合わせて、少女は縁日出店をすり抜ける。
遠くで盆踊りの謡が聞こえる。
浮わついた気持ちで出店に群がる人達。
ふと、子供の楽しそうな声にちらりと目をやると、金魚掬いに興じる男の子と女の子。
女の子にいいところを見せようとポイ握るも、上手くいかなくて口を尖らせている。
けれども、二人とも、声は楽しそうだった。
兄妹だろうか。
友達。
はたまた、恋仲かもしれないね。
少女はそこから目を逸らす。
そうしてまた、縁日出店の喧騒をすり抜けて、出店も踊りも遠くなって。
すぐそこの小山を登れば小さなお社がある。
少女はごくりと唾を飲んだ。
夜のお社には近付いてはいけないよ。
ふんわり言う声が聞こえる。
昔に聞いたその声は、今でも柔らかく、思い出の中で漂っている。
少女はそっと歩を進める。
小山をゆっくり登っていくと、ちらちらちらり、後ろに盆踊りの灯りが見えた。
すぐそこにあるはずなのに、なんて遠い灯りなんだろう。
少女は悲しくなって目を逸らす。
そして一心に、小山の上のお社を目指した。
そうして登ると、小さな小さなお社に、心ばかりのお供え物、それだけの、暗い暗い場所に出た。
少女がお供え物に手を伸ばす。
子供の好きそうな駄菓子たち。
「神様の物を食べちゃあいけないよ」
不意に、背後から声がする。
びくりと震えた肩に、食べちゃあいけないよ、もう一度、柔らかい声が聞こえる。
振り向くと、どこか懐かしい、知らない少年。少しくすんだポロシャツに、少し擦りきれた短パンを穿いて。手には、姿に不似合いな提灯を持って。
だあれ?
少女が震える声で尋ねる。
それには答えないで、少年は少女に提灯を手渡した。
「ここは暗いから、灯りを手放しちゃあいけないよ」
何故だろう、その優しい声に、少女は素直に頷いた。
提灯に描かれた金魚が揺れる。
「おいで、帰ろう?」
少年がそっと手を引いた。
ほんのり温かいその手をぎゅっと握ると、少しだけ、少年は悲しそうに笑った。
てくてく夜道を歩いていく。
真っ直ぐな小道を歩いていくと、次第に灯りが戻ってくる。
ふわふわ揺れる金魚達が、ふわふわ足下を照らしている。
真っ直ぐ真っ直ぐ進んでいく。
どこに行くのか分からない。
そもそも道は真っ直ぐだっけ?
下ることもなく、真っ直ぐ真っ直ぐ、進んでいって。
それでも、その手の温もりを手放せなくて、疑問符が頭に浮かぶ度に、その手をぎゅっぎゅと握りしめた。
金魚がゆらゆら泳いでいる。
顔のすぐそばを掠めていく。
色鮮やかな金魚達。
ふわふわゆらゆら泳いでく。
その合間を真っ直ぐ真っ直ぐ進んでいくと、気が付くと、見覚えのあるお社が目に入る。
するりと手がほどける。
しっかり握っていたはずなのに。
周りを泳いでいた金魚が一匹、提灯の中にするりと戻る。
「ゆっくりゆっくり下りるんだよ。振り返っちゃいけない、僕はもう、君と一緒にいられないんだ」
そうやって悲しそうに笑って、少年はそっと背中を押した。
一度だけ、振り返る。
ふわふわ漂っていた金魚がお社の中に消えていく。
悲しそうに笑っていた少年は、既にそこにはいなかった。
少女はどうしようもなく悲しくなって、ゆっくりゆっくり、小山を下りた。
ふわふわゆらゆら泳いでいた提灯の中の金魚も動くことを止めて。
気が付くと、また、縁日出店に戻ってきていた。
ゆっくりゆっくりその喧騒に戻っていくと、先ほど金魚掬いをしていた二人が、嬉しそうに金魚の入った袋を持っていた。
少女はゆっくり出店を辿って、盆踊りへと戻っていく。
踊り続ける人達の向こうに、いないはずの、君がいた気がした。

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