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2023年04月01日

人生の意義 頑張る理由

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普段は科学のこととか時事問題とか、そういうのをお話してるんですが、いろいろなチャンスがありまして。昨日もちょっとそういうチャンスがありまして、人生の意義というのを時々はやっぱり考えてみなきゃいけないなと思う時がありました。

我々が毎日毎日同じように朝起きて、そしてご飯を食べて歯を磨いて、そして仕事をして。夜になると疲れて風呂に入って寝ると。そういう生活をずっと送ってますと、やっぱり人間っていうのは、またそれが人間のいいところでもあるんですが、普段の生活の中で流れて、それがいつのまにか何か不満としてたまったり、生きがいが感じられなくなったり、まあするもんな訳ですね。

本来は夕方、地方の方は今でもそういうのあるでしょうけど、山の端に沈んでいく太陽の赤い夕日を見たり、それから海辺ですと海に寄せる波の音を聞いたり、そういうことによって人間っていうのは、自然の中に自分が生きているんだということを強く感じるものでありますし、また身近に小さな昆虫とか小さな動物なんかいますと、時にはそういう動物があえなく命を失って死んでいるところに出くわしたりしますと、まあいろいろこの世の中の無常というものを感じるわけでありますが、現代っていうのは非常に難しいわけですね。まあ事実この録音も、私ちょっと今度ホテルに2、3泊しておりまして、そういうことでホテルの中からお送りしてるわけですけども、非常に人工的な空間で生活しているわけですね。それでテレビをつければ、なんかウクライナはどうとか、それからどこがどのくらい儲かったとか、どこの銀行が潰れそうだとか、そういうまあ本当にお金の話だけが出てるようなところもあるんですね。

考えてみれば私が若い頃って今からほんの最近ですよね、人類の歴史から言えば、もちろんものすごく最近で、日本の歴史から見ても、もう本当に最近なんです。50年前ですら、現在と相当違いますね。
例えばあの頃はまだ現役の小説家、その方が小説を出しますと、みんなでそれを読むというようなことも随分ありました。それから名前の知れた作曲家がおられて、その方の作曲した最新作を母親が台所でちょっと小声で歌ってるという、そういうこともありましたし、絵画なんかも、絵画展なんかありましたね。いろいろなヨーロッパ絵画もありますけど、日本絵画もあり、最近の画家の絵画もありました。これも抽象画であっても具象画であってもいいんですが、ちゃんとした美術でしたね。今みたいに何か思想がかかったようなものが出てくるなんてことは、あんまりなかったんですね。

そういう中で、冬にはスキーに行ったり、夏は海水浴行ったり、春とか秋は家族とドライブに行ったりするような、いわゆる普通の生活だった訳です。
今は完全に時代の過渡期なんですね。分裂してしまいまして、もちろん家族がどういうものかとか、職場旅行がないとかいうのはノスタルジアかもませんね。私が年を取ってるから、ノスタルジアかもしれませんが、しかし小説もない、絵画もない、音楽もない、音楽会も展覧会もガラガラだというような時代になってしまいまして。これもやっぱり過渡期だから仕方ないと思いますが、人間っていうのは同じように発達するわけじゃないんで、過渡期ですからね。だけどそういう中にいる我々は、やはり時に振り返って、人生の意義というようなものを考える必要があるかと思うんですね。

今日はその第1回で、必ず死ぬのになぜ頑張るのかという、これは宗教でも哲学でもかなり根本的な問いとして、しょっちゅう出てくるんですね。人間は必ず死にます。必ず死にますが、どうせ死ぬんだったらもう、毎日酒でも飲んで、早めに死んだらいいじゃないかと。どうせ目標が死ぬことなんだからということで。まあそういうことで、生きてる時に頑張るというのはどういう理屈なんだってのは、これは人生論でも宗教でも哲学でも芸術でも、主たるテーマの一つなんですね。これについてちょっと、今日は第1回ですから、簡単にちょっとまあ考えてみて、次の「人生の価値2」に行こうと思ってるんですけどね。

人間は実は生まれる時に、生まれようと思って生まれた人って一人もいないですね。生まれようと思って生まれる人が一人もいないのに、死ぬのが必ず来るって事に、なんで問題を感じるのかってことですね。
私が今ここにいますと、気温が何度だとか、今日の昼食が美味しかったかなとか、そういうこと考えてしまうんですけども、それ自体が本当は意味がないと言えば意味がないですね。必ず死ぬんですから、別に何を食べてもいいはずだし、気温が寒くても暑くても、まあいいはずなんですが、それはしかし私は全然違う考え。この必ず死ぬのに頑張るのかっていう問いがですね、宗教家とか哲学者とか、そういう方が非常に興味を強く持つのは、その人たちが比較的長い時間の感覚を持っておられるということですね。
例えば生まれて死ぬまで50年とか80年とか、そういう時間を見て、そういう気持ちにとらわれるんですね。

しかし私はちょっと違いましてね。この生きるって事は、今の瞬間、今の瞬間だけっていうのが私なんかが自分で感覚的にも、頭で思考してもそう思うんですね。
っていうのは昨日何かをしたということは、今日になるとほとんど何の意味もないですよね。昨日には帰りませんから。それからまた明日がどうかっていうことも分からないですね。
したがってまあ少し長く言っても、私の人生の気持ちと言ったらですね、今日はあるかなっていう感じなんですよ。

