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2010年04月10日

病院待合室の老婆



 

病院の待合室。

「時間まですこしありますから、血圧を測って下さい」

白衣の看護師は優しく指示した。



血圧計は50代に見える男性が使用中。

わたしはその後ろで順番を待った。



男性は測定結果が印刷された紙きれを

装置から取り出し席を立った。



右足を一歩前に出そうとしたそのとき、
 



隣に後ろ向きに座っていた老婆が

血圧計のあるその机にバッグを置いた。



「よっこらしょ!」

と言っているように感じた。

右手に杖をついて

左手で椅子につかまり立ちした。



おもむろに血圧計の前の椅子に

「どっこらしょ!」

と口にはださないが座った。



右手の杖を置いた。

着ていた上着をゆっくり、ゆっくりと脱ぐ。



左手を斜め上にさし出し、腕をまくる。

一回まくる。

二回まくる。



血圧計に腕をさし出す。

血圧計が表示する数値が上がっていくのを、老婆の目は追っている。

ある数値でとまって今度は下がってきた。

測定は終わったのか一定の数値を示して止まった。



老婆は測定結果の紙きれを取り出し、目を近づけて確認した。



「さー、今度は自分の番」

と、頭のなかの制御装置が準備をはじめる。



老婆は一回では信用ならないとみえて、確認のためか

もう一回血圧計に腕を差し出した。



母が生きていれば同じような歳かなと考えながら、

身体のクロック信号を“ゆっくり目”に調節して順番を待つ。

緩やかに時間が流れる。

ゆっくりすぎて手でつかめそうな時間が過ぎる。



老婆は2回目の測定結果の紙きれを目の前に持ってきて、

今度は納得したのか諦めたのか腕まくりを元に戻した。



上着に右手を通す。

次に左手を通す。



「よっこらしょ!」

そんな感じで立ち上がる。



右手に杖を持って、わたしに軽く頭をさげてゆっくりと立ち去った。



みんないつか通る年齢。

老婆の年齢。



母はもういない。

老婆に母をかさねる。

母が生きていれば同じような歳。

老婆が立ち去った後も、そこだけまだ時間がゆっくりと流れている。







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