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2024年08月06日

ネコタミ第四章の5

『眠虎の民〜ネコノタミ〜』第四章の 保存用のプレ版です。

第三章までは、『エブリスタ』などでお読みいただけます。
興味がおありの方は検索してみてください、


以下、
第四章5の本文です。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



『眠虎の民〜ネコノタミ〜』

第四章『水の国の転輪聖王(チャクラヴァルティン)』【五】


 カラの言葉に一同からそれぞれ「フー!」とか「ウー」とか「ホォ〜」というような、音階の違う感嘆の声があがった。

「それでその後、カラさんがどうしたかっていうとね」
 ギンコが立ち上がり、身振り手振りで演技を入れながら説明する。

「最速の飛行魔術で舞踏会場まで飛んでいって、魔力を込めた扇の一閃でオウコを場外に吹っ飛ばしてこう言ったの。
『私、あなたに結婚を前提としたお付き合いを申し込みたいのですけれど、よろしいかしら?』」

 ギンコが声音を変え、手のひらで扇の形を作ってしなを作る。
 珍しく、けっこう酔っ払っているようだ。

「もう、“眠虎の大陸中のカラさんファンの感石がいっせいに『パリーン!!』って割れた音がした”とかいう伝説だよね!」

「もう、大げさなんだから……まあうちの倉庫にあるファンから送られてきてた感石はだいたい粉々になってはいたけどね、後で見たら」

 どうやら相手が完全に振られて諦めたり、あまりのショックを受けると本当に粉々に割れることもあるらしい。

「それで、オウコさんはどうしたんですか?」スズが続きを促す。

「倒れたまま頷いて、そのまま意識を失って救護室に運ばれていった。
 世界的人気の大女優兼歌姫がステージをすっぽかして、負けに負けていた無名の虎の大男にプロポーズしたんだもん。その年の大晦日と年明けは大騒ぎだったよ」

 ギンコが腹を抱えて愉快そうに笑う。

「ちなみに、カラさんはその時何歳だったんで……」
 スズが言いかけた途端にテーブルの下でフーカが思い切り足を踏んだ。

「『女性を年齢で選別する輩は宇宙の果てで塵になるがいい』って、前にカラが言ってたにゃ!」
 ウトウトしていたと思っていたリンクが、大きな金魚型のクッションを抱きしめながら無邪気に叫んでまた眠りに落ちていった。

(単にいつくらいの年齢の恋愛話か知りたかっただけなんだけど……)
 足の痛みに耐えながら、口を真一文字に結んでスズは納得顔で頷いた。

「……ボクがちょうど君くらいの年頃だったから、本当に、勇気をもらったよ! いろんな形の愛があるんだって」
 こちらに顔を向けたギンコが口の形だけで(あとで逆算して)と言う。

 以前おぼろげに聞いていた年齢で考えると、おそらくカラもオウコも二十歳前後の頃の話だろうか。それから六年ほど経つが、今も変わらず相思相愛だということか。

「あの時オウコはさ、本当はどう思ってたわけ? っていうか記憶はあるの?」ギンコが悪びれずに質問する。

 少し考えてオウコは答えた。

「……そうだな……うっすら覚えている限りでは、全国に中継されている中で女性に恥をかかせてはいけないと思ったし、何かの間違いなら後で話し合えば解ってもらえると……」

「で、その後何日かカラさんに看病してもらっているうちに、好きになっちゃった?」

「最初は思い込みで買いかぶられているのかと……だが話しているうちに、この世界で最も俺のことを理解してくれる女性なのかもしれない、と」

 カラがほとんど「イーッ!」という奇声を上げながら立ち上がってガッツポーズをとった。

「聞いた? 私ほんとに最高の殿方を選んだの!!」
 と、なぜか今度は小声で聴衆に向かって問いかけるように囁いた。

「生き方は豪胆なのに他人には繊細な気遣い! 私が言ってほしい大事なことは、こんなふうに、いつもちゃんと言ってくれるところも好き!!」

 今度はまあまあ大きな声で叫ぶと、目眩で旋回するように椅子に深く座り込んだ。そしてゆっくりと艶やかに振り返りながら体勢を立て直し、テーブルに両肘をつく形で改めてうっとりとオウコを眺めた。