今日はあるかなっていうか、むしろもっと短くて、僕は2、3時間が単位のやに思いますね。例えば今からどっかに行って講演をする。一所懸命やろうとかですね。それから今からどうも依頼された執筆をしなきゃ、ちょっと嫌だなとかですね、そういう風にこう気が進まないなとかですね。まあそういうようにこう、あそこに今日食事に行くけど楽しみだなあと思ったり、ちょっとあそこで今度、今日一緒の人がなかなかこういう人だからなぁと思ったり、気が向かなかったりしますね。

私はだいたいそういう感じで生きてきました。したがって私は、今日も朝って言うんですが、今日1日じゃないですね。今日1日ってのはちょっと人生にとっては長いかなと思うんですね。まあ2、3時間を目処に自分がやりたいこと、自分の人生としてやるべきことをやろうかと。できれば自分のためではなく、人のためって言いますか、家族のために収入を得るとか、子供のために何かするとか、友達のために何か一肌脱ぐとか、なんかそういうことによって自分が満足しますね。良かったと思いますね。
この良かったの数がある程度、まあ10個か20個あれば人生はいいんじゃないか。まあ普通の平均寿命ぐらい生きれば、そういう瞬間、瞬間というのはここで言えば2時間とか3時間ですよ、そういう2時間とか3時間が良ければいい。というか良ければ、そこしか人間はできないっていうんですかね。長期的な計画はもちろんほとんど立てませんしね。

第一、僕が若かった頃の日本って言ったら、今と全然違いますからね。もう環境が違いますから、もちろんスマホがないなんて当たり前ですけど、冷蔵庫、洗濯機、テレビないわけですからね。水洗トイレはないし、電車も、なんかあるかないか分かんないようなもんですから。ですからそもそも必ず死ぬからなぜ今日頑張るのかっていう問いは、僕にしてみればちょっと時間が長すぎるよと。そんな長くは考えられない。人生というのは、人生の意義というのは、僕はずっと長く、50年間こうやったからっていう意義っていうのはね、まあここで聞いておられる人はいくらでもそういう人もおられるでしょうから、それ別にいいとか悪いとか言わないですけど、人生っていうのは2、3時間の積み重ねっていうのが僕の意識なんですね。実際そうやってきました。

私は最近までテニスをやっておりまして。テニスは72から始めましたから、非常に年取って始めたんですけども、それでもごく最近まで、入院するまではテニスをやっておりましたが、この前そのテニスで私にとても親切に教えてくれて、素晴らしい先生だったコーチがおやめになりましてね。その時メールをいただきました。武田先生が一所懸命テニスをやられるのに感心しました、というお言葉をいただきました。私にとってはこれが最高の褒め言葉なんですよ。

要するに成果がどうだったとかね。もちろんテニスなんか下手ですからそう勝てませんが、テニスに勝ったとか、それからなんかそういうんじゃなくて、テニスに行った時は一所懸命やった、もう力の限りやる。それでもちろん休みますよ。ぐったりして休みますが、人に何かをやるときにはもう一所懸命その人のためにやる。テニスも一所懸命やる。講演を頼まれたら、僕は講演の前に話しかけられて、ちょっと待ってくださいなんて時々言うことがあるんですけども、講演の前なんかもう本当にですね、どういう風に言おうかな、これどういう風に言おうかな、聞いた方はどう思うかな、ということに集中してやりますね。
したがって講演が終わったらぐたっと、今度は逆にリラックスしましてね。もう難しいことはちょっと1時間か2時間ぐらいはもう話せないっていう感じになりますね。その2時間の講演なら2時間の講演、1時間半のテニスなら1時間半のテニス、1時間の食事なら1時間の食事、この積み上げていうか、積み上がんなくたっていいんですけど、この連続が私は人生だと思います。
その人生がどこで終わっても、つまり必ず死ぬっていますけど、まあそれはね、どうせ生まれた時に希望してないんだから、死ぬ時も偶然でいいんですね。
ただ僕はその生まれたことが意識されるのと、死の間の時間の過ごし方、そこに人生があるとは思ってます。

私の人生はそういう人生でした。僕は1回言ったことがある。
「武田君は何を研究したいの?」「何ってことはないんです」と。「一生やれるような研究をやりたいんです」と、こう言ったことがあるんですね。

ちょっとそういうところがありましてね。対象物が何であれ、それ私にあまりこう興味湧かない、一所懸命やる。身をこう投じられるようなね。そうするとその充実した時間がずっと続きますから。
良かったな。1日に3回か2回ぐらい良かったな、良かったなっていうのがあればね、それで僕は満足ですね。

いつ始まろうと、もちろん始まるのは分かんないですけど、いつ始まろうといつ終わろうと、それから人生が必ず死ぬからどうしたらいいかっていう問いは、世界の大哲学者、大宗教家が一所懸命考えたことですけれども、僕にはあまり関係ありません。
私はその時間、その時間が、自分として一所懸命やれるような時間。それが私の人生で、人生の意義はそこにあるという風に考えております。


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