b.だけど、やはり見える人には見えるんでしょうねえ、蟲とか幽霊、
a.霊感の強い絵描きさんが居て、一緒に麻雀してたんだけど、夜も更けた頃に「こりゃデカいの来たな」って独りごと言い出すんで、役満でも上がるのかって思ったら、窓の外にそうとうデカいのが来てたそうだ、
b.幽霊っすか、
a.彼に聞いたけど、正体はよく分からないそうだ、でも人間にしてはデカすぎるし、ヒトの幽霊でもないようなんだ、
b.しかし、何でまたやって来たんすか、マージャンしたかったのかなあ、
a.京都の嵐山だったけど、裏手はすぐ山で、空腹の猿や鹿がときおり下りてくるような場所だったから、夜中にマージャンで騒いでる俺らを山の蟲たちがのぞきに来たのかもしれないな、
b.見える人には見えるんだなあ、
a.そんな人だから、新婚早々住んだ借家に幽霊が居付いてるの分かってしまって、毎晩寝るときは、天井のすきまからのぞく女性とにらめっこしてたそうだ、
b.怖くないんすか、
a.あたり前に見えてると、逆に怖くないのかもしれない、けっきょくその家も、幽霊見えない奥さんの方が気味悪がって引っ越したようだ、
b.だけど、京都なんて言ったらそこら中そんな話のオンパレードなんだろな、見えなくて良かった、
a.ところで、ふと思い出してなあ、子供のころ母から聞かされた怪談を、
b.母方のお婆さんが実際に体験した話っすね、
a.母方のおばあさんは福島県白河市の生まれで、浄土真宗のお寺の娘だった、
b.お寺なら色々集まりそうだ、
a.それもあって住職だったお父さんは、午後4時以降はお経を上げないようにしてた、たくさん集まってくるんで、
b.午後4時とは早いっすね、病院の夕食が異常に早いのもコレと関係あんのかなあ、
a.そりゃ別やろ、職員の労働条件とかそういうの絡んでるんじゃ、
b.ああそうか、それで、
a.とある熱心な信者さんがおられて、病気でしばらく入院することになった、で、しばらくお寺にも見えなかったんだが、ある晩、ふとお寺へやってこられたんだ、もう夕食も終わって家族団らんのひと時だったようだ、おばあさんは当時8歳だから、明治41年のことか、
b.退院したんすね、
a.「おかげさまですっかり病気も治りました、ご心配おかけしましたって」、挨拶に来られたそうだ、あつあつの焼きイモかかえて・・・で、しばらく住職と世間話で打ち解けたあと、じゃあそろそろと言って、ふすまを閉めて帰ったそのすぐあと、別のふすまがすっと開いて、その信者さんが病院で亡くなったとの一報が入ってきたんだ、
b.でも、焼き芋は、熱々の本物じゃ、
a.そう、そこがふつうの幽霊と違うところで、本物の焼き芋だったんだ、みんな気味悪がって食べなかったそうだけど、
b.まあそりゃそうだろうけど、じゃあ幽霊が買ったっていうんすか、その焼き芋、けっこう重いと思うけど、
a.後日、その焼きイモ屋さんに聞いたら、やはりその夜、信者さんがお金をちゃんと支払って買っていったそうだ、
b.摩訶(マカ)不思議やなあ、やはり信心深い人は幽霊になってもパワーあるんすねえ、オレが幽霊だったらとてもじゃないけど運べないや、焼き芋なんて、重いし熱いし、
a.ここで二句、「信心の運ぶ焼きイモ冷めやらず」、「幽霊もたずさえ運ぶ美味きイモ」、
b.でも、きっとその信者さんは最後に焼き芋がとても食べたかったのかもしれませんね、
a.そうだなあ、アツアツのホクホクを最後になあ、