 あっけに取られたが、「これこそが永遠に結ばれたカップルなのかもしれない」と、スズは何だか妙に納得して力強く頷いた。


「ちなみに、テン老師は何でオウコだけ特別に何度も受けて立ったの?」
 ギンコが問う。

「……しりぞける度に、違う戦法や技を試してきたからかの。他の者とは違って、今日この時を逃したらもう後はない、そういう命をかけた真の気迫が感じられたから、かのう」

 テンがヒゲをさすりながら微笑む。

「もしこれが彼の最初で最後の挑戦ならば、こちらも全力で相手をせねば、ワシ自身が後悔するような気がしたし、何より技にも心にも見込みのある若者じゃったからの」

 一同は神妙な顔つきで頷いた。

「あの時は、一生に一度、試合が終われば山の国に帰って、もう二度と国を出ることもないだろうと思っていたので……」

 恐縮したようにオウコが姿勢を正す。
 そしてテンに向かって一礼した。

「至らぬ自分には、もったいないくらいの教えをいただきました」

「でもそのお陰で、カラさんという人生の伴侶にも出逢えたし、二人とも老師に弟子入りしたことで、一緒に各地を旅できることにもなったし。
 本当に羨ましい運命だな〜って、思うよ」
 
 ギンコがおもむろに懐から何か取り出した。

「ボクなんか、いつもこんな感じだもんね」
 
『感石』だった。
 時々、光の加減での見間違いかもしれないと疑う程度の、ややピンク色の薄っすらとした光がよぎるような気もするが、基本的には緑系の色合いで落ち着いている。これが相手の想いだとしたら何とも切ない。

「『落花情あれども、流水意なし』」

 にわかに、あまり聞き慣れない、だが美しい男性の声がした。
 ギンコの師匠で、狐のエッジのようだ。
 どこか詩《うた》を詠んでいるような流れるような口調だ。

 オウコのように『漢《おとこ》は黙って背中で生き様を見せる』的な方向ではなく、彼は彼で、クールというかクレバーというか、何を考えているのか察せない雰囲気で普段は寡黙なのだが。
 

「師匠はね、お酒が入ると本性が出るんだよ。ボクの恋の師匠でもある」

 あ、たぶんお酒の呑み方も師匠譲りなんだな、とスズは思う。
 感石は“プライベートでセンシティブな物”とか言っていたような気がするが、今は酔いにまかせてか、堂々とみんなに見せている。
 本当はギンコも誰かに本音を聞いてほしかったのだろう。

「恋の師匠っていうか、失恋の師匠な気もするけど」
 フーカが真顔で小さく囁いた。


「恋は稲妻のようなものだ、撃ち抜かれた時はそれが天恵なのか厄災なのか判らない」
 エッジが残り少ない酒の入ったグラスを、遠い目で見つめながら言った。

「出たわよ、『雷名の貴公子』が。……轟くのはほとんど浮名だけど」
 
 カラが真剣かつ呆れた顔で突っ込んだ。
「彼は愛と詩と芸術の中に生きてるのよ――あと時々機械いじりとナイフ投げ」

「今のはね、これによって稲が実るとされる『稲妻』を、豊穣の恵みなのか、ただの感電みたいな落雷の災害になるのか、そういうどちらに転ぶか判らない恋の危うさにかけてるんだよ。さすが師匠!」
 
 ギンコが丁寧に説明した。

「恋をするたびに色んな国に色んな女性が別にいるようなんだけど、なぜか修羅場にはならないのよね……」
 カラが眉をひそめて首を傾げる。

「愛は霞《かすみ》のようなものだ。包まれている時は他に何も見えないが、一陣の風が吹くとそこには何も残っていない」
 エッジが答えるように吟ずる。

「うん、“自然消滅”ってことらしいよ。最初は師匠に憧れて良いなーって思ってた女性たちも、付き合ってみると師匠の芸術家ぶりについていけなくなるみたい」

「ああ、うん」「納得」
 と、フーカとカラが「何か解るわ」という顔で二回ずつ頷いた。


 いつの間にかすっかりスズの意識から抜け落ちていた演劇の方もクライマックスの時間を迎えつつ、話題は『各々の恋愛観』というものに続いてゆくようだ。




【 『眠虎の民〜ネコノタミ〜』

第四章『水の国の転輪聖王(チャクラヴァルティン)』【五】

 2024年8月6日 了】
posted by NisikioMani at 18:48 | TrackBack(0) | ネコタミ

2024年08月04日

夏なのでちょっと怖い絵を。



【包帯の少女】

https://www.youtube.com/watch?v=smYPHru4R14




【ゾンビ】

https://www.youtube.com/watch?v=1h4dAJt17LE


昨日、制作工程動画を公開したイラストを。
(イラスト自体は確か今年の3月くらいのものです。)


