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2020年06月01日

フランツ・カフカの「変身」で執筆脳を考える2

2 カフカの「変身」のLのストーリー

 フランツ・カフカ(1883−1924)は、プラハのユダヤ商人の息子として生まれ、裕福な家系で育った。しかし、キリスト教やユダヤ教への信仰に馴染まず、手塚(1981)によれば、根のない草である自分をつなぐ根底があるのかないのかが生涯の問いかけであった。因みに、ユダヤ教徒は、モーゼの法律に基づいてヤハウェを信仰し、イスラエルの人々のために神の国を現世に齎すメシアの登場を信じる。動物をモチーフにするカフカの作風は、有名であり、また、文体が常に彼の実存を反映し、空想やユーモアにも動機づけに真実がある。
 「変身」(1915)では、出張係とその家族の輝きのない生活からでは深い洞察が得られないため、ある朝ゾッとするほどの不気味な害虫に姿が変わり目覚める主人公を作る。グレゴール・ザムザは、出張の係をしており、汽車の出発時間に間に合わないから早く起きろといった家族との他愛も無いやり取りで始まる。 

花村嘉英(2020)「フランツ・カフカの『変身』の執筆脳について」より

フランツ・カフカの「変身」で執筆脳を考える1

1 先行研究

 文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
 執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)の執筆脳に関する私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923−2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。
 筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。言語の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なお、Lのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。
 メゾのデータを束ねて何やら予測が立てば、言語分析や翻訳そして資格に基づくミクロと医学も含めたリスクや観察の社会論からなるマクロとを合わせて、広義の意味でシナジーのメタファーが作られる。

花村嘉英(2020)「フランツ・カフカの『変身』の執筆脳について」より

2020年04月27日

心理学統計の検定を用いてペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」を考える7

3 まとめ

 ハントケの「幸せではないが、もういい」の作者と母ならびに作者と自身との距離についてデータベースから心理学統計による評価をしてみると、差があることが分かった。

参考文献

大山正・中島義明 実験心理学への招待 サイエンス社 2012
実吉綾子 心理学統計入門 技術評論社 2013
花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015 
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁/戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社  
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 2018
花村嘉英 ペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」の執筆脳について ファンブログ 2020
Peter Handke Wunschloses Unglück Suhrkamp 2019

心理学統計の検定を用いてペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」を考える6

1 最初は作者と母ならびに作者自身との距離に関し差がないと予測する。両方の平均値を取ると、母1.3、自身1.2になる。この差は誤差の可能性がある。
2 具体度の1、2は独立変数であり、それにともなう距離の大きさは、従属変数になる。
3 独立変数そのものの1、2が要因で、独立変数の実際の値である距離が水準になる。
4 ここでは、どちらの水準も同じ標本からデータを集めているため、具体度という要因は、参加者内要因になる。 
5 得られた有意確率(p値)を有意水準と比較する。危険率は通常5%未満のため、ここではt検定を採用する。 
6 t検定では、二つの平均の差を表す統計量(t値)、データの規模を表す自由度(df)、p値(p-value)を説明する。
[満足度のt検定]
母 1.3、自身 1.2、よってt値=0.1。
自由度は、独立した標本の個数から1引いたものである。よってdf=8。
p値は0.02にする。ここでは5%未満のため、対立仮説を採用し有意な差があるとする。

花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いてペーター・ハントケの『幸せではないが、もういい』を考える」より

心理学統計の検定を用いてペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」を考える5

表2 具体度

Und die sinnlichen Elendbeschreibungen zielten auch nur auf das körperlich Eklige am Elend, ja produzierten den Ekel erst mit ihrer genießerischen Art der Beschreibung, wodurch der Ekel, statt sich in einen Tätigkeitsdrang zu verwendeln, einen bloß an die eigene Analphase erinnerte, als man noch Scheiße gegessen hatte. → 母1、自身1

