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2019年07月13日
家族の木 THE THIRD STORY 純一と絵梨 <8ミス>
ミス
小樽から姉や母と一緒に東京の家へ帰った。そして自分の部屋に入って心臓がドキンと音を立てた。部屋がきれいになっていた。どうも先に帰った父が掃除をしたようだ。僕の大切にしていた写真立てのガラスが割れていた。中身をみられたのかどうか心配だった。
表側を風景写真にして、その中に姉の写真を挟んでいた。その写真は僕が二階の窓から姉を隠し撮りしたものだった。
高校生の頃、姉が外出する時や戻ってきたときなど、タイミングがあえば写真を撮っていた。大きくズームアップしているものもあった。当時の僕のささやかな楽しみだった。遠くの写真屋で現像してもらって、風景写真やバイクの写真の内側にかくしていた。もし、父にこれを見られていたら、ちょっとまずいことになる。
慌てて全部の写真立てから姉の写真を出して自分のカバンの中に隠した。いつも持ち歩いているカバンなら家族に見られる心配はなかった。とても残念なことに、僕はどうしても、それらの写真を捨てることができなかった。
僕は慌てて机の袖の引き出しを確認した。そこには姉がくれた誕生日プレゼントを保管していた。メッセージカードも一緒に置いていた。これは見られなかっただろうか?
長い間家を空けるときに不用意にこんなものを置いていてはまずいとは思っていた。でも、アメリカへ持って行けば無くしてしまうかもしれない不安があった。この部屋は僕の牙城のはずだった。ちょっとミスをしたのかもしれなかった。
父の様子は普段と同じだ。こちらから問いただすことなはない。僕はなんとなく落ち着かない気分だった。それでも表面上は、去年までの4人の生活が戻ってきた。
姉は、ただ苦しくて辛いだけの1年間を送ったたのだ。ピンク色に輝いていた頬には灰色の影がへばりついていた。明るく未来を見ていた瞳は暗く沈んでいた。
姉を家でゆっくりさせてやりたかった。僕はやつれ切った姉を忘れることができなかった。今度二人きりになったら、きっと抱きしめてしまうだろう。もう、一つ屋根の下では暮らせないと思った。
姉が家でゆっくりくつろげるように僕は再渡米した。試験を受けられなかったので留年したのだ。これでよかったと思った。友人たちの話ではシンシアは試験に合格して故郷へ帰ったらしい。故郷の州都で就職が決まったそうだ。僕には連絡がなかった。
僕がアメリカにいる間に姉は保育士として働くようになっていた。正職員を目指しているらしい。そのころ長谷川の病院が倒産したことを知った。祖母の家で働いている宮本さんがメールで教えてくれた。「ざまあみろ」と思った。
続く
小樽から姉や母と一緒に東京の家へ帰った。そして自分の部屋に入って心臓がドキンと音を立てた。部屋がきれいになっていた。どうも先に帰った父が掃除をしたようだ。僕の大切にしていた写真立てのガラスが割れていた。中身をみられたのかどうか心配だった。
表側を風景写真にして、その中に姉の写真を挟んでいた。その写真は僕が二階の窓から姉を隠し撮りしたものだった。
高校生の頃、姉が外出する時や戻ってきたときなど、タイミングがあえば写真を撮っていた。大きくズームアップしているものもあった。当時の僕のささやかな楽しみだった。遠くの写真屋で現像してもらって、風景写真やバイクの写真の内側にかくしていた。もし、父にこれを見られていたら、ちょっとまずいことになる。
慌てて全部の写真立てから姉の写真を出して自分のカバンの中に隠した。いつも持ち歩いているカバンなら家族に見られる心配はなかった。とても残念なことに、僕はどうしても、それらの写真を捨てることができなかった。
僕は慌てて机の袖の引き出しを確認した。そこには姉がくれた誕生日プレゼントを保管していた。メッセージカードも一緒に置いていた。これは見られなかっただろうか?
長い間家を空けるときに不用意にこんなものを置いていてはまずいとは思っていた。でも、アメリカへ持って行けば無くしてしまうかもしれない不安があった。この部屋は僕の牙城のはずだった。ちょっとミスをしたのかもしれなかった。
父の様子は普段と同じだ。こちらから問いただすことなはない。僕はなんとなく落ち着かない気分だった。それでも表面上は、去年までの4人の生活が戻ってきた。
姉は、ただ苦しくて辛いだけの1年間を送ったたのだ。ピンク色に輝いていた頬には灰色の影がへばりついていた。明るく未来を見ていた瞳は暗く沈んでいた。
姉を家でゆっくりさせてやりたかった。僕はやつれ切った姉を忘れることができなかった。今度二人きりになったら、きっと抱きしめてしまうだろう。もう、一つ屋根の下では暮らせないと思った。
姉が家でゆっくりくつろげるように僕は再渡米した。試験を受けられなかったので留年したのだ。これでよかったと思った。友人たちの話ではシンシアは試験に合格して故郷へ帰ったらしい。故郷の州都で就職が決まったそうだ。僕には連絡がなかった。
僕がアメリカにいる間に姉は保育士として働くようになっていた。正職員を目指しているらしい。そのころ長谷川の病院が倒産したことを知った。祖母の家で働いている宮本さんがメールで教えてくれた。「ざまあみろ」と思った。
続く