星とたんぽぽ＆生活スタイル

トラックと乗用車が暑さのせいで気でも狂ったように急いでいる。


後ろに迫ってきたトラックに煽られて、アクセルペダルを力いっぱい踏み込んだ。

焼きつくすような太陽と、エンジンで熱せられたボンネットから伝わる熱波を中和す

るために、クーラーは唸り声をあげた。



＜西日本を中心に局所的な大雨が広島県庄原市を襲った…＞



ラジオはクーラー音とエンジン音の隙間から被害状況を忙しく報じている。




定間隔で植えられた街路樹が前方から後方へと流れるていく。

時折、人影が現れては後方へ消えていった。


前を走る車のブレーキランプが次々に点灯し、のろのろとしたスピードに変わった。

夏の日差しが照りつける歩道の前方に人影が見えた。

人影が男性だとわかる距離まで近づいた。

男性は手に持った杖で辺りをコツコツとたたいていた。


右足はブレーキペダルとアクセルペダルを交互に忙しく踏んだ。


男性は猶も辺りをたたいては立ち止まる動作を繰り返している。


「どこから来て、どこへ行きたいの？」

言葉にならない問いかけが脳裏に浮かぶ。

砂漠で方角を見失った人みたいに、哀れに思えた。


前を行く車のブレーキランプが消えて、エンジン音と排気煙を残して遠ざかっていった。

後を追うようにアクセルペダルを強く踏み込んで男性の横を通過したとき、白い杖が光っ

た。



＜九州北部から四国、中国、近畿、東海、関東甲信、北陸で梅雨明けしたと見られる…＞



ラジオはニュースの後、リスナーからのリクエスト曲に変わった。

男性は後方に遠ざかって一つの点になって、やがてバックミラーから消えた。



ラジオから流れるサザンの「ＴＵＮＡＭＩ」をＢＧＭに炎天下の４車線の国道を、東の方角

へ強くアクセルを踏み続けた。