Zum Beispiel kam es in einigen Haushalten vor, daß die einzige Schüssel in der Nacht als Leibschüssel verwendet wurde und daß man am nächsten Tag darin den Teig knetete. → 母2、自身1

Die Schüssel wurde sicher vorher mit kochendem Wasser ausfewaschen, und eigentlich war also nicht viel dabei: aber einfach, indem man den Vorgang beschrib, wurde er auch verekelt: "Sie verrichten die Notdurft in den gleichen Topf, aus dem sie dann essen." → 母1、自身2

"Brr!" Wörter vermitteln ja dieser Art von passsiv-wohligem Ekel viel eher als der bloß Anblick der von ihnen bezeichneten Sachen. (eigene Erinnergung, jeweils bei der literarischen Beschreibung von Eidotterflecken auf Morgenmännteln zusammengeschauert zu sein.) → 母1、自身2

Daher mein Unbehagen bei Elendsbeschreibungen; denn an der reinlichen, doch unverändert elenden Armut gibt es nichts zu beschreiben. → 母2、自身2

花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いてペーター・ハントケの『幸せではないが、もういい』を考える」より

心理学統計の検定を用いてペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」を考える4

2.3 「幸せではないが、もういい」の作者と登場人物間の距離が違う  

 「幸せではないが、もういい」は、作者が母の半生と精神疾患を描いた自叙伝風の小説である。ここでは、この小論の研究テーマ、作者と母ならびに作者自身との距離に関し違いがあるかどうかについて作成したデータベースを基に考察していく。 

解答 作者と母ならびに作者自身との距離に関し差がある。

表1 具体度

Sie lief nie weg. Sie wußte inzwischen, wo ihr Platz war. "Ich warte nur, bis die Kinder groß sind." Eine dritte Abtreibung, diesmal mit einem schweren Blutsturz. Kurz vor ihrem vierzigsten Lebensjahr wurde sie noch einmal schwanger. Eine weitere Abtreilung war nicht mehr möglich, und sie trug das Kind aus. → 母2、自身0

Das Wort "Armut" war ein schönes, irgendwie edles Wort. Es gingen von ihm sofort Vorstellungen wie aus alten Schulbüchern aus: arm, aber sauber. Die Sauberkeit machte die Armen gesellschaftsfähig. → 母1、自1 

Der soziale Fortschritt bestand in einer Reinlichkeitserziehung; waren die Elenden sauber geworden, so wurde "Armut" eine Ehrenbezeichnung. Das Elend war dann für die Betriffenen selber nur noch der Schmutz der Asozialen in einem anderen Land. → 母1、自身1

"Das Fenster ist die Visitenkarte des Bewohners." So gaben die Habenichte gehorsam die fortschrittlich zu ihrer Sanierung bewilligten Mittel für ihre eigene Stubenreinheit aus. → 母1、自身1

Im Elend hatten sie die öffentlichen Vorstellungen noch mit abstoßenden, aber gerade darum konkret erlebbaren Bildern gestört, nun, als sanierte, gesäuberte "ärmere Schicht", wurde ihr Leben so über jede Vorstellung abstrakt, daß man sie vergessen konnte. Vom Elend gab es sinnliche Beschreibungen, von der Armut nur noch Sinnbilder. → 母1、自身1

花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いてペーター・ハントケの『幸せではないが、もういい』を考える」より

