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2012年03月28日

彼はジョギングで通勤

雨天のとき以外は自転車通勤で、7時前に家を出て職場へ向かう。
同じ時間に同じ場所ですれ違う人は決まっている。


短パンの彼はランニングシューズを履き、半袖のランニングシャツの上にナップサックを背負っている。
暑い夏の朝も、凍てつく冬の寒い朝もこのスタイルをくずさない。
年齢は60前後で90%の白髪。
ジョギングで通勤しているのだと想像する。


彼と私は同じ方向に向かう。
自転車の私がいつも彼を追い越す。
追い越し際に彼はたいてい何かを歌っている。
それは鼻歌とも、お経とも、ひとり言とも判然としない。
何を歌っているのか耳に神経を集中してみるが分からない。
とっても謎なのだ。


彼は走るとき、顔を左45度に傾けている。
そのせいで身体が左に傾いて必然的に左肩が前にでる恰好になる。
よろよろと左につんのめるんじゃないかと心配してしまう。
その姿勢で歌いながら走っている。



今朝もはるか前方に彼を見かけた。
やはり短パンにランニングシューズ、半袖のランニングシャツの上にナップサックだった。
私の自転車はさらに近づく。
彼が小さくなった。
自転車はさらに近づく。
小さくなったんじゃなく、しゃがみこんだのだった。


― 気分でも悪くなったか?


そんなことを考えながら近づいた。


― 具合でも悪かったら助けてあげよう。


はっきりと様子が確認できるまで近づいた。
彼は歩道の花壇に咲いた小さな花に携帯を向けていた。
携帯に向けられていたのは小さな黄色い花だった。
彼は携帯の角度を変えたり、近づけたり、遠ざけたりしていた。


私は彼のすぐ脇をいつもよりゆっくりと通り過ぎた。
いつもと違う彼に出会って、いいことでもありそうな気がした。
自転車で走りながら右手に顔を向けると、白い富士がくっきりと見えた。





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