念の為先に言っておきますが、『ホラー』と『ゾンビ』がテーマです。

もし血みどろとかゾンビとか、怖いもの関連は
イラストの一枚絵でも見たくないと言う方は
無理に見ないでくださいね。

ちなみに完成後のサンプル画はこんな感じです。↓



イラストACホラーサンプル.jpeg


イラストACさんのリクエストで出ていた
『ホラー』と『ゾンビ』を描いてみたものです。


【イラストAC Puolukka358 プロフィールページ】

https://www.ac-illust.com/main/profile.php?id=23309864&area=1



当時は謎の皮膚病再発とかで色々あったため、
怒りとか苦しみとか恨みを晴らすというテーマの
絵がその時の気分だったんですよね。

描くのはとても楽しかった。

いや自分自身は極度のエ◯グロは描きませんが、
普通にホラー映画とか大好きですし、
ホラーゲームも色々夜中にプレイしても大丈夫、
『バイオハザード』を始め、ゲームをやっていた時は
ゾンビ物も『零』みたいな幽霊物も大好きでした。

まあ何で大丈夫かって、田舎で猫を飼っていたら、
自然界で獲ってこられる生き物とか……
獲物であるアレやソレの食べ残しの死骸などを
飼い主である私が掃除しなきゃなので……。

「血も内蔵も画面から出てこないし
現実としての匂いも感触もないから全然平気」

なんですよね。私の感覚としては。

作り物でフィクションだからこそ、
怖いのも健全に楽しめるというか。

もしハンニバル・レクター博士に憧れちゃって、
本当に何か殺したいとか思っちゃう、
現実と創作物の区別がつかなくなりそうな人には
ホラー物も全くおすすめしませんが。

レクター博士もキャラとして好きですけどね、クラリスとか
自分がそれに値すると思った相手には敬意を払うし。
あの映画のアンソニー・ホプキンスのレクター博士ほどの
適役に匹敵する殺人鬼キャラが今後現れるだろうか。


そんなこんなでたぶん自分自身も残酷な表現も
描写しようと思えばできますが、もしお話として描く場合は
そういう場面自体はそんなにリアルに詳しく描かないで、
ストーリーとして描いていくのは今後はもっとありかなと。

まあ好きですしね。ホラーもの。

今まで描いてきたショートショートとかでも、
SF的にはけっこう残酷な死に方で人類絶滅しかけたりしてますし。


まあそんなことも思う今日この頃です。

小説の続きの回の話はもう少しで完成しそうですが、
部屋の模様替えとかいろいろ挟んでたら遅くなりました……。

あと謎の皮膚病は薬の関係で今月また血液検査ですって。
お金が……

こんな同じところの傷が何ヶ月も治らないとかありえないのになー。

そう、『包帯の少女』には私の傷や病気が
なかなか治らないことへの怨念がこめてあります(笑)。


2024年07月15日

ネコタミ第四章4−4


なんやかんやで遅くなってごめんなさい。
以下例によってネコタミ第四章の四のプレ本文です。

ちなみにホームページの方ではたまに
ネコタミの裏話とかもしております。

気になる方はそちらでもまた。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



『眠虎の民〜ネコノタミ〜』

第四章『水の国の転輪聖王(チャクラヴァルティン)』【四】



 花火が水面に映る。

 睡蓮や蓮や比翼の鳥、美しく彩られたそれらの形が天空に舞い上がる。
 それが深く吸い込むような夜空に、湖の水面に、舞っては消えていく。

『紅睡蓮亭』は、“竜宮城”を地上で再現したような場所だった。

 西日で照らされた紅色の瓦と、朱色の柱。
 壁面には鮮やかな色合いで描かれた龍と虎、そして水や火などの自然界の属性、魔獣も含めた生き物や植物などが、この世界の歴史を物語るように美しく描かれている。