心理学統計の検定を用いてペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」を考える3

2.2 実験計画

【研究テーマ】 
質問 作者と母ならびに作者と自身との距離の違いについて。 
帰無仮説 作者と母ならびに作者自身との距離に関し差がない。 
対立仮説 作者と母ならびに作者自身との距離に関し差がある。 
【実験計画】
独立変数 実験や調査をする人が仮説を検証するために使用する変数。原因と結果でいうと原因である。
従属変数 独立変数の操作に応じて変化すると考えられる変数。原因と結果でいうと結果である。
【要因と水準】
要因 実験者が使用する変数。独立変数そのもの。
水準 実験者が使用する種類。独立変数が実際にとる値。
【参加者間要因と参加者内要因】
参加者間要因 水準のデータが異なる標本から集められる場合。
参加者内要因 水準のデータが同じ標本から集められる場合。
【有意確率】
帰無仮説を前提としたときに、誤差から偶然ある程度の差が標本に生じる確率のこと。危険率とかP値という。また、誤差には、本当はないのに誤って誤差があるとする第一種と誤差があるのに誤ってないとする第二種とがある。実吉(2013)では、5%水準を基準にしている。

花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いてペーター・ハントケの『幸せではないが、もういい』を考える」より

心理学統計の検定を用いてペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」を考える2

2 心理学統計

 心理学統計では、心の働きを数値化しながら客観性を計り、集計や分析を試みる。心を測定する時は、様々な要因がデータに含まれるため、データには誤差が付き物である。そのため、統計学により誤差を取り除き真の値を求めていく必要がある。そうすると、限られた人数のデータから人間一般に共通する心の働きも推測可能になる。

2.1 有意性検定

 科学では全般的に仮説を立てて検証する方法が使われる。実吉(2013)によると、検定の際に仮説が成り立つかどうかは、作成したデータから決めていく。検定の対象は、そこに有意性の差があるかどうかである。例えば、男女の性差で満足度に差があるのかどうか、または不安度に差があるのかどうか考える。こうした問題に対してデータを集めながら検定すると、解答が見えてくる。

【検定の流れ】
帰無仮説と対立仮説を立てる → 独立変数と従属変数を具体的に決め、実験計画を立てる → データを取る → 実験計画に応じた統計検定を行う → 得られた有意確率(p値)を有意水準と比較する → 帰無仮説の棄却、採択を決定する

 ここで、帰無仮説とは、比較する数値間に差がないという仮説である。対立仮説は比較する数値間に差があるとする仮説である。検定では、まず帰無仮説が正しいことを前提に検討され、帰無仮説が成り立たなければ、それを棄てて対立仮説に移り、差があるという結論にする。つまり背理法による命題の証明である。

花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いてペーター・ハントケの『幸せではないが、もういい』を考える」より

心理学統計の検定を用いてペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」を考える1

1 先行研究との関係

 データベースを作成ながら購読脳と執筆脳を分析するシナジーのメタファーの研究も次第に安定してきている。これまでバランスを意識して二個二個のルールに基づき多くの組み合わせを作ってきた。統計についても、バラツキ、相関関係、多変量分析と進み、今回の心理学統計を含めれば、バラツキと相関、多変量と心理という組み合わせができる。この小論では、実吉(2013)の心理学統計の検定の手法に従い、ハントケの「幸せではないが、もういい」を使用して、作者と母ならびに作者と自身との距離に違いがあるかどうか考えていく。

花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いてペーター・ハントケの『幸せではないが、もういい』を考える」より  

2020年04月26日

ペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」の多変量解析−クラスタ分析と主成分10

6 まとめ 
 
 データベースの数字を用いてクラスタ解析から得られた特徴を場面ごとに平均、標準偏差、中央値、四分位範囲と考察し、それぞれ何が主成分なのか説明できている。そのため、この小論の分析方法は、既存の研究とも照合ができ、統計による文学分析がさらに研究を濃くしてくれている。

【参考文献】
片野善夫 ほすぴ162号 知っているようで知らない五感のしくみ−視覚 ヘルスケア出版 2018
加藤剛 多変量解析超入門 技術評論社 2013
日本成人病予防協会監修 健康管理士一般指導員受験対策講座 ヘルスケア出版 2014 
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2018  
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 川端康成の「雪国」から見えてくるシナジーのメタファーとは−「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2019
花村嘉英 ペーター・ハントケの‟Wunschloses Unglück”の購読脳について ファンブログ 2020 
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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