 豪奢で圧倒される建物だが、そこに訪れる者はどこか“特別に迎え入れられた”ような高揚感を覚える。

 スズの頭の中では沖縄の『首里城』や、中国の『紫禁城』のイメージと重なった。以前は王や皇帝が住んでいたが、今では旅行客も受け入れてもらえるというような歴史のある場所特有の、格式ある雰囲気なのだ。

 一階は誰もが出入りできる高級料亭のようで、昼間はちょっと豪華な外食をしたいというような旅行客や家族連れが数多く訪れる、運が良ければ予約なしでも入れるような飲食店だ。

 二階より上の階層はそれほど高くなく、部屋数も多くないようだったが、それだけに泊まることのできる客は限られている宿泊施設だった。
 カラの実家ということで、シルフの一行とスズたちはその最上階のワンフロアを数日間貸し切りにできるらしい。
 
 この世界でのいわゆるセレブとか億万長者と言われるお金持ちもいるのだが、一定以上の金銭を稼いだらそのお金は国富として眠虎の国全体の利益として徴収され、世界全体に還元されるらしい。

 その代わり、こういう施設はいつでも優先的に無料で使用できる。
 ただし、めったに使わない無駄な別荘などは持つことができず、基本的にどんなに裕福な者でも一人が住む家は一つというのが望ましいとされている。
 
 最上階のその部屋は、男女が廊下で区切られてはいるが、いわゆるスイートルームのような作りで、中央には食事もできる大広間、そしてそれぞれに寝室が一つずつあてがわれていた。
 地球で一般市民として普通に暮らしていたら、一生お目にかかれないかもしれないような美しく、豪華な部屋だ。

 大きなテラスからは広大な湖とそこに設置された客席と舞台が見える。
 その湖の上空で、日が落ちてから花火が打ち上げられている。
 地球で観るものより音は静かだが、光は長く空や水面に残る。

 荷解きをしてしばらくすると、華やかな衣装を身につけた女性たちが何十人か、次々と押し寄せるようにして訪ねてきた。

 その中にいたカラの六人の妹たちも、特徴は違うがみんなそれぞれに美しく、可愛らしかった。歳は人間で言えば十代から二十代くらいだろうか。
 詳しくは聞かなかったが、それぞれ父親や母親が違うらしい。

 こちらの世界では割と普通のことで、『家族』というのは事実上の血の繋がりよりも、その時一緒に暮らしている仲間という方が近い。

 例によってそれなりに『マレビト』として可愛い扱いをされたが、舞台の幕開けが近い時間になるとそれぞれ手を振りながら楽屋へと戻っていった。


 
 紅睡蓮亭の客だけが入れる、この湖の名前は『鴛鴦湖《えんおうこ》』。

 生涯つがうという言い伝えがあった、仲睦まじい夫婦の円満を表す『オシドリ』を表す鴛鴦だが、カラ姉妹の母と父は、まあまあ何度もくっついたり離れたりを繰り返す夫婦らしい。

 それぞれ水の国を代表するサーカス団、『ウンディーネ』の一員らしいが、説明すると長い時間がかかるらしく、詳しくは聞いていない。

 巨大な睡蓮の華の形を模した舞台は水中演舞を真骨頂とし、その他にも多数の水の演出を特徴としている。

 水中で光る華のように広がり、またすぐに透明になる不思議でカラフルな水中花火の演出も、天女の羽衣や人魚の尾ひれのように優雅に広がる薄衣の衣装も素晴らしい。

 本来、泳ぎをそれほど得意としていない眠虎の民にとって、水の中に長く潜れるだけでも尊敬に値することらしい。
 地球上の猫科の動物でも、水中に潜って狩りをする種類は極めて稀だったはずだ。自然番組が好きだったスズは心の中でそんな事を考える。

 客席もそれぞれ透明な睡蓮や蓮などの花の形態で、その足元では邪魔にならない程度に細やかで美しい光が、ゆっくりと虹色の変化を繰り返しながら輝いている。

 大きさもそれぞれだが、スズたちの入る最前列の良席と思われる睡蓮の花は、十五人程度なら余裕で入れる大きさで、シルフの主要メンバーみんなが円座に座っている。

 中央にはいわゆる中華料理式の円卓が設けられているし、聖獣や神を象った見た目にも美しく豪華な料理が溢れるように数々の品々が並んでいた。

 皆、最初の一時間ほどは演技と食事を礼儀正しく美味しく味わっていたのだが、舞台も後半になった今の時間帯では、お酒(マタタビ酒も含む)などの勢いも手伝って、それなりに個人の本性が出たゆえの議題が話の主となっている。

 本当に申し訳ないが、メンバーのほとんどは、もはやこの世界の最高レベルの水中劇など目にも耳にも入って無いようだ。
 まあ、スズ以外は毎年のように見慣れているのもあるのだろうが。

 スズ本人は円卓に並べられた料理や、その更に中央に浮かぶ立体映像でも中継されている舞台の展開や優美さも一観客として楽しもうとしているが、それ以上にやや下世話なメンバーたちの馴れ初めや、恋愛観の話なども気にかかる。

 夜と言っても午後九時すぎ程度の時間だが、最年少のリンクはなんだかもう眠そうだし、“大人の事情”をやや制限なしに楽しそうに話しているシルフのみんなの話も聞いておいたほうが今後の人生のためになる気さえする。

 そんなわけでスズは、舞台の様子を気にしつつも話題を遮らせないような静かな気遣いとともに、みんなの恋愛事情を小耳に挟む形で胸に刻み込んだ。


「だって、この人を逃したら絶対に後悔するって思ったんだもの」
 カラが左手に酒杯を、あいた右手を軽く降って言う。

「まあ年末のここの大舞台の主役だったんだけどね、妹たちもみんな代役を努められるくらいに修練は積んでいたし。一生一度の大事はどっちかってって言ったら、私にとってはこっちだって思っちゃったんでしょうね」

 カラは照れくさそうに、だが誇らしげに語っていた。

 どうやらこちらの世界にも、年末大晦日恒例の大規模な『歌合戦』的な歌謡劇や、『格闘大会』の中継があるらしい。
 どの番組を観るかはもちろん個々の自由だが、大会そのものに参加したり、神仙にお参りしたりして年明けを待つのは同じらしい。

 そしてその歌謡劇の主役かつオオトリでもあったカラと、格闘大会である『大晦日《おおつごもり》の大舞闘会』でテン老師にコテンパンにやっつけられているオウコが出逢うことになったらしい。

 達人同士が手合わせすると、戦いというよりも舞い踊るように見えるので、『舞闘会』なのだそうだ。

 年齢も性別も自由に参加できる大会なのだが、その最後の演目がテンのような、この世界でも最高峰といえる達人と手合わせできる『猛者《もさ》と民』。

『達人VS達人に憧れる腕に自信のある無数のファン』のコーナーなのだ。

 もちろん小さな子ネコたちへの年齢制限はあり、それはそれでまだ早い時間帯に別枠で安全な教室のようなかたちで設けられている。

 最深夜枠のこの『猛者と民』の時間は、この眠虎の世界の伝説たちが年に一度集う、魔力と技の競演なのだ。

 そこでオウコは、テン老師に何度倒されても立ち向かっていったらしい。

「普通はね、全国放送だし、一回やられたら大人しく場外に出て引っ込むのが礼儀でもあるし、あんまりしつこい奴はそれこそ鮮やかに達人の方が場外に吹き飛ばしてだんだん数が減っていくものなのよ。それでちょうど年明けくらいになって終わり、試合終了」

 カラが空になった杯を振る。

「私も、子ネコの頃から何度か参加したこともあるんだけど、まあテン老師みたいな本当の達人は別として、私より強い男になかなか出会えなかったのよね。いつの間にか、“私より弱い男とは付き合えないな”って思うようになってて。
 そのうちに『北斗七星蓮歌団』の舞台の方がプロとして忙しくなってきて、リアルタイムで試合を観ること自体も減ってきてたんだけど」
 
 たまたま舞台の最後の幕開け前に楽屋に帰ってきたカラが観たのが、その何度もやられては立ち上がるオウコの姿だったのだそうだ。

 国民の大多数が観戦している全国放送で、どうしてこの虎の大男は恥も外聞もなく諦めないで戦っているのかしら、とカラは不思議に思った。


「その時気づいちゃったの」
 カラはおそらく、当時と同じように確信を込めた表情でこう言った。

「私が求めていたのは、私を力で負かして屈服させる男じゃなくて、私よりも心が強くて自然に尊敬できる殿方だったんだって」




【 『眠虎の民〜ネコノタミ〜』

第四章『水の国の転輪聖王(チャクラヴァルティン)』【四】了】
posted by NisikioMani at 19:34| ネコタミ
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